夏の炎天下の思いで

霊降臨後 第8主日
礼拝説教 (2015年7月19日) 飯川雅孝 牧師
聖書
列王記上17章1-24節
主題
『夏の炎天下の思いで』
説
教:この数年の間に暑い時期、イスラエル考古学調査に2回参加しました。古
代の集落の跡で、現在は辺りの乾燥地を見渡す小高い丘(50メートル)の上で
す。イスラエルの真ん中あたりです。朝6時から9時の朝食を挟んで12時まで、
炎天下の中、紀元2世紀のローマ時代の農業管理者の家の跡を掘り起こします。土
砂の中には食器の瓦礫や動物の骨(主に羊)、ローマ時代のフレスコ、他にコイン
も二つ混ざっていました。30センチの深さで部屋ごとに堀り、時代を確認しま
す。3-6畳間くらいの狭い場所に石で仕切りをしてあり、こんな所で山の下のオ
リーブなどを管理していたのかと思いながら、土砂を掘っては、バケツに入れ、5
0メートルくらい運ぶ作業の繰り返しです。コインは紀元130年くらいに発行さ
れたもので、当時の交易に使った船を刻んでありました。人骨がないことから、第
一次ユダヤ戦争-紀元70年から約60年後の第二次ユダヤ戦争の頃、一次のロー
マ軍の大量虐殺を聞かされていたので、その前に逃げたと推定されます。発掘作業
をしていると、古代の人たちの生活の息吹が感じられます。
休日には、名所旧跡を巡ります。死海に沿った土くれ山はアブラハムたちはこん
な危険な場所を山羊や羊を連れて長旅をしたのかとか、死海文書が発見されたクム
ランの岩山は危ない崖で、こんなところを羊を追って行ったのかとか、イスラエル
の過酷な気候風土の中ですと、体も干からびてしまいそうです。今日は旧約聖書の
エリやの物語を選びました。預言者エリヤを神は烏に養わせたとあります。そんな
馬鹿なと思いがちです。4つの福音書でエリヤの名前が出て来ます。バプテスマの
ヨハネは「エリヤの霊と力で主に先立って行き」とあります。また、イエスがペト
ロに自分を人々は誰だと言っているかと聞いた時、・・『エリヤだ』・・と答えて
います。当時の人たちにもう900年近く前の人物への思いが伝わってきます。
イスラエルが砂漠の彷徨からカナン地に入植した後、聖なる民のアイデンテイテ
イを守るため、神は「預言者」を遣わせます。イスラエル人の信仰維持のために働
いた預言者の宗教は世界の精神史においても最も注目すべき現象に属します。預言
者エリヤは紀元前9世紀に出現します。イスラエルの信仰がカナンの神信仰との戦
いの中で危ない時代でした。王アハブは隣国テイルスからイサベルを妃として娶り
ます。異邦の神バアルを信仰する彼女は神ヤハウエの預言者たちを抹殺しようとし
ます。エリヤはイスラエルの全域に渡って放浪するかのように出現します。
➀エリヤはギレアドで生まれたとあります。ここは遊牧民出身者が多い地域ですか
ら、編集者は信仰深い人たちと言いたいわけです。
②「わたしの仕えているイスラエルの神、主は生きておられる。」と敢えて言うの
は人格神ヤハウエを信じているからです。「数年の間、露も降りず、雨も降らな
いであろう。」とは異邦の神バアルを信ずる者に対する神の怒りの表れです。汚
い象徴である烏によってエリヤをケリト川畔で養わせたとはその過酷な自然の中
で、エリヤを生かすために神は何でもされたというご意志を感じます。
③その川も涸れたので、イスラエルではない異邦のサレプタへまでもエリヤを生か
すために送ります。異邦の貧しいやもめも試みに遭います。食うや食わずの生活
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をしているのに、エリヤがその一握りの粉でパンを焼きなさいと要求する。彼女
はエリヤが神の預言者であるのを解っておりましたから、「壺の粉は尽きること
なく 瓶の油はなくならない。」という言葉を信じます。その信仰故にその後の
