第0083号 2015年 11月 04日 〒104-8178 東 京 都 中 央 区 銀 座 5-15-8 h t tp :/ /w w w .j i j i .co m 目次 巻頭記事 トップニュース トピックス ◆巻頭記事◆ 政策情報 『TPP発効へ、米議会どう動く』 - 中央官庁だより - 政策現場から 「6次産業化」情報 農と食のコラム JAフォーラム =USTRの「譲歩」に批判広がる= アグリ討論席 週間ニュースファイル - 農林水産行政 - グローカル - 海外アグリ - アグリ・フード産業 マーケット情報 付録 ◆トピックス 『カナダ、揺らぐ酪農保護政策』 『パラグアイでの協力隊活動を終えて』 ◆JAフォーラム 『コメ全量買い取りで直売』 -JA東とくしま EPA=時事 本資料に記載されている内容は、信頼できる情報源に基づき作成されたものですが、弊社はその正確性及び確実性を保証するものではありま せん。また、本資料を無断で転送・引用・複製することを固く禁じます。 巻頭記事 巻頭記事 つ検証期間3年」を選択できる案 を提示した。この「実質8年」という TPP発効へ、米議会どう動く =USTRの「譲歩」に批判広がる= 妥協案で米国と豪州が折り合った 結果、乳製品の関税交渉などの 難題も一気に動き出し、大筋合 意は達成された。しかし、「12年」 を要求してきた米製薬業界の不 満は大きい。 環太平洋連携協定(TPP) する上院財政委員会のオリン・ハッ 大手製薬会社が加入する米研 締結を目指す日米などの12カ国 チ委員長(共和党)は大筋合 究製薬工業協会(PhRMA) は10月5日、米ジョージア州アトラ 意後の声明で不快感を露わにし は大筋合意直後に「閣僚たちは、 ンタでの閣僚会合で大筋合意し、 た。この発言の背景には、巨額の 命を救い、患者の生活を改善する 5年半に及んだ交渉を政治決着さ 資金で議会に強力な影響力を持 技術革新の機会を失わせた」と痛 せた。閣僚会合閉幕後の記者会 つ米製薬業界の動きがある。 烈に批判。製薬業界の意向が、 見冒頭、一連の折衝を押し進め TPP交渉の最終局面で大き ハッチ委員長の不満表明につなが たフロマン米通商代表部(US な争点となったのが、医薬品の知 ったことは間違いない。ハッチ氏は、 TR)代表が「成功裏の妥結」を 的財産権。がんや免疫疾患などの TPP妥結の必要条件とされた 宣言すると、会場には拍手が鳴り 難病治療に効果を持つバイオ医 「米大統領貿易促進権限(T 響いた。 薬品のデータ保護期間をめぐり、 PA)法」の成立の立役者だった しかし、TPPが発効するまで 大手製薬会社の利益を重視する だけに、今後の議会審議に暗雲 には、各国の批准手続きが控えて 米国は「12年」を要求した一方、 が立ち込める。 おり、その道は平坦ではない。特に、 安価な後発医薬品(ジェネリック) 米国内の不満は製薬業界にと TPPを主導してきた米国は を早期に流通させたいオーストラリ どまらない。コメ業界は日本の米 2016年大統領選を前に不協和 アやニュージーランド(NZ)、新 国向け輸入枠が日本の要求に近 音が目立つ。米国の批准にはT 興国は「5年以下」を求め、激しい い7万トンにとどまったことを問題視 PP実施法の議会承認が必要と 対立が続いた。 しており、大筋合意への賛意表明 を現時点で見送っている。全米生 なるが、大筋合意の概要が明らか 再三日程が延長された閣僚会 になるにつれて、与野党の大物か 合の終盤、フロマンUSTR代表 乳生産者連盟(NMPF)は、 らは「USTRによる譲歩」に批 は、各国が「保護期間8年」あるい NZに対する市場開放を防げたこ 判の声が上がり始めた。交渉国は は「保護期間5年+実効性を持 とを評価しつつ、「日本やカナダの 「米議会が再交渉を迫りかねない」 市場開放はわれわれの要求水準 という懸念を拭いきれないようだ。 に達していない」と不満を漏らした。 米自動車大手フォード・モーターの 幹部は、要求を続けた「為替操作 ◇バイオ医薬品、コメの譲 歩に不満 阻止条項」がTPPに盛り込まれ なかったことを批判した。 「(合意内容は)痛ましいほど 不十分だ」―。通商政策を所管 Agrio 0083 号 (2015/11/04) TPPに抗議するがん患者ら=9月30日、米 ジョージア州アトランタ市内(時事) 2 TPPを原則的に支持してい 巻頭記事 た上院共和党指導者のマコネル 批准承認が不可欠となる。 ており、米議会情勢に詳しい消息 院内総務も大筋合意後、産業、 6月に成立したTPA法に基 筋は「議会が合意内容の承認に 農業団体の不満を背景に合意内 づき、米政府がTPPに合意署 難色を示し、交渉官レベルの事務 容の検証が必要だと指摘。「(数 名できるのは来年1月末以降、議 的な調整を迫るリスクはゼロではな カ月をかけて)高い自由化水準を 会での承認審議は来春以降にな い」と見ている。 満たしているかを判断する」と表明 る公算が大きい。同法により、上 そもそも、大筋合意から1カ月が した。 下両院はTPP実施法案の審 経つが、審議の開始時期は依然 一方、民主 議開始後、合計90日以内に採 不透明だ。16年2月には大統領 党では次期大 決を求められる。慎重派による議 選の予備選が始まる。クリントン氏 統領選の最 事妨害は封じられるものの、審議 に限らず、「TPP合意不支持」 有力候補と目 開始の時点で、両院内である程 は選挙には有利とみられ、16年 されるヒラリー・ 度の支持を固めていなければ、T 11月の大統領選に向け、合意不 クリントン前国 PP実施法案が否決される可能 支持の機運が高まる可能性もあ 性があり、オバマ政権と議会多数 る。議会関係者の間では「審議開 派の共和党指導部の調整が必要 始は大統領選の終了後の12月、 になる。 オバマ政権最後のレームダック議 務長官が「基 準を満たして いない」と、合 支持者に手を振るクリン トン氏=米ラスベガス (AFP時事) 意内容を支持しない姿勢を示した。 フロマンUSTR代表は大筋 会になる」との見方が出てきた。 発言は、民主党支持基盤の労働 合意後、「米国に恩恵をもたらす 仮にそうなった場合、次期大統 組合を抱き込むのが狙い。クリント 合意だ」と訴え、議会や政治的影 領と議会多数派を民主、共和両 ン氏は国務長官時代にTPP推 響力を持つ産業・農業関係者に 党のいずれが占めるかによって、審 進の立場を取っていただけに、「日 対し、承認手続きに協力するよう 議の進め方は相当変わる。共和 和見主義」に批判の声も上がる。 説得を始めた。TPPは米国経 党候補が次期大統領になるので だが、もともと民主党にはTPP 済の成長を加速させるだけではな あれば、「次の政権下でTPPを 慎重派が多く、ヒラリー発言がこれ く、台頭する中国をけん制する枠 批准すべき」との意見が出てくる可 をさらにあおる可能性は高い。 組みでもある。米政府高官は、T 能性もある。 ◇TPP発効、米議会承認 が不可欠 TPPは12カ国政府が今後、 合意署名し、12カ国全ての批准 PPが議会与野党指導部も認め 「米議会リスク」が取り沙汰され るアジア重視戦略の柱であると強 る中、甘利明TPP担当相は 調し、「焦点は(議会に)承認さ 「安易に再交渉に応じれば、それ れるかどうかではなく、承認がいつに 以外の国が自国議会を説得した なるかだ」と力説する。 意味は何だったのか」と述べ、米議 によって発効する。署名から2年以 しかし、米国内でTPP批判 会が大筋合意を覆す事態に強い 内に12カ国の国内承認手続きが がくすぶる中、他国からは「決して 懸念を表明し、速やかに手続きを 終わらない場合、「国内総生産 楽観できない」との不安が漏れる 進めるように促した。米国の農業 (GDP)で全体の85%以上 のも事実だ。一部では、米国議会 団体幹部は閣僚会合閉幕後のア を占める6カ国以上の批准」が発 が大筋合意の内容に納得せず、 トランタで「次は再交渉会合で会 効の条件となる。12カ国の合計 部分的な再交渉や合意内容の おう」と皮肉混じりに語っている。 GDPのうち、米国は約60%を 細則の微修正、実施ルールの明 (ワシントン支局・江田覚) 占め、TPP発効には米議会の 確化を求める可能性が懸念され Agrio 0083 号 (2015/11/04) 3 <表紙・目次へもどる> トップニュース 泉進次郎農林部会長の国民的 トップニュース 人気にも期待する。ただ、来年夏 に参院選を控え、従来型の予算 (10月26日~11月1日) を求め る意見は 党内で根強く、 2015年度補正予算編成をにら ◎畜産クラスター協議会、 566件設立=「市町村が 事務局」は3割―農林水産 省(15/10/30) 農林水産省は、地域の関係者 が連携することで高収益を目指す 畜産クラスター事業で、2015年5 月現在、全国に566件の協議会 が設立されているとの初の調査結 果をまとめた。このうち市町村が事 務局を務めている事例は3割に当 たる184件。農協が務めているケ ースは241件で最も多く、4割を占 めた。両者を合わせると4分の3に 達する。同省はその理由として、 地域の実情をよく把握しているほ か、行政的な事務能力を有してい ることを挙げている。 農水省は、畜産業の生産力強 化を促進するため、14年度に畜 産クラスター事業を開始。生産者 や行政、農協、民間企業などでつ くる協議会に対し、人材育成など の実証事業や共同利用施設の 整備、機械リースを補助している。 16年度予算の概算要求では、同 事業に加工品の技術開発に向け た支援策などを新たに盛り込み、 前年度当初予算の5倍近い354 億円を計上した。 協議会の地域別の内訳は、▽ 北海道98▽東北70▽関東133 ▽北陸23▽東海32▽近畿28 Agrio 0083 号 (2015/11/04) ▽中四国50▽九州・沖縄132。 んだ綱引きが激しくなりそうだ。 市町村単位での設置が239件で 29日のTPP総合対策実行 4割を占め、次いで都道府県単 本部の初会合。谷垣禎一幹事 位、農協単位がそれぞれ2割程度 長はTPP大筋合意について だった。 「日本の経済再生にとっても切り また、ほぼ半数の協議会が「酪 札だ」と述べ、意義を力説した。同 農と肉用牛」といった複数の分野 時に「地域でいろいろな不安があ で活動を行っていた。対象分野別 ることは事実。その心配を克服して の件数(複数回答)は、▽酪農 日本の農業や地域がしっかり元気 289▽肉用牛繁殖259▽肉用 を出していけるような政策を打ち出 牛肥育198▽養豚151▽養鶏 す必要がある」と語った。党は来週 113。子牛の価格の高騰を受け、 以降、各部会での議論を加速、 繁殖事業を始めるケースが多いと 11月20日に提言を決定して政 いう。 府に申し入れる方針だ。 補助事業の活用状況(複数 農業の市場開放では苦い経験 回答)を見ると、機械リース(畜 がある。1993年末に妥結、コメ市 産収益力強化支援事業)が 場を開放したウルグアイ・ラウンド 424 件 で 最 も 多 く 、 施 設 整 備 (多角的貿易交渉)では、約6 (畜産競争力強化整備事業) 兆円を投じたが、大半が公共事 は112件、地域独自の取り組み 業に費やされ、競争力強化につな などに向けた調査・実証(高収益 がらなかった。執行部は安易な予 型畜産体制構築事業)は72件 算膨張を抑え込み、構造改革に にとどまった。 