IoT デバイスのための電磁界シミュレーション

2PM-E01
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
IoT デバイスのための電磁界シミュレーション
株式会社エーイーティー
1.はじめに
近年 IoT 市場は急速に拡大しておりその応用は広
範多岐にわたります。
IoT システムを創るデバイスの開発設計に電磁界解
析技術を活用するのは非常に効果的です。なぜなら、
電磁界解析技術に基づく電磁界シミュレーションに
よって、デバイスの三次元構造に起因する電磁気特
性を直接的に求めることができるからです。
ここでは、IoT 応用とそれを支えるテクノロジーを
体系化した後に、IoT デバイスの電磁界シミュレー
ションの例をご紹介して電磁界解析技術の有効性を
示します。
2.IoT 応用とそれを支えるテクノロジー
IoT(Internet of Things)は、モノのインターネ
ットと訳されます。モノをインターネットにつなぐ
ことで、離れたモノの状態を知ること、離れたモノ
を操作することが可能になります。
IoT システムは黎明期にあり、ヘルスケア/メディ
カル・自動車・農業・家電・製造業・インフラなど、
様々な業界での応用に向けて計り知れない可能性を
秘めています。
IoT 応用について代表的な業界別に分類整理すると
以下のように体系化されます。
・ヘルスケア/メディカル
・ITS
・ICT 活用農業
・スマートホーム
・インダストリ 4.0(製造システム)
・社会基盤の保全
これらに適用される IoT システムを創るデバイスに
は、生体情報を取得できるウェアラブル、インター
ネットに常時接続したクルマであるコネクティッド
カー、照明やエアコンといったスマート家電、など
があります。IoT によって通信機能をもつモノの状
態をインターネット経由で監視したり制御したりす
ることで、安全で快適な生活が実現されます。
このような IoT デバイスを支えるテクノロジーに
は以下のようなものがあります。
・センサ
温度・湿度・照度などの環境モニター、衝撃・
振動・移動などのモーションモニター、存在検
知・通過検知・接近検知などの位置モニター、
に代表されるセンサによってモノの状態を監
視。
・ワイヤレスネットワーク
Wi-Fi・Bluetooth・ZigBee・NFC などの無線
方式で、モノとインターネットを物理的に接続。
・電力供給
電磁誘導方式や磁界共鳴方式によるワイヤレス
給電、エナジーハーベスト。
・クラウド
田原 啓輔
多数のモノから取得した膨大な情報やその蓄
積に対して解析リソースを提供。ビッグデータ
解析の技術を用いて適切なデータ加工・分析を
実現。
3.IoT デバイスと電磁界シミュレーション
IoT システムにおいては、屋内外・周囲環境を問
わず、ありとあらゆる場所にセンサやスマートデバ
イスが設置され使用されます。また、人体に装着さ
れるウェアラブルデバイスのように伸縮屈曲して使
用されるものもあります。
このように、IoT デバイスの開発設計ではあらゆる
使用環境条件を三次元的に想定する必要があり、プ
ロトタイプによる評価を繰り返します。また、材料
公差や製造誤差が性能に与える影響なども考慮する
必要があり、これについてもプロトタイプによる評
価を繰り返します。
これらの開発設計課題に対して、電磁界シミュレー
ションを活用するのは非常に効果的です。
電磁界シミュレーションでは、周囲空間を含む IoT
デバイスの三次元構造に起因する電磁気特性を直接
的に求めることができます。
また、設計パラメータを容易に変更できるので、設
計パラメータごとに物理的なプロトタイプを作製し
なくてもシミュレーションモデル(仮想プロトタイ
プ)による仮想試験の繰り返しが容易であり、パラ
メトリック解析による最適化も可能です。電磁界シ
ミュレーションを活用することで、費用がかかる実
モデルを使ったプロトタイプサイクルを短縮できま
す。
最後に、電磁界シミュレーションの一つの大きな
特徴として、電磁界分布の可視化があります。これ
によって、デバイスの物理構造に起因する現象や本
質的な振る舞いに対する洞察力をもたらします。
図1
人体を含むウェアラブルデバイスの
電磁界シミュレーションの例
2PM-E02
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
低周波のシールド効果における電磁界シミュレーションの検討
神奈川県産業技術センター 電子技術部
○原 孝彦、志賀 裕介
企画部
1 はじめに
近年、情報通信機器から発生する高周波ノイズや、
太陽光発電用のインバータ・電気自動車等から発生す
る低周波ノイズが問題になっており、これに対応する
電磁波シールド評価技術が必要不可欠となってきてい
る。しかし、実際にシールド材を開発しても測定のた
めの十分なサンプルサイズを確保するのが難しい場合
があり、このような場合は電磁界シミュレーションに
