企業の海外進出におけるグローバル・ブランディング戦略 ~標準化と適応化

『企業の海外進出におけるグロー
バル・ブランディング戦略』
~標準化と適応化~
枚数:21 枚
指導教員名:水越康介
学修番号:07159169
氏名:張
碩
目次
序章
第一章
ブランドとは
1節
ブランドの概念、定義
2節
ブランドの機能、価値とその重要性
第二章
グローバル・ブランディング戦略
1節
グローバルブランディング
2節
地域ブランディング
第三章
グローバル市場参入戦略の策定
第四章
グローバル・マーケティング・プログラムのデザイン
1節
標準化対適応化
2節
標準化と適応化の融合
3節
標準化要素と適応化要素
終章
まとめ
序章
第二次大戦後、近代国際経済が本格的に幕を開けた。丸谷(1997)によると、まず
初めに、アメリカが世界の経済活動を牽引し、世界の 100 大企業のほとんどが米国企
業であった。しかし、1980 年代になると、アメリカ企業の優位が崩れ、欧州企業が 45
社と拮抗した。
(丸谷,1997,p.6)その後、アジア諸国が急成長を果たしてグローバル
化の波に乗り、
「海外で新事業展開」や「現地企業と共同出資」などといったニュース記事
を私たちは目にする機会が多くなった。そして現在、先進諸国市場の飽和と新興市場の
台頭によって世界中の企業が国境や業界を超えて地球的規模で競争をしている。
実際に、企業ホームページの IR・投資家向け情報の経営計画を見てみると、膨大な数の
企業が、自社の商品を世界中の消費者に広め、販売したいと願っているようだ。私たちの
身近なものを見てみても、使っている本棚がイケアのものだったり、国内ブランドかと思
っていたシャンプーが実は P&G の製品だったりと、意外にも身の回りがグローバルである
ことに気づく。また、海外旅行を振り返っても、コカ・コーラやマクドナルド、リーバイス
といった見慣れたものを多く目にしたことを思い出す。
メディアが発達し、“ブランド”というものが確立された今日では、ブランドを用いる企
業が多くの国で製品を販売しようとするとき、そこには様々な選択肢が存在する。グロー
バル・ブランディングというものがますます海外進出の鍵となり、グローバルな企業には
必要不可欠な要素と考えている企業は多い。
例えば、120 年以上の歴史を誇り、いまもなお愛され続ける飲料「コカ・コーラ」。言葉
や地域はもとより、文化や民族、世代をも問わず誰もが親しみを持つ不思議な“魔力”の
持ち主でもある。このような世界有数のグローバル・ブランドが、そのパワーと魅力を長
年にわたり築き上げ、保ち続けている背景に、どのようなグローバル・ブランディング戦
略が存在したのだろうか。この論文では、世界中に商品やサービスを展開するブランドの
ケースをあげながら、グローバル・ブランディングにおける市場参入戦略から地域拡張の
標準化と適応化に関する論争を考察し、一体どの戦略が最もグローバル・ブランドを築く
のに有効なのかといった、ブランドのグローバル化成功の鍵を検討したい。
第一章 ブランドとは
近年、商品等の有するブランドの価値を高めようとするマーケティング活動=「ブラン
ディング活動」が重要と考えられている。この章では、まずブランドとはなにか、一体ど
ういう機能と価値があるのかを明らかにし、そこから戦略として注目される理由を読み解
きたい。
1節 ブランドの概念、定義
数世紀もの間、ブランドとは、ある生産者の製品を他の生産者の製品と区別するための
手段であった。事実、
「ブランド」という言葉は「焼き印をつけること」を意味する“brandr”
という古ノドル語から派生したものである。現在もそうであるが、ブランドは家畜の所有
者が自分の家畜を識別するためにしたものである。(ケラー,2000,p.37)
現在では、文化、経済等の進展に伴い、自己の商品、製品、サービス等を他社のものと
識別するためのネーム、ロゴ、マーク、シンボル、パッケージ・デザインなどのブランド
標章が広く重視され、企業は自社製品等の品質の高さ、デザイン、機能の革新性等を普遍
的に表現するために、これらのブランド標章を統一的に用いて事業活動を行っているもの
と概念化されている。
アメリカ・マーケティング協会によれば、ブランドとは、
「ある売り手あるいは売り手の
集団の製品およびサービスを識別し、競合他社の製品およびサービスと差別化することを
意図した名称、言葉、サイン、シンボル、デザイン、あるいはその組み合わせである」
(American Marketing Association HP)
また、日本の経済産業省は、ブランドの特徴が、他社又は競合品との「識別化」及び「差
別化」にあることから、
「ブランドを企業が自社の製品等を競争相手の製品等と識別化する
ためのネーム、ロゴ、マーク、シンボル、パッケージ・デザインなどの標章」と定義して
いる。さらにブランドは、法的側面からみると商標法、意匠法、商法、不正競争防止法等
の法的権利として保護される対象になりうる識別標章であるとしている。
(
「平成 14 年度 ブ
ランド価値評価研究会報告書」 経済産業省 企業法制研究会 p.8)
一般的には、「ブランド」という言葉を聞いて最初に思い浮かべるものは、ルイ・ヴィト
ンやグッチのような海外の高級な輸入製品(バック、ファッション商品等)を想定するこ
とが多いが、その由来は上述したように自己の所有する羊に焼印を押して目印にした農業
を起源にし、他の類似商品と見分けるための標章であること考えることができる。もしも、
自己の商品が類似商品と比較してもなんら特徴を有していないと、その商品は他のものと
区別する必要が無いということになるからだ。
つまり、ブランド化を図ろうとする時には、自己の商品が他の商品より勝っている競争
優位性(例えば、優れた品質性、他には無い自社特有の商品特徴等)を有している必要が
あると考えられる。 したがって、『ブランドとは、自社の商品等(商品、製品、サービス)
を識別化し、他社の商品等と差別化することを目的としたネーム、ロゴ、マーク、シンボ
ル、パッケージ・デザイン、色彩等を組み合わせた標章である。』とここでは概念化するこ
とができよう。
一方で、川島(2006)は、人がブランドを耳にしたときに思い浮かべるのは、商品名も
あれば、企業名もあると考えている。例えば「シャネル」と聞くと、シックで贅沢で、よ
い意味でのクラシカルさを思い起こされ、「高島屋」と聞くと伝統と品格、コンサバティブ
