165.原発不明がん(PDF)

各種がん
165
原発不明がん
げ
ん
ぱ
つ
ふ
め
い
受診から診断、治療、経過観察への流れ
患 者 さ んとご 家 族 の 明 日 の た め に
がんの診療の流れ
この図は、がんの「受診」から「経過観察」への流れです。
大まかでも、流れがみえると心にゆとりが生まれます。
ゆとりは、医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう。
あなたらしく過ごすためにお役立てください。
がんの疑い
「体調がおかしいな」と思ったまま、放っておかない
でください。なるべく早く受診しましょう。
受 診
受診のきっかけや、気になっていること、症状など、
何でも担当医に伝えてください。メモをしておくと
整理できます。いくつかの検査の予定や次の診察日
が決まります。
検査・診断
検査が続いたり、結果が出るまで時間がかかること
もあります。担当医から検査結果や診断について説
明があります。検査や診断についてよく理解してお
くことは、治療法を選択する際に大切です。理解で
きないことは、繰り返し質問しましょう。
治療法の選択
がんや体の状態に合わせて、担当医は治療方針を説
明します。ひとりで悩まずに、担当医と家族、周りの
方と話し合ってください。あなたの希望に合った方
法を見つけましょう。
治 療
治療が始まります。治療中、困ったことやつらいこ
と、
小さなことでも構いませんので、
気が付いたこと
は担当医や看護師、薬剤師に話してください。よい
解決方法が見つかるかもしれません。
経過観察
治療後の体調の変化やがんの再発がないかなどを
確認するために、しばらくの間、通院します。検査を
行うこともあります。
目 次
がんの診療の流れ
1. がんと言われたあなたの心に起こること ............................ 1
2. 原発不明がんとは ................................................................... 3
3. 検査と診断 .............................................................................. 5
4. 治療 .......................................................................................... 9
1 腺がんと診断された場合 ............................................ 10
2 扁平上皮がんと診断された場合 ................................ 12
3 神経内分泌腫瘍・神経内分泌がんと診断された場合 .... 13
4 低分化がん・未分化がんと診断された場合 ............. 14
5. 経過観察 ................................................................................ 15
6. 転移 ........................................................................................ 16
7. 再発 ........................................................................................ 17
診断や治療の方針に納得できましたか? ................................ 18
セカンドオピニオンとは? ....................................................... 18
メモ/受診の前後のチェックリスト ....................................... 19
がんの冊子 原発不明がん
1. がんと言われたあなたの心に