食べ物に事欠かなかったのです。やもめに更なる試練が臨みます。彼女の一人息
子が亡くなるのです。ここにエリヤを通じて神の力が働きます。「主よ、わが神
よ、この子の命を元に返してください。」と嘆願しますと、主は、エリヤの声に
耳を傾け、その子の命を元にお返しになった。子供は生き返ったのです。
以上は、エリヤ物語の序曲です。
④カルメル山で神はエリヤに、時の王アハブに挑戦させます。エリヤはイスラエル
のすべての人々を前に「四百五十人のバアルの預言者と四百人のアシェラの預言
者」と対決します。彼らは互いに一頭の雄牛を切り裂いて薪の上に載せ、お互い
の神の名を呼んで火をもって答える神こそ神であるはずだと約束します。バアル
の神が出ないのでエリヤは挑発します。「大声で呼ぶがいい。バアルは神なのだ
から。神は不満なのか、それとも人目を避けているのか、旅にでも出ているの
か。恐らく眠っていて、起こしてもらわなければならないのだろう。」これに対
して、エリヤの神は火をもって答え、焚き木を燃やします。」これを見たすべて
の民はひれ伏しエリヤに従います。「バアルの預言者どもを捕らえよ。一人も逃
がしてはならない」450人のバアル預言者たちは全員殺されます。
⑤これを聞いた妃イセベルはエリヤを殺す誓いを立てます。イセベルは反撃し主の
祭壇を破壊し、預言者たちをことごとく殺します。エリヤは恐れ、ベエル・シェ
バまで来ます。自分の命が絶えるのを願って言います。「主よ、もう十分です。
わたしの命を取ってください。わたしは先祖にまさる者ではありません。」悪に
対する正義の戦いはこの世の目には敗北としか見えないことが多くあります。
⑥その後40日40夜通し歩いてホレブに逃げ、神に会って今述べた惨状を訴えま
す。「・・・わたし一人だけが残り、彼らはこのわたしの命をも奪おうとねらっ
ています。」これに対して、神は反撃のご意志を伝えます。わたしに敵対した者
たちは滅びる。アハブ王の死後、その息子と妃イサベラに対する凄まじいクーデ
ターが後に実行されます。その時有名な言葉に「わたしはイスラエルに七千人を
残す。これは皆、バアルにひざまずかず、これに口づけしなかった者である。」
いつの時代にも全滅はありません。この七千人を神が残されたことにより、イス
ラエルのヤハウエ信仰は回復します。
⑥イズエルの人ナボトはぶどう園を持っていましたが、アハズ王が買いたいと言い
ます。しかし彼は譲りません。それを聞いた妃イゼベルは策略を持ち掛けナボト
を殺してしまいます。そして王が土地を取りに来た時、エリヤは諌めます。「あ
なたは人を殺したうえに、その人の所有物を自分のものにしようとするのか。」
この言葉は現在も世界に響いています。
➆最後に旧約聖書の中でも死ななかった者が3人いると言われております。そのひ
とりエリヤは嵐の中を天に上って行ったと伝えられているからです。
以上、本日は灼熱の地で繰り広げられた預言者エリヤの物語を通して神のご意志
が困難な中にあっても実現されることを学びました。わたしたちも霊的な力を与え
られ、そのように神に用いられる信仰を持ちたいと思います。
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➀発掘現場からタボル山を臨む
②発掘現場
③門の石の切込み
④
フレスコ
(壁)
⑤クムランの岩山(死海文書発見)
⑥クムラン:日差しが強いため目が細い
➆灼熱の死海海岸
⑧ロトの妻が塩の柱になった
⑨遊牧民の家畜の群れ
⑩イエスの泊まったオリーブ山
⑪オリブ山からエルサレム神殿を臨む
⑫エルサレム市内
⑬嘆きの壁(エルサレム神殿)
⑮マサダ要塞(ユダヤ戦争で967人自死)
⑭パウロがローマに送られたカイザリヤ海岸
⑯カハルナウムの花
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