ない上質さがイメージされる。つまり、「ハードとしての商品、店構え、販売員、広告」な
どが、視覚や聴覚などの五感で受け止められ、それが一体となって「ソフトとしてのイメ
ージ」を形作っている。それがブランドをイメージしている。言い換えると、人はブラン
ド名を聞いたときに、商品や企業を取り巻く世界観を自然と描いている。そこで、「商品や
企業が呼び覚ますイメージ全体=ブランド」として言及している。(川島蓉子,2006,
p.19-24)
ケラー(2000)やアメリカ・マーケティング協会の定義は理論を中心に様々な意味を持
たせる広義の意味での定義であり、川島(2006)の定義はより企業、生活者に近い定義を
している。実質的には同じものであろう。
2節
ブランドの機能、価値とその重要性
企業等が生み出す商品等には、商品等が有する本来の機能による品質性などの有形の価
値とブランドのように、商品等が有する元来の機能以外によるイメージなどの無形の価値
が存在しているものと考えられ、無形価値の代表的なものの一つに「ブランド」があると
言えよう。
では、なぜ近年商品等の有するブランドの価値を高めようとするマーケティング活動=
「ブランディング活動」が重要と考えられているのだろうか。マーガレット(2002)は、
企業等が商品等のブランド化を通じて、顧客の愛顧、信頼等を獲得し、継続した顧客関係
を維持できるようになるからだと答えを出している。顧客関係を維持できることで、顧客
は商品等の本来の機能性よりも「ブランド」を拠りどころにして商品等の購入を行うよう
になり、やがて反復して特定の商品等を購入する意思決定を行うようになり、やがてその
結果としてブランドの競争優位性(価格の優位性、高いロイヤルティ、ブランド拡張力等)
を獲得することになる。ただし、ここでいう「価格の優位性」は、商品等の品質及び機能
がまったく同一であるとしても、ブランド製品等の方がノン・ブランド製品等よりも高い
価格で販売できることを意味する。また「高いロイヤルティ」は、当該ブランド製品等を
顧客が反復・継続して購入することを意味する。さらに「ブランド拡張力」は、当該ブラ
ンド製品等の市場を限定的なものから広く国内全域や海外に拡大したり、あるいはまたは
類似業種及び異業種市場へ展開したりすることなどを意味するものと考える。
(マーガレッ
ト,2002,p.38)
また、ポール・ストバード(1996)では、所有者(企業)にとって、次の異なる三つのレベ
ルにおいてブランドは重要性をもつと主張している。まず第一に、ブランドは消費者の忠
誠をつかむ中心的な役割を果たす。それゆえブランドは、ムラのない確実なキャッシュ・
フローを創り出す資産へと転換することができる。したがってブランドは、事業に安定性
をもたらし、競合者の侵害に対して防御するのに役立つのである。ブランドはまた、事業
計画と投資を、より大きな自信をもって行えるようにする。
第二にブランドは、そこにつぎ込まれる販売促進投資を引き付けるのに役立つ。ケロッ
グ、ペプシ、マールボロのような非常に価値あるブランドは、メディアのコストが 1970 年
代や 80 年代よりも小さかった 1950 年代、60 年代に費やされた巨額の広告費により、未だ
に大きな利益を得ている。過去に行われたメディアへの投資により、その後の何年にもわ
たって、ブランドに対して利益が発生しているのである。
最後にブランドとは、企業にとって非常に重要な戦略となる。特に仲介者の行動に関わ
りなく、メーカーが消費者と直接的にコミュニケーションを図ることを可能にする。この
コミュニケーションの繋がりは、世界中の支配的地位を占める会社の多くにとって、その
生き残りに必須なものである。もしブランドがなかったら、そのような食品メーカーは、
ここ 100 年間の劇的な影響力が大きくなった流通業者のなすがままとなったかもしれない。
(ポール・ストバード,1996,p.14-16)
第二章 グローバル・ブランディング戦略
第一章から、こうしたブランドは、消費者と企業の間で大きな役割を果たし、大きな戦
略となることがわかった。そして、グローバル競争化では、数え切れないほどの競合他社
製品が存在し、それらと差別化を図って消費者の心をつかまなければならないので、ブラ
ンディング戦略がより重要となる。
下の図は、アメリカのインターブランド社が調べた「世界で最も価値あるブランド」の
2005 年と 2010 年ランキングである。
Previous
Rank
Rank
Brand
Country of
Origin
Brand
Sector
Value
($m)
フォームの始ま
り
1
3 Coca-Cola
United
States
Beverages
67,525
フォームの終わ
り
2
1 Microdoft
3
8 IBM
4
2 GE
United
Computer
States
Software
United
States
Business Services
United
Diversified フォーム
States
の終わり
59,941
53,376
46,996
5
15 Intel
United
Electronics フォーム
の始まり
States
35,588
フォームの始まり
6
14 NOKIA
Finland
Electronics
26,452
Media
26,441
Restaurant
26,041
Automotive
24,837
Tobacco
21,289
Automotive
20,006
Bank
19,967
Electronics
18,866
Business Services
18,559
FMCG
17,534
Automotive
17,126
Business Services
16,592
フォームの終わり
7
18 Disney
8
11 McDonal's
9
10 TOYOTA
10
5 Marlboro
11
28 Mercedes-Benz
United
States
United
States
Japan
United
States
Germany
United
States フォー
12
ムの始まり
9 City Bank
フォームの終わ
り
13
21 Hp
14
25 AmericanExpress
United
States
United
States
United
States フォー
15
27 Gillette
ムの始まり
フォームの終わ
り
16