力点を置く対策を取りまとめたい考 ◎農業予算、抑制狙う=T PP対策に「小泉人気」も- 自民執行部(15/10/29) 自民党執行部は、環太平洋 連携協定(TPP)の農業分 野の国内対策で、財政出動を抑 制する方針だ。野党から「ばらまき」 えだ。 TPPの意義や農業対策の 説明で矢面に立つ小泉氏は、党 内の不満を和らげる役割を担いそ うだ。小泉氏は記者団に「日本の 農業のあるべき姿とは何なのかとい うことも含めて、これからしっかり議 と批判されるのをかわす狙いがあり、 論して詰めていきたい」と述べた。 会合後、ある議員は小泉氏に駆 「攻めの農業」の側面を強調、小 4 トップニュース け寄り、参院選での応援を依頼。 PP交渉で、牛肉 豪州は世界最大の 農業票が逃げる恐れのある選挙 輸入関税を現行の WAGYU生産国。 区については、「小泉人気」でてこ 38.5 % か ら 、 16 年 豪州産WAGYU 入れを図る図式だ。 目に9%へ引き下げ は 品質で 本家の 日 る案を受け入れた。 本国産和牛を急速 になるかは見通せない。会合では、 スミス会長は「際立っ に追い上げ、価格競 ただ、財政支援の要望が下火 伊藤信太郎衆院議員(宮城4 た成果だ」と評価し、 区)が先の宮城県議選での共産 粘り腰で交渉に当た 党躍進に触れつつ「農業者の反 ったロブ豪貿易相を 発、自民党への不信が強い」と指 たたえた。 霜降りが入った豪州産WAGYU (豪酪農家デービッド・ブラックモア 氏提供) 争力 もあ り 、 ア ジア 各地の高級レストラ ンで人気が高い。 中国企業の参入ラッシュも続い 摘。ベテラン議員の一人は会場を 豪牛肉業界にさらに追い風とな ている。今月にも、中国の山東得 出た後、同僚議員に「結局はカネ りそうなのが、対中自由貿易協定 利斯(デリシ)食品が豪食肉会 がどれだけ付くかだ」と語りかけた。 (FTA)である。締結済みで、 社ビンダリー・ビーフ・グループ株の 今後の党内議論で、農水族議員 年内にも発効する見通し。中国 45%を1億4000万豪ドルで取得。 らから農家保護へ予算増を求める 側は牛肉関税(現行は最大 ビンダリーのロジャー最高財務責任 圧力が強まる可能性もある。 25%)を9年間で撤廃するとの 者(CFO)は「豪牛肉業界は 踏み込んだ内容で、対中牛肉輸 FTA効果で、中国向け牛肉輸 出が急増するのは必至だ。 出で大きな恩恵を得られる」と力 ◎豪牛肉業界、TPPが追 い風=中国企業も加わり 牧場争奪戦(15/10/30) 中国では中間所得層の拡大に 説。デリシと提携し、中国で販路 伴い、ワインや牛肉などの消費が 拡大を図りたいとの意欲を示した。 【シドニー時事】10月初旬に大 膨らんでいる。中国の今年の牛肉 次に注目されるのが、S・キッド 筋合意された環太平洋連携協定 消費量は推定725万トンだが、 マン社が進める大規模な牧場売 (TPP)をめぐり、オーストラリ 20年には800万トンに達する見 却交渉の行方だ。対象となる11 アでは、「一番の勝者は牛肉業界」 通し。新たに75万トンの牛肉が必 カ所の面積を合わせると、韓国の との声が上がっている。関税引き 要になる。豪州産牛肉の対中輸 国土(約10万平方キロ)を上 下げの恩恵は大きく、「オージー・ビ 出は昨年、15万トンだったが、数 回る広大さがある。売却先候補に ーフ」の輸出拡大は確実だ。商機 倍に膨らむ可能性がありそうだ。 挙がっているのはいずれも中国企 とみて、豪資源長者や中国企業 中国の牛肉消費量は1人当た も参入し、早くも牧場争奪戦の様 り年5.4キロ。豪州の30キロ、世 相となっている。 界平均の11キロに比べまだまだ少 ◇「農家に空前の好機」 ない。 による住宅や農地買収が相次ぎ、 ◇韓国より広い牧場の行方 国民ばかりでなく、政府内にも「中 豪肉牛生産者協議会(CC 業で、4億豪ドル前後で交渉が進 んでいるもようだ。 ただ豪国内では近年、中国勢 A)のスミス会長はTPP合意 牛肉輸出拡大を見込み、牧場 国に乗っ取られる」との警戒論がく を受けて声明を出し、「アジア太平 買収が相次いでいる。豪鉄鉱石 すぶる。国内に韓国より広大な中 洋市場へのアクセスが大幅に改善 長者のジーナ・ラインハート氏は牧 国企業の私有地が誕生することが され、牛肉農家に空前規模の好 場2カ所を買収。霜降り肉で知ら 決まれば、中国警戒論が再燃す 機がもたらされる」と歓迎した。 れる和牛の遺伝子を使った「WA る恐れがある。 例えば、重要市場の日本はT Agrio 0083 号 (2015/11/04) GYU」牧場のオーナーになった。 5 <表紙・目次へもどる> トピックス トピックス カナダ、揺らぐ酪農保護政策 =TPPでは堅持、改革圧力強く= 供給管理制度に代表されるカ 種卵、七面鳥の5品目が対象で、 ナダの酪農保護政策が揺らいでい 農産物は全て公的機関が買い取 る。環太平洋連携協定(TPP) る。牛肉や豚肉、小麦などは大規 交渉では、ニュージーランドやオー 模化で国際競争力を強めている ストラリア、米国といった輸出国か のに対し、これら5品目はケベック ら抜本見直しを強く求められたもの 州などの小規模農家が多い。 の、最後まで抵抗し、制度の骨格 既に国内生産の5%程度に相 を堅持することに成功した。しかし、 当する輸入枠を設け、米国など外 輸入枠の設定に追い込まれた上、 国産の流入を一定程度認めてい 国内外からの改革圧力は依然と る。しかし、枠外輸入については、 して強く、この先も維持できるかは 乳製品の場合は平均238.7%と 不透明だ。 いう高い関税を課して事実上閉め 出している。国内の公的機関の買 ◇輸入枠は容認 い取り価格が高いと指摘され、世 「われわれは一切譲歩しないこ 界貿易機関(WTO)は今年 とを望んできたが、政府は懸命に 4月の審査報告で「消費者へのコ 戦ってくれた」。カナダ酪農家協会 スト転嫁によって農家収入を安定 のスミス会長は10月5日、同国が させてきた」と批判した。 乳製品について、国内生産の3. 25%に相当する輸入枠を受け入 れたことを容認する考えを表明した。 ◇巨額の支援策 カナダは、批准手続き中の欧州 その上で「政府は供給管理制度 連合(EU)を含めると、43カ の重要性を明確に理解している」 国と12の自由貿易協定(FT と強調し、制度が廃止されるとの A)を合意済み。これらのFTA 観測を否定した。 では全て同制度は聖域として手を 同制度は、日本のコメ生産調 つけないことで各国の理解を得て 整制度のように、国内の需要見 きた。ただ、EUとのFTAでは、 通しを基に政府が供給計画を毎 国内生産の2%に相当する乳製 年策定し、各農家に生産を割り 品の輸入枠を初めて受け入れ、 当てる仕組みで、1970年代に導 TPPの3.25%、既存の5%と 入された。乳製品と鶏肉、鶏卵、 合わせると、国内市場のほぼ1割 Agrio 0083 号 (2015/11/04) 6 TPP交渉に抗議する酪農家=9月29 日、カナダ・オタワ(AFP=時事) を外国に開放することになる。 TPP大筋合意を受け、カナ ダ政府は同制度の対象5品目の 農家を対象に、総額43億カナダ・ ドル(約3900億円)に上る支 援策をただちに発表した。鶏卵な ど 他 の 4 品 目 に つ い て も 1.5 ~ 2.3%の輸入枠を受け入れており、 外国産の増加によって農家の所 得減少が予想されるとして、10~ 15年にわたって補てんする内容だ。 これに対し、同国の小規模農家で つくるナショナル・ファーマーズ・ユニ オンは「支援額が不必要なほど巨 額だ」と疑問を呈し、「支援策の本 当の狙いは供給管理制度を廃止 することではないのか」と不安を募 らせている。 カナダでは10月19日の総選挙 で野党の自由党が勝利し、約10 年ぶりに政権交代が実現する。同 党のトルドー党首はTPPを原 則支持し、同制度も維持する考 えを表明している。しかし、「TP Pが発効すれば多くの農家は生き 残れない」(同国メディア)と厳し い見方もあり、カナダの酪農界が 正念場を迎えるのは間違いなさそ うだ。(シカゴ支局・菅正治) <表紙・目次へもどる> トピックス トピックス パラグアイでの協力隊活動を終えて =東日本大震災では日本への恩返し= ―宮城県農業高等学校 教諭・阿部江里― 青年海外協力隊の村落開発 阿部江里(あべ えり) 蔬菜類、キャッサバの栽培を強化、 〔主な経歴〕 普及員として、2013年7月から モデル農家を中心に巡回し、既存 2004年 岩手大学農学部農業生命科 15年3月までパラグアイのイタプア 作物及び商用作物についての技 学科卒業 県ラパス市で過ごした。 術面における指導を行った。 ラパス市では、市役所が中心と 任期後半は地元農協主催の 05年 宮城県柴田農林高等学校 教諭 11年 宮城県農業高等学校 教諭 13年7月~15年3月 青年海外協力隊 なり国際協力機構(JICA) 定期市への参加に向け、小農10 村落開発普及員 パラグアイ派遣 ボランティアのチーム型派遣による 人(対象小農の約10%)と近隣 現在 宮城県農業高等学校 教諭 小農支援プロジェクトが10年から の先進農家、および定期市の視 開始され、七つの小農コミュニティ 察を実施した。1ヘクタールという で農業生産の向上、保健医療の 限られた栽培面積の中で、小農 充実、生活改善等を目的とした 自らが知識や技術を習得し、高 生活向上プロジェクトを実施した。 収入につなげていった過程、初期 14年からは生活向上プロジェクト 投資や現在の化学肥料施用及 を継続した上で、販路開拓への支 び薬剤防除についても具体的に 援及び農業生産組織の改善と強 示してもらう機会を得た。 化等を目的とした経済支援プロジ ェクトに取り組んできた。 また地元の学校給食事業の開 どこまでも続く赤土“テラロッサ” ◇パラグアイで学んだこと 始に伴い、収穫した穀物類を一 私が担当した地域で見られる 農業部門を担当する私自身の 部学校給食に提供するなど、より 農作物の栽培方法や保存の仕 具体的な活動内容は、収益性の 地域と密着した形で地産地消、そ 方は、地域特有の知恵や技術で 高いプロジェクトの提案とその実践、 して食農教育を展開することがで あり、また生活の中から生まれたも 販路開拓への支援及び農業生 のだ。それらは、代々受け継がれて 産組織の改善と強化だった。 きた。 今後の課題として、栽培管理 きた文化の一つとしてその地域で 13年7月に、2代目村落開発 及び販売活動における記録や金 普及員として着任。主に穀物類、 銭管理、その維持についての知識 人々の生活や価値観を変える や技術の養成等が挙げられる。識 ことは大変難しい。少しずつであっ 字の問題が障害となるものの、今 ても現存するシステムを改善してい 後も地域のリーダー、コミュニティの くことが持続的な開発への道の第 有効に活用されてきた。 普及員としての人材育成を継続し、 一歩であると考えた。そのためには 地域活動の牽引者として活躍し 人々がどのような価値観のもとで てもらえるよう支援を継続していく 行動するのか、またその行動の背 必要があると思われる。 景にある価値観を明らかにすること 農家巡回による栽培指導 Agrio 0083 号 (2015/11/04) 7 トピックス が大切であると常に心に留め、活 動してきた。 ではあるが興味を持っている。 あるが、パラグアイの主要農産物 例えば自分の担当教科・クラス の一つである大豆の輸出総額の パラグアイは電気やガス、水道 にとどまらず学校現場での実務に 約40%を占め、世界でも第4位 などの設備をはじめ、生活物資は おいて、農業や途上国、豊かさ等 の輸出国である。 