事例レポート 東日本フード 独自のプロセス見直し手法で 成果を出せる営業チームに変革 ――「180 日間営業変革プロジェクト」の実際 会社概要 本 社 札幌市北区 設 立 2002年 資本金 4億5,000万円 売上高 689億円 (2013年3月期) ■事業内容 日本ハムグループが国内外で生産・ 輸入する食肉商品を量販店・食肉 店・外食産業などに販売する全国ネッ トの総合食肉ディーラー ■URL h t t p : / / w w w .n f g r o u p . c o . j p / eastfood/ 従業員数 457人 POINT 東日本フード 代表取締役社長 丸山健弥さん(左から2番目) 北海道事業部 事業部長 兼 東日本エリア広域量販担当 辰田浩二さん(同3番目) 北海道事業部 札幌東営業部 チームリーダー ・東日本フード株式会社では、大幅な営業プロセスの見直しとチーム力の強化を狙 い、アイマムが提供する「180日間営業変革プロジェクト」を新たに導入した。 ・同プロジェクトは、マーケティングの手法を用いて、それぞれの営業部が自ら戦 略を立案・実行し、人が育っていく組織に変革していく。現実の営業部経営課題 に対する仮説検証を繰返し、小さな成功体験を積み重ねるという一連のプロセス 池田英恭さん(同4番目) を体験する実践的な教育研修手法である。 アイマム 代表取締役 嶋谷光洋さん(左端) ・180日間の研修を経て、営業部の雰囲気が大きく変わり業績も伸びてきた。中堅 メンバーをプロジェクトに巻き込んだ結果、中堅社員が若手社員を育成する好循 環が生まれた。アイマムが東日本フード用にカスタマイズしたアクションラーニ ングの実践で、新企画が立ち上がるなど組織力が高まってきている。 東日本フードは、日本ハムグ のシェアは高く、とくに北海道に ループに属する食肉分野の販売会 おいては 30%以上を獲得してい 社で、北海道・東北6県の量販店 る。 東日本フードでは、営業部の変 や外食産業などに対して食肉・食 販売会社においては、事業の特 革とチーム力の強化を狙い、新 肉加工品などを提供している。同 性上、一人ひとりの営業担当者の しい研修を導入した。その名も、 社は、生産飼育から処理、加工、 パフォーマンスが会社の業績にダ 「180 日間営業変革プロジェクト 物流、販売までのすべてを運営管 イレクトに反映される。 そのため、 研修」だ。営業研修に強いコンサ 理する日本ハムグループの責任一 東日本フードでは、 これまでも 「人 ルティング会社、アイマムが提 貫体制を強みとし、それぞれの顧 の成長が企業の成長」との考え方 供するもので、2012 年6月から 客を定期訪問し、個別ニーズを踏 に基づき、人材の育成に注力。グ 2013 年1月まで一部の営業部で まえた提案営業を通じて、安定的 ループ共通の研修のほか、社内独 先行実施し、現在は全社的に横断 に業績を伸ばしてきた。実際、担 自の研修も開催してきた。 的な展開を進めている。 当エリア内における東日本フード たとえば、顧客への提案、新規 「企業力+人材力」を備え さらなる成長をめざす 28 企業と人材 2014年11月号 東日本フード 図表1 研修全体のフロー図 開拓、クレーム処理など、実際に 1カ月 2カ月 イングを行いながら全員で議論す スキルレベルに応じて全社員が受 講することになっている。2014 年度に再編成し、一般精肉店、量 各営業部ヒアリング に盛り込むことで、経験・役割・ 選抜 4営業部 る研修がある。これを階層別研修 販店など販売チャネルごとの担当 別に、現在も実施・継続している。 それにしても、食肉業界トップ 3h 研修 4カ月 3h 研修 3h 研修 ・収益構造の分析 ・機会の発見 ・組織運営の基礎 ・シェアと収益向上の設計図 (施策)遂行 ・必要に応じた考え方やツー ル提供 ・営業部同士が互いに刺激を 受け、モチベーションを 維持する 2日間 研修 5カ月 6カ月 3h 研修 7カ月 3h 研修 8カ月 3h 研修 ・価値創造の運営 ・チーム潜在力の発揮 ・PDCAを回し仮説検証 サイクルを定着化 ・営業部全体(事務員含 む)を巻き込み成果を 実現する ・施策効果を踏まえ改善 東日本フード営業会議など 成果報告会(共有と改善) 責任者を講師として、ロールプレ 集合研修(見える化・マップ・設計図) 自のテキストを作成し、営業部の 3カ月 東日本フード営業会議など 成果報告会(共有と改善) 現場で起きている事例を集めて独 クラスといわれる地位を確保しな がら、なぜさらなる変革が必要 もともと東日本フードの事業 のスキルアップに注力していたの だったのか。