海外のIoT市場動向 2015年5月27日 一般財団法人 マルチメディア振興センター 電波利用調査部 副主席研究員 木賊智昭 IoT(Internet of Things) 情報社会におけるグローバルなインフラの一つで、既存/発展中の相互運用可 能な情報通信技術を基盤とした、物理的・仮想的な(physical and virtual)モノを 相互接続することで可能となる高度サービス(ITU 2012/6) 2020年の市場規模は、デバイス・設備、通信、データ解析、アプリケーションなど IoT関連製品を合わせて7兆1000億ドル。IoTデバイス数は、2020年で281億台と 予測。(調査会社IDC) (IoT=3層の重層サービス) IT関連機器以外のモノがネットワークで結ばれる。 モ ノ ヒ ト 情 報 インターネット 車両、貨物、医療機器、製造機器、ビ ル・家屋設備、公共インフラ、電化製 品...etc. 携帯デバイスによりヒトがネットワークで結ばれ る。 モバイルPC、携帯電話、スマート フォン、タブレット、ゲーム機 インターネットの登場により情報がグローバル に流通する。 PC、サーバー、メインフレーム 2 幅広い分野でサービス提供 サービス アプリケーション内容 運輸 インフォテインメント(音声、映像、ナビゲーション情報)、 輸送管理(車両位置、ユーザー通知)、車両メンテナンス、 自動車保険カスタマイズ、盗難防止、事故対応(緊急自動通話、運転レ コード) エネルギー スマートメーター、利用情報見える化、資源監視、代替エネルギー管理 医療管理 患者身体の遠隔モニター、処方・服用記録、医療資産の調査・管理 監視・セ キュリティ 資産追跡(物流・在庫管理、年少者/認知症患者/犯罪者追跡)、国境監 視、ホームセキュリティ、災害監視、建築物老朽度 小売 Point of sale(PoS)、自動販売機(ATM)の販売・在庫管理、デジタル・サ イネージ 都市・公共 サービス 交通機関管理(公共交通、道路渋滞、カーシェアリング等)、環境・エネル ギー(インテリジェントビル等)、地方公共サービス(窓口業務効率化、廃 棄物・資源管理、警察保安等)等 3 IoTビジネス事例(コネクテッド・カー) 車両をインターネットに接続し、インフォテインメント(音楽、ニュース、 天気、スポーツ等の情報入手)及びテレマティクス(セキュリティ、ナビ ゲーション、緊急サービス、車両故障検知等)の統合サービスを提供。 エンタテイメント情報 Sprint Velocity GPS(位置・追跡) 走行地域の周辺情報 クラウド ナビゲーション、乗車者の嗜好 に応じたルート設定 車内センサー 温度、圧力、角区度、 位置・角度、回転・ 車輪速、空気流量、 燃料量、振動等 故障検知 車両位置探索 運転パターン記録 (自動車保険カスタマイズ) 自動車メーカ サービス 地域 通信事業者 Audi インフォテインメント 米国、欧州 T-Mobile BMW インフォテインメント テレマティクス 米国、欧州 AT&T、ボーダフォン GM OnStar(インフォテインメント、 テレマティクス) 米国、カナダ ベライゾン、Bell Mobility Ford Sync(インフォテインメント、テ レマティクス) - - 4 IoTビジネス事例(ヘルスケア) バイタルデータ(心拍数、血糖値、体脂肪など)を自動測定し、記録する。ユー ザー自身が管理するほか、医療機関とデータを共有し、医療処置の参考デー タとする。 mヘルス市場:103億3,000万米ドル(2015年予測)(英visiongain社) e-Cardio(米Cardio社) e-Cardio社 ユーザー/患者 通信網 (不整脈) (AT&T) センサー /モジュール 診断・治療 担当医 サーバー モニターセンター (分析・症状評価) 報告・掲載 専用WEBポータル ・心拍情報をセンサーにより記録し、Cardio社のモニターセンターに送信。 ・不整脈が生じている場合、データを診断可能なレポート形式に整理し、外部の担当医向けのウェブに掲載 ・担当医は診察に同レポートを使用し、治療処方。 5 IoTビジネス事例(スマートホーム/スマートメータ) 使用電力量を見える化することで、電力使用量や電力デマンドのピークを確認。 ピークカットやピークシフトなど効果的な節電・省エネ行動へ連携。 将来的には、宅内家電ネットワークを制御するホームゲートウェイと連動し、電 力消費を自動制御するスマートホームが期待される。 ◆米国では2015年までに4000万台のスマートメータを設置予定。 ◆EUでは、2009年に欧州委員会が発出した電気指令(2009/72/EC)により、2020 年までに域内の80%のカスタマに対しスマートメーターの設置が目指されている。 見える化 電力消費量 スマートメータ 電力会社 価格情報 ホームGW 稼動制御 6 デバイスによる市場拡大 スマートフォン、ウェラブルなど、位置情報(GPS)、加速度センサー、画像処理(カメ ラ)機能等のIoT対応機能を搭載したデバイスが、一般消費者に広く普及することで、 IoTが、一般ユーザーを対象としたB2Cの分野に広く拡大。 グラス、ゴーグル ・写真・録画 ・身体情報測定 ・デバイス認証(脳波) インターネット ・メール、通知表示 ・ナビゲーション、拡 張現実(AR) ヘッドマウント データ入力 (3G/4G) リング、 アクセサリ ウェア ・身体(心拍・体温・ 睡眠) 測定・記録 フットウェア ・身体情報(体重)、移 動(歩数等)情報測 定・記録 ・ジェスチャー入力 ・身体情報測定 ウォッチ、 リストバンド 情報表示 ・メール、通知表示 ・文字、音声入力 ・身体(心拍・体温)情報、移動 (歩数等)情報測定・記録 テザリング (Bluetooth) (Wi-Fi) 7 IoTのサービス・レイヤー 基本的に①デバイス/モジュール・レイヤー、②ネットワーク/ゲートウェイ・レイヤ-、③プラットフォー ム・レイヤー、④アプリケーション・レイヤーがある。 ユーザーに対しては、これら4レイヤーを統合したソリューションとして提供される。 通信事業者がアプリケーションレイヤーにも一部参入しており、競争と協調の様相。 ユーザ アプリケーション プラットフォーム上で管理・制御され 多業種、他企業が参入 たデータをクライアントニーズに応じ て処理し、サービスとして提供。サー (車両、医療、電力・水道・ ガス、物流、製造、商 ビス分野は、多岐にわたる。 業。。) エコシステム プラットフォーム 通信網 (2G/3G/4G、Wi-Fi、 Zigbee、Bluetooth、 PLC。。) デバイス 事象発生 参入 M2Mサービスを実現するシステム 基盤として、顧客管理、課金管理、 回線管理・制御、API、データ収集・ 蓄積・分析、レポート等を行う。 Jasper、nPhase、Ericsson、 IBM、Comtech M2M、Atos Origin、Capgemini 等 M2M向け無線通信網には、 ①通信キャリアの免許帯、 ②免許不要帯、が利用される。 (通信キャリア)AT&T、Verizon、 Sprint、Vodafone、Orange、 T-Mobile、Telefonica 等 センサー部分とそれらデータを 送信するモジュール(SIMを含 む)で構成。 (モジュール)Sierra Wireless(米)、 Enfora(米)、Gemalto (独)、 Coronis(仏)、Erco Gener(仏)、 Telit(伊)、Huawei(中)等 8 アプリケーション分野の標準化活動 アプリケーション分野では、IT大手企業が、家電、産業機器の相互接続・制御システムの標準化 を積極的に展開している。 機器のネットワーク化のほか、各種機器から集積されるビッグデータによるビジネス開拓も視野に。 家電 Thread Group スマートホーム(家庭用サーモスタット、照明システム、警報 Google、ネスト・ラボ、 機)等の無線ネットワークプロトコル「Thread」の規格化。 サムスン電子等(参加 IPv6対応の低消費電力の無線メッシュネットワーク 企業数約10社) (6LoWPAN)に250台以上のデバイスを接続。(2014/7) 2015年4月ZigBee Allianceと協力関係締結。 HomeKit i-OS搭載端末で稼働する家電、錠、照明、カメラ、サーモス Apple、TI、ハイアール タット、家庭内スイッチなどをホームネットワークのデバイスを 等 制御するプロトコルの規格化。(2014/6) クアルコム、マイクロソ フト、シャープ、ソニー、 家電相互接続プロジェクト。Linuxベースのソフトウェアで多 AllSeen Alliance シスコ、ハイアール等 メーカーの家電制御システムの標準化。(2013/12) (参加企業約50社) 産業設備 マルチOS対応で、デバイス(パソコン、スマートフォン、タブ インテル、IBM、サムス Open Interconnect レット端末、家庭内機器、産業機器、ウエアラブル端末等)の ン電子等(参加企業数 Consortium 相互接続を可能にするプロトコルやオープンソースの作成。 約50社) (2014/7) GE、AT&T、シスコ、 Industrial Internet 産業向けIoTのためのオープンアーキテクチャの構築を目指 IBM、インテル等(参加 9 Consortium す。(2014/3) 企業数約115社) 通信事業者のIoTサービス 通信キャリア自身が提供しているIoTサービスは、ホームネットワーク、コネクテッド・カー分野などが中心。 上位レイヤー企業との対抗のための通信事業者のビジネス戦略が注目される。 ① ベライゾン ★コネクテッド・カーサービスを提供。 ・メルセデスベンツやフォルクスワーゲンなどに組込型セキュリティシステムや車載イン フォテインメント・サービス、テレマティークス・サービスを提供。 ・保険会社に対し、M2M技術を利用した個別ドライバー対応保険(pay-as -drive型)用 の自動車モニターサービスを提供。 ★ホーム・エネルギー管理(HEMS)分野で、Home Network Area (HAN)Energy Gatewayサービスを提供。 ・スマートメーターを使用せず、プラグイン型の無線機能搭載のコンセントから電力消費 量をPCやスマートフォン等のディスプレーに表示する。これらデバイスから電力消費量 を自動調整する。 ThinkEco’s Modlet: 無線機能付きコンセント。 通信事業者のIoTサービス ② AT&T ★ホームセキュリティとホームオートメーションを組み合わせた「デジタルライフ」サービス を提供。 ・PC、タブレット、スマートフォンから、家電機器の稼働、施錠。 ・無線ドア/ウインドウセンサー、動作感知器、カメラ、煙感知器、一酸化炭素感知器な どのセンサー端末から発生する情報をチェック。 ③ ボーダフォン ★テレマティクス・車両管理分野においてサービスを提供していたギリシャの車両管理 会社Zelitron、イタリアのテレマティス専門会社 Cobra Automotive Technologiesを買 収、これらを通じて、コネクテッド・カー分野のサービスが欧州を中心に展開されること が見込まれる 。 11 IoTサービスの収益構成 M2Mサービスの収益構成をセグメントごとに分けると、市場全体の拡大に比してネットワーク接続サー ビスの収益は相対的に小さい。 米国市場において、ネットワーク接続サービス自体の収益は全体の10-20%程度。システム統合、ア プリケーション開発、接続管理(プラットフォーム上の接続管理等)に比べ、割合は小さい。 ネットワーク 接続管理 アプリケーション インテグレーション 12 出所:GSMA: Driving Innovation in Connected Living オープンイノベーションへの期待(イメージ) 現在、IoTビジネスは、垂直統合型サービスとして個別に提供されている。 今後、これらのサービスを融合させ、新しいサービスを創出する方向に向うことが期待される。 スマートメーター、ホームネットワーク ヘルスケア フィットネス メニュー 食事メニュー 体温、心拍数、消費エネルギー 店舗・購入商品 位置情報 POS、 サイネージ 道路情報(経 路・渋滞等)、後 部車間アラーム 修理店舗情報 走行記録 故障検知 路面情報 公共インフラ 保険、警察 製品情報 製品開発 個別大量生産 製 造 13 課題 (1) プライバシー/セキュリティ ・モノやマシンから生じる個人に関連する情報について、プライバシー保護やセキュリ ティ確保に関する法制度の整備が必要。 ・法制度を遵守し、かつセキュリティとプライバシー確保が、企業競争力の要因となるビ ジネス規範の確立が期待される。 (2)情報管理の在り方 ・サービス融合のために情報の異業種利用が大事だが、それに応じて情報管理が重要 になる。 ・エコシステムが複雑になる方向に進むため、IoTにおいて流通する情報による事故に 関して、管理責任の所在を明確にすることが重要になる。 (3) IoTインフラの継続的運用の確保 ・IoTデバイス寿命は10~20年。IoTの導入後、ネットワークの高度化等で、従来のデ バイスが利用不能になるケースも想定される。 ・インフラや体内埋め込みセンサー等一度設置されると長期間更新ができないような 利用への配慮が必要。 14 ありがとうございました。 [email protected] (www.fmmc.or.jp) 15
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