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ワークショップ報告書
日時:2015 年 1 月 24 日
場所:上智大学四谷キャンパス 10 号館 3 階 301 教室
題目:地域紛争に国際社会は如何に関与するのか?―旧ソ連圏の紛争を中心として―
各発表のタイトル、発表者の名前・所属
1.
「平和政策『失敗』の二面性の構造的要因―冷戦終結後の≪力の偏在≫と≪道義の遍在
≫」
中村長史(東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士後期課程)
2.
「制約下における外部主体の紛争への関与―チェチェン紛争とナゴルノ・カラバフ紛争
における OSCE の役割に注目して―」
富樫耕介(東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻/ 日本学術振興会特別研究員
PD)
3.
「沿ドニエストル紛争の『凍結』と和平協議―仲介者連合は如何に未解決な紛争の持続
を支えるのか―」
松嵜英也(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科国際関係論専攻博士後期課程/
日本学術振興会特別研究員 DC1)
ワークショップの目的
如何なる外部関与が地域紛争の発生を防止し、一方でそれに失敗するのか?本ワークシ
ョップは、地域紛争と外部関与の関連性をマクロとミクロな視点から考察し、旧ソ連圏(チ
ェチェン、ナゴルノ・カラバフ、沿ドニエストル)を中心に発生予防、深刻化防止、再発
防止に関する外部関与の多様な形態を提示する。理論と実証の双方から論じることで、他
地域の事例分析にも資する材料を提供し、紛争研究や国際・地域秩序論の理解を深めるこ
とを目的とした。
各発表の概要
外部主体の関与が地域紛争の発生・深刻化・再発防止に必ずしも寄与しないのはなぜか。
第 1 の中村報告では、冷戦終結後の国際システムの構造に着目し、平和政策が失敗する構
造的要因を提示した。中村は、従来の研究において、①暗黙のうちにアフリカの紛争への
平和政策を念頭に置くことが多かったため、旧ソ連圏等他地域の紛争への平和政策が論じ
られず旧宗主国の影響は考慮されても地域大国については考慮されてこなかったこと、②
関与側である「国際社会」と形容される欧米諸国にのみ着目してきたこと、③政策ごとの
専門性が深まるにつれ特定の政策についてのみ論じられるようになったことを問題視した。
その上で、地域大国の影響や関与側・被関与側の相互作用、政策間の相互関係にも着目し、
①政策同士の衝突、②政策の選択肢過少という 2 つのパターンを示し、両パターンが生じ
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る構造的要因として、冷戦終結後の《力の偏在》と《道義の遍在》を指摘した。
中村報告では国際社会による交渉の仲介など外交にとどまる低レヴェル関与は失敗する
可能性が高いと述べられたが、それでも成功する条件はあるのではないか。この問いに取
り組んだのが富樫報告である。まず富樫は、OSCE に着目し、チェチェン紛争とナゴルノ・
カラバフ紛争を事例として上記問いに取り組む事の妥当性を明らかにした。その上で低レ
ヴェル関与の成否を分ける要因とその決定のメカニズムを介入研究から導き出し、本報告
の仮説を提示した。即ち、低レヴェル関与の成否は、①関与主体側の変数、②被関与主体
側が外部関与を制約する変数、③外部主体の被関与主体への働きかけの組み合わせと決ま
るとし、チェチェンとカラバフの分析を通してこれらを検証した。検証に際して、いずれ
の紛争も停戦までをフェーズⅠ、停戦後をフェーズⅡとして比較を行い、関与の成否(紛
争再発の抑止)を考察した。結果、いずれの事例も関与主体が十分に変数を担保できてい
ない状況では、比較的初期に交渉の仲介は破綻すること、逆にこれらを担保でき、さらに
被関与主体側に外部関与を制約する条件が少なく、外部主体も積極的な働きかけを行えば、
和平交渉は結実すること、また被関与主体側の関与を制約する条件が多くても、外部主体
による積極的な働きかけ次第では、和平交渉は破綻しないという仮説を論証できた。
このように、中村報告では分析枠組みが提示され、富樫報告では OSCE の低レヴェル関
与の成否が論じられた。これに対して、第 3 の松嵜は、域内アクターにも目を向け、OSCE
と域内アクター(ロシア、ウクライナ)の協働関与を対象として、沿ドニエストルの経験
から外部関与の効果の質を考察した。松嵜は、先行研究では、アクターの未解決な紛争の
現状維持から論じてきたが、現状維持はアクターの選好ではなく、紛争解決に向けた和平
協議は実施されていることを指摘した。その上で、紛争解決を最終的な目的に掲げる和平
は、沿ドニエストル紛争に何をもたらしたのかという問題に取り組み、和平プロセス、合
意、実施を分析した。結論として、①確かに沿ドニエストル紛争を争点として形成された、
仲介者連合(ロシア、ウクライナ、OSCE)は、紛争当事者に様々な合意を結ばせ、合意は
長続きしている。②しかし、仲介者連合実施の和平は当事者の見解の相違が埋まらない状
態で進行している。そのため、紛争解決を最終的な目的に掲げる和平は、その意図に反し
てアクターが均衡点を探る場となっており、結果的に仲介者連合は和平を通じて未解決な
紛争を持続させていることを示した。
討論者のコメント
3 名の報告に対して、上杉勇司先生 (早稲田大学) と湯浅剛先生 (防衛研究所) からワー
クショップ全体と個別報告についてコメントを頂いた。ワークショップ全体については、
ある程度一貫性があること、
そしてフロアもほぼ満席(企画者は配布物を 40 部印刷したが、
大幅に足りず)で、興味深い企画であったとの評価を頂いた。その上で、上杉先生から本
にする価値はあるが、ストーリーにする必要があること、湯浅先生からは現在の事象に対
する示唆を含めた方が良いと指摘された。また両先生から、理論と地域研究の共同研究の
成果として「地域大国」の存在を導き出したのは良いが、その位置づけが 3 報告の間で異
なることが指摘された。
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中村報告に対しては、主に三つの問題提起がなされた。第一に、地域大国の影響に着目
する必要性を主張している点には同意できるものの、地域大国が指し示す概念について整
理の余地があるのではないか。例えば、EU についても地域大国と捉えることができるとす
れば、地域大国とは必ずしも国際社会による関与を阻害する存在とはならないと指摘され
た。第二に、関与側・被関与側の相互作用を捉える必要性を主張している点には同意でき
るものの、実際の分析においては、関与側から被関与側へのベクトルに偏っているのでは
ないか。この点について、被関与側から関与側へのベクトルに関しては、理論研究のみで
は分析が難しいので、地域研究者との共同研究の特性をより活かせばよいのではないかと
のアドバイスがなされた。第三に、
《力の偏在》と《道義の遍在》が構造的要因だとの結論
には同意できるものの、冷戦終結後 25 年の間で単極構造にも程度差がある点に一定の配慮
が必要ではないか。例えば、90 年代の米国とイラク戦争後の米国とでは、力の集中の程度
に違いが生じていると指摘された。