当時、北海道事業部 は、地域性が高い。エリアごとに に対して、 「180 日間営業変革プ 長として新たな研修の導入を決断 営業部を配しているが、量販店の ロジェクト」は、それぞれの営業 した丸山健弥社長は、こう説明す 顧客を多く抱える都市部の営業部 部が自ら戦略を立案・実行しなが る。 もあれば、昔なじみの精肉店や卸 ら小さな成功体験を積み重ね、人 「食肉業界を取り巻く事業環境 会社が主要顧客となる営業部もあ が育っていく変革を起こすという は大きく変化しており、将来的に る。当然、 競合もそれぞれ異なり、 もの。つまり、より高いレベルの ますます競争も激しくなるなか、 戦い方はまったく別になる。 視座を提示しつつ、現場の事情を いかにもう一段ステップアップし また、事業環境に応じて営業手 踏まえたサポートをすることで、 ていくのか。企業力の強さに加え 法も違ってくる。チームの総合力 PDCA を回しながら組織を変革し て、人材力のさらなる強化が必要 で成果を求める営業部、強い個の ていくことを狙っている。 だと考えました」 力で課題を突破する営業部など、 背景にあるのは、アクション 多種多様な風土が存在している。 ラーニングの手法である。アク 「理想は、個々のレベルをさら ションラーニングとは、 ジョージ・ に高めると同時に、チームで団結 ワシントン大学のマーコード博士 できる状態。良し悪しではなく、 が開発したもので、リーダーシッ そのために必要な研修をアイマ 各営業部が自分たちの強みを発揮 プ開発、チームビルディングなど ムに依頼。選定理由は、アイマム しながら、足りないものに気づく に効果を発揮する。現実の経営課 が以前からグループの研修を担当 ことが重要だと考えました。その 題に対する問題点をとらえ、振り しており、食肉業界に通じていた 点で、現場の実態を反映した研修 返り、分析し、解決方法を探り、 こと、また、提案された研修企画 企画の提案は魅力に感じました 行動を起こすという一連のプロセ が、それぞれの現場の事情を踏ま ね。これまでにない、新しいスタ スを体験する実践的な教育研修手 えた内容だったことがあげられ イルの研修でした」 (丸山さん) 法である。質問をベースに進めて る。 従来の研修が、営業担当者個々 いくことで、個人のみならずチー 質問を通じて課題を明らかに 「アクションラーニング」の手法 を活用 企業と人材 2014年11月号 29 事例レポート 図表2 「設計図」作成の2つの論点・5つのテーマ ム、組織の学習する力を養成する ことができる。 ①より付加価値の高い事業構造をつくる、②チーム力を最大化する その効果に着目し、アイマムは 1.売上高を上げるには、どんな価値を高めるべきか? いち早く 2005 年にマーコード博 士から直接指導を受け、現場の問 題解決メソッドとして、これまで 利益 ① 1.売上高を 上げる さまざまな企業に導入してきた。 商標登録も行っている。 なお、通常のアクションラーニ ングは、トレーニングを受けたア クションラーニングコーチ(いわ ゆるファシリテーター)が介在す ② 3.機会損失 を最小化 2.事業コ ストを 下げる 3.クレームや欠品などに よる機会損失の発生を いかに防ぐか? 2.業務の効率化を通じていかにコストを削減するか? 4.ビジネス基礎・新規創造力の 2つの観点からどう組織力を 上げるか? 4.組織運営の基盤を強固にする る必要があるため、広範囲のエリ 5.チーム・個人の特性を把握 し、いかに成長へリードす るか? 5.チーム潜在力を引き出し、 創造力を最大化する アをカバーし、メンバーが集まる 機会が物理的に制限される東日本 に準拠して進むだけで、最後ま がある」と気づき始める。とくに フードのような営業組織には向い でいくことができるので、数回 今回の東日本フードのように、営 ていない。そのため、アイマムは 指導を受ければ誰でも行うこ 業だけでなく、仕入れ、在庫とい アクションラーニングコーチが介 とができる。