よる評価が有効と考えられる。本研究では低周波ノイ
ズに着目し、多数の円孔を開けた銅箔プリント基板に
ついて、電磁波シールド効果の測定方法として広く用
いられている KEC 法により測定した値と電磁界シミ
ュレーションによる解析結果を比較することで、シミ
ュレーションによるシールド評価の有効性について検
討を行った。
2 実験方法
本研究で評価対象にしたのは、多数の円孔を開けた銅
箔プリント基板(円孔の直径 6.0 mm、ピッチ 10 mm、
銅箔厚さ 0.035 mm)である。
シールド効果の測定方法としては、実際に広く用いら
れている KEC 法を採用し、100 kHz~10 MHz までの
電界と磁界のシールド効果を測定した。図 1 に KEC 法
(磁界シールド効果)の測定原理図を示す。
シミュレーションには、有限要素法を用いたムラタソ
フトウェア(株) の Femtet(Ver.2014)を使用した。解
析には電場解析ソルバーと磁場解析ソルバーを用い、周
波数範囲は 100 kHz~10 MHz とした。解析モデルは
KEC 法の測定治具を考慮して作成し、サンプル部分は
銅箔に実際の大きさの孔を開けたモデルとした。なお、
導電率は 5.8×107 S/m とした。
3 結果
電界シールド効果についての KEC 法による測定値と
Femtet による電磁界シミュレーションの結果を図 2 に
示す。電界については、測定値とシミュレーションがほ
ぼ一致していることがわかる。
同様に、磁界シールド効果についての結果を図 3 に示
す。磁界については、高周波になるほど測定値とシミュ
レーションの差が大きくなり、最大で 8 dB 程度の差が
見られたため、実用化には課題が残った。そのため、本
来は高周波向けの電磁波解析ソルバー(サンプル部分は
薄膜モデル)にて同じ周波数範囲の解析を試みたので、
その結果を図 3 に示す。磁場解析ソルバーと比較して測
定値との差が小さくなり、また傾向としてもほぼ一致す
る結果となった。
臼井 亮
4 おわりに
本研究では、電界・磁界シールド効果の測定方法とし
て KEC 法を用い、Femtet によるシミュレーションと
の比較・検討を行った。今後は、課題が残った磁場解析
ソルバーでの解析について、解析モデルの改善等も含め
てさらなる検討を進める予定である。
図 1 KEC 法の測定原理図(磁界シールド)
図 2 比較結果(電界)
図 3 比較結果(磁界)
2PM-E03
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
プリント基板の厚みによる不要輻射への影響
○土屋
1. はじめに
近年、ノートパソコンや携帯電話など情報通信機器は
小型化し、
それに伴い電子部品等の実装空間は狭くなり、
実装空間を有効に利用できる技術が求められている。こ
れに対してプリント基板では多層化基板や基板厚 0.1
mm と薄く、屈曲性を有するフレキシブルプリント基板
(FPC)が利用されている.このように新たな技術が開
発されているが、電子部品は狭い実装空間に隣接するた
め互いの不要輻射による誤動作が懸念されている。そこ
で、薄型化したプリント基板からの不要輻射について検
討するため、厚さの異なる基板上に作製したマイクロス
トリップ線路(MSL)から放射される不要輻射について電
磁界解析を行った。
2. 解析方法
プリント基板上に作製した MSL からの不要輻射の電
磁界解析方法について述べる。本解析には CST 社の
MW-STUDIO を用いた。ここで、解析した MSL を図 1
に示す。実際に測定する場合を想定し、MSL は線路の
両端部分に SMA 同軸コネクタを付け、片側コネクタよ
り 1mW を給電し、もう片側のコネクタは 50 Ωで終端
している。
このMSLの基板厚d を1.6 mmから0.05 mm
まで変化させた。基板厚毎に特性インピーダンスが
50 Ωとなるように線路幅は設計している。
解析条件を図 2 に示す。実際に情報通信機器からの放
射ノイズの測定方法を定めた国際規格 CISPR22 を参照
として、MSL と同一平面上 3 m の位置に 5°毎に水平
偏波を受信可能な電界プローブを設置し、その各プロー
ブにおける値から、最大となる放射電界強度を求めた。
3. 解析結果
異なる基板厚の MSL の放射電界強度の周波数特性を
図 3 に示す。全ての基板の放射電界強度は周波数が上昇
するとともに増加していることがわかる。各基板につい
て比較すると、FPC で利用されている基板厚 0.05 mm
の MSL の放射電界強度は両面基板に利用されている基
板厚 1.6 mm に比べ 1 GHz において 26 dB、6 GHz に
おいて 16 dB 弱くなった。このように MSL の最大放射
電界強度は基板厚が薄くなるに従って減少した。
4. まとめ
薄型化したプリント基板からの不要輻射について検討
するため、異なる厚さの基板上に作製したマイクロスト
