ボルデテラ属細菌が起こす感染症:気管支敗血症菌と百日咳菌 大阪大学・微生物病研究所 堀口 安彦 ボルデテラ属(Bordetella)に分類される気管支敗血症菌(B. bronchiseptica)と百 日咳菌(B. pertussis)は、いずれも宿主の呼吸器に感染する病原細菌である。両菌 は進化系統学的にきわめて近縁で、百日咳菌特有の百日咳毒素を除いて、知られて いるほとんど全ての病原因子を共有する。しかし、気管支敗血症菌が種々の哺乳動 物に慢性感染を起こすのに対して、百日咳菌はヒトに特化した病原細菌で、急性経 過の病態を起こすことが知られている。ほとんどの病原因子を共有する両菌が、な ぜこのように病原細菌として異なる性状を示すのか現在のところ全く不明である。 当研究室では、両菌の病原性の解析を種々の方面から解析してきた。本講義では、 以下のようにそれらの研究成果の一部を紹介する。 1)気管支敗血症菌が起こす代表的疾患である「ブタ萎縮性鼻炎」で認められる鼻 甲介骨の萎縮(ブタの鼻曲がり)の発症機構を解析した。その結果、本菌の産生す る壊死毒が感染局所である鼻腔の骨組織の分化を阻害することによって鼻甲介骨萎 縮を起こすことを明らかにした。 2)気管支敗血症菌と百日咳菌は共通にアデニレートサイクラーゼ毒素(ACT)を産 生する。本毒素は主に宿主の免疫応答機構に障害を与えて、菌の感染成立を助ける と考えられているが、当研究グループは ACT の機能が両菌で異なることを発見し、 本毒素の機能の差違が両菌が起こす病態の差違と関連する可能性のあることがわか った。 3)気管支敗血症菌と百日咳菌は、宿主に特徴的な咳嗽(咳発作)を起こすことが 知られている。とくに百日咳感染での咳発作は症状の重篤化に繋がるが、その発症 機構は不明である。当研究室では咳発症動物モデルを作製し、これを用いて咳発症 機序を解析している。 ボルデテラ属細菌は、病原細菌の宿主特異性や病原性の発現機構を調べる上で恰 好の材料を与えてくれる。講義ではそうした見地からの解説も試みたい。
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