日本に比べるとはるかに少ないが、 をテーマに授業を展開することで、 人々の思いやりやいたわり、優しさ 開発途上国の現状を知り、高校 にあふれており、本当の豊かさとは 生として国際社会の抱える問題に 何かを教えてくれる場所でもあっ 何らかの形で関わる方法を考える た。 機会を数多く設けていきたいと思っ 1年9カ月にわたる活動で目標 ている。そして、地元被災地におい が達成されたか否か以上に、現地 て、学校としてできること、個人とし のカウンターパートや小農らと共に てできることを生徒たちと共に模索 2011年3月の震災後、パラグ 同じ方向を向いて歩くことができ、 し、復興に向けて地域のために貢 アイ日本人社会からの母国日本 非常にやりがいを感じた。環境や 献していく心構えだ。 への震災支援について何かしたい 心はひとつ豆腐 言語の異なる中でパラグアイの 宮城県農業高等学校は、 という熱い思いを受け、パラグアイ 人々に助けられながら活動を一つ 1885年に仙台市・長町に宮城 日本人農家が生産する非遺伝子 一つこなすことができた「経験」が 農学校として開校し、創立130年 組み換え大豆を震災被災者に豆 今後、日本での仕事環境やさまざ という歴史を持つ、日本最古の農 腐原料用として提供された。このプ まな困難に遭遇した時に自分を支 業高校だ。 ロジェクトは日系およびパラグアイ 現在、宮城県では2校ある文 社会が長年、日本から受けた多く 部科学省指定の農業経営者育 の協力、支援に対し、少しでも恩 成高等学校「スーパー・プロフェッシ 返しするための企画だったという。 帰国後は教育現場に戻り、協 ョナル・ハイスクール」として、「日本 支援は同国イグアス農協の日本 力隊経験に基づく普及・啓発活 最古の農業高校 震災・津波か 人大豆生産農家が中心となり、 動等を行っている。勤務する宮城 ら復活の取り組み! 地域で活 「心は一つ パラグアイ国民は日本 県農業高等学校では、11年の東 躍する就農者増加に向けて ~ を応援します」とのメッセージと共に 日本大震災後、国内外から沢山 志・知・技を持った就農者増加へ 大豆100トンを日本に送り、岐阜 の支援をいただき、国際協力・国 のV字回復~」をスローガンに学 で豆腐に加工された後、被災地に 際交流の在り方について考える機 習している。主な行事は全校田 送られた。 会を何度も得た。生徒たちもまた 植え、意見発表会、プロジェクト発 日本国内でこのプロジェクトを担 国際交流や異文化理解に漠然と 表大会、宮農祭、収穫感謝祭、 当したギアリンクス社(社名の由 宮農グリーンツーリズム、他校・異 来;ギ=岐阜県、ア=アルゼンチ 文化交流などだ。 ン、リンクス=連携で岐阜県とアル えてくれるものと信じている。 ◇日本最古の農業高校で ゼンチンが手をつなげる、という意 全校田植え Agrio 0083 号 (2015/11/04) ◇東日本大震災とパラグアイ 味。00年にアルゼンチンを生産活 現在のパラグアイにおける日本 動拠点として、安全食品の開発、 人移住者は約7000人。人口か 食料の増産及び調達を使命とす ら見ると0.14%の少数民族では る企業が岐阜県美濃加茂市に設 8 トピックス ●日本文化紹介イベント 日本文化及びJICAボランテ ィア事業についてより一層の理 解を図り、今後の活動の向上に 立された。日本の緊急時の食糧 確保、非遺伝子組換え大豆の拡 大、移民した日本人の応援、南 米の安全・安心な食品の提案等 つなげることを目的にパラグアイ を中心に活動中=HPより)は で活動する有志ボランティアで広 将来の日本の食料不足に備え岐 報活動を3回実施した。第1回 阜県の後押しを受け設立された は2014年9月、カアグアス市内 会社で、02年からイグアス産大豆 にて日本文化紹介のイベントを を輸入していた。震災発生時、パ 企画・実施。第2回は同年10 ラグアイに出張していた中田智洋 月に首都アスンシオン市内にて 社長は、当時の渡部和男駐パラ 日本パラグアイ交流展に参加。 グアイ特命全権大使、前駐日パラ 第3回は同年11月にアスンシオ グアイ大使の氏の3人と話し合い、 ン市内の「NIHON GAKKO」に イグアス農協と日本人会連合会に て日本文化を紹介した。内容は このプロジェクトを提案したのがきっ JICAボランティア事業についての かけだったという。 写真パネル紹介、ボランティアが このプロジェクトで初めて支援豆 任地で携わった商品の紹介及 腐が被災地に送られたのは11年 び販売、日本 文 化紹介(書 道、浴衣着付け、折り紙等) など。いずれのイベントにおいても 客足は途絶えることがなく、日本 文化への関心の高さが伺えた。 現地の人々は日本人や日本 製品を信頼しており、集団行動 における規律の正しさ等連帯感 があると認識しているようだ。東 日本大震災のニュースの影響も 4月のことだった。出発式は岐阜 県中津川市「ちこり村」で行われ、 この式には豊歳直之駐日パラグア イ大使など約50人が出席し、日 本人会連合会からのメッセージも 読み上げられた。12年2月には、 当時の野田佳彦首相からパラグア イ日本人会連合会、イグアス農協、 田岡功大使に感謝状が贈られた。 大きいが、戦前の日本人移住 また、各被災地からの多くのお礼 者が数々の困難に立ち向かい、 状も写真と共にパラグアイにまで届 原生林を切り拓いた実績は、パ けられた。その他にも、小学生向け ラグアイ国において勤勉な日本 教科書副読本に本プロジェクトが 人という印象と大きな信用を与 記載されるなど、この活動は各方 えている。また農業分野での貢 面から高い評価を頂いた。 献は大きく、ほとんどパラグアイで は摂取されていなかった野菜を 栽培し、パラグアイ人食生活の 改善に大きく貢献している点も 評価されている。 Agrio 0083 号 (2015/11/04) ◇パラグアイで震災につい て講演 パラグアイでの活動中、首都ア スンシオンにある日本パラグアイ学 9 エステ市日本語学校 院、日本人学校、パラグアイの東 方に位置する第2の都市エステ市 日本語学校、イタプア県ラパス市 日本語学校、同市農協婦人会 および同市長寿会にて東日本大 震災の話をする機会があった。地 震が皆無に等しく、周りが陸で囲 まれているパラグアイの人々にとって、 「津波」は未知の自然災害であり、 話を聞く生徒及び市民の表情から は、驚異そして真剣さが伺えた。 震災当時、パラグアイの日系の 農協中央会や五つの農協組合員 より、11万ドルの義援金と 豆腐 100万丁を作るための大豆100ト ン及びその経費等の寄贈を受けた。 また月に1度、義援金集めのため に日本食の模擬店を開き、震災 の深刻さを紹介してもらった。 私自身も宮城県にて震災を経 験し、自然災害の脅威、命の大 切さや家族とのつながり、そして地 域の魅力やその価値を再認識し た。今回のパラグアイでの講演では かねてよりパラグアイからの支援に 対し感謝の意を表するとともに、こ うした震災の教訓を少しでも多くの 人々に、そして次の世代に伝えた いと考えた。 <表紙・目次へもどる> 政策情報 政策情報 から、「活動に磨き掛けて、また挑 中央官庁だより 戦してほしい」と呼び掛けていた。 ◇BISTRO下水道、ハロウ ィーン祝う = 2015年11月2日配信 = 国土交通省 ◇農協に口封じ? 政策のバランスが大切だといった意 下水由来の汚泥や再生水を農 農林水産省 見があった」という。今後は2カ月に 業や水産業に活用し、下水道と 1回程度のペースでJAや漁業、 食の連携を図るプロジェクト「BI 林業の関係団体と意見交換を行 STRO下水道」。下水道部は う考え。 このほど、チームに参加している自 「農水省との約束で、私の口か ら内容は申し上げることはできな い」。全国農業協同組合中央会 (JA全中)の奥野長衛会長 がこう話すと、周りを囲んだ取材記 者たちは、驚いた表情でペンの動 治体などからハロウィーンにちなんだ ◇磨き掛け、再挑戦を 写真作品を募集した。「収穫を祝 農林水産省 う」という意味合いも持つハロウィー きを止めた。先週初めて開かれた 農林水産漁業を通じて地域活 ンにあやかって実施した企画で、下 同省とJAグループ幹部の非公 性化に取り組む団体を認定する 水汚泥などを活用して育てた食材 開による意見交換会後の一幕だ。 「ディスカバー農山漁村(むら)の をはじめ、それを使った料理や造 会合は、森山裕農水相が就任直 宝」の第2回表彰式が先週、首相 形物が写っていることなどが条件。 後に、「農業団体ともう少し日頃 官邸で行われた。グランプリには富 仮装するのも歓迎で、国交省を含 から意思の疎通を図れる仕組みが 山県射水市の新湊漁業協同組 め10団体が参加した。 つくれないのか」と提案して実現し 合が選ばれ、安倍晋三首相から たもの。官房幹部に「口封じでもし 盾が贈られた。応募総数は前回 たのか?」と尋ねると、「いやいや、 の3倍近い683件。農村振興局 そういうことではない」と苦笑いを浮 幹部は「選定委員からの勧めで、 かべた。会合については、「役所や 今回から他薦の仕組みやグランプ 団体の公式意見を述べるのでは リなどの賞をつくったことが功を奏し なく、お互いに本音ベースで話し合 た」と満足そうな様子。インターネッ いましょうということでつくった場」と ト交流サイト(SNS)を通じた 説明。「だから、記者の人には申し 各団体への応援メッセージも 訳ないけど非公開ということにした。 1361件集まり、「盛り上げに貢献 われわれが『外に話すな』と言った してくれた」と話す。認定を受けても わけではない」と弁明した。会合は 賞金などが出るわけではないが、 テーマを設けずに各自が思っている 「地域で名前が売れることで、もっ ことを述べる形で進行。「環太平 と活動が広がるはず。われわれも 洋連携協定(TPP)に対して 交流イベントなどで支援したい」と 農家の不安が高まっているという 強調。今回認定されなかった団体 話や、農業では産業政策と地域 は次回も応募することができること Agrio 0083 号 (2015/11/04) 10 写真作品の一例(国交省提供) 送られた写真はおいしそうな料 理を並べたものなどいずれも力作 ぞろい。報道機関を通じてPRし てもらうほか、将来的にはパネルな どを作製し、紹介もできればと考え ているという。担当者は今回の企 画を通じて、「『暗い』など負のイメ ージがある下水道のイメージアップ につながれば」と期待を込める。 <表紙・目次へもどる> 政策情報 政策現場から 款や就業規則を定めたり、年間 計画を立てたりする際にも農家を 6次産業化の「さらに上へ」 ―吉仲繁樹・三重県農林水産部長― 支援できる。 ◇現場を大事にする その他、農家の「学び直し教育」 三重県は農林水産業の6次産 に魅力ある商品を届けることができ を充実させる一方で、6次産業化 業化を進め、「食のバリューチェーン」 る。観光や福祉、雇用など他分野 を担うリーダー育成に向け、「経営 の構築を重要課題に据えている。 の部署との連携も視野に入れ、 に参画するだけではなく経営のセン 旗振り役の吉仲繁樹農林水産部 「食」の可能性を模索することで「6 スやマーケティングなどの知識や経 長(よしなか・しげき=59)は「6 次産業化の上」を見据える。 