起こること
がんという診断は誰にとってもよい知らせではありません。
ひどくショックを受けて、
「何かの間違いではないか」「何で自
分が」などと考えるのは自然な感情です。
病気がどのくらい進んでいるのか、果たして治るのか、治療
費はどれくらいかかるのか、家族に負担や心配をかけたくな
い…、人それぞれ悩みは尽きません。気持ちが落ち込んでしま
うのも当然です。しかし、あまり思いつめてしまっては、心に
も体にもよくありません。
この一大事を乗りきるためには、がんと向き合い、現実的か
つ具体的に考えて行動していく必要があります。そこで、まず
は次の 2 つを心がけてみませんか。
あなたに心がけてほしいこと
■ 情報を集めましょう
まず、自分の病気についてよく知ることです。病気によって
はまだわかっていないこともありますが、その中で担当医は最
大の情報源になります。担当医と話すときには、あなたが信頼
する人にも同席してもらうといいでしょう。わからないことは
遠慮なく質問してください。
病気のことだけでなく、療養生活のこと、経済的なこと、薬
のこと、食事のことのような身の回りに関しては、看護師、
ソーシャルワーカー、薬剤師、栄養士などが専門的な経験や視
点であなたの支えになってくれます。
1
がんと言われたあなたの心に起こること
また、あなたが集めた情報が正しいかどうかを、あなたの担
1
当医に確認することも大切です。他の病院でセカンドオピニ
オンを受けることも可能です(セカンドオピニオンについては
18 ページをご覧ください)。
「知識は力なり」。正しい知識は、あなたの考えをまとめると
きに役に立ちます。
■ 病気に対する心構えを決めましょう
がんに対する心構えは、積極的に治療に向き合う人、治ると
いう固い信念をもって臨む人、なるようにしかならないと受け
止める人などいろいろです。どれがよいということはなく、そ
の人なりの心構えでよいのです。そのためには、あなたが自分
の病気のことをよく知っていることが大切です。病状や治療方
針、今後の見通しなどについて担当医からよく説明を受け、い
つでも率直に話し合い、その都度十分に納得した上で、病気に
向き合うことに尽きるでしょう。
情報不足は、不安と悲観的な想像を生み出すばかりです。あ
なたが自分の病状について理解した上で治療に取り組みたいと
考えていることを、担当医や家族に伝えるようにしましょう。
お互いが率直に話し合うことが、お互いの信頼関係を強いも
のにし、しっかりと支え合うことにつながります。
げんぱつふめい
では、これから原発不明がんについて学ぶことにしましょう。
2
がんの冊子 原発不明がん
2. 原発不明がんとは
がんとは、ある臓器で、正常な細胞が異常細胞へ変化し、無
しんじゅん
秩序に増えて浸潤・転移を起こし、臓器を越えて広がっていく
ものをいいます。
がんが発生した臓器を原発部位といい、そのがんを原発巣と
いいます。一方、原発部位から離れた部位で進行したがんを転
移巣といいます。がんの診断では、例えば胃からできたものを
胃がんというように、原発部位に基づいて病名が決定されま
す。胃にできたがんが肝臓に転移した場合は、胃がんの肝転移
と診断され、その転移巣は胃がんの性質を示します。
がんの確定診断は、病変部位から細胞や組織を一部採取する
生検を行い、顕微鏡で調べること(病理検査・病理診断)が必
要です。通常は、体調不良の症状がある場合や健康診断などで
異常が見つかった場合に、医療機関を受診して、そこで詳細な
病歴聴取や診察が行われます。検査としては、血液検査や尿検
査または便検査、超音波(エコー)検査・X線検査・CT検査・
MRI検査・FDG-PET検査などの画像検査、内視鏡検査
(胃カ
メラや大腸カメラ)が行われ、がんが疑わしいときに生検・病
理検査を行います。
これらの検査により原発部位が特定されることがほとんど
ですが、中には転移巣が先に見つかり、その部位の生検によっ
て、病理診断でがんと診断はされても、原発部位がわからない
ものもあります。これを「原発不明がん」といいます。つまり、
3
原発不明がんとは
原発不明がんとは、検査をしても原発巣がわからないが、病理
