曲がる、止まる、自動車の運動に介在するもの

故障診断整備のページ
整備工場における
故障診断整備
ススメ
の
ABSについて考える②
走る、曲がる、止まる、自動車の運動に介在するもの
先月号ではABSの機能と仕組み、点
よって違いはあるものの、最大限に使い
BSでも入庫確保が出来る、という点に
検について解説したが、今回はブレーキ
切るためにはタイヤの存在が重要にな
触れた。
ABS診断は電子制御というこ
そのものに関する根本的な考え方とシ
ってくる。
ともあり、スキャンツールを活用するこ
ステムタイプについて解説する。
余談だが、最近では、アジア製の激
とになる。しかし、それだけでは不十分
自動車の運動は走る、曲がる、止まる
安タイヤから、国産タイヤまで多くのタ
で、
ABS診断のためにはメカニックが
であり、その全てにブレーキが介在す
イヤが存在している。銘柄による性能差
自動車の状態に対して、持てる知識と技
る。もちろん、
ABSはその全てに影響を
もあり、より安全に走る、曲がる、止ま
術、経験を惜しみなくつぎ込まなくては
及ぼしている。制動を掛けて止まる場合
る為には、何をお客さまに勧めるべき
ならない。両立しなくては、意味がな
は言うまでもなく、走るがある以上は止
か、自ずと分かってくると思う。安かろ
い。逆もまた然りで、基本的な点検を行
まる、曲がるという一定のリズムでブレ
う、悪かろうでは意味がなく、せっかく
っていても、電子制御のチェックを怠っ
ーキングが発生している。では、この自
の自動車の運動性能を殺してしまう可
ては意味がない。極端な話、メカニック
動車の運動にさらに大きな影響を与え
能性もはらんでいる。その点をうまくケ
の存在は自動車を整備することではな
るモノは何か。それはタイヤである。タ
アするのも、メカニックとして必要な要
く、自動車を安全に走らせることである
イヤは言うまでもなく、制動力を保つた
素である。
と言える。モノではなく、コトに重きを
めの役割や走破性を高めたり、ドレスア
さて、銘柄の話は各々の判断に任せ
置くべきであると言いたい。
ップといった様々な要因で交換される場
るとして、4輪のタイヤの状態を確認す
合がある。溝の状況やコンパウンドなど、 ることが運動性能を引き出すためには
ABSのシステムタイプ
タイヤは走る、止まる、曲がるといった
必要だ。適正空気圧であるか、また、前
さて、話は変わるが、
ABSのシステム
運動に対し、真摯に作られている。スキ
後のサイドスリップ、ホイールアライメン
タイプは制御チャンネルと車輪速センサ
ャンツールにおける故障診断とは少し脱
ト、ショックアブソーバーの状態とブッ
ーの数で区別されている。
(表1参照)
線するが、その実全てが繋がっている。
シュ類のへたり具合、フルードの状態、
センサーにはメーカーや車種によって
マスターシリンダーの状態などチェック
違いがあり、
ABSセンサー不良が出た
項目は多い。
場合であっても各々診断が必要になっ
ここまで行って初めてABSがOKで
てくる。例えばの話であるが、右前輪の
あれば、点検完了と言える。先月号でA
センサーに不良の判定があってグリップ
自動車の運動性能を最大限に使いきる
ための点検
自動車の運動性能は、各々の車両に
せいび界
MARCH 2015 vol.589
01
SEIBIKOHOSYA
せいび広報社
故障診断整備のページ
ABS 診断を行うことで新たなビジネスチャンスが生まれる
の低いタイヤを装着したとしよう。フル
ABSのシステムを使って、
ABSは制
ブレーキをかけてABSが作動した。し
動時のホイールロックを防止し、トラク
かし右前輪はセンサー不良でABSが
ションコントロールは、加速時のスリッ
効かない。となると、どのような事態が
プを許容範囲内に抑えて、車輪のスピ
起きるか。明白である、右前輪を起点に
ンを防止するのだ。また、合わせて両方
スピンをしかねないということだ。セン
の駆動輪が空転した場合のコンピュー
サーに不良があり、タイヤに不備があっ
ターは、エンジン出力に介入して、駆動
た場合は最悪のケースになりかねない
トルクを減 少させる(スロットルを絞
と言える。よくある話だが、看過はでき
る)
。これにより、安定した走行が可能
ないだろう。当たり前のことだが、
ABS
になるのである。
センサー不良のチェックだけでなく、他
つまり、
ABS・TCSの 制 御 により、
の部分も総じて見ることが重要だ。
エンジン制御まで関係してくるのであ
様々なセンサーや不良に対する原因が
る。ここまで分かれば、車全体をコンピ
ある。全てのメカニックが整備は出来る
ューター診断しなければいけない理由
が、故障診断や原因究明が出来るメカ
ABS同様に、トラクションコントロ
が分かる筈だ。一見、コンピューター診
ニックが今後、必要とされる。
ールについても理解を深めていただきた
断に関係のないドアであったとしてもエ
現 在では、
ESC
(横 滑り防 止 装 置)
い。発進、加速時に、路面のミューが低
アバッグセンサーがついていたりする。
にまで発展し、車両の姿勢制御全てを
い場合、タイヤの空転が起きて、自動車
全ての部品が一概に関係がないとは言
コンピューターが管理しているのであ
が不安定になることを防止するために
えない。故障診断とは、原因を探求する
る。機械制御から電子制御に全体的に
備えられたのが、
TCS
(トラクションコ
ことで原因を解決することではない。原
変わりつつある。
ESCは平成24年10
ントロールシステム)だ。発進時、加速
因を解決するのはメカニックであって、
月以降の新型車すべてに装着が義務化
時及び制動時に路面に力を伝えるのに、
その原因といかに対峙するかの道具と
されている点を見ても今後の電子制御
必要な効率は、タイヤと路面に生じるト
してスキャンツールがある。故障という
の波は広がることが容易に想像できる。
ラクション(スリップ感)によって決ま
事象に対して今後の整備シーンでは必
最新の故障診断に対応出来なければ生
る。
要不可欠である。
ABS一つをとっても
き残れない。
ABSとTCSの総合制御
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ABSのシステムタイプ
4センサー4チャンネルタイプ
4輪にセンサーがあり、1輪毎の制御
3センサー3チャンネルタイプ
フロント1輪毎、リア2輪を総合制御
2センサー2チャンネルタイプ
現在は使われていない
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