験を積んでもらう」ためのプログラム 次産業化の芽を伸ばしながらさら 県は独自に6次産業化を支援 に上に行くためには、一つ一つの磨 するため、専門の普及指導員を置 農林水産業に対しては、生産と き上げが必要だ」と指摘する。 いている。国が派遣する6次産業 環境保全を下支えしている点で 化プランナーと農家の間に入って調 「地方創生の起爆剤」になると期 整を行い、商品開発や販路開拓 待している。地域の産業や経済の 食のバリューチェーンとは、食品が に向けた国の補助金獲得を支援 活性化だけでなく、住人が担い手 生産者から加工や流通をへて消 する。地域の課題を把握している になることで、地域の文化や伝統 費者に渡るまでの一連の流れの中 ため、県の進める普及計画に位置 芸能を守ることにつながると言う。 で各事業者が連携し、商品価値 づけて農家にアドバイスを行うこと そして、田畑を守ることは洪水対 を向上させる「チェーン」のことだ。 ができ、プランナーの勧める6次産 策になると訴える。 吉仲部長は「研究機関や医療機 業化に向けた取り組みの土台を 関、加工や流通(事業者)と組 固められる。 ◇専門の普及指導員配置 の用意も進めている。 農林水産部長としての信念は 「現場を大事にする」こと。「農林 むことで6次産業化 普及指導員の主な 水産業は昔から続いてきたものだ の上を行くものを先 役割は営農や農作物 が、あぐらをかいていては何も進ま 取り で きるの で は な 生産の技術指導だが、 ない」と襟を正す。「『変えてはいけ いか」と考えている。 三重県の場合は 6次 ないもの』と『変えなくてはいけない 食に 関わ る産 業全 産業化や集落営農、 もの』を心に刻んでチャレンジする」 体の収益増加を生 法人経営の指導にま ことを心掛けている。趣味は体を 産者収益の底上げ で関わることが特徴だ。 動かすことで、釣りやスキー、山歩 につなげる狙いだ。 県の政策課題を現場 きを好む。2015年3月まで東京 例えば、輸送の際の保冷技術 農家に伝え、時には相 都の日本橋にある県のアンテナショ を向上させることで鮮度を保ったま 談に乗り、技術指導するなどし、 ップ「三重テラス」の立ち上げと運 ま商品を運ぶことができる。また、 地域と地域の農業組織の未来を 営を担当し、県産品の販路開拓 食品の機能性を研究することでリ 話し合って農家の機運を盛り上げ や知名度向上に向けた取り組み ンの摂取制限のある腎臓病患者 ていく。経営的な知識や情報を持 を担った。(津支局・横山晃嗣) 向けの低リン米を開発し、消費者 っているため、法人化に必要な定 Agrio 0083 号 (2015/11/04) 11 <表紙・目次へもどる> 『6次産業化』情報 『6次産業化』情報 の中土佐町役場農林課南部満 さんによると、2014年度産は既に 生産履歴と周辺環境の明確化を 在庫がない状態。新米は収穫前 =高知県中土佐町、「大野見米」をブランド化= から予約が入っているという。ふるさ と納税の対象品目としてホームペ ―食環境ジャーナリスト・金丸弘美― ージで紹介したところ、評判を呼び、 地域の食をブランド化したい、付 配慮した」「こだわった」と、よくキャッ 北海道や東京からも予約が入って 加価値を高めたい、販売で広報 チフレーズに使われがちな抽象的 いるという。 宣伝をしたいと依頼のあったところ な言葉ではなく、現場を検証する 南部さんが、3年前に高知県立 には「食のテキスト」を作成して下 ことで、商品価値が分かりやすく伝 大学に環境やコメの食味調査など さいとお願いしている。 わるようにした。農家のメンバーで をお願いしたところ、環境や健康の アドバイスを、自ら具体的な形 ある清水美佳さんは「テキストを見 取り組みが、学生たちのスキルアッ にして、大きな付加価値を生みだ せれば、すぐに販売が決まる」とう プと社会貢献事業に一致するとい したのが高知県高岡郡中土佐町 れしそうに印刷したものを見せてく うことで、大学との連携が始まった。 大野見の「大野見米」だ。 れた。コメの販売価格は30キログ 大学では学生たちが、さまざまなコ ラ ム 玄 米 で 1 万 2000 円 ( 1 等 メを炊き比べて、食味のデータを作 米)、1万円(2等米)だ。 成。また販売から料理レシピの作 ◇商品価値を分かりやすく 伝える この 価格は 、現在、 成、実際に農家と協 テキストには、コメ栽培の四季の 農協に出荷する価格の 力して料理を創って 様子、農家のメンバー、栽培の履 約2倍にあたる。それで 提供するなど、生産か 歴、環境、四季の花、昆虫、水 も完売して 足りな い 状 ら販売、そのプロセス 辺などが写真で紹介されている。さ 態。今後、町全域に拡 までを学習プログラム らに高知県立大学と連携してコメ 大するという夢を持って に仕上げていった。 の食味を比較調査し、水辺の生 いる。さらに「どぶろく特 その過程では学生 き物を調べて、水質と環境も明ら 区」の認定を取得し、日 が農家に来てくれるよ かにした。そうすることで、良い環境 本酒の販売も始めた。 どぶろっこり の中でのコメの栽培と、その味わい の豊かさが一目で分かるというわけ だ。 「おいしい」「安心安全」「環境に 生物調査にもかかわっ ◇高知県立大学と連携 中土佐町大野見は、清流・四 万十川の源流から約18キロメート ルの下流に位置する。海抜300メ ートルの地点にあり、緑深い山々 に囲まれている。 大野見米作りの中心となってい るのは6人の農家メンバー「おおの 大野見米 Agrio 0083 号 (2015/11/04) うになり、田植えや、 てくれるようになった。今では30人 以上の学生が、環境調査やレシピ 開発に携わっている。学生が参加 し、農家と交流することで、新しい 出会いが生まれ、活気ももたらさ れた。 ◇「生物スコア」で環境調査 みエコロジーファーマーズ」だ。耕作 栽培しているコメは、四万十の 面積は全体で20ヘクタール。担当 清流の環境を守るために、栽培法 12 『6次産業化』情報 たのが以下のようなポイントだ。 や、肥料・農薬の使用が厳しく規 中土佐町の「重要文化的景観」 定されている特別栽培米だ。 を発信しようと、他の大学にも呼び ①環境にいい、おコメがおいしい 田んぼや周辺の川にどんな生き 掛け、広島、熊本などの学生たち というだけでは抽象的だ。田んぼの 物がいるのか。「生物スコア(環境 も参加してより広範囲の景観調 周辺に住む、昆虫、蝶、鳥、風景 評価調査表)」という基準表をも 査も行った。さらに、森林の間伐と などを写真に撮影した方が分かり とに、カワゲラ、ヤゴ、サワガニ、ドジ いう社会事業で貢献をしている企 やすい。 ョウ、タニシ、30種類ほどの生物に 業から40人が、山の環境保全だ ついて調査。スコアと照らすことで けでなく、水辺の環境にもかかわり 清流度が分かる。この調査は年3 たいと、生き物調査に参加した。 回実施され、1回は大学生、あと ②高知県のレッドデータブックと 比較して生き物調査をする。 ③テキスト化をして誰にでも説 中土佐町農林課の南部さんは、 明できるようにする。 2回は農家と小中学生で行ってい 最初に大学と相談した際には、こ ④大学と連携して他地域のコメ る。この取り組みは、地元の人たち の計画に5年間は付き合ってほし とどう違うのか食味調査をして特徴 や、中土佐にやってきた新規就農 いと話したという。1年目は「田植 を明確にする。 の若い人たちの共感も呼んだ。 えを通して、楽しくコミュニケーション ⑤大学と連携して田んぼの生き 物調査をしてもらう。 環境とおコメの品質が明らかに を創る」、2年目は「1回生の経験 なることで、地域の食堂でおコメが を活かし、一緒に楽しみ、地元の ⑥おコメの販売を小袋にする。 使われるようになった。中土佐の木 人を紹介する」、3年目は「全体を 消費者が購入しやすい形状にす 材を使っている大阪の業者から社 総括する」、4年目は「学んだことを れば、売りやすい。直接販売をす 員食堂に使いたいと依頼もあった。 就職に生かす」というプログラムとな れば農家が価格を決められ、手取 中土佐の水を販売している業者 からおコメも販売をしたいとの申し 出があり、取り引きが始まった。 りも多くなる。 った。 その時々のイベントに来てほしい という依頼は多いが、5年間の計 中土佐町の人たちはこれらを全 て実践し、形にした。 14年は「大野見青年の家」で 画を作って来る役場職員は初めて 中土佐町には、農家民泊、景 学生たちが、農家の協力を得て と大学の先生に驚かれたという。そ 観を生かした直売所、農家女性 50人限定の食事を提供したが、 のことが、大学との協力体制の強 が企業したレストラン、カフェなどが すぐに完売。学生は、多くの人に 化につながった。 点在をしている。いずれも山間地 料理を提供したことがないので農 家の人たちが指導した。今年は、 教育委員会の提案で、国選定の ◇景観や環境を取り込む の風景や環境をうまく取り込んだも 筆者と中土佐町の大野見米と のとなっている。これらを上手に連 かかわりが生まれたのは、「高知県 携させていけば、新たなツーリズム 農業創造人材育成事業」 や特産品を使った総合的な6次 がきっかけだ。総合アドバイザ 産業が生まれ、地域の新たな経 ー に 任命され 12 年か ら15 済を生むだろう。地域にある物の 年までの4年間通った。大野 素材を明確化して、その背景を明 見米の環境が素晴らしい。 らかにしていけばいくほど多くの関わ 子供たちが来れば、すごく喜 りが生まれ、付加価値もできるとい ばれるはずだと言われて、現 うことだ。 大野見の風景 (写真はすべて「おおのみエコロジーファーム」HPより) Agrio 0083 号 (2015/11/04) の地場の食材を生かし、その周辺 地に行き、その時に提案をし 13 <表紙・目次へもどる> 農と食のコラム 農と食のコラム の最大の課題は「小作貧農の救 「まっすぐな麦のように一途に・・・」 =映画「NOURIN TEN~稲塚権次郎物語」= 済」だった。「北海道4ヘクタール、 内地1ヘクタール」の農地解放が 実現し、戦後日本の平等の礎を 築いた。その後、日本は農業から 工業へ、さらにサービス産業を主 「まっすぐな麦のように一途に生 きる日本人の心意気」―。富山の 片田舎で育ち、「小麦農林10号」 は粟や稗(ひえ)が常食で、小 流とする先進国経済へと発展し続 麦の増産が求められた。 けた。一方、農業は規模が縮小し 同氏が開発した「小麦農林10 たまま、衰退が懸念されている。今 の開発に成功、これを基に改良さ 号」は、従来あった「倒れやすい背 や日本の国内自給率(14年度) れた小麦がやがて米国から世界に 丈の高い種」、「背の低い矮性 は39%。コメが100%近い以外、 広がることで、途上国の貧困救済 (わいせい)種」、「中間の半矮 麦13%、畜産物17%、野菜・魚 に貢献した稲塚権次郎氏。その 性種」の3種を交配し、35年に完 介類60~70%台だ。 生涯を描く映画が全国で順次公 成した「短く早熟で耐寒雪害に強 しかし、日本は今なお、島国な 開されている。9月19日には東 く粒も充実した」新品種だ。東北 がら多様な風土に恵まれ、多様な 京・有楽町のスバル座で、主役の 地方の栽培に適切で、良質な小 農畜水産物を育んでいる。富山 仲代達也氏らの舞台挨拶が行わ 麦の登場となった。 