図-1 豚遺伝子型による類縁系統樹

図-1
豚遺伝子型による類縁系統樹
豚品種記号(原種)
B-1 バークシャ 系統1
B-2 バークシャ 系統2
D デュロック
L ランドレース
Y
中ヨークシャ
W 大ヨークシャ
M 満州豚
MMP マイクロミニ豚(実験
動物)
雑種記号
LY
LxY
YB
YxB
LYB、
LWY 3元豚 ここで、
末尾の B または Y が止めオス
の品種を表す
店頭販売されている国内ブランド豚の精肉に対しておこなった類縁系統判別の種豚系統樹
における位置:4種類について“国内ブランド1-4”で表した。また、同様に販売され
ている米国産豚肉の遺伝子型判定例の位置についても“米国産”として表示した。
A 農場のブランド系統:ある種豚場のブランド豚の独自の種集団の遺伝子型の分布(類縁関
係)の様子
1. 遺伝子型判定と豚の優良系統の関連付けへの利用―育種・生産段階でのトレ
ーサビリティ
そこで、その遺伝子を調べれば、豚の性質・品質まで事前に予測できることになりま
すが、すでに述べたように、実際は、肉質とか味とか言ってもそれに関わる遺伝子は多数
あり、肉質だとかを遺伝子だけで正確に特定するには程遠いといえるでしょう。
一番
手っ取り早いのが、この遺伝子を収容する染色体の元親をしらべ、どの系統の子供かを調
べることです。
親が良質で健康な系統であれば、その子供も良質である可能性が高いと
いうあたりまえの遺伝の原理です。 病気遺伝子を持っておれば、その子にも伝わります。
実は、日本の種豚場にはそういった優良な性質を重視して原品種として保存し育種し改良
を重ねてきた、すばらしい遺伝資源があります。そこで、図―1を見てください。
この図の種豚場の例では、デュロック、ランドレース、中ヨークシャ、大ヨークシャは
ほぼ一系統、バークシャと満州豚は2系統あること、がわかります。
また、別の種豚場
の独自の種集団は、これらの原種品種からは明らかに異なる、独自のブランド豚としての
類縁集団をうまく形成していることがわかります。
また、図―3のこれらの食肉豚のア
リルにはイノシシとの共有性もみられ、類縁関係からもイノシシを先祖として別れてきた
こともわかりますね。
また、ムレ肉因子のような、特定の遺伝子が対になる(ホモ)ことによって、問題形質
が出てくる場合は、単純にその遺伝子を持っている豚の系統を、必要ならば希釈し優良形
質と分離後淘汰し、育種や生産の段階では親からはずすことは容易です。
この場合、持
っているが対(ホモ)になっていないため、問題の性質が現れない場合をキャリアといい
ますが、このキャリア同士が交配すると、対(ホモ)になり問題形質が現れますので、遺
伝子型判定を併用して、キャリアの段階でその系統を整理・淘汰するということが大変有
効な経済的な手段になります。 見ただけではキャリアであるかどうかはわかりませんが、
遺伝子検査は生後すぐにできるので、飼養する経費の無駄がありません。
これは、飼育
スペースも餌も手間も無駄をしないですむため、育種家や養豚家にとって大きなメリット
であることは間違いないでしょう。
このように、遺伝子型判定や遺伝子検査は育種・生
産段階のトレーサビリティになるわけです。
2.遺伝子型判定による流通段階でのトレーサビリティ
(1)ブランド豚の遺伝子型
店頭販売されている精肉に対してこの遺伝子型判別による類縁判定を行った結果も図ー
3 に示してあります。 精肉からの遺伝子型判定は、赤味や脂肪部分のどちらからでもでき
ます。 この図から、これらブランド豚のそれぞれの原種の雑種の様子がよくわかります。
例えば、国内ブランド4(LYB)は、バークシャに寄っており、国内ブランド2(LWY)
は L と Y の中間に来ています。 こういった遺伝的特性の違いが、それぞれのブランドの
特徴の反映であるわけです。
ここでは、一例しかありませんけれども、米国産の普通の
豚肉(食味、肉質が国産ブランド豚より劣るもの)については、調べた範囲では、国産ブ
ランド豚の類縁系統性の分布の特徴とは違う特徴の方向性を持っていることがわかると思
います。 こういったことが、美味しさや肉質につながっているということです。
(2)産親証明と生産証明
この遺伝子型判定技術は基本的に親子鑑定に使われる親個体の同定に使える精度があ
るため、パックされたお肉は、どの親豚種豚のものかが分析により明らかにでき、図―4 に
示したように流通段階でのトレーサビリティを提供することになります。
この方法の特
長は、その子豚を生んだ親豚はいずれ寿命が来て死亡していなくなってしまいますが、そ
の親豚の遺伝子型を分析して記録に残しておくと、何十年後にお肉を分析しても親あるい
は個体の遺伝子型判定結果を照合して親あるいは出荷した豚を鑑定できるわけです。
この場合は親(種と母豚)だけ遺伝子型判定をしておけばいいので、出荷豚1頭あたりの
コストは、母豚1頭が生涯生む出荷に至る子豚の数(例えば 70 頭)で割ったものになりま
すので、100 円以下になります。この考え方によるトレーサビリティの付与は生んだ親の証
明すなわち産親証明になります。
また、市場に出す豚についても全頭に遺伝子型鑑定や遺伝子検査を実施し生産証明に
記載することにより信頼をかちえることができるのであれば、1頭あたりの遺伝子型
判定コストに十分に見合うものになると考えられます。
世に誇るブランド豚を育成し
たら、その遺伝子型の記録を永遠に保存しておく意義は大変大きいわけです。
図-4 遺伝子型判定によるトレーサビリティのイメージ-肉質を重視した原種交配の例
店頭販売される精肉
脂身、赤身どちらからも遺伝子型判定や遺伝
子判定ができる: