BH の直接観測の理論整備 —— 相対論的な意味で BH 観測とは? —— 斉田浩見(大同大学) 第 8 回 BH 磁気圏研究会 at 広島大学, 2015.3.2–4 – Typeset by FoilTEX – 1 1. 導入:BH を見たい 1.1 BH シャドウ • 視覚的な直観に 訴える観測 → BH シャドウ 幾何光学近似 ← で描いた画像 見えたら楽しいし,画像としてインパクトあり。 → 撮像が現実味を帯びてきたらしいので, 『BH 直接観測』を相対論的に (再) 検討しよう。 – Typeset by FoilTEX – 2 • BH シャドウ → 物理的には BH の吸収断面積 • BH シャドウ輪郭は光の不安定円軌道で決まる! → BH 地平面なしでも光の不安定円軌道があれば, 疑似 BH シャドウが見える可能性あり! BH shadow is associated with this ! Unstable Circular Orbit of Null ray (UCON) BH source – Typeset by FoilTEX – Telescope 3 ⇓ シャドウ撮像における原理的な留意点 シャドウの撮像が一般相対論的な意味で直接的に 示すことは, ◦ 光の不安定円軌道の存在であり, ◦ BH 地平面の存在ではない。 一般相対論の枠組みで, 『疑似 BH シャドウを生成 できる天体』が理論的に存在し得ることに注意。 坂井・斉田・玉置,Phys.Rev.D90 (2014) 104013 藤澤・斉田・柳・南部,Class.Quant.Grav. to appear – Typeset by FoilTEX – 4 1.2 論点 • 以下,次の 2 つを議論する: (A) シャドウの撮像はどの程度, BH 存在の証拠となり得るか? (B) 相対論的に『BH 直接観測』とは何なのか? – 『BH 直接観測』の相対論的な定義は? – 何を持って『BH 存在は確かだ』と言えるか? → さらに,今進めているアイデア・計算の報告 – Typeset by FoilTEX – 5 2. BH とシャドウ 2.1 BH 疑似天体 • BH 疑似天体(共通認識ではないかも · · · 斉田の定義) 光の不安定円軌道を持つが BH 地平面は持たないようなコンパクト天体 → BH 疑似天体が自ら放射を出さなければ, BH と同じシャドウを生成するこが可能。 • 理論の課題:BH 疑似天体の存在/非存在条件 を明らかにすること – Typeset by FoilTEX – 6 • 球対称な完全流体球について分かっていること: [ 藤澤・斉田・柳・南部,Class.Quant.Grav. to appear ] 仮定:時空と物質の形状 → 球対称・静的 物質状態 → 完全流体・順圧な状態方程式 かつ 音速 ≤ 光速 ⇒ 流体球の質量:M∗,半径:R∗ として, 半径 R 以下: ∗ Einstein 方程式で決まる流体の平衡状態。 半径 R 以上: ∗ Schwarschild 時空の R∗ 以上と同じ。 中心密度,G , c で無次元化して · · · – Typeset by FoilTEX – 7 ⇒ 3M∗ < R∗ ( ) 1 M∗ < ⇔ R∗ 3 が成り立つか? (Schwarzschild 時空の光の不安定円軌道:半径 R∗ = 3M∗ ) M*/R* 結論: 3/8 各 Pc での 0.3 1/3 1/4 0.2 M∗ 最大値 0.1 M__*= f(Pc) R* R∗ 0 0.2 0.4 中心圧力 1 10 Pc : 0 2 中心密度 c -1 10 0.6 smooth M*/R* curve 0.38 1/3 0.34 0.8 -6 -6 3/8 0.838605 Pc 1.0 0.30 f(Pc) 0.26 1/4 Pc 0.985 0.990 0.995 1.000 differential of f(Pc) Pc f(Pc+δ) - f(Pc-δ) _____________ δ (δ =10-6) 0.838606 今の仮定の下では,BH 疑似天体が存在し得る! – Typeset by FoilTEX – 8 2.2 ポリトロープ球の場合 • 発想:先の仮定に加えて · · · 状態方程式をポリトロープに限定するとどうか? P (Σ) = Pc Σ 1+1/n (中心密度で無次元化) { P c Σ n Nilsson-Uggla(2001): n < 5 で M∗ と R∗ は – Typeset by FoilTEX – : 中心圧力 : 質量密度 0 < Σ ≤ 1 : ポリトロープ指標 almost of all 有限値。 