ならば「夜の海に淡く青に光る蛍イ れ、映画の幕が下りると、まさに映 その後、農林10号は敗戦後の カ」などの「旬産品」、健康や栄養 画案内文にある「麦のように一途」 46年に、進駐米軍の農業顧問の を重視した「有機農産物」などがそ な稲塚氏の生き様に観客から拍 手で米国へ渡る。さらに、ノーマン・ うだ。企業が農家などと提携した 手が沸き起こった。 ボーローグ博士が交配を重ねて米 「6次産業化」や「農産物輸出」に 映画の主人公である稲塚氏の 国で高収量の小麦に改良。60年 も活路を見出せそうだ。 足跡と時代背景はどのようなもの 代のインドなどでの食糧危機を救 そして、育種の技術開発も続い だったか。同氏は1897年、富山 った「緑の革命」につながり、博士 ている。農林水産省技術会議事 県南砺市(現)の生まれ。ロウソ は70年にノーベル平和賞を受賞 務局・技術統括官(生産技術) クの火で勉学し、本家の支援もあ した。そして、81年、稲塚氏は来 室によると、小麦の品種改良では、 日した博士と初めて対面を果たし、 北海道産「ゆめちから」という品種 が生まれた。製パン企業などは、 学する。卒業後、農商務省に入り、 その7年後の88年郷里で、91歳 輸入小麦との価格競争よりも、食 まず秋田県農事試験場陸羽支 で死去する。 り、東京帝国大学農学実科に進 場(大曲)でコメの品種改良を 稲塚氏の活躍した戦前の農政 パンや中華麺に加工しやすい点に 担当。1926年に岩手県立農事 着目し、粘り強いたんぱく質のグル 試験場に転勤し、小麦の品種改 テンを多く含む「国産小麦」の品種 良に取り組む。当時、日本は世界 として利用が増えつつある。稲塚 恐慌と軌を一にした昭和恐慌の 氏がかつて高収量目指して取り組 最中だ。青森県など東北地方の んだ品種改良は、現代の育種家 貧しい村ではコメはおろか、小麦も に国産小麦普及という別の課題を 満足に口にできず、貧しい小作人 Agrio 0083 号 (2015/11/04) 「映画NOURIN TEN」舞台挨拶の 仲代達也氏ら=9月19日、東京・有楽町 14 与えている。(経済部・堺隆司) <表紙・目次へもどる> JAフォーラム JAフォーラム 改革の決定を受け、JA東とく しまは、17万袋(約5100トン) コメ全量買い取りで直売 の出荷を目標に掲げ、独自の販 =資材販売部門も刷新= 路開拓に着手。米穀の流通に詳 ―JA東とくしま― しい業界人を組織に迎え入れ、関 西を中心に県内外約20の米穀 米価下落で窮地に陥ったコメ農 年の記録的な米価下落だった。 卸業者と売買契約を結んだ。集 家を支援しようと、徳島県小松島 JA東とくしまの主食用コシヒカリ 出荷や販売、在庫や未収金など 市に本部を置く「JA東とくしま」 は、前年度は全 を一括管理できるシステムを は、コメ流通の大改革を始めた。 農から支払われ 新たに導入。集出荷場にな 2015年産米から全国農業協同 た一等米の仮 る10支所にも端末を配備し、 組合連合会(全農)への販売 渡し金が最高 リアルタイムで流通状況を把 委託を停止。生産者からコメを全 30キロ7000円 握できるようにした。 量買い取り、独自に開拓した米穀 だったが、14年 卸業者を通じて販売することを決 は 同4600円ま これまでは全農が担っていた めた。組合員の所得向上につなげ で 下落。 「作れ 出荷業務だ。1日あたりトラ て、農協の存在価値を高める。 ば作るほど赤字 ック5台分の60トンの出荷を、 になる状況」 ◇全農の委託販売から脱 却へ 一番の課題になったのは、 荒井義之組合長 (JA職員)だった。 独自に運営管理する必要 があった。新たに集荷スペー そうした中、荒井義之組合長が スを確保することも検討したが、 JA東とくしまは、ナンテンやカ 旗振り役となったコメの全量買い 「管理コストの分を組合員に還元 エデなど日本料理のつまに使われ 取りと直売の改革案が10月の理 する」との認識に立ち、見送った。 る葉っぱをビジネスにした「彩(い 事会で承認された。折しも、全国 最終的には、独自に運送業者と ろどり)」事業で有名な上勝町な 農業協同組合中央会(JA全 契約を結んだほか、一部の卸売 ど、県東部の小松島市、勝浦町、 中)の権限を弱めて、単位農協 業者には搬出の協力を取り付けて、 阿南市北部の2市2町にまたがる。 の自主性を高める農協改革がか まびすしく議論されている最中に自 組合員数約1万人のうちコメ農家 出荷業務の効率化を図った。 改革について、組合員には広 は約1800人。勝浦川と那賀川の 主改革を訴えた全中の方針を、 報誌で周知するとともに、支所ごと 下流域の水田地帯を擁する県内 先取りして実践した形だ。 に説明会を開催し、理解を求めた。 有数のコメ所だ。 改革の直接的なきっかけは、14 農林水産省の資料によると、主 「買取価格の保障はあるのか」「農 食用の13年産米で、単位農協か 協の収益は大丈夫か」など懸念の ら出荷される総量の4分の3が全 声もあったが、おおむね理解を得ら 農など集荷団体を経由して市場 れたという。 へ出回る。これまでは、JA東とく 今年の出荷見込みは15万袋 しまも全農を通じて販売してきたが、 (約4500トン)程度にとどまる 見込み。それでも、現場の職員か 今後、全農は卸売り先の一つとし ての位置付けにとどまる。 全量買取を始めたコシヒカリ Agrio 0083 号 (2015/11/04) 15 らは「買取方式の定着と卸業者か JAフォーラム らの信頼獲得が目下の課題だ。 改革も、組合員の期待に応えよう 年度は12億円にまで伸び、生産 今後は付加価値をつけた提案を と、単位農協として独自に導き出 者数も240人から460人に増えた。 していく」と出荷量の拡大に意欲を した答えだった。それが結果的に全 元は荒れ地だった高台を造成して 見せる。 農と距離を置くことになった。荒井 開設。当初は集客効果に疑問を 組合長は「主役は組合員で、全 唱える声も多かったというが、今で 農ではない」と強調。「離れてみて は他のJA組合員からも出店の 全農のよさもわかる。全農をあてに 希望が出るまでに成長した。 ◇購買部廃止、調達に入 札制度 またJA東とくしまは、コメの流 する単位農協はリスクもなければ 人気の秘訣は常に新鮮な野菜 通改革に先立つ5月、組合員向 努力もしないでいい。一方、東とく が陳列されていることだ。葉物と加 けの農業資材販売の方法につい しまの場合、組合員の期待は大き 工品は当日、根菜など日持ちする ても大きな合理化を図った。これま いが、業者から買いたたかれるリス 野菜は2日に1度、売れ残った物 で管内の資材流通を担ってきた クがある」と苦労をにじませた。 を生産者が引き取る。生産者には 10支所の購買部を全て廃止。購 改革に踏み切った背景には組 1日3回メールで売り場状況が配 買機能を集約した大型の販売セ 合員の農協離れへの不安がある。 信される。売れ行きが良ければ、 ンターを2カ所新設して、品数も従 農林水産省の資料から推計する 生産者が追加して持ち込むため、 来に比べ10数倍に増やした。 と、流通体系が現行制度になった 常に新鮮な野菜が並ぶ。配送体 資材の大部分を、全農を通じ 04年度以降、コメの出荷数量全 制も充実しており、1日に120~ て買い付けてきたこれまでの調達 体のうち農家が農協を通さず直接 130件の発注があるという。販売 方法も見直し、他の民間卸業者 卸売業者や消費者に届ける割合 手数料は野菜が15%で加工品 とも契約を結んだ。入札制度を導 はじわりと増えている。04~06年 が20%だ。 入して、従来よりも価格を抑えて 産米の3カ年平均が35.3%だった 販売できるようにした。 のに対して、11~13年産米の平 また、新しい販売センターまで足 を運びにくくなる組合員に配慮し、 均は38.3%だった。 「時代のニーズを先取りしないと、 配送サービスを充実させた。これま 若い世代の期待に応えることがで では職員が担っていた配送業務を きない」と荒井組合長。今後農業 運送業者に委託。在庫を一括管 従事者の世代交代が進めば、組 理できる独自の流通センターを新 合の弱体化が進む恐れがあるとの 設し、多様な品目を安定的に供 危機感がある。 給できるようになった。支所ごとに 発生していた不良在庫も一掃でき ◇売り上げ12億円の産直市 産直市のあいさい市場 取材中はスダチの出荷最盛期 で、東京都からの電話注文も受け ていた。販売部長の横井幸子さん は「生産者に特定の顧客がつくよう JA東とくしまでは、これまでも になってきた。○○さんのスダチじゃ 購買部の廃止により、農家の 多様な新事業を手掛けてきた。 ないとだめという声も聞く。市場や 利便性も向上させつつ、支所ごと 06年3月にオー プンした産直市 農協に出荷するだけだった生産者 に配送と窓口販売の業務を担って 「みはらしの丘あいさい広場」は、1 にとって、消費者の反応が直接伝 いた職員を別の業務に充てること 日平均2000人が訪れる人気ス わることで、やる気が生まれる」と話 ができるようになった。 ポットとして定着した。初年度は6 す。 る。 コメの直売も資材販売部門の Agrio 0083 号 (2015/11/04) 億8000万円だった売り上げが昨 16 一方、生産者の高齢化が悩み JAフォーラム のタネだという。ニーズの高まりに対 して供給が追いついていない状況 がある。「特に午後からは市場から 買い足した商品がないと陳列台が 空っぽになってしまう。若い農業従 事者の発掘が急務。今後は他の JA商品の混合販売も検討して いく必要もある」と話す。 またJA東とくしまでは、全国 的にも早い09年7月に米粉の製 粉工場を竣工。11年からは、県 教委に掛け合って県内公立小中 学校全ての給食パンに10%以上 の米粉を使用することになった。 14年では開業年から3倍となる 66トンの売り上げがあった。 現在は4法人を含む13戸の組 合員が米粉用のコシヒカリを契約 栽培している。学校給食のほかに も、洋菓子店やパン屋など22~ 23軒が使用している。 「組合員ができないことをJAが やる」。荒井組合長はJAの存在 意義を明快に語る。「今の時代に できることを最大限することが組合 長としての使命だ」。今後も、組合 員本位の取り組みを推進していく と意気込んでいる。(徳島支局・ 山本拓也) 〔基本情報=2014年9月末現在〕 ◎駅近に大型直売所オープ ン=JAセレサ川崎 セレサ川崎農業協同組合(J Aセレサ川崎)は10月27日、東 急田園都市線「宮崎台」駅から 徒歩わずか5分ほどの住宅と商業 施設が混在する場所に、大型の 農産物直売所「セレサモス」の2号 店(宮前店)をオープンした。同 JAは2008年4月に同市麻生 区黒川の農業振興地域に1号店 般客が長蛇の列をなしてオープン を待っており、セレモニー終了後に 続々と入店。地元宮前区在住の 高齢の夫婦は「これまでは麻生店 に行っていた。品物が豊富なのが 何より。こういう直売所はどんどん 作るべきだ」と訴えた。実は、すぐ 隣には大手スーパー、ライフの宮崎 台店がある。夫婦も生産野菜をセ レサモスで買った後、ライフでその他 の物を買うつもりだと話した。 (麻生店)をオープン。来場者 数は月3万人超える人気ぶりで、 2号店開設が待たれていた。 この日行われたオープニングセレ モニーであいさつしたJAセレサ川 崎の柴原裕代表理事組合長は、 宮前店について、立地の良さを強 宮前店で販売されている地元 調した上で、「消費者と生産者、 川崎市産の目玉はブロッコリー、カ そして需要と供給が直接出会う場 リフラワー、小松菜など。