不当要求ケーススタディ 不当要求ケーススタディ

H27.
不当要求ケーススタディ
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愛知県弁護士会
民事介入暴力対策委員会
弁護士
高岡
伸匡
はじめに
商品を製造・販売することを事業とする会社にとって、商品の不備をいかになくす
かは至上命題です。
インターネットの普及により、消費者が容易に情報発信できる環境が整った現在、
商品の不備が発生した場合、不正確な情報の拡散を防ぐことも含め、どのように対応
すべきか迷うこともあります。
このような状況を利用し、消費者被害を装って不当な利益を得ようと試みる者も出
てきます。
ある事例を通じて、とるべき対応策について検討してみましょう。
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事例
A社は、パン類の製造・販売を目的とする株式会社です。月間150万食の食パン
等を製造し、製造当日に取引先にパンを納入しています。
あるとき、A社製造の食パンの中に金属片が混入していたとして、食パンを買ったX
さんからクレームの連絡がありました。
Xさんは、○○消費者経済研究所 品質管理部門研究員という肩書きのついた名刺
を出し、A社の担当者に対し、誠意ある対応を求めています。
A社としては、どのように対応したら良いでしょうか。
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対応策
(1)まずは正確な事実の把握を
このような場合、まずは正確な事実を調査することが肝心です。
そもそも、本当にパンに金属片が混入していたのか、それともXさんがそう言い
張っているだけなのかを明らかにするため、商品の現物を確認することがスタート
ラインとなります。
仮に、Xさんが理由をつけて現物を提示しないようであれば、Xさんの言い分は単
なる言いがかりの可能性が高いので、現物を確認できなければ混入の事実自体が確
認できないため、対応することはできない旨を伝える必要があります。
(2)製造・搬送のプロセスでの混入の可能性を検証
Xさんが現物を提示した場合には、現物の状態を詳細に観察・分析する必要があ
ります。
どのような形状・大きさ・材質の金属片が、パンのどの部位・範囲に混入してい
たのかを確認した上で、そのような金属片が製造過程で混入する可能性がどの程度
あるのか、可能性が低い場合には、商品が店頭に並ぶまで・並んでから何者かが混
入させる可能性はないかを調査します。
会社としての姿勢を明確にするためにも、徹底的に調査する旨をXさんに伝え、
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そのためにはXさんの協力が必要であることから、調査に協力するよう要請しま
しょう。
仮に、Xさんの言い分が単なる言いがかりである場合には、このような要請をし
た段階で、それ以上の要求をしてこなくなる場合もあります。
また、Xさんが調査への協力に応じることなく「誠意ある対応」を要求する場合
には、事実関係が明らかにならない限り、交渉に応じることはできない旨を、会社
の方針として伝えることが大切です。
(3)損害の内容についても正確な調査を
パンが工場から出荷される前に金属片が混入したことが推認される場合には、製
造物責任法上の責任の存否について検討する必要があります。
同法第3条によれば、引き渡した物の欠陥によって他人の生命、身体または財産
が侵害された場合に、その物の製造者等に損害賠償責任が生じるとされています。
もっとも、責任を負うのは、あくまでもXさんに実際の損害が発生している場合
に限られます。
そこで、損害を明らかにするため、資料の提出をXさんに求めます。
たとえば、金属片で口の中を切ったというのであれば、病院の診断書や治療費の
領収書の提出を求め、怪我の有無とその治療に要した金額を明らかにします。
パンに金属片が混入していたのを見つけたにとどまるのであれば、パンの購入代
金以外にXさんに損害が発生したとはいえないので、パンの購入代金相当額を賠償
すれば足りることになります。
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まとめ
このようなケースにおいては、「正確な事実の把握」、「実際に生じた損害の内容
と金額」を根拠に基づいて明らかにすることが大切です。
調査の手間を惜しみ、事案の揉み消しに応じるような態度をとると、同種クレーム
の標的になる可能性があるので、毅然とした態度で対応することが肝要です。
以上
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