9 結論: 斉田・藤澤・柳・南部 — will be submitted to CQG 3M* contours of ____ R* 5.5 中心音速 Vc : 光速 √ ( ) 1 = Pc 1 + n 5 0.1 0.15 光の不安定円軌道は 3M∗ 現れない! <1 R ∗ ( ) ⇔ 3M∗ < R∗ 0.001 0.01 valley 0.05 4 3 n 2 0.8 1 0 0.85 1.0 0 0.2 0.6 1.0 1.4 Vc – Typeset by FoilTEX – 10 2.3 理解の現状 BH 疑似天体の存在/非存在条件 ポリトロープがコンパクト天体の状態方程式とし て良いモデルであれば,BH 疑似天体は存在しない (BH シャドウ撮像は BH 存在の良い証拠)と考え てよさそう。 { 他の状態方程式 などの評価は, 自転する BH 疑似天体 今後の研究が必要。 – Typeset by FoilTEX – 11 3. BH 直接観測の相対論的な定義 そもそも,BH 直接観測とはどういうことか? 3.1 BH 時空の剛性定理と一意性定理 BH 地平面の剛性定理 BH 地平面の回転角速度は「緯度」や「経度」によ らず一定である。つまり,BH 地平面の回転は剛体 回転である。 ⇓ – Typeset by FoilTEX – 12 ⇓ BH 時空の一意性定理 BH 時空(の形)は,次の 3 つのパラメータだけで 一意的に決まる(適切な仮定の下で)。 M : 質量 J : 自転の角運動量 Q : 電荷 以下 Q = 0 とする。 – Typeset by FoilTEX – 13 3.2 BH 直接観測の定義 • { BH は相対論的な存在 BH 時空の一意性定理 を踏まえた定義: BH 直接観測 BH の曲がった時空の効果を直接観測して, M :質量 J ) a :自転パラメータ ( a := Mc を測定することが,BH の直接観測である。 ⇓ BH 疑似天体の可能性を踏まえると · · · – Typeset by FoilTEX – 14 ⇓ • BH 疑似天体の可能性を踏まえると · · · 様々な手法を用意して多角的に観測することで, BH 疑似天体の可能性を潰しつつ, 『BH 直接観測』 を実現することが望まれる。 様々な手法 · · · ◦ BH シャドウ ◦ 鉄輝線 ◦ QPO? – Typeset by FoilTEX – · · · 他はないのか? 15 4. 一つの望遠鏡で BH 直接観測 4.1 どうしたいか? • BH シャドウ → VLBI 観測で写真を撮る 強み:視覚的に強いインパクト { 複数の電波望遠鏡が必要になる。 弱点: 現実的には時間平均した画像になる。 この強みと弱点を逆にすることを考えよう – Typeset by FoilTEX – 16 4.2 基本アイデア • 注目する相対論効果:強い重力レンズ効果 • 観測したい状況: BH 周辺は光源以外クリアな環境 光源から見て等方バースト的な発光 source BH W0 earth W0:0 巡光 W1:1 巡光 W1 ⇓ この設定で · · · – Typeset by FoilTEX – 17 ⇓ BH 直接観測の基本アイデア ∆tobs :検出時間の差 W0,W1 の : E1 二つの観測量 Eobs = :検出電場の振幅比 E0 から,BH 質量 M ,自転パラメータ a を得る。 source BH W0 earth W1 – Typeset by FoilTEX – 18 4.3 例:ガウス型波形の放射 • Gouy phase shift が顕著に見える E0 1 0.8 0.6 W0 -0.5 0.4 oscillation of observed wave at ONE telescope E __1 Hilbert Trans. of W 0 tobs − ∆tobs E0 0.4 0.2 0 0.2 0.5 0.5 tobs -1.0 – Typeset by FoilTEX – 4 2 -2 -4 -0.2 source BH 1.0 -0.5 ∆tobs Zenginoglu &Galley PRD86(2012)064030 , YouTube E1 W1 W0 10 20 W1 earth 19 • Gouy Phase Shift:波動光学の一般論 光線が火面 (caustic) を通過するごとに, 波の位相がずれる。 