市民公開セミナー『脆弱な巨大炭素貯蔵庫-熱帯泥炭林

北海道大学 サステナビリティ・ウィーク 2015
市民公開セミナー『脆弱な巨大炭素貯蔵庫-熱帯泥炭林-を監視する』
開催日時:2015 年 11 月 3 日(火・祝) 13:00~15:30
会場: 北海道大学 学術交流会館(正門隣の建物) 第一会議室
対象:大学生・院生・一般市民・高校生
主催:大学院農学研究院
共催:環境省環境研究総合推進費(2-1504)、Wetland セミナー
後援:JapanFlux、日本泥炭地学会
発表タイトルと発表者
1. 熱帯泥炭林とは?(イントロダクションに代えて)
(北海道大学 大学院農学研究院 教授 平野 高司)
2. 環境変化と連動した泥炭のダイナミックな変動
(同上 講師 山田浩之)
3. 熱帯泥炭から出てくる温室効果気体を測る
(同上 博士研究員 沖元洋介)
4. 宇宙から熱帯泥炭林を精密検査する〜人工衛星だいち 2 号による観測〜
(宇宙航空研究開発機構・地球観測研究センター 研究員 本岡毅)
5. 熱帯林の二酸化炭素吸収量の変化~気候変動と土地利用変化の影響~
(国立環境研究所 地球環境研究センター 主任研究員 平田竜一)
各発表の概要
1. 熱帯泥炭林とは?(イントロダクションに代えて)
東南アジアには広大な面積の熱帯泥炭林が広がり、膨大な量の炭素を土壌(泥炭)中に蓄
積してきました。 しかし、近年の森林伐採や農地開発などにより、泥炭の分解が進むととも
に泥炭の火災が増加し、熱帯泥炭林から大量の二酸化炭素(温室効果気体)が排出される
可能性が高くなってきました。地球温暖化を緩和するためには、「熱帯泥炭林」を保全するこ
とが非常に大切になっています。本セミナーでは、熱帯泥炭林の保全を目指して「監視」を行
っている研究者が、最新の研究成果をもとに熱帯泥炭林の今と未来についてわかりやすく解
説します。
2. 環境変化と連動した泥炭のダイナミックな変動
泥炭地とは,数千年かけて枯死した植物が堆積してできた泥炭の広がる地域を指します。
その泥炭の堆積の速さは,年間で数ミリセンチメートルであると言われており,非常に微小で
はありますが,その地表面は堆積によって徐々に上昇しています。また,その地表面は季節
的に上下に動き,恰も息をしているように動いていており,その現象はボッグの呼吸と呼ばれ
ています。この季節的な動きには,雨や地下から供給される水の動き,乾燥季に生じる収縮
北海道大学 サステナビリティ・ウィーク 2015
や微生物による分解,地下のガスの動きが関与していると考えらえています。ここでは,その
泥炭地の形成過程や地表面の動きに関する既往の知見とフィールドでの測定事例を紹介し,
地球温暖化や泥炭地周辺での排水事業が泥炭地の形成や変動に及ぼす影響について解説
します。
3. 熱帯泥炭から出てくる温室効果気体を測る
近年、マレーシアやインドネシアではオイルパームやアカシア等、農地開発を含めた熱帯
泥炭地の土地利用が急速に広がっています。泥炭地の土地開発は排水路の形成による地
下水位の低下で進められ、それによる土地の乾燥化は泥炭有機物の分解(CO2 排出)を促進
させ、泥炭火災の発生要因ともなります。熱帯泥炭林は巨大な CO2 排出源(ホットスポット)と
して国際的な注目を集め、地球温暖化抑制の観点から、泥炭地の土地利用変化にともなう
温室効果気体の定量化が強く求められています。私たちは熱帯泥炭地からの CO2 やメタン
(CH4)の排出量を測定し、地盤沈下量や周辺の環境要因(地下水位、地温)との関係を調査
しています。ボルネオ島各地で実施している現地調査の様子と合わせ、熱帯泥炭における温
室効果気体の動向をご紹介いたします。
4. 宇宙から熱帯泥炭林を精密検査する〜人工衛星だいち 2 号による観測〜
だいち 2 号は、災害や地球環境の変化を観測するための、日本の人工衛星です。地球を高
度 600km で周回しながら、L バンド合成開口レーダ(PALSAR-2)という日本独自のセンサを使
って地表を観測することで、広大な範囲の高解像度画像を定期的に得ることができます。
PALSAR-2 は、他の衛星観測には無い役立つ特徴を持ち、雲や雨を透過して地面を観測す
ることができたり、地面の動きを数 cm の精度で測ることができたりします。これらの特徴は、
頻繁に雲に覆われ、時々刻々と変化する熱帯泥炭林を監視するのに役立ちます。ここでは、
人工衛星だいち 2 号の観測の仕組みや特徴について解説しながら、熱帯泥炭林の監視に関
する最新の研究について紹介します。
5. 熱帯林の二酸化炭素吸収量の変化~気候変動と土地利用変化の影響~
森林では光合成による二酸化炭素(CO2)の吸収と、植物呼吸や土壌、枯死木の分解による
CO2 の放出が行われており、そのバランスによって正味に吸収・放出する CO2 の量が決まり
ます。森林が吸収・放出する CO2 は年々の気象要素の変動と共に変化します。また、森林伐
採などの土地利用変化や森林火災により、多くの熱帯林の失われ、大量の CO2 が放出され
ています。長期間の気候変動に対する CO2 の吸収・放出量の変化や広域の吸収・放出量の
分布を知るために有効な方法の一つに数値シミュレーションという手法があります。今回は気
候変動や土地利用変化によって広域の CO2 の吸収・放出量がどのように変化しているのかを
主にボルネオ島を対象としてご紹介いたします。
以上