2
検査で転移巣と判明した悪性腫瘍をいいます。
がんはすでに転移しているので、原発巣が判明していなくて
も原発不明がんとして治療をします。治療は、手術や放射線な
どで根治を目指す時期を過ぎていることが多く、その場合には
経過を注意深くみたり、全身状態に合わせて全身療法(薬物療
法)が選択されたりします。
原発不明がんの頻度はすべての悪性腫瘍のうちの約 1 ~
5%とされ、病理解剖により判明する原発部位として多いのは
すいぞう
膵臓、胆道、肺と報告されています。
● 原発不明がんの症状
病変の場所により、リンパ節の腫れ、胸水、腹水、肺腫瘍や肝腫
ま ひ
瘍による症状、骨の症状(痛み、しびれ、麻痺など)などがあら
われることがあります。
4
がんの冊子 原発不明がん
3. 検査と診断
原発不明がんが疑われ、これまでも同じような検査を行っ
た場合でも、原発巣を特定するため、さらに検査を行うことが
あります。
原発部位の絞り込みのため、まずは生検により組織型(表 1)
をどこまで明らかにすることができるかが重要です。組織像や
免疫組織化学(それぞれの臓器に特異的な抗体を用いて、抗原
となるがん組織を染色する方法)による原発巣の検索が行われ
ます。さらに体の状態、病変の状態や広がりを調べるために、
腫瘍マーカーを含む血液検査や尿検査、超音波(エコー)検査、
胸部X線検査、胸腹部骨盤CTやMRIなどの画像検査、必要に
こうもん
応じて乳房・婦人科・泌尿器科領域の診察や肛門付近の診察
(直
腸診)
、内視鏡検査(胃カメラや大腸カメラ)
、FDG-PET検査な
ども追加して行います。
表 1 . 腫瘍組織型による分類
上皮性腫瘍
(皮膚・粘膜などの表面から
発生した腫瘍)
へんぺい
ぶんぴ
腺がん、扁平上皮がん、神経内分泌腫瘍、
神経内分泌細胞がんなど
非上皮性腫瘍
(筋肉、脂肪、血管、
骨・軟骨、血液・リンパ
から発生した腫瘍)
肉腫、悪性リンパ腫、悪性黒色腫など
胚細胞腫瘍
(卵子や精子のもとになる
細胞から発生した腫瘍)
じゅうもう
らんおうのう
セミノーマ、胎児性がん、卵黄嚢腫瘍、
絨 毛がんなど
5
検査と診断
1 細胞診・組織診(病理検査)
3
しこりや痛みなどでがんが疑われると、病変に針を刺して細
胞・組織をとって顕微鏡で調べる病理検査・病理診断を行い
ます。
たん
細胞診とは、痰、尿、胸水・腹水などにがん細胞が含まれて
いないかどうかを顕微鏡で調べる検査です。がん細胞が含まれ
ていれば、その細胞の種類や性質なども調べます。体の負担が
比較的少ない検査ですが、胸水・腹水などの場合では、超音波
(エコー)検査を用いて安全に針を刺せるところを見定め、局
所麻酔を行いながら注射針ほどの太さの針で水を抜く、とい
う処置を行うこともあります。
組織診は原発巣として疑わしい部分から組織を採取し顕微
鏡検査で調べることです。組織診では採取する場所によって
は、痛み止めとして局所麻酔を行い、病変の組織を採取しま
す。調べられる細胞や組織の量が多いので、細胞診より詳しい
検査が可能になります。
ある程度分化したがん、特に腺がんの場合は発生臓器に特徴
的な組織像を表すものがあるので、原発巣を推定できること
があります。
6
がんの冊子 原発不明がん
2 CT・MRI・FDG-PETなどの画像検査
がんの広がりや、他にリンパ節、肺、骨、肝臓などへの転
移がないかどうかを調べるため、胸部X線検査のほか、CTや
MRI 、FDG-PETなどの画像検査を行います。
CT検査は、X線を使った検査で、体の内部を描き出してがん
の広がりを調べます。体の深い場所にあるがんを含めて、通常
のX線写真より詳しい情報を得ることができます
(図 1)
。
MRI検査は、磁気を用いて体の臓器や血管を撮影する検査
で、がんと周りの筋肉や神経、血管などとの位置関係やがんの
広がり、内部の状態などを調べます。病変の部位によっては
CT検査より検査結果の精度が高いこともあります。
図1 . CT検査の様子
7
検査と診断
FDG-PET検査は、がん細胞が増殖する際に糖代謝が高まる
3
ことを利用した画像検査です。ブドウ糖に近い成分
(FDG)に
フッ素 18 を合成した F-FDGという薬剤を用いて、フッ素 18
18
が体内に集積する様子でがんの場所を調べます。CTやMRIを
含む従来の検査で原発巣が特定できなかったときに有用な場
合があります。
CTやMRIで造影剤を使用する場合、アレルギー反応が起こ
ることがあります。ぜんそくやアレルギー体質の方、以前に造
影剤でアレルギーを起こした経験のある方は、副作用の起こ
る危険が高くなりますので、担当医に申し出てください。
3 腫瘍マーカーを含む血液生化学検査
腫瘍マーカーとは、腫瘍細胞から出る特徴的な物質が血液
から検出されるものです。しかし腫瘍があっても高値を示さな
いこともあるため、疑われるがんの場所がわからないところ
で、多数ある腫瘍マーカーの測定を行っても、原発巣の検索に
有用ではなく、繰り返し検査することは推奨されません。ただ
こうじょうせん
し、胚細胞腫瘍、甲状腺がん、前立腺がん、卵巣がんなどの限
られたがんの検索には腫瘍マーカーも有用です。胚細胞腫瘍
ではAFP(エーエフピー)やβHCG(ベータエッチシージー)、
前立腺がんではPSA
(ピーエスエー)
、卵巣がんではCA 125
(シーエーイチニイゴ)
、甲状腺がんではTg
(サイログロブリ
ン)が有用とされる腫瘍マーカーになります。
8
がんの冊子 原発不明がん
4. 治療
がんは通常、胃がんなら胃がんに対する治療というように、
原発臓器ごとに現時点での最良の治療とされる標準治療が異
なります。また、病期
(がんの広がり)に応じて、手術(外科治
療)、放射線治療、薬物療法
(抗がん剤による化学療法やホルモ
ン療法)
、またはそれらを組み合わせて最適な治療法が選択さ
れます。
原発不明がんでは、初めに出てきた症状や各検査結果を基
に原発部位を予想していきます。特に病理検査、中でも組織像
や免疫組織化学による原発巣の検索で十分に診断を行い、最も
可能性の高い原発部位に準じた治療が行われます。原発部位の
特定ができない場合には、薬物療法や緩和ケアをしながら経
過観察を行います。
治療によって高い効果を見込むことができる予後良好なが
んもあり、その機会を逃さないことは大切です。一方で、まれ
ながんなどは各治療の効果を厳密に比べることができず、標
準治療が定まっていないがんも多く、転移・進行している場
合には治療の効果がほとんど期待できないものもあります。
そのため、治療自体による負担を考えて、あえて治療をしない
というのも選択肢の 1 つとなります。また別の選択肢として、
よりよい治療を目指し、新しい治療の試みが行われる臨床試
験または治験があります。臨床試験に参加する場合は、担当
医や看護師の説明をよく聞き、十分納得した上で同意するこ
とが重要です。
9
治療
図2に、原発不明がんの病理診断と大まかな治療の流れを示し
4
ました。担当医と治療方針について話し合う参考にしてください。
図 2. 原発不明がんの病理診断と治療
病理診断
腺がん
扁平上皮がん
神経内分泌腫瘍
神経内分泌がん
最も可能性の高い原発部位に準じた治療
・手術(外科治療)
・放射線治療
・薬物療法
低分化がん
未分化がん
原発部位を特定できない場合
・薬物療法
・緩和ケア
治療
日本臨床腫瘍学会編「原発不明がん診療ガイドライン 2010 年版」
(メディカルレビュー社)
より作成
1 腺がんと診断された場合
原発不明がんのうち、腺がんは約 60 ~ 70%を占め、肺がん、
膵臓がん、胆道がん、腎細胞がんがその 3 分の 2 を占めます。
腺がんと診断され、原発部位特定の可能性が高そうな次の
1)~ 3)
の場合には、それぞれに準じた治療が行われます。
10
がんの冊子 原発不明がん
えきか
1)女性の腺がん:腋窩リンパ節の腫れのみで診断された場合
腺がんの中でも、腋窩リンパ節
(わきの下のリンパ節)の腫
れのみで診断された場合は、乳がんの可能性が疑われます。詳
しい病理検査や腫瘍マーカーの結果などによって、乳がんの可
能性が最も高い場合は、多くは乳がんに準じた治療として、手
術(外科治療)や放射線治療、抗がん剤による化学療法や、組織
型によってはホルモン療法(抗エストロゲン療法)
を行います。
2)女性の腺がん:腹膜への転移のみで診断された場合
消化器がん
(胃がん、大腸がん、膵臓がん、胆道がんなど)の
は し ゅ
転移で腹膜播種の場合もありますが、腫瘍マーカーのCA125が
高値を示し、詳しい病理検査などで卵巣がんの可能性が最も高
い場合、婦人科医による十分な検査や腹部骨盤CTなどで卵巣に
異常がなくても、多くは卵巣がんに準じて手術
(外科治療)
や抗
がん剤による化学療法を行います。
3)男性の腺がん:骨への転移のみで診断された場合
腫瘍マーカーであるPSAが高値
(特に10ng/mL以上)を示す
場合には、前立腺がんが強く疑われます。前立腺生検もしくは
骨生検による詳しい病理検査で診断が得られれば、前立腺がん
に従った標準治療を行いますが、診断が得られない場合でも前
立腺がんに準じてホルモン療法
(抗アンドロゲン療法)
、化学療
法を行うことがあります。
4)原発部位の特定が難しい場合
腺がんと診断はされたものの、原発部位の特定が難しい場
合は標準治療とされるものはありません。また多くの場合は、
がんが広がって病期がすでに進んでいるため、手術
(外科治療)
11
治療
や放射線治療で治すことはできません。がんの進行を抑える目
4
的で抗がん剤による化学療法を行うのも選択肢の 1 つとなり
ます。しかし、治療をしたとしても効果は限られるため、抗が
ん剤の副作用の負担を考えて、あえて治療せずに注意深く経過
観察しながら緩和ケアを行うということも選択肢としてあり、
体とがんの状態に応じて検討します。その緩和ケアの一環とし
て、手術(外科治療)や放射線治療を行うこともあります。また
状況によっては臨床試験なども考えられます。
2 扁平上皮がんと診断された場合
原発不明がんのうち、扁平上皮がんは約 5%を占めます。扁
平上皮がんと診断され、原発部位特定の可能性が高そうな以
下の1)および2)の場合には、それぞれに準じた治療が行わ
れます。
一方で、扁平上皮がんと診断はされたものの、原発部位特定
が難しい場合は、腺がんの場合と同様、抗がん剤による化学療
法や緩和ケアをしながら経過観察、もしくは臨床試験などへ
の参加について、体とがんの状態に応じて検討します。
けいぶ
1)首
(頸部)のリンパ節の腫れのみで診断された場合
原発部位として頭頸部がん(耳鼻科領域のがん)の可能性
かくせい
が高い場合には、その標準治療に準じて、手術(頸部郭清術
または腫れているリンパ節の摘出)や放射線治療を、それぞ
れ単独、もしくは手術の前後で放射線治療を行います。リン
パ節切除が難しい場合には、先に抗がん剤による化学療法を
行って、がんが小さくなり切除できるようになるか判断した
12
がんの冊子 原発不明がん
り、効果が期待できない場合には、放射線治療と抗がん剤に
よる化学療法を併用したりすることもあります。鎖骨上リン
パ節の転移のみの場合は、原発部位の特定が困難です。
そけい
2)鼠径リンパ節の腫れのみで診断された場合
原発部位として、肛門から陰部のがん(皮膚がん、直腸肛門
がん、泌尿器科がん、婦人科がん)が疑われます。その精査
を十分にしてもなお原発部位特定ができない場合には、ごく
限られた部位(局所)のがんを抑えるための治療として、手
術(リンパ節郭清)または根治的な放射線治療を行います。
3 神経内分泌腫瘍・神経内分泌がんと診断された場合
原発不明がんのうち、神経内分泌腫瘍・神経内分泌がんは
約 3 ~ 4%を占めます。単発病変であれば手術
(外科治療)や放
射線治療などの局所療法が行われますが、病変が複数ある場
合や多臓器に広がっている場合には、悪性度に応じて全身療
法を行います。
1)神経内分泌腫瘍(低悪性度)
すいとう
かつてカルチノイドや膵島細胞腫瘍(islet cell tumor)
とい
われたものです。比較的ゆっくり進行することが多く、治療を
するかどうか、そして治療の時期についても十分考えなければ
なりません。腫瘍がホルモンを過剰に分泌することによる症状
がみられる場合には、症状を緩和するためにソマトスタチンア
ナログの投与が有効です。