BH → 次ページ caustic ex. non-rotating BH 火面(光線が交差する位置の集合)では幾何光学 近似が破たん。波数による摂動展開の次数を上げ て位相を計算すると分かる。 – Typeset by FoilTEX – 20 ⇓ 光線が火面 caustic を 1 回通過する毎に, π 正周波数 Fourier 成分:位相が − ずれる。 2 π 負周波数 Fourier 成分:位相が + ずれる。 2 数学的には Hilbert 変換で表現可: ∫ ∞ f (z) dz H[f ](t) ∝ Re t−z −∞ 注意:スペクトルは変わらない – Typeset by FoilTEX – 21 • 一つのフーリエ成分に注目 Eobs Oscillation of observed wave at ONE telescope Τ0 Τ 1 ∆E obs tobs W0 { W1 ∆tobs ∆tobs , ∆Eobs :BH の強い重力レンズ効果 T0 6= T1 – Typeset by FoilTEX – :光源速度のドップラー効果 ⇓ 22 ⇓ 求めるべきパラメータが 3 つ(以上)だった! M : BH 質量 a : BH 自転パラメータ T0 − T1 : 光源速度 → きっと,光源の位置の依存性もある? BH 物理量(M , a)だけでなく,光源運動(位置, 速度)の依存性も考慮して,BH 直接観測の戦略を 練らなければならない。 – Typeset by FoilTEX – 23 4.4 一人時間差相関 1 Step1: データコピー:A, B 0.8 0.6 Step2: データ B の変調 Hilbert 変換 定数倍(Eobs) ドップラー効果補正 Step3: A と B の相関評価 E original data (A) 0.4 0.2 W0 W1 1 0.2 2 tobs 3 strong corelation W1 tobs W0 1 2 3 相関を得るまで 2,3 繰返し -0.2 modulated data (B) → W0 , W1 が見つかり,∆tobs , Eobs , T1/T0 を得る – Typeset by FoilTEX – 24 4.5 計算中 光源の位置,速度 • 前提 光源のスペクトル 観測者から BH の見込み角,観測周波数 を与えて, 対応表:M , a ↔ Eobs , ∆tobs を計算したい。 ↓ – Typeset by FoilTEX – 25 ↓ こんな図を描きたい εobs M a εobs(a,M) = 1 a = (cJ)/(GM) [g] ∆tobs(a,M) ∆tobs by definition : εobs < 1 , 0 < ∆tobs , a < M M • 前提条件の値を振ることで,観測量が光源の位置 へどう依存するかも確認できる。 – Typeset by FoilTEX – 26 • 数値計算のハードル:W0 , W1 を如何に得るか? 時間を遡る ray tracing ではなく, 光源から出る光の測地線方程式を 未来方向に解いてデータを計算。 斉田の PC(CPU 2.6GHz , メモリ 16GB)で 47 時間の数値探査結果(計算中も業務的使用を並行) → 2 時間の計算時間で得られる結果と あまり変わらなかった · · · 計算方法をさらに工夫する必要あり。 – Typeset by FoilTEX – 27 5. まとめ • 『BH 直接観測』の定義は 『曲がった時空の効果 の直接検出で M と a を測ること』 • 強い重力レンズ効果が直接示すことは, BH 地平面でなく光の不安定円軌道の存在。 • 一般相対論的に,BH 疑似天体の 存在可能性が潰せ切れていない。 • BH 疑似天体の可能性を潰していく原理の提示と, それを踏まえた観測を計画する必要あり。 – Typeset by FoilTEX – 28
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