2~3回現場で実 う違う職種のメンバーも集まっ 在せずとも現場の営業メンバーだ 践するとマスターできるため、 て、直面する多様な経営課題に向 けで、いつでも短時間で実施がで 一度習得すると継続的に現場 き合うことの成果は大きい。全員 きる手順書とフォーマットを独自 で活用可能。 で議論を深めていくなかで、問題 に開発し、本プロジェクトの重要 長年実践してきたアイマムの嶋 を共有し、解決していくアクショ 支援ツールとして指導している。 谷光洋社長は、こう説明する。 ンにつなげていくことができるよ アイマムが開発したアクション 「何が問題かと問われて最初に うになるからである。 ラーニングは、次の2点が特徴で 出てくる原因には、一般的に“他 ある。 責”が多いんです。他者に責任が ①模造紙とポストイットを使用す あるという考え方では、自分のア ることで問題や解決策をすべ クションで解決することはできま では、実際の流れを、研修に参 て見える化する。メンバーが考 せん。皆で質問しながら問題の本 加した営業部の1つである札幌東 えていること、感じていること 質を再定義するアクションラーニ 営業部のケースでみていくことに がすべて目の前に張り出され ングのプロセスを経ると、だんだ しよう(図表1) 。 るので、アイデアの創発が生ま んと自責の理由があがるように さらなる高みをめざすための研 れやすく、気づきが大きい。 なってきます。自責の問題であれ 修は、まずは北海道で開始。道内 ②手順と時間がすべて決まってい ば自ら行動を起こせますから、名 に 11 ある営業部のなかから、規 る。問題提示、メンバーからの 前のとおり、最後にはアクション 模の大きな主力4営業部を選ん 質問、問題再定義、解決策、実 が導き出せるようになります」 だ。対象は各営業部の役職者であ 行支援と実行計画、振り返りと メンバーが互いに質問し合うう る。具体的には、営業部の責任者 すべて手順書とフォーマット ちに、 「自分にも同じようなこと である営業部長または営業所長、 30 企業と人材 2014年11月号 現場ヒアリングの結果を 研修企画に反映 東日本フード 図表3 顧客貢献マップ(成果物) いる。長年勤務している社員に過 各自が担当地区の収益構造を把握し、重要得意先を特定する(知る) 大 売上 (数量) 顧客A 顧客C 顧客B ・時間をどう使っているか? ルート 構成比 ・徹底的に機会(チャン ス)を獲得して信頼関 係を構築 去の話を聞くことで、営業部内の 環境や仕事の進め方がどう変化し てきたかをつかめるという。 また、 若手にも話を聞くことで、 どういう上司がどのようなマネジ メントを日々行っているのかを理 顧客E 顧客D 顧客F 小 小 解することができる。 ・貢献度の高い商売をす るには? 大 シェア 目標値 「シェアが低く、売上も低いお客さまの信頼を獲得するためには、どのような貢 献をしたらよいのか?」 「時代が変われば、営業の苦労 も変わるものです。経済が成長し ている時代には、いかに苦労して 商品を集めて持って行くかが重要 だったかもしれません。いまのよ うにモノがあふれて、しかも人口 各チームを束ねるその下のリー を上げていく方向に変わっていか 減少で消費が落ちていく時代に ダークラス。つまり、各営業部の なくてはならないという思いはあ は、そのころとは違う苦労がある トップを含む3~4人のリーダー りました」 はずです。いま最前線でどんな苦 層だ。 全体の流れとしては、アイマム 労があるのかは、現場の方に聞く 北海道事業部事業部長の辰田浩 による現場ヒアリングを経て、対 しかありません」 (嶋谷さん) 二さんは、当時、札幌東営業部の 象者を全員集めた2日間の集合研 ヒアリングを通じて、営業部ご 責任者。意欲的に研修に参加した 修を実施。その後、毎月1回の との戦略や収益の構造、さらにそ 1人だった。 フォロー研修を6回行う。集合研 の基盤となる組織力までを明らか 「当時の札幌東営業部は、いわ 修から6カ月のフォロー研修ま にしていく。こうして集めた情報 ば“野武士集団”でした。個の力 で、180 日間のプログラムとなっ をもとに、具体的な研修のテキス は強いけれど、チームとしてその ている。 トを作成。以降の研修では、すべ 力が発揮しきれていないと感じて 最初の現場ヒアリングは、その て自分たちの営業部の課題につい いました。