17 BMW
Germany
17
20 Cisco
18
24 Louis Vuitton
France
Luxury
16,077
19
33 HONDA
Japan
Automotive
15,788
20
43 Samsung
Electronics
14,956
United
States
South
Korea
(InterbrandBESTGlobalBrands2005、HP)
Previous
Rank
Rank
Brand
Country of
Origin
Brand
Sector
Value
($m)
フォームの始ま
り
1
1 Coca-Cola
United
States
Beverages
70,452
Business Services
64,727
フォームの終わ
り
2
2 IBM
3
3 Microdoft
4
7 Google
United
States
United
Computer
States
Software
United
States
Internet Services
60,895
43,557
フォームの始まり
5
4 GE
United
States
Diversified
42,808
フォームの終わり
フォームの始まり
6
6 McDonal's
United
States
Restaurants
33,578
Electronics
32,015
Electronics
29,495
Media
28,731
Electronics
26,867
Automotive
26,192
Automotive
25,179
フォームの終わり
7
9 Intel
8
5 NOKIA
9
10 Disney
10
11
11 Hp
8 TOYOTA
United
States
Finland
United
States
United
States
Japan
フォームの始ま
り
12
12 Mercedes-Benz
Germany
フォームの終わ
り
13
13 Gillette
14
14 Cisco
United
States
United
States
FMCG
23,298
Business Services
23,219
Automotive
22,322
Luxury
21,860
Electronics
21,143
Tobacco
19,961
Electronics
19,491
Automotive
18,506
フォームの始ま
り
15
15 BMW
Germany
フォームの終わ
り
16
16 Louis Vuitton
17
20 Apple
18
17 Marlboro
19
19 Samsung
20
18 HONDA
France
United
States
United
States
South
Korea
Japan
(InterbrandBESTGlobalBrands2010、HP)
この二つのランキングを比較してわかるように、トップ 20 位にランクインしているブラ
ンドはここ 5 年ほとんど変わりがない。つまり、一度ブランドが確立すると長い間揺るぎ
にくいということが分かる。第一章とこのことから、企業が海外に進出し、世界的なリー
ダーシップを手にするには、グローバル・ブランディング戦略が重要だと考えられる。
では、グローバル・ブランディング戦略はどのようなものだろうか。小田部(2010)は
グローバル・ブランディング戦略を大きく、グローバルブランディングと地域ブランディ
ングの二つに分けている。この章では、二つのブランディングのぞれぞれの長所と短所を
まとめ、比較することで、その意義と限界を検討する。
1節
グローバルブランディング
小田部(2010)では、Advertising Age International 誌の記事を紹介しながら、優れた
グローバル・ブランドは、世界の消費者に向けて一貫したアイデンティティを確立してお
り、同一の製品形態、同一の中心的便益やコア価値、そして同一のポジションポジショニ
ングを保っていると指摘している。つまり、これらの要素をすべて標準化しているという
ことである。しかし、このような厳しい標準化基準を満たすことができるブランドは、ご
くわずかである。P&G のような企業でも、真にグローバルといえるブランドは、オールウ
ェイズ/ウェスパー、プリングルス、パンテーンくらいであるという。
(小田部,2010,p.407)
グローバル・ブランドをもつことの利点ははっきりしていて、一般のブランドよりスケ
ールが大きく、規模の経済が大きいことがあげられる。小田部(2010)は、以下のような
ことを主張している。(小田部正明,2010,p.407-410)世界的に認知されて、販売されてい
るブランド(Global Brand)は、生産や流通、マーケティングにおいても、大量に取り扱うの
で、規模の経済性を得ることができる。また、世界中で知名度が高いので、第一章で述べ
たように、商品に対する「安心感や信頼性」を得やすいといえる。同じ商品、サービスが
市場にあれば、人は自分が知っているブランドを選ぶように、
「安定したマーケットシェア」
が得られるという利点があり、強いブランドがあれば市場にも受け入れられやすいため顧
客へアクセスもしやすくなる。それに加え、強いブランドの商品やサービスには「プレミ
アム」をつけることができ、利益率を高めることが可能で、自社の商品やサービスの差別
化もできる。
しかしその反面、グローバル・ブランドであることが不利に働く場合もある。まず強い
ブランドほど高いクオリティーが求められるため、常にそのような期待に応えられるよう
な商品・サービスを維持していくことが重要となってくる。また、有名だと注目を集めや
すく、あらゆる面における注意も必要となる。さらに、歴史の長いブランドでは以前から
のイメージが強すぎて現在の会社の実態とそぐわないという場合がある。以上のように各
国や地域によって文化や経済水準が異なることから、最大公約数的なマーケティング手法
を取らざるをえないことがあるのがグローバルブランディングの欠点といえる。
では、実際に消費者はどのようにグローバル・ブランドを評価しているのだろうか。こ
れについて、小田部(2010)は Holt,Quelch,Taylor の研究を紹介し、3つの重要な評価の
次元を特定している。
①
品質シグナル―消費者はグローバルブランドを品質の高いものと考えている。企業