地場産率 所として、お互い信頼を築き、お互 は麻生店で14年度が約70%。 いが納得した価格を形成する店の 直売所が2店舗に増えると、1店 開店は、都市農業の振興に大変 舗は2分の1の35%に減る勘定だ 重要だ」とその意義を強調した。 が、これを市内の生産量を増やし、 また来賓の福田紀彦・川崎市 市場などその他の出荷分を直売 長も「川崎というと商業、工業の町 所に誘導するなどして50%程度ま というイメージが多いと思うが、実は で高めていきたいと言う。こうした取 こんなに豊かな都市農業があると り組みが農業所得の増大につなが いうことを多くの市民に知っていただ ることも期待している。 きたい。川崎市にはまだ東京ドー 川崎市の生産農家数は約 ム128個分の農地が残っている。 700戸で、うち現在447人がセレ 出資金:15億円 これをしっかり守り、さらに都市農 サモスへの出荷者登録をしている。 貯金残高:841億円 業を発展させていくにためは、消費 宮前店の来場者数の目標は、麻 貸出金残高:71億円 者、市民の皆さんの理解が何より 生店で実現している月3万人で、 も大事だ」と呼びかけた。 今年度の売上高目標は月5000 名称:東とくしま農業協同組合 設立:1999年4月 正組合員数:7977人 準組合員数:2924人 単体自己資本比率:16.02% この日、予想を超える人数の一 万円としている。(編集部) <表紙・目次へもどる> Agrio 0083 号 (2015/11/04) 17 アグリ討論席 アグリ討論席 政策の評価と見直し =農地問題への取り組みのあり方= 武本 俊彦(たけもと としひこ) ―食と農の政策アナリスト・武本俊彦― 〔主な経歴〕 東京大学法学部卒 1976年農林水産 省に入省、ウルグアイラウンド交渉、食管法 9月27日に閉会した第189通 年2月24日号「米価下落とコメ政 常国会では、多くの国民がこの国 策について」、同6月3日号「農地 会での成立に反対していた安全 問題の検討の在り方」)において 長などを経て、2013年3月退官、現在野 保障法の審議を優先したこともあ 取り上げてきた。そのポイントは以 村アグリプランニング&アドバイザリー株式会 っ て 、 成 立 し た 法 律 は 88 % と 下の通りだ。 社顧問、環境エネルギー政策研究所シニ 2013年以来で最も低いものとな (1)「農地」の流動化(構造 った。また、環太平洋連携協定 改革)を進めるためには農業問 (TPP)が大筋合意し、農業 題だけに限ることは適当ではないこ 勝慶応義塾大学教授との共著)(小学 政策の抜本的見直しも急務とな とから、農地制度だけではなく非農 館)「食と農の「崩壊」からの脱出」(農林 る中で、今後は、来年の参院選も 地を含む土地利用計画制度とし 統計協会)「儲かる農業論 エネルギー兼 意識しつつ、国民の関心の高い、 て考える必要がある。 強い経済、子育て支援、社会保 (2)その場合の土地利用計画 障からなる「新3本の矢」をアベノミ とは、地域における雇用と所得の る経営へのリスクをどのように軽減 クス第2ステージとして展開し、「1 確保という「定住対策」の一環とし するのか。 億総活躍社会」を目指すこととさ てとらえる必要がある。 れた。 (3)その上で、農業での規模 廃止・食糧法制定等を担当、その後、内 閣官房内閣審議官、農林水産政策研所 ア・フェローなど 〔主な著書〕 「日本再生の国家戦略を急げ!」(金子 業農家のすすめ」(集英社新書、金子勝 慶応義塾大学教授との共著)ほか これらの問題に総合的に対応 する必要があるということだった。 拡大を目指す経営にはどのような ◇アベノミクス第2ステージ でも農地問題が「胆」か 農業・農政もその一環として引 き続き「改革」が行われるのであろ うが、当面の課題の一つは、 仕組みの経営安定対策を用意し、 ◇政権交代による政策変 その一方で、規模縮小(最終的 に農業からの離脱)する世帯に 更の意義 09年の総選挙によって自公連 対する雇用と所得の確保策として、 立政権から民主党連立政権へ、 どのような措置(地域資源を活用 また、12年の総選挙によって民主 2018年度の「減反廃止」とともに、 した6次産業化、再生可能エネル ギー事業の取組等)を用意する 農地の集約化を通じた「農業の構 党連立政権から再び自公連立政 権が復活した。まさに選挙を通じ のか。 た政権交代が実現したのであり、 農業の構造改革については、 (4)農業の経営マインド醸成 こうした政権交代が今後も継続的 筆者はこれまでも、Agrioでの論 の妨げにもなってきたコメの生産調 に行われることは、政治に緊張感 考(14年1月21日号「コメ新政 整について、どのような経路と措置 を与え、民意を反映した政策の実 策は減反廃止につながるか」、15 によって「廃止」し、その過程におけ 現に資するものとなろう。 造改革」を推進することだろう。 Agrio 0083 号 (2015/11/04) 18 アグリ討論席 なぜならば、一般的に政権に影 ラマキ」であるとされ、14年度から ールの実績にとどまり、そのうち中 響力を有する利害関係者の意向 1.5万円/10アールの固定払い部 間管理機構を通じたものは7000 が強くなりすぎると、制度政策の抜 分が半減され、18年度に廃止す ヘクタールほどと極めて低調であっ 本的な見直しを行うことが極めて ることとされた。その一方で、停止 たのも当然だろう。 困難になるからである。しかし、単 されていた経営所得安定対策が に前政権が行っていたからという理 復活することとされた。 このような低調な実績を踏まえ て、農林水産省は、「農地中間 由だけで当該政策の廃止や抜本 バラマキを理由に廃止とされた 管理事業を軌道に乗せるための 的見直し行うべきでないことは言う 戸別所得補償制度について、民 方策について」を策定し、実績を までもない。政策の見直しは、政 主党は「販売価格と生産コストの 上げた県への施策の優先配慮や 策評価を行った上で、適切に行う 恒常的な赤字を全国一律単価で 役員体制の再構築(経営能力 べきであり、もしそうでなければ、政 補てんすることで、農家所得の安 を有する者)を要請し、次年度の 権交代によって政策が大きくぶれ 定と着実な構造改革の両方を実 実績評価に向けて指導を強化し ることになり、政策の対象となる農 現する制度」と位置付けている。ま ていくこととしている。農業の経済に 業者にとっては経営方針の策定を た、新たな財源を国民へ負担を求 占める割合が1%程度となり、農 困難にし、意欲を喪失させることに めることなく、農林水産関係予算 地問題=土地問題と位置付けら もなりかねない。 の組み替えによって行うため、バラ れた時代ははるか昔になった現在、 マキとの指摘はあたらないとしてい このような古典的な「アメとムチ」の る。 政策でどの程度効果があるのだろ ◇戸別所得補償制度と経 営所得安定対策 さらに、制度開始時、全国一 うか。 一例として戸別所得補償制度 律の単価を設定することなどにより が挙げられよう。民主党連立政権 大規模農家にインセンティブが生じ は、マニフェストに基づいて、10年 るよう設計したことで、集落営農 以上の点を踏まえると、そもそも 度に「戸別所得補償制度」を創 数の増加や、農地の権利移動面 農地問題への取り組みは、前述 設した。この制度は、「すべての販 積が10年に歯止めがかかり11年 のとおり、農業の地域経済に占め 売農家」を対象に直接支払いを から増加に転ずるなど、農業の抱 る地位、農地の地域の土地利用 行うもので、一定の経営規模に限 える構造的な課題に徐々に効果 の中での位置付け等を踏まえ、地 定する経営を対象とする、前政権 が発現することとなったとしている。 域の雇用と所得の確保の観点か が行っていた経営所得安定対策 とは異なった考え方の制度だった。 ◇今は何をすべきか ら、農業を含む地域の産業の在り ◇農地中間管理事業 方、生活環境の確保の仕方等を 民主党連立政権は、戸別所 一方で、現政権下で発足した 踏まえた、「地域のまちづくりの計 得補償制度の発足にあたり、それ 農地中間管理事業については、 画」を策定することが重要である。 までの経営所得安定対策につい 借り手と貸し手の自由意思を前 その場合、農業者を含む地域住 て十分な政策評価を行うこともな 提とする制度であり、農地を農業 民の参画する中で策定し、合意さ く、制度そのものを停止状態に置 的に利用する場合の権利移動を れた計画に基づいて土地利用の いたのである。 促すものであるがゆえに、必要とさ 在り方、地域産業の立地の在り その後、12年の総選挙による れる年間15万ヘクタール程度の 方を決めていくシステムを構築して 政権交代によって、「すべての販売 新規集積目標面積に対して、中 いく必要があるだろう。 農家」を対象とするこの制度は「バ 間管理事業以外を含め6万ヘクタ Agrio 0083 号 (2015/11/04) 19 <表紙・目次へもどる> 週間ニュースファイル 週間ニュースファイル (10月26日~11月1日) <農林水産行政> ついて、TPP参加国からの輸入 が少ないことや漁獲規制が実施さ ◎米コメ団体、日本は市場 開放を=USTRに要望 (15/10/31) 【シカゴ時事】米国のコメ農家で れていることなどを理由に「影響は 限定的」と評価している。 その上で、長期的には国産品 の価格下落も懸念されるとし、生 つくるUSAライス連合会は30日、 産性向上など体質強化策の検討 主要輸出先の貿易障壁の現状を が必要と指摘している。同省は11 まとめ、米通商代表部(UST 月4日に開かれる自民党の農林 R)に報告した。日本に対しては、 水産関係会合に分析結果を報 輸入を厳しく制限している上、輸 告する。 入したコメを政府備蓄や家畜の餌 などに限定し、一般消費者に販売 していないと批判。一般消費者市 場を開放するよう求めた。 報告は、各国の問題点を指摘 することで、USTRが毎年公表 する貿易障壁報告へ反映させる のが目的。先に大筋合意した環 太平洋連携協定(TPP)に ついては「公式文書が明らかにされ ていない」として評価を見送った。 ◎水産物への影響「限定 的」=TPP合意で分析-農 水省(15/10/30) ◎新下院議長に協力呼び 掛け=TPP批准などに向 け-米大統領(15/10/30) ◎TPPの影響「限定的」= コメ、果物、野菜の市場開 放-農水省分析 (15/10/29) 農林水産省は29日、環太平 洋連携協定(TPP)の大筋 合意による関税削減・撤廃などの 影響を、農産物21品目について 分析した結果と、影響を抑える対 策の方向性を発表した。コメにつ いては「国家貿易以外の輸入の 増大は見込み難い」と予測し、野 菜や果物など多くの品目では「影 響は限定的」と評価した。畜産品、 水産品、林産物の 影 響分析も 11月初めをめどに公表する方針 だ。 農水省は「限定的」との表現の 意味を、「将来的には関税引き下 【ワシントン時事】アーネスト米 げの影響はゼロではない」(松尾 大統領報道官は29日の記者会 浩則参事官)と説明した。同省 見で、オバマ大統領がライアン新 の分析結果に対しては、同日開か 下院議長(共和党)に電話し、 れた 自民党の農林関係会議で 環太平洋連携協定(TPP) 「表層的で総花的な分析だ」(出 の批准などに向けて協力を呼び掛 席議員)との批判も出ており、T けたことを明らかにした。 