ZE26A-13 低放射化核融合炉材料の重照射効果に関する研究 谷川博康 1,小沢和巳 1,近藤創介 2,檜木達也 2,森貞好昭 3,藤井英俊 3 1 2 日本原子力研究開発機構 京都大学エネルギー理工学研究所 3 大阪大学接合科学研究所 1. 背景と目的 低放射化フェライト鋼(F82H)は、核融合原型炉のブランケット構造材料の第一候補材であり、原 子力機構(JAEA)では幅広いアプローチ(BA)活動を中心とした開発を進めてきている。核融合炉構造 材料開発における最大の課題は核融合中性子照射場が現存しない点である。このため、14MeV 核融合 中性子照射効果を調べるには、2 重イオン照射などの模擬照射実験の利用が主となる。加速器を用いた イオン照射実験は、損傷速度が高く核融合炉環境に比べて加速照射となるが、照射条件を制御しやす く、重照射が比較的簡単に達成できる点で有利である。本研究ではこの特徴を生かしつつ、核融合ブ ランケット第一壁のもっとも重照射を受ける領域について、そのボイドスウェリング挙動の解明と抑 制手法の可能性の検討をすすめている。 本年度では、摩擦攪拌処理(FSP)された F82H の耐スウェリング性について評価を行った。すなわ ち、プラズマ対向材としてプラズマ真空溶射(VPS)タングステン(W)を F82H 鋼第一壁表面に施工 することが考えられているが、VPS-W は空孔率が高く熱伝導率が低いという欠点がある。この欠点を 解消すべく VPS-W を FSP 強化する手法が提案され、VPS-W の空孔率の低下、熱伝導率の回復、強 度の向上を達成している。この VPS-W の FSP 強化時に、基盤である F82H も深さ 2mm にわたって FSP 処理され、細粒化する。今年度は、この FSP 処理された F82H のボイドスウェリング挙動について調 べることを目的として、多重イオンビーム照射実験及びミクロ組織観察による評価を実施した。 2. 実験方法 供試材として用いたのは、FSP 強化した 2mm 厚さの VPS-W の基盤として用いられた F82H 鋼 IEA ヒート(Fe8Cr2WVTa)である。FSP 条件は、600 rpm、50 mm /min、2 ton×2回である。この材料より、 元の表面に対して垂直に 1.5 mm×7 mm×0.25 mmt の大きさの短冊片を切出し、機械研磨後、電解研磨に て仕上げた。すなわち短冊試験片の長辺の一方が表面側(VPS-W との界面側)となる。イオン照射実 験は、エネルギー理工学研究所附属エネルギー複合機構研究センター設置の複合ビーム・材料実験装 置 DuET を利用して行った。デュアル照射は 6.4 MeV Fe3+イオン+1.0 MeV He+イオンにて行い、ヘリ ウムビームについてはエネルギーディグレーダーを利用して、試験片の中央部に行った。照射条件は、 ボイドスウェリングの顕著な 470 ℃付近で、50dpa 6.86×10-4 dpa/s とした。なおヘリウムの注入量は核 融合環境を考慮し、15 appmHe/dpa にて調整した。照射後試験は、青森県六ヶ所村にある日本原子力機 構国際核融合エネルギー研究センター内原型炉 R&D 棟に設置された集束イオンビーム(FIB)加工装 置(FB-2100)にて、30 m×15 m 四方のミクロ組織観察用薄膜試験片を作成した後、低エネルギース パッタ装置(GENTLE MILL)にて観察薄膜表面をクリーニングし、200 kV 透過電子顕微鏡(JEM-2100F) にてミクロ組織観察を行った。 3. 結果と考察 図 1 は、a)F82H IEA 材 および b)FSP 処理を受けた F82H IEA 材(FSPed-F82H)における、470 ℃、 50 dpa デュアル照射材から得られたミクロ組織写真である。F82H 鋼ではいずれの条件においても照射表面か ら約 0.2~1.0 m の領域で数 nm のヘリウムバブルと 10~20 nm のボイドからなるキャビティ組織の 形成が確認された。F82H IEA 材では 10nm 弱程度の小さなボイドが高い数密度で観察された。一方、 FSPed-F82H 照射材においては、表面直下の FSP 処理の影響を強く受けた箇所では、数 nm 程度のバブ ルが高い数密度で観察された(図 1 b) 。 ZE26A-13 a) b) c) 図 1 470 ℃、 50 dpa デュアル照射された F82H 鋼の TEM 明視野像(吸収コントラスト) 。 a) F82H IEA、b) , c) ,FSPed-F82H-IEA (異なる FSP 箇所から) 一方、表面より 2mm はなれた、FSP 処理の影響が少ない箇所では、比較的低い数密度のボイドが観察 された。この結果は、FSP 処理により激しく攪拌された組織を示す F82H 基盤部分が、通常の F82H に 比べより良好な耐スウェリング性能示す可能性が示唆される。すなわち、VPS-W をプラズマ対向材と して第一壁 F82H 表面に施工し、VPS-W の強化目的で FSP 処理を施した場合、その基盤部分となる第 一壁最表面側の F82H は、ブランケットで使われる F82H において最も重照射を受ける箇所となるが、 FSP 処理を同時に受けることによりその箇所の耐スウェリング性を向上できる可能性が示唆された。 また、FSP 処理の影響が弱い箇所では、攪拌そのものの効果が弱くなり、強攪拌部ほどの耐スウェリ ング性は示さないものの、攪拌時の熱入力による熱履歴が結果として FSP 処理を受けていない F82H と異なるスウェリング挙動を示すにいたったと考えられる。 今後は、定量的評価をすすめる熱処理によって回復された場合の照射応答などの詳細な評価をすす めていくとともに、低い損傷量でのスウェリング挙動を比較し、詳細なスウェリング挙動の解明をす すめる予定である。 4. まとめ プラズマ対向材の VPS―W を FSP 強化した際に、同時に FSP 処理をうける基盤表面部分の F82H 鋼 について 470℃50dpa の多重イオンビーム照射実験を実施し、ミクロ組織観察による評価を行った結果、 FSP 処理が耐スウェリング性を向上できる可能性を示唆する結果が得られた。 5. 発表リスト [口頭発表リスト] 今年度は該当なし。次年度以降に予定。
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