のグローバルな規模は、品質の優秀性を示すシグナルとなる。消費者はしばしば、
グローバルブランドをよい品質と高い名声を示すものと考えている。
②
グローバル神話―消費者はグローバルブランドを、文化の理想と考えている。グロ
ーバルブランドは、消費者が帰属するなにか大きなものの一部であるとの感覚を与
える。
③
社会的責任―消費者はまた、グローバルブランドに社会問題に取り組み、よき市民
としての義務を果たして欲しいと考えている。その道行きは平坦でない。その事業
において、地域のライバルたちよりも高いハードルに直面することがある。
以上のように、グローバル・ブランディングを支持する主張は非常に力強く響いている。
しかし、他のグローバル・マーケティングの多くの側面と同様に、ブランドの価値やブラ
ンド資産は、国によっても大きく異なることが多い。また、小田部(2010)によると、国
によるブランド資産の違いの背後には、次のような要因があると考えられる。(小田
部,2010,p.410-413)
1. 歴史の違い―長い年月が存在してきたブランドは、後から現れたブランドよりも消費
者にはるかによく知られている。一貫したポジショニング戦略を何年にもわたって展
開してきた先発ブランドは、通常確固としたブランドイメージを確立しているもので
ある。
2. 競争状況の違い―国ごとに戦場の状況は異なる。ある国では、ブランドは、少数の競
争企業にしか出会わない。一方で市場シェアの一角を占めるには、多くの企業との競
争を戦い抜かなければならない国もある。
3. マーケティング支援活動の違い―企業によっては、ブランドを支えるコミュニケーシ
ョン戦略において、現地に大きな裁量を認めている。この傾向は中央集権的ではない
企業に顕著である。そのために、同じブランドでも、ある国の系列会社はプッシュ戦
略(押し込み型販売)を好み、販売業者に向けた販促支援やインセンディブを投入し
ているが、別の国の系列会社はプル戦略(顧客育成型販売)を好み、最終的な消費者
との関係作りに力を置いているといったことが起こる。国によって広告のメッセージ
に用いられるポジショニングテーマがまちまちという話は珍しくない。
4. ブランドへの文化的な受容性の違い―ブランドへの受容性は、不確実性回避志向の強
弱によって異なる。ヨーロッパの中では、スペインやイタリアのような国では、ドイ
ツやフランスなどと比べてブランドに対する受容性がはるかに高い。
5. 製品カテゴリーの普及の違い―最後の要因は、ブランドが属する製品カテゴリーの問
題である。ライフスタイルの違いからブランドが属する製品カテゴリーがある国では
しっかりと根付いているといったことが起こる。一般に、製品の使用率が高くなれば
どの分ブランド資産はしっかりしたものとなる。
グローバルブランディングは利点が大きい一方で、国それぞれの特有の文化や競争状況
など様々なものが絡み、そう簡単に一筋縄にはいかないのが現実である。よってこれらの
違いが要因で、グローバル・ブランドといっても、国によってそのブランド資産が違って
くるのだ。
2節 地域ブランディング
例えば、コカ・コーラは、そのブランド・ポートフォリオの中に、4つのコア・ブランド
をもっている(コーク、スプライト、ダイエットコーク/コーラライト、ファンタ)。同時に
コカ・コーラは、世界中におびただしい数の地域ブランドをもっている。インドで最も売
れているコーラは、コークではなく、1993 年にコカ・コーラが買収したサムズ・アップであ
る。日本では、炭酸入りのソフトドリンクは、他国ほど人気がない。缶コーヒー・ブラン
ドのジョージアが、コカ・コーラで最も売れているブランドである。つまり、それぞれの国、
地域特有のニーズや嗜好に適応し、カスタマイズしている。
第一節で書いたように、グローバル・ブランド(標準化)の利点は多くあるが、地域ブ
ランドを使用する利点も存在する。小田部(2010)では、政府の圧力も一つの要因と指摘
し、China Daily Business Weekly を紹介した。コカ・コーラは中国政府に、同国のソフト
ドリンク産業の発展を支援すると約束した。この目的を達成するために、コカ・コーラは、
ミネラルウォーター、お茶、そしてジュースをカバーする傘ブランドの「天与地」を開発
したという。他には、使用しようとしていたブランドとよく似た名前がすでにその国では
別の(あるいはまったく同じ)製品カテゴリーで使用されていたために、地域ブランドが
選択されているケースもある。
文化の障壁もまた、地域ブランディングを正当化する。ブランドの現地化を行わなけれ
ば、その名前は発音しにくかったり、現地語で思わぬ連想に繋がったりすることがある。
日本のポカリスウェットや、オランダのシンといったソフトドリンクを、名前を変えずに、
アングロサクソン諸国で販売することは難しいだろう。もしくは、ブランドの名前と結び
ついた連想も失うことになると、小田部(2010)は、Marketing Science Institute の記事
を紹介している。そして、愛国心や、現地製品購入が奨励されている国もある。現地製品
か外国製品かを選ぶ際に、消費者はある国への敵意から地域ブランドを好むのだ。こうし
た国々では、地域との連携が最も効果をもつ。この中でも、長い歴史を有し、確立された
嗜好や味覚を有する食料品や飲料、強い地域の伝統があるビール産業がいい例である。多
くの新興市場では、時として欧米ブランド(グローバル・ブランド)の目新しさが色あせ
ると、消費者は地域ブランドへと移行する傾向がある。これは一種の値頃感の問題でもあ
るだろう。
あるいは、買収によって地域ブランドを入手した場合にも、企業はそれをグローバルな
ブランドへと変更するよりも、地域ブランドとして維持することを選択することがある。
年月をかけて地域ブランドが築き上げてきたブランド資産には計り知れない価値がある。
グローバル・ブランドへの変更から得られる利益がそこで犠牲にしなければならない資産
に優る保証はない。(小田部,2010,p.414-416)
以上二つのブランディングを見て、グローバル・ブランディング戦略となると、それぞ
れの国特有の市場環境など様々な要素が関係し、一般の企業ブランディングより複雑であ
ることがわかった。文化も違えば法律も違う国々で、そのブランドを拡げていくことは大
変困難なことで、どちらにも効用の限界がある。
では、どのようにグローバル・ブランディングを実施していくのか、グローバルブラン