研修の主旨を聞き、こ 後の研修の方向性を決める重要な て議論を進めていく形になる。 れは良い機会だと思いました。個 一歩となる。各営業部を訪問して 人的には、やるからには一番をめ インタビューを行い、めざす営業 ざそうという思いで取り組みまし 部の姿や、 自分たちの強みと弱み、 た」 現在の課題や苦労などについて、 集合研修は、対象者全員を一堂 同じく札幌東営業部から研修に 一人ひとりの思いを聞く。 に集め、各営業部の3年後のビ 参加した池田英恭さんも、重要性 研修対象である役職者にはもち ジョンとシナリオを策定し、直近 を認識していたという。 ろん、その下で働く現場の社員か 3カ月間の具体的なアクションプ 「もともと個の強い集団でした ら事務スタッフなど、幅広く聞い ランを立案する。この2日間で、 が、辰田部長の下、 『個の力から てまわるのが特徴だ。 皆で議論しながら「成功への設計 組織の力へ』と転換を図っている たとえば、 事務スタッフなどは、 図をつくる」のだ(図表2) 。 時期でした。組織で連携して成果 営業担当とは異なる視点をもって 設計図を描くうえでは、 「収益 ビジョンを描き 道筋を整理する 企業と人材 2014年11月号 31 事例レポート 図表4 付箋を利用した「サプライチェーンの分析」 の高い事業構造をつくる」 、 「チー ムの潜在力を最大化する」の2つ の視点で議論を進めていく。つま メンバーと協働の議論をして 決して押しつけではない、自 主性や動機を生み出すしかけ を積極的に行った り、事業を伸ばし、人・組織を伸 ばしていくために、自分たちなり の答えを見い出すのである。 チームミーティング風景 最初に営業部ごとのビジョンと して、 3年後のありたい姿を描く。 たとえば、札幌東営業部の場合、 事業面では「地域シェア 40%」 、 人材面では「強い営業のプロ集 団」 、 「人材が育ち、他営業部への 人材輩出機関となる」といった具 合いだ。 そして、それを実現するための 受注プロセスが顧客によりバ ラバラ、ピッキング時間・出 発時間に影響あり 図表5 アクションラーニングから得た情報をもとに業務改善 ●顧客までの業務の連鎖を特定することで、得意先での商談時間を捻出する ●各業務での問題は? 業務をまたがる問題は? 効率化できる領域は? 解決策は? 道筋を探るわけだが、最初のス 一連の流れ テップが顧客貢献度合のマップ化 だ。自分たちの顧客を「顧客成長 性」と「顧客内での自社シェア」 の観点からマッピングし、どこに 価値創造の機会があるかを明らか にする(図表3)。 ルートの納品スケジュール が非効率、顧客への商談時 間が少ない 受注 ピッキング 納品 商談 地方納品日に時 間を要している ターゲット得意先での 商談時間を確保できて いない チーム連携 受注時間の取り 無駄な動きを減 ルート同行によ らす工夫を提案 る現状確認 決めを提案 無駄の無い商談・提案 を検討。コアメンバー の能力(経験)を発揮 解決策は? 発注書作成・ FAX注文を増 やす 時間を確保する事で機 会の獲得率を上げる 業務流れ自体 受注のバラツキ 動きに無駄が多い 個人在庫の明確化 納品スケジュー ルを作成 顧客 成長性が高く、シェアも高い顧 客は、いわゆる重点顧客である。 そして、成長性が高いのにシェア チームや組織の潜在力を発揮し、業務効率化を図る。顧客への商談時間と機会の出現を高めるこ とが目的 が低い顧客は、今後より注力して いきたい顧客となる。 いけば、めざすものが数字で表現 つながっていくという点で、皆大 そのなかから優先度の高い5社 されるようになっています」 (嶋 いに刺激を受けたようです」 (丸 を抽出し、 「実際に提供している 谷さん) 山さん) 商品・サービス」 、 「現在の売上規 営業職だけに、具体的な数字が では、新たな顧客に注力するた 模」 、 「顧客自身の変化やニーズ」 、 見えるとモチベーションも高ま めの時間をいかに確保するのか。 「提供できる新たな機会」 、 「潜在 る。現実の顧客について議論して 次のステップが、業務の効率化だ ニーズの価値換算」などを、個別 いくので、実際の営業活動にもつ に書き出していく。さながら営業 ながっていく。 業務の流れを改めて確認しなが 戦略会議のような雰囲気である。 