View PDF

世界の原子力発電動向(上)-趨勢は継続・拡大
小林 雅治 日本原子力産業協会
(原子力産業の分析を行っている日本原子力産業協会政策・コミュニケーション部の
小林氏に、寄稿をいただいた。 ただし、この文章は 2014 年 6 月時点のもの。新しい情
報として、中国が輸出体制を整備、ロシアが各国と原子力協定を締結、フランスアレバ
社の経営再建問 題が浮上している。概観のために掲載する。)
(写真)東芝・ウェスティングハウスが建設を進める国家核電技術公司(SNTPC)管理の
中国三門原子力発電所(中国・浙江省)
日本では福島第一原発事故の後で、世論調査では原子力発電所の再稼動や将来に
わたる原子力発電利用についてネガティブな意見が多い。
一方、世界に目を転じると、ドイツのように原子力の段階的廃止を明確に標榜した国
は少数で、多くの国が将来のエ ネルギー安全保障や CO2 対策などから、原子力開
発を推進あるいは拡大する方向にある。特に、これから原子力発電所を新規に導入し
ようとする国が増えてい るのが実態である。福島事故後を中心に世界・各国の原子力
開発動向を俯瞰的に眺めてみる。
1・世界の原子力開発の推移
原子力平和利用は、1953 年の国連総会におけるアイゼンハワー米大統領の「アトム
ズ・フォー・ピース」演説に 始まる。1954 年にはソ連でオブニンスク原発(6000kW、黒
鉛減速炉)が、1956 年には英国でコールダーホール原発(6 万 kW、ガス炉)が、 1957
年には米国でシッピングポート原発(10 万 kW、PWR)が、発電を開始した。これらの原
子炉は、核兵器用プルトニウム生産炉や原子力潜水艦用動 力炉から発展したもので
ある。(表 1「世界の資料」参照)
表 1.世界の原子力発電開発の推移(流れ)
その後、原子炉は改良、大型化が進められた。1973 年の第 1 次石油危機を契機に石
油代替エネルギーとして、原子力発電が一躍脚光を浴び、1970 年代は、世界中で平
均年間 26 基の原子力発電所が新規に着工された。
しかし、1979 年のスリーマイルアイランド(TMI)原発事故と 1986 年のチェルノブイリ原
発事故により、世界の原子力開発は停滞した。
2000 年代に入ると原子力開発は、ルネサンスと呼ばれるように復活しつつあった。そ
のような中で福島原子力事故が起きた。原子力開発が後退するとの懸念もあったが、
若干のブレーキがかかった程度で、世界的には原子力開発推進の方向に動いてい
る。
2014 年 1 月 1 日現在、世界で運転中の原子力発電所は、31 カ国・地域で 435 基、合
計出力 3 億 8000 万 kW である。全発電電力量に占める比率は 11%程度である。
2・原子力発電の将来予測
世界の将来の原子力発電規模の予測については、国際原子力機関(IAEA)、国際エ
ネルギー機関(IEA)及び米国エネルギー省・エネルギー情報局(DOE/EIA)などが発
表している。(表 2 参照)
表 2.世界の原子力発電規模予測
(注)低:低成長予測、高:高成長予測
IAEA は、世界全体の原子力規模が 2030 には現在の 1.17~1.94 倍になると予測して
いるが、実際には、その中間程度になるだろう。
長期的には、開発途上国における人口増加や電力需要増加だけでなく、気候変動対
策やエネルギーの安定供給、他の燃料価格の不安定性などの理由から、原子力はエ
ネルギーミックスの中で重要な役割を果たすと期待されている。
地域別に原子力開発を見ると、原子力の増加が著しいのは、中国、韓国を含む東ア
ジア地域である。IAEA 予測で も、東アジア地域は 2012 年末の 0.83 億 kW から 2030
年には 1.47 億~2.68 億 kW に拡大する。次いで、ロシアを含む旧ソ連・東欧諸国や中
東・南アジア地域(インドを含む)も強い成長ポテンシャルをもっている。(表 3)
表 3.IAEA:世界の原子力発電規模予測の推移(地域別)
西欧や北米地域は一部の脱原子力国やシェールガス革命の影響、寿命を迎えた原
子力発電所の退役などにより、今後の原子力規模については、若干減少から若干増
加までの幅があり、各国の状況によって流動的である。
表 4.世界の電源別発電設備と発電電力量見通し(WEO 2013, 新政策シナリオ)
表 5.世界の地域別発電設備(全体と原子力)(WEO 2013, 新政策シナリオ)
「(下)途上国に売り込む中露」へ続く。
(2015 年 7 月 13 日掲載)