ディングと地域ブランディングの限界をどのように解消し、最善の戦略を選択していくの
かを、第三章と第四章で実際のケースを交えながら考察していく。
第三章 グローバル市場参入戦略の策定
何事も初めが肝心と言われるように、グローバル・ブランディングにおいても、新しい
国(市場)に参入するときの戦略がその後の成功と失敗を大きく左右するといえる。どの
ような市場参入戦略があり、有効であるかをこの章で検討する。
ケラー(2000)では、ある市場へ参入するかどうかを決定するために集められた情報の多
くは、選択した市場への最善の参入方法を考える上で有効となるとしている。そしてバー
ワイズとロバーソンの研究を用いて、新たなグローバル市場へ参入するための3つの選択
肢を提示したことを紹介した。(ケラー,2000,p.644)
(ア)
既存の自社ブランドを新市場に輸出する。すなわち、「地域拡張」の実施
(イ) 新市場で販売されている既存の他社ブランドを買収する。
(ウ) 他社と何らかの形でブランドを提携する(例えば、ジョイント・ベンチャー、パ
ートナーシップ、ライセンス契約など)
彼らはまた、さまざまな参入戦略の評価基準となるスピード、コントロール、投資といっ
た3つの重要な基準も示している。
評価基準
コントロー
投資
戦略
スピード
地域拡張
遅い
強い
中間
速い
中間
高い
普通
弱い
低い
ブランド買
収
ブランド提
携
ル
(市場参入のトレード・オフ)(ケラー,2000,p.645)
上の図が示すように、バーワイズとロバーソンによれば、これら3つの基準の間にはト
レード・オフの関係があり、支配的な戦略というものは存在しないことになる。例えば、
地域拡張にとっての主要な問題点はスピードである。ほとんどの企業は、多くの国で同時
に製品を展開するのに不十分な財源やマーケティング経験を有していないため、グローバ
ルな拡張はゆっくりと個々の市場ごとに進められることになる。一方、ブランド買収は高
額であり、考えられているよりコントロールが難しい。ブランド提携のコストはかなり低
いが、コントロールがやはり難しい。
これらの異なる参入戦略の選択は、企業の資源と目的がそれぞれの戦略とコストとベネ
フィットにどれだけ見合っているかに依存している。例えば、ネスレは 1984 年からの約
10 年間に、180 億円をかけて他国のブランドを買収した。その中には乳製品の「カーネー
ション」(米国)、ミネラルウォーターの「ペリエ」(フランス)、冷凍食品の「ストウファ
ーズ」
(米国)、お菓子の「ラウントリー」
(英国)、パスタとチョコレートの「ブイトーニ・
ペルギーナ」
(イタリア)などの有力ブランドが含まれている。現在、ネスレは 8000 もの
世界的ブランドを所有しているが、複数国で商標登録されているブランドはわずか 750 で
あり、10 カ国以上で登録されているブランドはたった 80 しかない。ネスレは地域マネージ
ャーによって管理されている現地ブランドを保有するという戦略を採用しており、一般に
製品技術のみを「グローバル化」させている。
(ケラー,2000,p.645)
このように、ネスレは成熟市場において、大掛かりな買収によって価値ある規模の経済
性を享受している。しかしながら未熟市場では、別の戦略を採用しており、当地への参入
戦略では、現地の状況に適合した原材料あるいは加工技術を用い、適切なブランドネーム
を利用していると、ケラー(2000)は Clarla Rapoport の研究を紹介している。例えば、
コーヒーの「ネスカフェ」のように既存のブランドを利用することもあれば、アジアにお
けるコンデンスミルクの「ベアー」のように新規ブランドを使用することもある。ネスレ
は市場に先発として参入することを目指しており、例えば中国に進出するためには何十年
にもわたり、根気強く交渉してきた。新しい市場でリスクを引き下げ、マーケティング努
力を単純化するために、ネスレは 11 の戦略的ブランド・グループから選ばれた少数のブラ
ンドで参入する。そして、広告・マーケティング資金を 2 かつ 3 つのブランドに集中して
いる。つまり、ネスレは、時と場合によって標準化とカスタマイズ化を上手く使い分けて
いるのだ。
これに対し、ハイネケンの一連の戦略は多少異なっているという。同社はまず、ブラン
ド認知とブランドイメージを確立するため、輸出によって新市場に参入する。もし市場の
反応に手応えを感じたなら、販売量を増やすべく現地のビール会社にブランドのライセン
スを与える。その関係が成功したら、資本参加するかジョイント・ベンチャーを提案する。
このようにして、ハイネケンは高価格の自社ブランドを現地ブランドに抱き合わせて販売
している。ニュージーランドでのハイネケンによる DB ビール社の買収は、マーケティン
グおよび生産の効率改善や強力な顧客愛顧の構築という点で、供給・需要両サイドに利益
をもたらした戦略の成功例となっている。
ジョイント・ベンチャーはよく用いられる参入戦略であり、複雑な海外市場へ参入する
ための迅速かつ簡便な方法であると考られている。ペプシは北米を除く同社のボトリング
ネットワークの40%をジョイントベンチャーと5つの完全買収によって所有している。
そして実際に、日本でのジョイント・ベンチャーで成功を収めた富士ゼロックスは、親会
社であるゼロックス US を上回る成果を上げている。複雑な流通システム、供給業者との緊
密な関係、および企業と政府間の密接な協調によって、外国企業はこれらについての知識
を有する現地パートナーと連携する必要があったため、日本ではジョイント・ベンチャー
が普及している。最後により高度なグローバル統制を目指して M&A が行われることもある。
これらの例が示すように、さまざまな企業が多様な参入戦略を採用しており、場合によ
っては、同一企業が国ごとに異なる参入戦略を採用していることさえある。また、これら
の参入戦略は時とともに変化することもある。例えば、コカ・コーラはオーストラリアで
「コーク」「ファンタ」「スプライト」などのグローバル・ブランドを生産・販売するだけ
でなく、買収を通じて多くの現地ブランドを傘下に収めている。コカ・コーラによる買収
目的の一つは、現地ブランドへの需要からグローバル・ブランドへの需要へと徐々に移行
させ、規模の経済を享受することである。(ケラー,2000,p.645-646)
どの参入戦略を選ぶかは、企業の資源と目的がそれぞれの戦略とコストとベネフィット
にどれだけ見合っているかに依存しているので、特定の答えはない。
リーゼンベックとフリーリング(1992)の場合は、グローバル市場参入の方法を大きく、
ウォーターフォールモデルとスプリンクラーモデルの二つに分けている。長年、マネジャ
ーたちはグローバル化の最善の方法がひとつひとつの国に続けざまに展開することだと思
っていた。これはいわゆるウォーターフォールモデルも呼ばれるものである。
(Hajo Riesenbeck and Freeling,1992,p8)
ウォーターフォールモデルは時間をかけて、ひとつひとつの国において確実に展開して
ゆくことが特徴である。しかし、デメリットとしては競合に遅れをとってしまう。
しかし、彼らは調査の結果、新しいスプリンクラーモデルを見つけた。これは、真のグロ
ーバル・ブランドになるにはローカルニーズに適応するために時間を費やす必要はないと
いうものである。従来のウォーターフォールモデルであれば、本国における開始と海外に
おける開始の間に要する時間は、マクドナルドで22年、コカ・コーラで20年、マールボ
ロで35年である。でも実際この三つの企業は展開にそれほど掛かっていないことから、
スプリンクラーモデルは正当性があると主張されている。
(Hajo Riesenbeck and Freeling,
1992,p.8)
ウォーターフォールモデルは 1950 年代に普及した。P&G の海外副社長 Walter Lingle
は、1955 年にローカル顧客のことを徹底的に知ることが不可欠だと強調したという。
(Hajo
Riesenbeck and Freeling,1992,p.9)
ただ、競合他社の行動がグローバル戦略のなかで存在を強めている現在、ウォーターフ
ォールモデルは保守的な部分が目立つ。その代わり、スプリンクラーモデルは迅速な展開
はできるもののとてもリスキーであるとも言える。
近年では、スプリンクラーモデルの価値が実証されるようになっている。マーズアイス
クリームバーは 1988 年にイギリスで創業された。その翌年にはヨーロッパとアメリカに展
開した。ユニリーバは Timotie シャンプーで短期間にたくさんの国の市場でリーダーシッ
プを発揮した。これと同様に、P&G はヴィダルサスーン、コカ・コーラはダイエットコー
ラをスプリンクラーモデルで成功させている。競合より先に市場を確保し、その後に地域
の差異を少しずつ調整していくことができることが効率的な理由で、ウォーターフォール
モデルからスプリンクラーモデルに移行するようになった。
しかし、スプリンクラーモデルにはたくさんの失敗例もある。キャンプベルのスープは
ブラジルでほとんど成功しなかった。ブラジルはスープを作るときシンプルに暖めるより
時間をかけて準備するのを好む。ポラロイドは SX70 カメラで失敗した。パーソナリティー
が違うのにも関わらず同じ広告をヨーロッパで使用したからである。
(Hajo Riesenbeck and
Freeling,1992,p9)
ここで重要なのは、すべて標準化に頼っているわけではないことである。ダイエットコ
ークがフランスでコークライトと呼ばれ、パッケージのサイズや甘さなどがローカルに従
っているように、いくつかのマーケティングミックスの要素はローカル要求に適応しない
といけない。
ケラー(2000)は、ブランド買収やジョイント・ベンチャーなど、現地企業の買収や協
力が主張されているのに対し、リーゼンベック&フリーリング(1992)は、あくまでも自
社を主とした展開、すなわちケラー(2000)が言う「地域拡張」を前提とする限定的なも
のである。ケラーの研究が 2000 年のものに対し、リーゼンベックとフリーリングの研究は
1992 年のもので、8 年の月日が経っている。その8年の間で、市場環境が変わったと考え
られる。市場環境や顧客ニーズが目まぐるしく変化するこの時代、複雑な海外市場への参
入する際、自社の力だけでは難しく、ブランド買収やジョイント・ベンチャーの参加をう
まく活用することで、より高いグローバル展開効果が期待できることが多いと考えられる。
ただし、それぞれの企業の目的や置かれている状況も異なるので、どの参入戦略を採用す
るのが一番効果的かは一概に言えない。よって、異なる参入戦略の選択は、企業の資源と
目的がそれぞれの戦略とコストとベネフィットにどれだけ見合っているかに依存している
わけである。
第四章 グローバル・マーケティング・プログラムのデザイン
第三章で、市場参入に関してはケースバイケースで、はっきりした答えはないとわかる。
そして参入してから戦略を変更したりすることが多く見られるので、参入後、いかにブラ
ンドを浸透・拡張させていくかが大事となる。市場参入した後、一体どのような戦略でブ
ランドを拡大させていくのが最も有効的なのだろうか。標準化か、適応化か、この二つの
戦略に関する論争、各戦略を有利にする要因、各戦略の成功例などといった問題をこの章
で考察する。
1節 標準化対適応化
グローバル・マーケティング・プログラムを構築する上で最も基本的な問題は、国ごと
のマーケティングプログラムをどのくらい標準化すべきかであるとケラー(2000)は指摘
している。
ケラーは、最も著名な標準化支持者は、ハーバード大学教授のセオドア・レビットであ
ると紹介し、論争を巻き起こした 1983 年の彼の論文では、地域や国ごとの表面上の差異を
無視して、企業が世界を一つの市場として活動する方法を学ぶべきであると以下のように
主張している。
「世界中で生産され販売される最も優れたものに対する欲望、すなわち最高の品質と信
頼性を持ち最も安価な製品に対する欲望が世界中に遍在している。このことは、多くの方
法に暗示されている。世界のニーズと欲求は今や均質化しており、それによって多国籍企
業が衰退し、グローバル企業が繁栄している。」「企業は特定の市場セグメントにあわせて
製品をカスタマイズしているが、同質的な需要によって世界で成功するためには、競争に
不可欠な規模の経済性を享受し世界中の類似セグメントでの販売機会を探る必要性を認識
しなければならない。」
(ケラー,2000,p.647)
レビットに従うと、技術革新やコミュニケーションの発達などで世界が狭くなりつつあ
るため、優れた企業は製品をカスタマイズすることから先端的で、機能的で、信頼でき、
そして低価格なグローバル・スタンダード製品の提供へとシフトすべきであるという。