「営業会議はやっていましたが、 ら、効率化の機会を探っていく。 「まさに営業会議ですね。ヒア いままではこうした分析の仕方を そして、 「解決した場合の収益へ リング結果をもとにテキストを してきませんでした。新たな視点 の貢献度」と「解決までの投入資 作っているので、順番に議論して で討議してみると、明確な目標に 源の大きさ」の2つの軸から評価 32 企業と人材 2014年11月号 (図表4・5) 。 東日本フード 図表6 3カ月の取り組みと成果(物) する。リターンが大きく、リスク の小さい象限にマッピングされた 施策は、必ず実行すべき項目とな る。 必須項目として残るのは、自分 たちの工夫次第で取り組める施策 ばかりだ。ある営業部では、受け た注文に応じて必要な商品を冷蔵 新規 機会 創造 その作業に時間がかかり、出発時 間が遅れてしまうという課題が 成果・成果物 (意識、行動変化も含む) ■得意先分布図により収益構造の把握 ■ターゲット得意先の商談時間の確保 ⇒新規機会の獲得 ■各地区における主要得意先を選定で きた ■主要得意先を中心としたルートを構 築し数量回復、アイテム数UPを実 現 事業 (収益) 構造を 変革 ■アクションラーニングを用いた業務 する 改善 業務 効率化 出発時間の改善で商談時間の確保 納品スケジュールの見直し 庫から取り出し、トラックに積み 込んで納品するが、とくに若手は 具体的な取り組み 組織の 潜在力 を発揮 させる あった。そこで「出発時間を決め ■収益構造を理解したうえで主要得意 先での商談時間を確保することで先 月比で数量128%を達成 しくみ ■最終目標までのプロセスを作成 ⇒各段階における問題点の発掘を行 いチームで共有する仕組みの構築 ■各チームでのミーティング回数の増加。 問題意識を共有する機会が増えた。連 携が強化され問題解決のスピードが上 がった 働き かけ ■コアメンバーの潜在能力を発揮する ために役割を明確にする ■小さな目標を設定し繰り返し実行 ■コアメンバーが人材育成を意識する ようになった ■小さな成果を大事にすることで各セー ルスのモチベーションが上がった る」 、 「得意先に時間を伝える」な どの対策をあげた。 進んでは壁にぶつかる 実行段階は苦労の連続 「皆で議論することが重要なの です。たとえば、主要顧客に注力 るまでには、時間を要した。ある 顧客の訪問回数を減らしたはず が、 いつの間にか元に戻っていた、 するため、それまで週3日通って 6カ月のフォロー研修は、月に といったこともあった。言葉で説 いた別の顧客への訪問を週1日に 1度、嶋谷さんらアイマムのコン 明しても、なかなか納得できるも 減らそうと思っても、個人の判断 サルタントが各営業部を訪問して のではない。丁寧に議論を重ねて ではとても怖くて減らせません。 約3時間行う。 取り組みを進め、少しずつ成果が 営業部の役職者らが議論し納得し いくら明確に描いた設計図で 出て初めて、ようやく理解しても た結論であれば、それは個人の判 も、実行に移すとなれば、思いが らえるケースも少なくなかったと 断ではなく、チームの決まりごと けない障壁にぶつかることもあ いう。 になるのです」 (嶋谷さん) る。 こんなこともあった。出発時間 最後のステップは、営業部とし 「営業部に戻ってから、部内の を早めるという目標は達成したも ての強みと弱みの分析だ。複数の メンバーと改めて顧客マップ化の のの、売上は思うように上がらな 営業部が合同で行うことで、他 作業をやってみたところ、私たち い。役職者が若手に同行して検証 チームと比較・参照したり、客観 の認識と担当者の認識が大きくず したところ、課題は若手の商品知 的な評価を聞いたりしながら、改 れていることがわかり、驚きまし 識の少なさにあることがわかっ めて自分たちの特性に気づく効果 た。その認識がずれていると、ど た。そこで翌月から、日本ハムグ もある。 れだけ労力を要しても、なかなか ループ内のスペシャリストを呼ん やはり、付箋に書いて貼り出し 成果は上がりません。具体的に顧 で勉強会を開催するなど、商品知 ていくが、強みを再確認すること 客まで絞り込む前に、そもそも成 識を高める取り組みに力を入れ で自信を深めるとともに、改善す 長性が高い顧客とはどういうこと た。 べき課題が明確になっていく。