こちら - ウチダ和漢薬

● 和漢薬 No.751
(2015.12)●
日本の民間薬
−その 54 −エゾウコギ(刺五加)
千 葉大学環境健康フィールド科学センター 池上文雄
て片端から駆除を行ったといわれ,「ヘビノボラズ」と
「基原」
エ ゾ ウ コ ギ( 蝦 夷 五 加:Acanthopanax senticosus
俗称された。
1966 年に東京で開催された汎太平洋学術会議の後,
Harms)の根および根茎を乾燥したもの。
エゾウコギは北海道,朝鮮半島,中国北部,シベリ
北海道の東部に自生するエゾウコギと旧ソ連が発表し
アの広い地域に分布するウコギ科(Araliaceae)の樹高
た薬木エレウテロコックとが同一植物であることが分
1 ∼ 3m の落葉灌木で,小枝は細かい刺毛もしくは刺
かり,我が国の研究も一段と加速された。
で密におおわれている。葉は掌状複葉で,小葉は 3 ∼
5 枚,楕円状倒卵形ないし菱形で,長さ 6 ∼ 12cm,鋸
「成分」
歯がある。散形花序は球形で,開花期は 7 月で花は紫
リグナン配糖体のエレウテロサイド E,トリテルペノ
黄色。果実は球形に近く,結実期は 10 月。近年,中国
イド系配糖体のエレウテロサイド A,C ∼ G,クマリンの
では黒龍江(アムール川)流域で良品が栽培されてい
イソフラキシジンの他,シリンギン(エレウテロサイド
る。刺 五加,五 加参,シベリア人参とも呼ばれる。五
B),クロロゲン酸などが含まれている。
加とはウコギ(A. gracilistylus W. W. Smith)のことで,
本種には刺があるので刺五加と呼ばれる。ロシアでは
「薬理・毒性」
「命の根」という意味の本種の学名(Eleutherococcus
刺五加には,人参より優れたアダプトゲン作用,す
senticosus Maxim.)に因みエレウテロコックと呼ばれ
なわち生体を非特異性抵抗力が増加した状態にする作
ている。夏から秋にかけて掘り採り日干しにする。
用があり,それは生体にとって有利な方面に進行するも
ので,広範囲にわたって有害な刺激因子に対する抵抗力
を増強する作用などがある。エレウテロサイド B 1 の前
「来歴」
駆体と考えられているイソフラキシジンには鎮静・降圧
中国では神農本草経の上品に五加皮と収載されて約
2000 年前から使用されていた。1960 年代,オタネニ
作用,エレウテロサイド B には抗疲労・抗ストレス作用,
ンジン(Panax ginseng C. A. Meyer)と同じウコギ科の
エレウテロサイド E には抗アレルギー作用や脳内モル
植物であることから,旧ソ連の保健省はエゾウコギの
ヒネと呼ばれる生体防御物質の β- エンドルフィンの増
根の液状エキスを強壮薬として認可し,また旧ソ連科
強作用などが報告されている。またエレウテロサイド E
学アカデミーの研究でも人参サポニンとよく似た成分
やクロロゲン酸には抗潰瘍作用のほか,抗酸化作用も
が含まれ,強壮効果も人参より優れていると発表して
認められている。さらに,リグナン配糖体は腸内細菌
世界中で注目された。1980 年のモスクワオリンピック
の代謝によりエストロゲン様作用を持つことも指摘さ
では,ソ連がこれを選手団の強化に利用していたとし
れている。その結果として,ストレスへの抵抗力を強め,
て話題になった。
肉体的・精神的な抵抗力を高めて免疫機能を向上させる
我が国では,ウコギに似てエゾ(蝦夷)にのみ自生
といわれ,過労や体力低下,精神的ストレス,精力減
することからエゾウコギの名となった。古くアイヌ民
退などへの滋養強壮作用が期待されている。また,反
族が民間薬として用いていたが,北海道の開拓を進め
射神経,持久力,集中力を高めて運動能力を向上させ
た和人はその価値を知らず,刺が固く邪魔な雑草とし
る作用があるとされ,うつ病にも効果があるとされる。
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