富樫報告に対しては、分析枠組みと手法について質問が出た。一つは、提示している変
数の優劣関係についてであり、報告では関与・被関与主体の変数の間の優劣については問
題にしているが、それぞれ内部における優劣関係には言及がなされておらず、分析枠組み
とそこから導き出される解にも疑問が残ると言及された。次に、外部関与側の働きかけの
成否をどのように計るのかが不明瞭であると指摘され、関連して被関与主体から外部主体
への働きかけという視点が欠落しているのではないかと提起された。報告者は、関与・被
関与主体の変数内部における優劣関係と、働きかけの成否を計る基準を回答した上で、被
関与主体から外部主体への働きかけについて分析していないのは既存の研究で盛んに研究
がなされているからだと答えた。他にもフロアから事例選択に問題がないのか疑問が提起
されたが、それ以外は事例に関する評価や事実関係に関する質問であった。特にロシアの
位置づけや OSCE との関係などの質問や意見が多かった。また富樫報告の分析枠組みで松
嵜報告の事例を説明せよという極めて重要な質問が提起され、報告者はこれに取り組んだ。
松嵜報告に対しては、主に三つの問題提起がなされた。第一は、仲介者連合の概念の有
用性である。例えば、どの時期まで仲介者連合は機能し、報告の分析時期以降、変容して
いないかである。これに対して、仲介者連合の用語は、連合内の対立の諸相を見えにくく
する欠点は存在するが、紛争再発という最悪の事態は防いでおり、ロシアと OSCE を含む
協調的な管理体制として機能していると答えた。そして、5+2 の和平プロセスに見られるよ
うに、分析時期以降、米国と EU が仲介者連合に加わり、その機能については今後の課題
としたいと述べた。第二は、ウクライナ情勢に関するインプリケーションである。これに
対しては、沿ドニエストル紛争は凍結しており、それを考察することは、秩序維持や地域
の安定化を考える上で有益であるとした。第三は、ロシアの位置づけである。報告者は、
再発防止という点で、ロシアと欧米諸国の利害は一致しており、仲介者連合に見られるよ
うに、ロシアと欧米諸国の紛争への関与は連動しているとした。湯浅先生からは、タジキ
スタンの事例においても同様の事象は見られており、旧ソ連の紛争研究に対する発展可能
性が指摘された。
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ワークショップの成果
本企画の最大の成果は、
「地域大国」の存在を理論的に導き出す可能性を示した点であろ
う。ある程度、3 報告の間で一貫性を示したことは、今後の共同研究に繋がると考えられる。
加えて、当初想定していたよりも、遥かに多くの方が来場したことからも、このテーマを
進展させていく必要性を強く感じた。
(以下の項目を、英語 200~300words で)
ワークショップタイトル:
How International Society Commit to Regional Conflict?: As a Case Study of Post-Soviet
Regions
テーマ・テーマの問い:How International Society Commit to Regional Conflict?
主要な発表者の議論:
This workshop composed of three presenters. First, Nagafumi Nakamura (Tokyo
University Graduate School) focusing on international system after cold war, talked
about relations between failure of peace policy and international system. He concluded
that two patterns exist in peace policy that is collisions of policy and too little policy. And
why this patterns occurred? He pointed that unevenly distributed of power and ubiquity
of molality. Second, Kosuke Togashi (Tokyo University, Research Fellow of Japan
Society for Promotion of Science PD) focusing on OSCE as case study of Chechnya and
Nagorno-Karabakh, talked about Success of mediation under the Conditions that
international society a little commit to the regional conflicts. He concluded if external
actors commit to regional conflicts actively, peace process doesn’t collapse. Finally,
Hideya Matsuzaki (Sophia University Graduate School) focusing on Mediator coalitions
(Russia, Ukraine, OSCE) as a case study of Transniatria, talked about relations
between existence of Unrecognized States and peace process. He concluded that
Mediator Coalitions committed to Transnistria through peace negotiations. And this
negotiations are long-lasting. However perception of the dispute parties to territories
has not changed although they agree the deeper mutual relationship throughout
negotiation.It means that negotiations for the settlement of Transnistria’s problem
strengthen the sustainability of frozen conflict.
ワークショップの成果、結論、議論のまとめ:
The most achievements of this workshop are the following thing. We show possibility of
Regional Power in regional conflicts. How the role of regional power in regional conflicts
positions under the context of international relations theoretically? This question is our
task.
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