13
治療
2)神経内分泌細胞がん(高悪性度)
小細胞肺がんに近い経過をたどり、抗がん剤による化学療
4
法がよく効くため、小細胞肺がんに準じた化学療法を行いま
す。
4 低分化がん・未分化がんと診断された場合
原発不明がんのうち、低分化がん・未分化がんは約 30%を
こうがん
占めます。そのうち特に精巣(睾 丸)腫瘍や卵巣胚細胞腫瘍が
疑われる場合は、治療によって治る可能性もあるため、組織
の免疫染色や腫瘍マーカーの検査など、診断に有用な検査を
しっかり行うことが非常に重要です。
一方で、低分化がん・未分化がんと診断はされたものの、原
発部位の特定が難しい場合は、腺がんや扁平上皮がんの場合
と同様、抗がん剤による化学療法、緩和ケアをしながら経過観
察、もしくは臨床試験などへの参加について、体と病気の状態
に応じて検討します。
じゅうかく
こうふくまく
1)縦隔・後腹膜など体の中心線上に病変がある場合
腫瘍マーカーであるAFPやβHCGが高値を示し、男性の場
合は 50 歳以下で睾丸の胚細胞性腫瘍に準じて、また女性の場
合は卵巣の胚細胞性腫瘍に準じて、多剤併用化学療法が行わ
れます。
14
がんの冊子 原発不明がん
5
経過観察
5. 経過観察
治癒を目的とした、局所にとどまっているがんに対しての
手術や放射線治療などの治療(根治的局所療法)後は、治療後
の体調やがんの再発の有無を確認するために、定期的に外来通
院し、必要な検査を行います。
自分の体調と治療の副作用をみながら、担当医と注意点な
どをよく相談して無理のない範囲で過ごしましょう。
がん相談支援センターでは、患者さんや家族、地域の方々に
ご利用いただけるように、専門の相談員が、がんに関わるさま
ざまな質問や相談にお応えしています。かかりつけの病院や受
診中でなくても、誰でも無料で利用できます。
15
転移
6. 転移
6
転移とは、がん細胞がリンパ液や血液の流れで運ばれて別
の臓器に移動し、そこで成長することをいいます。原発不明が
んは転移により見つけられたがんで、原発部位が検査により特
定できなかったものになります。
原発不明がんでも、肺や肝臓、脳などへの転移や再発では、
薬物療法を中心にしてなるべく進行を遅らせることや、がん
によるつらい症状を和らげることが目標となります。
脳への転移に対しては放射線治療を組み合わせることもあ
ります。骨への転移があるときには、痛みや骨折のリスクを減
らす目的で骨吸収抑制薬(骨を破壊する細胞の機能を抑え、骨
吸収を抑制する薬)が使われることがあります。また、痛みの
症状緩和のために手術や放射線治療を組み合わせることもあ
ります。
それぞれの患者さんによって転移の状態は異なるため、症状
や体調あるいは希望に応じて治療やケアの方針を決めていき
ます。
16
がんの冊子 原発不明がん
7
再発
7. 再発
再発とは、治療の効果により目に見える大きさのがんがな
くなった後、再びがんが出現することをいいます。再発は、も
とのがんと同じ場所あるいはごく近くに起こる局所再発だけ
でなく、転移により別の場所にあらわれる遠隔転移もありま
す。
局所療法後の局所再発では、再度、手術を行って治癒(根治)
を目指します。状況によって薬物療法や放射線治療を組み合わ
せます。
それぞれの患者さんによって再発の状態は異なるため、症状
や体調あるいは希望に応じて治療やケアの方針を決めていき
ます。
17
診断や治療の方針に納得できましたか?/セカンドオピニオンとは?
診断や治療の方針に納得できましたか?
治療方法は、すべて担当医に任せたいという患者さんがいま
す。一方、自分の希望を伝えた上で一緒に治療方法を選びたい
という患者さんも増えています。どちらが正しいというわけで
はなく、患者さん自身が満足できる方法が一番です。
まずは、病状を詳しく把握しましょう。わからないことは、
担当医に何でも質問してみましょう。治療法は、病状によって
異なります。医療者とうまくコミュニケーションをとりながら、
自分に合った治療法であることを確認してください。
診断や治療法を十分に納得した上で、治療を始めましょう。
セカンドオピニオンとは?
担当医以外の医師の意見を聞くこともできます。これを「セ
カンドオピニオンを聞く」といいます。ここでは、①診断の確
認、②治療方針の確認、③その他の治療方法の確認とその根拠
を聞くことができます。聞いてみたいと思ったら、
「セカンド
オピニオンを聞きたいので、紹介状やデータをお願いします」
と担当医に伝えましょう。
担当医との関係が悪くならないかと心配になるかもしれま
せんが、多くの医師はセカンドオピニオンを聞くことは一般的
なことと理解していますので、快く資料をつくってくれるはず
です。
18
がんの冊子 原発不明がん
メモ/受診の前後のチェックリスト
メモ( 年 月 日)
●
がんの種類
[ ]
●
転移部位
[ ]
●
推定される原発部位 [ ]
●
病期(ステージ)
[ ]
受診の前後のチェックリスト
□ 後で読み返せるように、
医師に説明の内容を紙に書いてもらったり、
自分でメモをとったりするようにしましょう。
□ 説明はよくわかりますか。わからないときは正直にわからないと伝え
ましょう。
□ 自分に当てはまる治療の選択肢と、それぞれのよい点、悪い点につい
て、
聞いてみましょう。
□ 勧められた治療法が、
どのようによいのか理解できましたか。
□ 自分はどう思うのか、
どうしたいのかを伝えましょう。
□ 治療についての具体的な予定を聞いておきましょう。
□ 症状によって、
相談や受診を急がなければならない場合があるかどう
か確認しておきましょう。
□ いつでも連絡や相談ができる電話番号を聞いて、
わかるようにしてお
きましょう。
●
□ 説明を受けるときには家族や友人が一緒の方が、
理解できて安心だと
思うようであれば、
早めに頼んでおきましょう。
□ 診断や治療などについて、
担当医以外の医師に意見を聞いてみたい場
合は、
セカンドオピニオンを聞きたいと担当医に伝えましょう。
参考文献:
日本臨床腫瘍学会編:原発不明がん診療ガイドライン 2010 年版;メディカルレビュー社
19
国立がん研究センターがん対策情報センター作成の冊子
がんの冊子
各種がんシリーズ
(37 種)
小児がんシリーズ
(11種)
がんと療養シリーズ
(7 種)
がんと心/がんの療養と緩和ケア/もしも、がんと言われたら/他4種
社会とがんシリーズ
(3 種)
がん相談支援センターにご相談ください/家族ががんになったとき/
身近な人ががんになったとき
がんを知るシリーズ
(1種)
科学的根拠に基づくがん予防
がんと仕事のQ&A
患者必携
がんになったら手にとるガイド 普及新版* 別冊『わたしの療養手帳』
もしも、がんが再発したら*
すべての冊子は、がん情報サービスのホームページで、実際のページを閲覧したり、印刷したりすること
ができます。また、全国の国指定のがん診療連携拠点病院などのがん相談支援センターでご覧いただ
けます。*の付いた冊子は、書店などで購入できます。その他の冊子は、がん相談支援センターで入手で
きます。詳しくはがん相談支援センターにお問い合わせください。
がんの情報をインターネットで調べたいとき
近くのがん診療連携拠点病院や地域がん診療病院、がん相談支援センターを探したいとき
がん情報サービス
http://ganjoho.jp
がん相談支援センターの紹介・患者必携についてのお問い合わせ
がん情報サービスサポートセンター
サ ポート
電話:0570-02-3410(ナビダイヤル)
平日
(土・日・祝日を除く)
10 時 ∼15 時
※通信料は発信者のご負担です。また、一部の IP 電話からはご利用いただけません。
がんの冊子 各種がんシリーズ 原発不明がん
編集・発行 国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター
印刷・製本 図書印刷株式会社
2015 年 10 月 第 1 版第 1 刷 発行
執筆協力者(五十音順)
:向井 博文(国立がん研究センター東病院乳腺・腫瘍内科)
山田 遥子(国立がん研究センター東病院乳腺・腫瘍内科)
査読協力者(五十音順)
:公平 誠 (国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科)
国立がん研究センターがん対策情報センター 患者・市民パネル
あなたの地域のがん相談支援センター
各種がん
165
原発不明がん
国立がん研究センター
がん対策情報センター
「がん相談支援センター」について
がん相談支援センターは、全国の国指定のがん診療連携
拠点病院などに設置されている「がんの相談窓口」です。
患者さんやご家族だけでなく、どなたでも無料でご利用い
ただけます。わからないことや困ったことがあればお気軽
にご相談ください。全国のがん相談支援センター
やがん診療連携拠点病院などの情報は「がん情報
サービス(http://ganjoho.jp)
」でご確認ください。
がん相談支援センターで相談された内容が、ご本
人の了解なしに、患者さんの担当医をはじめ、ほ
かの方に伝わることはありません。
どうぞ安心してご相談ください。
国立がん研究センター
がん対策情報センター
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