PPの農業対策の取りまとめに向 報道官は「大統領はライアン氏 と協力し、国民のために前進を図 け、より詳しい分析を求められそう だ。 ることを希望している」と説明。優 影響分析ではコメについて、T 先順位が高い課題の一つにTP PP大筋合意で日本政府が外 環太平洋連携協定(TPP) Pを挙げ、「ライアン氏は(交渉 妥結に必要だった)大統領貿易 の大筋合意を受け、農林水産省 国産米の輸入を一元管理する国 がまとめた水産物への影響分析が 促進権限法案の審議で重要な 外措置を獲得したと指摘し、「国 30日明らかになった。水産物は海 役割を果たした。TPP承認案 家貿易以外の輸入の増大は見 藻類を除く大半の品目の関税が の審議の際にも、超党派の多数 込み難い」と予測した。 TPPで撤廃されるが、同省はア 派形成で協力できることを望んで ジやサバ、マグロなどの主要品目に いる」と語った。 Agrio 0083 号 (2015/11/04) 家貿易制度の維持など多くの例 その上で、米国とオーストラリア 向けにコメの無税輸入枠(最大 20 週間ニュースファイル 年7.84万トン)を新設することで 部」(本部長・稲田朋美政調会 流通量が増え、価格水準が下が 長)の初会合を党本部で開いた。 知したことが28日、分かった。今後 ることが懸念されるとも指摘し、備 農林や経済産業などの関連部会 は国連海洋法条約に基づき、国 蓄制度の見直しなどで国産主食 を中心に議論を加速させて11月 際海洋法裁判所(ITLOS、 用米への影響を食い止める対応 中旬に提言を取りまとめ、政府の ドイツ・ハンブルク)などで紛争解 方針を示した。 TPP対策大綱に反映させたい 決を図る。 同じく国家貿易が継続される小 考えだ。 ICJは昨年3月、日本が行 っている南極海の調査捕鯨につい 麦に関しては、事実上の関税に当 たる輸入差益の削減に伴う販売 価格低下の可能性を考慮し、 「(国産小麦の)競争力の強化 は原則応じない方針を国連に通 ◎TPPなどで意見交換= 農水省幹部とJAグループ (15/10/28) て、「科学的調査とは言えない」な どとして中止を命じた。この敗訴を 踏まえ、政府は専門家の訴訟関 が必要」と分析した。糖価調整制 農林水産省は28日、環太平 与など、より専門的な見地からの 度が続く砂糖では、テンサイやサト 洋連携協定(TPP)交渉の 紛争処理が可能なITLOS ウキビの生産に特段の影響は見 大筋合意を受けた国内対策など などを優先することにした。 込み難いとする一方、砂糖代替 農業政策について、全国農業協 品となり得るココア粉など「加糖調 同組合中央会(JA全中)の 整品」は輸入量増加が想定され 奥野長衛会長らJAグループ関 ると指摘した。 係者と、森山裕農水相ら同省幹 大半の関税が撤廃される野菜 部との意見交換会を開いた。 ◎TPPの野菜関税撤廃 「寝耳に水」=飛田JA北海 道中央会長(15/10/28) JA北海道中央会の飛田稔 では、カボチャ、アスパラガス、タマ 森山農水相は冒頭のあいさつ 章会長は28日の記者会見で、環 ネギ、ニンジン、トマト加工品など で、「意思の疎通をしっかりできるこ 太平洋連携協定(TPP)交 について「影響は限定的」と予測し とが大事だ」と強調した。農水相は 渉の大筋合意で野菜の関税撤廃 た。オレンジやリンゴ、ブドウなど関 就任後、関係団体との定期的な が決まったことについて「事前に議 税撤廃対象の果物についても、温 意見交換の場を設ける考えを示し 論がないまま撤廃された。寝耳に 州ミカンを含む国産果物と輸入品 ており、JAグループとは農協改 水だ」と不信感を示した。 の差別化が現状では図られている 革でぎくしゃくした関係を修復する と分析。その上で、野菜も果物も 狙いがありそうだ。 野菜の関税撤廃をめぐっては、 15日に開かれた農林水産省の説 長期的な価格下落に備え、生産 今後は2カ月に1回程度のペー 明会で、北海道で生産量の多い 性を高める対策が必要と指摘し スで開催。水産、林野の分野でも ジャガイモやタマネギの関税に対す た。 同様の会合を開く予定だ。 る質問に、同省担当者が撤廃す ることを明らかにしていた。 ◎捕鯨問題、国際司法裁 で応じず=敗訴踏まえ方針 変更-政府(15/10/28) に発表され、)だまし討ちにあった 自民党は29日午前、環太平 政府が、捕鯨など海洋生物の ろう」と不快感を表明。その上で 洋連携協定(TPP)交渉の 調査や管理に関する国際紛争に 「政府には説明責任を果たし、対 大筋合意を受けて国内対策を検 ついて、国際司法裁判所(IC 策として公的措置を講じてきちんと 討する「TPP総合対策実行本 J、オランダ・ハーグ)での裁判に 予算を付けてほしい」と述べた。 ◎TPP対策本部が初会合 =自民、農家支援へ議論 加速(15/10/29) Agrio 0083 号 (2015/11/04) 21 飛田会長は「(情報が小出し ような気持ちが組合員にはあるだ 週間ニュースファイル ◎「多くの国が参加に関心」 って、全国各地で同党議員や農 林水産省幹部らによる説明会を =TPP拡大に意欲-米通 開く。 商代表(15/10/28) 【ワシントン時事】フロマン米通 商代表部(USTR)代表は 27日、ワシントン市内で講演し、 日米など12カ国が大筋合意した 環太平洋連携協定(TPP) について「多くの国が参加に関心を ◎農産物取引のヘルプデ スク設置へ=神奈川県 (15/10/30) 神奈川県は30日、農業振興 <グローカル> ◎愛媛県、日本食モールに 特産品エリアを常設=シン ガポール(15/10/30) 示し、接触してきた」と明らかにし、 策の一環として、飲食店、量販店 などの小売り事業者による県内産 農産物の取引要望を集約するヘ ルプデスクを設置すると発表した。 設置期間は11月2日から2016 年3月25日まで。 米国主導の貿易・投資秩序拡大 ◎日本館、来館者220万 人超=ミラノ博、閉幕で― 森山農水相(15/10/30) に意欲を見せた。 講演に同席したラッセル国務次 官補(東アジア・太平洋担当) は「中国がTPPのような高い水 準(の自由化)を受け入れるよう になれば、より良い世界になる」と 来店客に愛媛県のミカンジュースを振る舞う 中村時広知事=30日、シンガポール(時 事) 森山裕農林水産相は30日の 閣議後記者会見で、イタリアで5 月から開催されているミラノ国際博 【シンガポール時事】愛媛県は 覧会(ミラノ万博)の日本館の 30日、シンガポール中心部でオー 来館者が220万人を超え、当初 プンした日本食の商業施設に、同 目標の140万人を大幅に上回っ 県産品のみを扱う販売エリアが常 たことを明らかにした。森山農水相 設されたのに合わせ、開業式典を は「わが国の農林水産業や食を取 行った。ポン酢やそうめんといった加 り巻くさまざまな取り組み、日本食 自民党は27日、農林水産戦 工食品や日本酒、水産品など約 や食文化の魅力を世界へ発信を 略調査会と農林部会の合同会議 100品目を販売。同国の商業施 できた良い機会だった」と述べた。 を党本部で開いた。環太平洋連 設に都道府県を限定した棚が常 同万博は31日に閉幕する。 携協定(TPP)の大筋合意 設されるのはあまり例がないという。 を踏まえ、国内農業の具体的な 開業式典に出席した愛媛県の 支援策をめぐる議論が本格的にス 中村時広知事は取材に対し タートした。西川公也農林水産戦 「(シンガポールの)日本食スー 略調査会長は会議の席上、11 パーでは、単発的に販売フェアを 農林水産漁業で地方活性化 月17日までに農林水産分野の対 開催してきたが、常設につながって に貢献する団体を認定する「第2 策をまとめる考えを示した。 うれしい」と話した。その上で、環太 回ディスカバー農山漁村(むら) また西川会長は政府のTPP 平洋連携協定(TPP)の大 の宝」の表彰式が29日、首相官 対策の大綱が来月25日をめどに 筋合意を念頭に「今後も海外市 邸で開かれ、グランプリに魚介類を 策定される見通しも明らかにした。 場にがんばって入り込んでいかなけ 通じて食育活動などを行う新湊漁 自民党は、農業者の不安を緩和 ればならない」と意気込んだ。 業協同組合(富山県射水市) 語り、TPPを通じ中国に改革を 促す考えを強調した。 ◎来月17日までに結論= TPP農業対策-自民農林 会議(15/10/27) が選ばれた。尾山春枝組合長は するため、来月7、8の両日にわた Agrio 0083 号 (2015/11/04) ◎新湊漁協にグランプリ= 「ディスカバー農山漁村の 宝」(15/10/29) 22 週間ニュースファイル 「子どもたちが地元を誇りに思える ほか、県のフェイスブックでの公開も 場合、直腸や結腸のがんになる可 よう活動してきた」と喜びを語った。 検討している。データベースが県へ 能性が18%増すという。個人にと また、グローバル賞には、外国 の移住、定住のきっかけとなること ってのリスクは「小さい」ものの、摂 も期待している。 取量が増えれば高まると指摘した。 人研修生を積極的に受け入れて いる遠野・住田ふるさと体験協議 会(岩手県遠野市)、プロデュー ス賞には障害者の就農に取り組む 社会福祉法人E.G.F(山口 県萩市)、ウィメン賞には海女漁 <海外アグリ> ◎大戸屋、タイで100店目 指す=セントラル百貨店グ ループ(15/11/01) 文化を活用した町おこしを行う相 31日付のタイ英字紙ネーション 差海女文化運営協議会(三重 (経済3面)によると、和食レスト 県鳥羽市)が選ばれた。 ラン「大戸屋」を展開するセントラ 今回は全国から683件の応募 ル・レストラン・グループは30日、タ があり、このうち27件を農山漁村 イの国内店舗を現在の47店から の宝として認定した。 2020年までに100店へ増やす計 画を発表した。2016年の売上高 ◎「農林水産人データ」公 開=愛媛県(15/10/26) 愛媛県は、もうからない、きつい といった農林水産業の負のイメー ジを払拭(ふっしょく)し、就業意 識を促すため、「えひめ愛顔(えが お)の農林水産人(のうりんすい さんびと)データベース」を作成、 県ホームページで公開した。農業 や林業、水産業に従事する20~ 60代の県民38人(うち女性は7 人)を紹介。安定した収入を得 ていることや、県外から移住して同 業に従事していることなどを条件に 選んだ。 は10億バーツの見込みで、20年 には倍増の20億バーツに増やす。 大戸屋は04年にタイ合弁会社 を設立し、バンコク首都圏を中心 に展開してきた。日本の大戸屋グ ループは11年7月にタイ合弁会社 の株式を小売大手セントラル百貨 店グループに譲渡し、現在はセント ラル・グループが事業展開してい る。 た。 ◎TPP、韓国農産物市場 開放の負担大きい=政府 系シンクタンクが指摘 (15/10/26) 【ソウル時事】韓国政府系シン クタンク「農村経済研究院」は26 日、「環太平洋連携協定(TP P)妥結-農業分野の交渉結 果と示唆点」と題した報告書を公 表し、「韓国のTPP加盟交渉 時には、農産物分野の市場開放 に関連した負担が大きい」と指摘 した。 報告書は「国内主要品目の敏 感な側面に配慮しなければならず、 (TPP加盟に関して)事前に 十分な根拠を提示する必要があ る」と主張した。