そ か、から理解してもらわなくては フォロー研修は、1カ月の課題 れによってチームの潜在力を引き なりませんでした」 (池田さん) と成果を振り返り、次の行動につ 出すのが狙いだ(図表6) 。 メンバーも含めて全体に浸透す なげていくための確認の場といえ 企業と人材 2014年11月号 33 事例レポート る。さまざまな壁にぶつかりなが 回数を減らした顧客からもクレー れはすごく大きな変化だと思いま らも、 「札幌東営業部は、PDCA ムを受けることはなく、むしろ す」 (辰田さん) を回すサイクルが非常に速かっ 売上が上がったところもあった。 現在は、東北事業部でも主力営 た」と、6カ月間並走してきた嶋 180 日間の研修を経た翌 2013 業部に同じ研修を展開している。 谷さんは振り返る。 年度は、業績が目に見える形で伸 また、研修を受講した池田さんら 一方、営業部を統括していた辰 びていったという。 が、他の営業部を訪問して研修内 田さんは、 できるかぎり介入せず、 さらには、会議のやり方を改善 容を伝授している。付箋を貼り出 見守っていたという。 することで、次のような成果も して見える化する手法や、分析・ 「私のほかに役職者の3人が一 あった。 検証の新たな視点を実際に体験す 緒に研修を受けましたが、3人の 営業社員は、自分からは「やめ ると、 「わかりやすい」 、 「面白い」 間でもスピード感や認識が少しず る仕事」を決められない。自分で と好意的に受け止めてくれるとい つ異なり、やるべきことは同じで 決めると「数字が落ちたらどうし う。 も、少しずつずれてしまうことも よう、ラクをしていると思われた この研修が成功したポイント ありました。それでも、口を出さ らどうしよう」という不安がある は、 「トップの覚悟」にあると嶋 ないようにしていると、やがて自 からだ。たとえ、その業務が会社 谷さんは指摘する。変革は多大な 発的に3人が集まるようになり、 に貢献していないことだと思って 困難を伴う。トップ自ら将来のた 軌道修正をしていくことができま も、不安から言い出せない。だか めに本気でやり切る覚悟を示した した。言われてやらされるのでは らこそ、みんなでやめることを決 からこそ、参加メンバーも本気に なく、自ら考えて動いてくれたこ める会議を定期的に実施している なって取り組んでこれたのだとい とは非常に良かったと思っていま のである。やめたことで、もし数 う。 す」 字が落ちたとしても、個人ではな もちろん、研修を受講して終わ 他方、池田さんはこう語る。 くチームの責任とした。このやめ りではない。PDCA を回し続ける 「正直、落ち込むこともありま ることを決める会議のおかげで業 ということは、永遠に新たな課題 したが、研修を受けて、ここから 務効率が改善し、新しいアイデア に取り組んでいくということだ。 始めなくてはいけないんだという も会議で出るようになり、個人も 「人口減少にせよ、TPP の問題 気持ちのほうが大きかったです チームもラクに楽しく仕事に取り にせよ、食品業界は環境変化が非 ね。このまま放っておくと、3年 組める結果となった。 常に激しい。次にどうするかを常 後どうなるかわからないという危 営業部の雰囲気も変わってき に検証していく必要があります。 機感が強かったと思います」 た。中堅メンバーをプロジェクト けれども、新たな視点と手法を得 に巻き込み、中堅社員がマンツー て、基盤を固めることができまし マンで若手を育成するパートナー た。課題に直面したら、もう一度 制を導入するなど、組織力も高 原点に立ち返ればいい。いまは真 取り組みの成果は徐々に現れ まってきた。 の意味での営業会議ができている た。当初の6カ月間は、個々の取 「これまでは背中で若手を引っ のではないかと思っています」 (丸 り組みのなかで少しずつ成功事例 張ってきたベテラン社員が、最近 山さん) が生まれてきた程度だったが、さ では対面して『それはなぜなの さやかでも成果を得られるとモチ か』 、 『君はどう思うのか』と聞く ベーションも高まってくる。訪問 といった会話が生まれてきた。こ 小さな成功が 大きな成果につながる 34 企業と人材 2014年11月号 (取材・文/瀬戸友子)
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