レビットの主張に対し、ケラー(2000)は、マーケティング広告会社バッカー・スピー
ルホーゲルが「実際の事例を見たとき、グローバル・マーケティングに適した製品はわず
かコカ・コーラ1つしかない」と反論したことを紹介し、さらに「コカ・コーラ」、「マクド
ナルド」、「マールボロ」のケースをあげた。
1.コカ・コーラ:ヨーロッパでは法的な理由によって「ダイエット・コーク」が「コカ・
コーラ・ライト」と呼ばれている。また、地域によってダイエットコークの人工甘味料や
パッケージは異なっている。何年もの間、コークの広告は各国向けに変更されたり新たに
作られてきた。例えば、米国の有名な「ミーン・ジョー」グリーンテレビ広告(疲れ果てた
フットボールのスターが若いファンからしぶしぶコーラを受け取るが、コーラを飲むと思
わず感謝してジャージを彼らに投げるというもの)は、多くの国で各地の有名なアスリー
ト(例えば、南米ではアルゼンチンのサッカーのスター選手マラドーナ、アジアではタイ
の同じくサッカー選手ニアット)を起用し、全く同一フォーマローバル広告キャンペーン・
ソングでさえ、12 言語に吹き替えられて 131 カ国 38 億人の視聴者に向けて放送された。
現地マネージャーには、国ごとの顕著な消費者行動の違いを反映して、コカ・コーラ製品の
販売・流通プログラムを実施することが求められている。例えば、スペインではミクサー
としてワインと同じようにコークが使われ、イタリアではワインやカプチーノの代わりに
食事中に飲まれる。そして中国では政府の特別行事に飲用される。だが、コカ・コーラは日
本で人気のある缶飲料「ジョージア・コーヒー」を他国に輸出しようとして失敗した。(ケ
ラー,2000,p.647-648)
2.マクドナルド:グローバル・マーケターとして有名なマクドナルドは、海外進出に際
し「食、楽、家族」という成功の方程式を修正している。
「ビッグ・マック」やロナウド・
マクドナルドは世界中に知れ渡っているが、マクドナルドでは他のマーケティング・プロ
グラムをカスタマイズしている。ドイツではビール、フランスではワインを販売し、香港
ではココナッツ、マンゴー、トロピカルミントのシェークを販売している。日本で用いら
れるハンバーガーの肉の香辛料は他国のものとは異なり、フィリピンでは「マック・スパ
ゲッティ」まである。マクドナルドのインド1号店でニューデリー店ではラム肉を使った
ハンバーガーを目玉商品にし、牛肉を扱ったメニューを扱っていない。海外でフランチャ
イズを展開しているマクドナルドのジョイント・ベンチャー・パートナーは、現地のマー
ケティングについて大きな責任を有している。
(ケラー,2000,p.648)
3.マールボロ:グローバリゼーションの代表格とされるマールボロのたばこでさえ、マー
ケティング・プログラムにはある程度の柔軟性を持たせている。マールボロ専属の広告会
社であるレオ・バーネット社の制作チームは、たばこの広告にヒーローを使用することを認
めている国々で放映される「マールボロマン」のテレビコマーシャル1年分を制作するた
めに、米国で会合を開いた。こらは、1987 年に開始されたが、国別の意見がかなり認めら
れた。マールボロの主要 25 都市におけるクリエイティブ担当者は、新キャンペーンのため
にアイデアを持ち寄った、検討の後、5つのコマーシャルが制作され、その中から各国で
使用する広告を選ぶことができた。
(ケラー,2000,p.648)
以上より、マクドナルドやマールボロのようなグローバル・ブランド、そして標準化の
代名詞コカ・コーラでさえも標準化していないとわかる。国ごとの消費者行動の違いは依然
として存在し、厳密な意味でブランドを標準化、つまり同じ方法で同一ブランドを販売す
ることはいかなる企業にとっても困難であるとわかった。そして、多くの企業は各国の市
場ごとに製品やマーケティングの変更は余儀なくされている。
2節 標準化と適応化の融合
1節から、実際の場合厳密な標準化は存在しないことがわかる。だが、全て現地のニー
ズに合わせては(適応化)、規模の経済などといった標準化のメリットは失われてしまう。
そこで、グローバルブランド(標準化)のベネフィットと現地の特性(適応化)を上手く
組み合わせた場合を考察する。
ケラー(2000)は、生産財におけるブランディングの専門家であるラリー・ライトの「グ
ローバルに思考し、地域で競争し、個別に販売せよ。」というグローバル・マーケティング
に関する発言を的確な認識だと紹介した。(ケラー,2000,p.649)
事実、ブランド連想における階層はグローバルな視点で定義されなければならない。つ
まり、すべての国の消費者に受け入れられる連想と、特定の国だけにしか受け入れられな
い連想を明確にしなければならない。同時に、様々な消費者知覚、嗜好、そして環境に応
じるため、それらの連想が各市場における同質性に順応すべきである。
上の流れに沿って、P&G の戦略では、まずグローバル・プランを立て、地域ごとに再考
し、そして実行している。グレイなどの広告会社は「ローカル・タッチのグローバル・ビ
ジョン」を提唱している。これらの認識から、製品の海外移転では、一貫したブランド・
ポジショニングが求められるが、必ずしも同一ブランド・ネームやマーケティング・プロ
グラムを個々の市場に持ち込むわけではない。同様に、パッケージングも全体的な印象は
維持しつつも、地域好みや市場のニーズに合わせて手が加えられている。(ケラー,2000,
p.649)
つまり、現地の習慣や伝統を保持した上で集権的マーケティング戦略は、さまざまな国
や文化で販売される製品には有効であるといえよう。幸いにも、企業は製品とプログラム
を地域特性に合わせるという能力を高めている。また、いくつかの「新技術」は、カスタ
マイズあるいは受注された製品に低コストで地域特性をもたせることを可能にしている。
製品を世界的に標準化するというニーズは小さくなってきているし、情報システムやテレ・
コミュニケーション技術の発展によって調整能力が高められたように、フレキシブルな生
産技術によって集中的な活動の減少がもたらされている。
同様に、リーゼンベック&フリーリング(1992)でも、効果よくブランドのグローバル
化 を 進 め る 成 功 の 鍵 は 、 標 準 化 と 適 応 化 の バ ラ ン ス で あ る と 指 摘 し て い る 。( Hajo
Riesenbeck and Freeling,1992,p15)