その上で、「加盟に 限に抑える方策を講じ、加盟交 ◎加工肉摂取に「がんリスク」 渉を本格化させるべきだ」と提言し =毎日50グラムで18%増 た。 -WHO(15/10/26) 【ベルリン時事】世界保健機関 (WHO)の専門組織である国 けや経営規模▽1日のライフスタイ 際がん研究機関(本部フランス・ ル▽これからの夢や目指すもの▽ リヨン)は26日、ハムやソーセージ 農林水産業に対する思いやメッセ などの加工肉を食べると、がん発 ージ―の4点で、生産者の顔写真 症リスクが高まるという「十分な証 付き。今後、東京や大阪で開催さ 拠」があると発表した。 Agrio 0083 号 (2015/11/04) んを誘発する恐れがあると言及し よるコストや社会的な対立を最小 掲載データは、▽就業のきっか れている就農フェアなどで発信する また、牛や豚など赤身の肉にもが 加工肉を毎日50グラム食べた 23 <アグリ・フード産業> ◎カレーの壱番屋を子会 社化=301億円-ハウス 食品(15/10/30) ハウス食品グループ本社は30 日、カレー専門店「カレーハウスC oCo壱番屋」を展開する壱番 週間ニュースファイル えだ。 屋に対してTOB(株式公開買 月、6年半ぶりにワシントンの米国 い付け)を実施すると発表した。 事務所を再開する。日米など12 和牛は欧州産牛肉よりも価格 総額301億円を投じ、出資比率 カ国が大筋合意した環太平洋連 が数倍もするため、販売拡大は品 を現在の19.5%から51.0%に引 携協定(TPP)の発効を視 質の高さを実感してもらうことがカ き上げ、連結子会社化する。壱 野に入れ、日本経済・産業の情 ギとなる。イベントに参加した群馬 番屋の東京証券取引所などへの 報発信の拡充に取り組む。 県の大沢正明知事は「上州和牛 11月4日に開設式典を開き、 は日本を代表する牛肉だ。継続し ハウス食品と壱番屋はこれまで、 米政財界との意見交換などの業 て売り込んでいきたい」と意欲を示 上場は維持される見通し。 中国や韓国などへのカレー店出店 務に本格的に乗り出す。 で協力関係を築いてきた。子会社 経団連は2009年3月、リーマ 化により運営を一体化し、東南ア ン・ショック後の事業合理化のため、 ジアなどへの進出を加速させたい 当時唯一の海外拠点だった米国 考え。 事務所を閉鎖。日米双方に再開 を望む声が多く、経団連は今年初 ◎15年産米、平年並み= 予想収穫量は減少-農水 省(15/10/30) 農林水産省は30日、2015年 産米の作柄概況(15日現在) め、再開の方針を表明していた。 ◎「上州和牛」パリでPR= 群馬の生産者が試食会 (15/10/27) した。 ◎JA全農、ホーチミンに 和食レストラン=将来性に 着目、日本で食材加工・搬 送-ベトナム(15/10/26) 【ハノイ時事】全国農業協同組 合連合会(JA全農)とフード ワークス(東京)の共同出資会 社「わしょくワークス」は、ホーチミン 市に日本食レストラン「花蝶(か を発表した。単位面積当たりの収 ちょう)」を28日開店する。人口 穫量を示す作況指数(平年= 9000万人を超え、平均年齢の 100)は「平年並み」の100だっ 若いベトナムは、消費市場として た。茨城、新潟など豪雨の影響を 将来性が高いと判断した。食材を 受けた地域はあったが、主要産地 日本で加工し、真空冷凍して現 の北海道や東北が豊作だった。 地に持ち込んで調理するのが特長。 飼料用などへの転作が進み、 主食用の予想収穫量は前年産 比5・6%減の744万4000トンに 群馬県の生産者が開いた「上州和牛」の試 食会で、和牛のさばき方を実演する職人 (左)=26日、パリ(時事) 味や品質に加えて「安心・安全」を 強調、差別化を図りたい考えだ。 JA全農は、日本国内の農業 なり、需要予測を25万トン程度 【パ リ 時事】群馬県の 特産品 基盤維持や生産者の所得向上、 下回る見通し。ただ、6月末時点 「上州和牛」のおいしさを欧州でア 農畜産物の輸出拡大を後押しす の民間在庫量は230万トンに上 ピールしようと、地元生産者が26 るため、海外事業に取り組んでい るため、コメ不足に陥ることはなさそ 日、パリで飲食店経営者らを招い る。今回はその一環として、専門 うだ。 て初の試食会を開いた。和牛の欧 の料理人がいなくても本格的な和 州連合(EU)向け輸出が 食を提供する事業モデルの確立を 2014年6月に解禁されたのを受 目指す。状況をみながら、他のア け、上質な脂質や独特のうまみと ジア諸国への展開なども検討する いった欧州産にない魅力を知って 方針。 ◎経団連、来月に米事務 所再開=TPP視野に情報 発信(15/10/30) 【ワシントン時事】経団連は11 Agrio 0083 号 (2015/11/04) もらい、販売拡大につなげたい考 24 <表紙・目次へもどる> マーケット情報 マーケット情報 ◇東京コメ市況◇ ◎〔東京コメ市況〕〕横ばい=しばらくはこう着か(10月30日) スポット市場は横ばい。山形つや姫など特定の銘柄には買い希望があるが、全体としては様子見が続いており、 取引は閑散だ。 先高を期待し、JAグループをはじめとする集荷業者にコメが集まらないという状態は相変わらずだが、卸業者 が調達を急いでいないため買い手もおらず、相場はこう着している。業務用はまだ2014年産米を使用しており、 新米は一般家庭用が中心。コメ消費が落ちる中で量販店のセール需要は限られるほか、年明けから2月にかけ ては縁故米で購入量が減少する時期だけに、「今は生産者や集荷業者が(コメを)抱えていても、いずれ出さ ざるを得ないとみる卸業者が多い」(市場関係者)という。 B銘柄を中心に需給の締まりが意識されるものはありそうで、宮城ひとめぼれ、秋田あきたこまちなどは依然とし て関東コシヒカリを上回って推移。北海道きらら397も飼料用米に振り向けられるとの見方から、一般家庭用が 中心のななつぼしと同水準となっている。また、関東コシの中でも千葉は、記録的豪雨の影響が懸念される茨城 の代替として調達を進める業者がいるようで、市場に出づらい。しかし、個別の動きはあるが、全体の水準を大きく 変えるような要因は見当たらず、しばらくは現状水準での薄商いが予想される。 【堂島東京コメ標準品銘柄の現物、先物価格】(カッコ内は前週末比、先物は前日終値) 栃木あさひの夢 出来ず(出来ず)▽群馬あさひの夢 出来ず(出来ず)▽埼玉彩のかがやき 出来ず (出来ず)▽千葉ふさおとめ 出来ず(出来ず)▽千葉ふさこがね 出来ず(出来ず) 東京当ぎり1万0980円/東京先ぎり1万0930円 ◎東京コメ相場(消費税外出しの仲間渡し、玄米、60キロ/円=10月30日) ※「未検」は未検査米、「---」は出来ず、「#」は置き場渡し 〔2015年産〕 産地 銘柄 等級 中心値 産地 銘柄 等級 中心値 福島(中通り) コシヒカリ 1 11750 福島(中通り) ひとめぼれ 1 --- 茨城 コシヒカリ 1 11800 茨城 ひとめぼれ 1 --- 栃木 コシヒカリ 1 11800 栃木 あさひの夢 1 --- 千葉 コシヒカリ 1 群馬 あさひの夢 1 --- 新潟(魚沼) コシヒカリ 1 20350 埼玉 彩のかがやき 1 --- 新潟(一般) コシヒカリ 1 14900 千葉 ふさおとめ 1 --- 富山 コシヒカリ 1 13600 千葉 ふさこがね 1 --- 石川 コシヒカリ 1 --- 富山 てんたかく 1 --- 福井 コシヒカリ 1 --- 福井 ハナエチゼン 1 --- 徳島 コシヒカリ 1 --- 滋賀 みずかがみ 1 --- 岩手 あきたこまち 1 11850 北海道 ゆめぴりか 1 13850 秋田 あきたこまち 1 11950 北海道 ななつぼし 1 12350 茨城 あきたこまち 1 11450 北海道 きらら397 1 12350 千葉 あきたこまち 1 青森 まっしぐら 1 11250 宮城 ひとめぼれ 1 青森 つがるロマン 1 11550 山形 はえぬき 1 11550 Agrio 0083 号 (2015/11/04) --- --11950 25 マーケット情報 ◇日農INDEX=日本農業新聞提供◇ ◎日農平均価格(10月30日午後5時発表) 価格 前日比 前年比 5 年比 野菜(主要 14 品目) 127 ▼ 8 △19 ▼ 3 果実(主要 12 品目) 236 △ 3 △24 △ 4 ※価格は円、全国7地区主要卸の当日データを基に野菜と果実の総平均の1キロ当たりの価格を日本農業 新聞が算出、5年比は過去5年平均比 ◎NOPIX(日農市況指数=10月30日午後5時発表) 指数 前日比 94 ▼38 野菜 111 ▼45 果実 76 ▼30 青果物 ※2000~01年の1日当たり平均販売額を100として日本農業新聞が算出 ◎NOPIXチャート NOPIX 350 300 青果物 野 菜 果 実 250 200 150 100 50 0 9/1 9/26 10/21 11/15 12/11 1/9 2/5 3/3 3/30 4/24 5/21 6/16 7/11 <編集後記> 8/5 8/31 9/25 10/20 トピックスの1本目もTPP絡みで、カナダの酪農保護政策 11月4日号の巻頭記事は、TPP大筋合意を受けて国内 の紹介で、同様に保護的な日本の酪農制度の改革にも参考 ではさまざま分析、議論が活発化する中で、発効に向けて最大 になるかどうか。2本目では、青年海外協力隊員としてパラグア の焦点となる米国の議会動向などについてのリポートです。もとも イで農業指導を経験した宮城県農業高校教諭に寄稿いただき と自由貿易推進を国益とする米国で、具体的な品目別、分野 ました。JAフォーラムは、JA東とくしまが全農へのコメ委託販 別の合意内容の精査が進んだ時、米国内の議論がどのような 売から脱却し、買い取り集荷、独自販売をするという流通大改 方向に向かうのか注意深く見守る必要がありそうです。 革を始めたとの注目すべきリポートです。(編集長・増田篤) Ⓒ時事通信社 ご購読に関するお問い合わせ(業務局) 誌面内容に関するお問い合わせ(編集部) [email protected] [email protected] ●毎週火曜日発行(但し祝日等を除く)●購読料金:月額税抜き 4,000 円 Agrio 0083 号 (2015/11/04) 26 <表紙・目次へもどる> 付録 【付録】 要請一覧『農水省3階』 (10月26日~11月1日通知分) <予定日、要請者、対応者、要請内容の順> 【27日】 甲斐 元也 国営・県営総合土地改良事業佐渡地区推進協議会会長(佐渡市長)ほか/加藤政務官 /平成28年度佐渡島農業農村整備推進のための予算確保について 【28日】 夏野 修 庄川左岸地区用排水対策促進協議会(砺波市長)ほか/齋藤副大臣/農地防災事業「庄 川左岸地区」の推進について、国営造成施設等の管理に関する支援制度の拡充について 【29日】 白川 博一 全国離島振興協議会会長(壱岐市長)ほか/佐藤政務官/平成28年度離島振興関係 事業予算の確保について 【2日】 三好 昇 江別市長ほか/佐藤政務官/国営かんがい排水事業江別南幌地区の促進について 伊東副大臣/三好 昇 江別市長ほか/国営かんがい排水事業江別南幌地区の促進について <表紙・目次へもどる> Agrio 0083 号 (2015/11/04) 27
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