リップ線路(MSL)からの不要輻射について電磁界解析を
行った。その結果、基板厚 0.05 mm の MSL の放射電磁
界強度は基板厚 1.6 mm に比べ 1 GHz で 20 dB 以上弱
くなることを確認した。
明久
図 1 MSL
図 2 解析条件
100
E-field [dBV/m]
神奈川県産業技術センター 電子技術部
80
60
40
d=0.05mm
d=0.4mm
d=0.8mm
d=1.6mm
20
0
0
1
2
3
4
Frequency [GHz]
5
図 3 各基板厚 d に対する放射電磁界
6
2PM-E04
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
電子システムチームにおける支援及び取り組みについて
神奈川県産業技術センター 電子技術部
○志賀 裕介、井上 崇
1.はじめに
我々、電子技術部電子システムチームでは主に電気的安全性試験及び環境試験を担当しています。今回は、当セン
ターにおける電気的安全性試験及び環境試験による支援、並びに現在の取り組み内容について紹介いたします。
2.電気的安全性試験について
表1
登録を受けた試験区分
電気機器では、電撃事故を防止するために電気的安全性
を確保する必要があります。この電気的安全性を確認する
試験方法の区分の名称
日本工業規格
ため、当センターでは消費電力、保護接地抵抗、漏れ電流、
JIS C6950-1の5.1、5.2
耐電圧、絶縁抵抗等の電気的安全性試験を実施しています。
絶縁試験
JIS T 0601-1:1999の20
これらの試験に際し、より信頼性の高い試験データを提供
JIS C 6950-1の1.6.2
するため、当センターは試験所及び校正機関の能力に関す
電気応用機器電気的特性
JIS T 0601-1:1999の7
る一般的要求事項を定めた国際規格であるISO/IEC17025
JIS C 6950-1の2.6.3.4
に適合し、日本工業規格(JIS)で規定される試験を実施する
外観・構造
JIS T 0601-1:1999の18.f)
能力を持つ試験事業者として登録されています。表1に登
録を受けた試験区分を示します。
3.環境試験について
世の中に出回る多くの製品は様々な環境下で使用されています。環境試験とは、製品に対して熱や湿度などのスト
レス、時間的な劣化を促進させることで、不具合を洗い出し、信頼性・耐久性の確保に必要となる試験です。環境試
験を行う装置として、平成 25 年度にエスペック社製の恒温恒湿槽(PSL-4J)及び冷熱サイクル試験機(TSA-102ES)が
新規に導入されました。これにより、当センターでは、室内容量 800L 及び 306L の恒温恒湿槽各 2 台、300℃までの
高温槽 1 台、冷熱サイクル試験機 2 台、プレッシャークッカー試験機 2 台という体制で試験を実施しています。各環
境試験機の仕様を表 2 に示します。
表 2 環境試験機
装置名
型名
PSL-4J
PSL-4GP
PSL-2KP
高温槽
PHH-102M
冷熱サイクル試験機
TSA-102ES
ES-106LH
プレッシャークッカー TPC-411、TPC-412
試験機
恒温恒湿槽
制御範囲
試料室内寸法 [ cm ]
-70℃~150℃/20~98%RH
-70℃~100℃/20~98%RH
-70℃~100℃/20~98%RH
室温+20℃~300℃
高温側) 60℃~200℃
低温側) -70℃~0℃
105℃~162.2℃/75%~100%Rh
W100×H100×D80
W100×H100×D80
W60×H85×D60
W40×H45×D45
W60×H46×D37
W40×H46×D48
Φ29.5×D30
4.その他の取り組み内容について
ドイツ政府が主導し、製造業の革新を行うIndustry 4.0に代表されるように、IoT(Internet of Things)がここ数年で
注目が集まっています。IoTは様々なモノがインターネットに接続することで、様々な場所でそのモノの情報を収集し
活用することができるため、今後大きく普及されることが予測されています。我々はIoTにまつわる技術動向調査を行
い,センサネットワークシステムを構築するための必要な技術の基礎的検討を行っています。
また、 (独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施している「インフラ維持管理・更新等の社会課
題対応システム開発プロジェクト」の一つである「複合センサ搭載ワーム型多関節ロボットの研究開発」を県内企業
及び大学と共同で進めています。このロボットは防爆型であり、トンネル火災等の災害現場において、可燃性ガス検
知及び状況把握を確実に行うために使用されることを想定しています。
5.おわりに
今回、代表的な内容を紹介してきましたが、今後も各種試験の実施、技術相談などを通じ、お客様に貢献していき
たいと考えておりますので、皆様のご利用をお待ちしております。