グローバル化を有効にするのは機械的に標準化することではなく、ベストなマーケティ
ングミックスを選ぶことだ。リーゼンベック&フリーリングが、グローバル・ブランドの
マーケティングミックス要素の標準化度合いについて調査したところ、完全なる標準化さ
れた商品はなかった。(下の図)
Sample: 31 companies
(Hajo Riesenbeck and Freeling,1992,p.14)
よって、ケラー(2000)からも、リーゼンベック&フリーリング(1992)からも、標準
化と適応化の融合が様々な企業の戦略せ実行されていて、有効であると考えられているこ
とがわかった。グローバル・ブランドを有効に展開するには、標準化と適応化のバランス
が大事であって、グローバルに考え、ローカルに行動することが鍵である。
3節 標準化要素と適応要素
標準化と適応化の融合が有効的とわかったが、では一体どの部分を標準化し、どの部分
を適応化すればいいのだろうか。この節では、ケースを交えて標準化要素と適応化要素を
検討する。
バカルディーは世界のブランドで最も売れているものである。商品の製法とパッケージ
ング、ブランド名、すべて標準化されているが、ポジショニング、広告、そして価格はほ
ぼ地域ごとにカスタマイズされている。それで地域のセールスにおいて卓越した存在にい
る。(Hajo Riesenbeck and Freeling,1992,p.13)
ユニリーバの Sunggles 洗剤は、ドイツ子会社が Kuschelweich のブランド名から考案し
たもので、グローバルメッセージ“真実、柔らか、愛、そして安心”を伝えることによっ
て競合と差別化を図ることに成功した。全ての商品にクマの縫いぐるみをプリントしたが、
その名前はそれぞれ違う。Huggy(オーストラリア)、Coccolino(Italy)、Cajoline(フラ
ンス)、Sunggles(アメリカ)、FaFa(日本)。こういったように、国ごとの広告がローカ
ル感のポジショニングを伝える。(ケラー,2000,p.653)
マクドナルドの場合も、一度も自社のフードサービスシステムに妥協したことがない。
しかし、広告とポジショニングは様々だ。日本では、ハンバーガーはアメリカからの輸入
ものでなく、新しい食の革命とみなしている。そして名前もマクドナルドと発音しやすく、
ローカルの需要に適している。(Hajo Riesenbeck and Freeling,1992,p.15)
ハイネケンはオランダにおいて日常的なブランドであるとみなされているが、世界では
高級ビールであると認識されている。ハイネケンの1箱は、最も一般的なビールであるバ
ドワイザーの 1 箱よりも、米国において2倍近い価格が設定されている。長年、英国など
でスローガンとなってきた、「ハイネケンは体の中からリフレッシュする」は、米国でのポ
ジショニングからかけ離れている。
(ケラー,2000,p.653)
他にも下の図の例がある。
(Hajo Riesenbeck and Freeling,1992,p.15)
このようなケースと調査結果から、成功したグローバル・ブランドはコア要素だけ標準
化していることをはっきりとわかる。これらの企業はフランチャイズにおいてもまったく
コア要素に関して妥協していない。しかし他の要素(ポジショニング、広告や PR などのマ
ーケティングコミュニケーション、価格、パッケージング・・・)では実用性に準じている。
ローカルの違いに適応して効果があれば、適応していくことが大事である。
終章
まとめ
ブランドは、消費者と企業の間で大きな役割を果たし、大きな戦略となることがわかっ
た。そして、コカ・コーラやマクドナルドなどの名だたるグローバル企業が示すように、ブ
ランディング戦略は企業が商品やサービスを海外展開するときにも絶大な威力を発揮する。
だがこの論文からも、市場参入から展開まで、グローバル・ブランディング戦略は、グロ
ーバル(標準化)か、ローカル(標準化)かという、ブランドのジレンマに対する一つだ
けという単純明快な答えはないとわかった。
それぞれの企業の目的や置かれている状況も異なるので、どの参入戦略を採用するのが
一番効果的かは一概に言えない。よって、ケラー(2000)が言うように、異なる参入戦略
の選択は、企業の資源と目的がそれぞれの戦略とコストとベネフィットにどれだけ見合っ
ているかに依存している。これより、参入はケースバイケースとなるので、展開が重要と
なってくる。展開においては、リーゼンベックとフリーリング(1992)が指摘するように、
標準化あるいは現地化といった極端な見方ではなく、標準化の長所である規模の経済など
と、ローカルスキルのクロスを相乗効果の最大をとらえることと二つバランスが大事であ
る。そして、ブランドの「中核部分」を標準化し、「副次的な部分」を現地かさせる融合戦
略が、ブランドに主要な競争力をもたらす。
ブランドのグローバル化成功の鍵は、既存の方法を選択するのではなく、ぞれぞれの国
を取り巻く複雑な環境と要因に向き合い、それぞれに合ったグローバルとローカルの最適
なバランスをとることだと言えよう。
参考文献
ケビン・レーン・ケラー著
恩蔵直人・亀井昭宏訳(2000)
『戦略的ブランド・マネジメン
ト』東急エージェンシー。
経済産業省(2002)『平成 14 年度 ブランド価値評価研究会報告書』企業法制研究会 p.8。
川島蓉子(2006)『ブランドのデザイン』弘文堂。
マーガレット・M・ブレアー著
の創造―』中央経済社。
広瀬義州訳(2002)
『ブランド価値評価入門―見えざる富
ポール・ストバート編
岡田依里訳(1996)
『最高の国際商標
ブランド・パワー』日本経
済評論社。
小田部正明、K・ヘルセン著
栗木契訳(2010)『国際マーケティング』碩学舎。
Hajo Riesenbeck and Freeling “ How Global Are Global Blands?“McKinesy Quarterly ,
(1992)No4,pp.3-18。
American Marketing Association HP
経済産業省
http://www.marketingpower.com/。
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インターブランド
http://www.interbrand.com/ja/default.aspx。