神奈川憲法アカデミア シンポジウム「戦争法案を問う 現代日本の軍事と経済 ―国家・地域・経済の視点から― 」 ―兵器はなぜ容易に広まったのか― 2015年7月11日 小野塚 知 二 (東京大学・経済学研究科・教授) はじめに 武器おたく(ミリオタ)と武器移転研究者 類似点 相違点 Ⅰ なぜ兵器に注目する研究が必要か 1.平和研究が武器(通常兵器)に注目することの意味 戦争の原因と手段 手段は人・組織・国家の行動を決定する重要な要因 2.軍事学の常識:「国家の目的・利害→戦略→戦術→用兵思想→兵器」 実際の観察結果より導き出される結論は手段の規定性:「兵器→~~→戦略→国家目的」 3.核兵器の実用化がアメリカの戦後戦略をもたらした。戦略が核を生み出したのではない。 4.兵器に注目するもう一つの理由 武器の縁遠さ 武器の特異な性格 武器の不透明性が平和をより困難にする 5.通常兵器に注目する理由 平和を損なうのは核兵器だけでない。むしろ通常兵器の害悪の大きさ→ATT/国内治安 核兵器と通常兵器の敷居を思われているほど高くない Ⅱ 「武器移転」とは何か 1.「武器移転(arms transfer)」という概念 元来は大国から小国への移転を意味したが、現在は大国の軍備にとっても武器移転(送 受両方)が重要なことが判明している 2.武器移転をともなわない軍備はない 武器移転は軍備にとって例外的な現象ではない 大国の軍備にも武器移転は不可欠である(英、米、戦間期ドイツの再軍備、そして現在の日本) (1)大国もすべてを国産・国内開発できるわけではない:大国が受け手となる場合 20世紀初頭までの英国への武器移転:魚雷、潜水艦、機関銃、火薬、光学兵器 20世紀中葉以降の米国への武器移転:航空機エンジン、後退翼、弾道ミサイル、高 精度研削技術、複合材料 (2)兵器の開発・生産体制を維持するための武器移転:大国が送り手となる場合 3.平和研究にとっての武器移転 Ⅲ 兵器はなぜ容易に広まるのか 1.兵器への道徳的な問い 問いに対する正当化と問いそのものの隠蔽 -1 - 正当化と隠蔽の論理構造 2.武器移転に関与する者 武器移転の受け手と送り手 受け手の動機 送り手の動機 仲介者(「死の商人(merchants of death)」)の動機 3.道徳的な問いの無力化:「自衛権」 受け手の側 送り手・仲介者の側 第一次世界大戦前後の大きな変化:「自衛権」の当然視から軍縮機運へ。1930年代中葉以降再軍備。 Ⅳ 武器貿易条約(ATT)交渉と武器輸出三原則 1.武器貿易条約の基本的な考え方 交渉過程 反対勢力:論拠は「自衛権」 cf.アメリカでの武器所持を正当化する理屈と同じ 現状 日本政府の取り組み 2.武器輸出三原則 基本的な考え方と抜け道 三原則の見直し:買い物を決めてから慌てて原則を変更する 三原則改定の背景:技術的袋小路としてのステルス戦闘機 三原則と成長戦略:投資主導型成長戦略の落とし穴 3.三原則改定と戦争法案と特定秘密保護法 むすびにかえて 1.兵器から目を逸らさない、嫌いでも 2.非武器移転(dis-arms-transfer)という理想 cf.「軍縮(disarmament)」という理想:平和を 損なう手段(兵器)の有効な制限という意味では一度も実現したことがない理想 3.道は非常に険しいが、絶望してはいけない 文献リスト ①小野塚知二「戦間期海軍軍縮の戦術的前提 ―魚雷に注目して― 」横井勝彦編著『軍縮と武器移転の世 界史 ―「軍縮下の軍拡」はなぜ起きたのか― 』日本経済評論社、2014年3月、pp.167-201. ②「経済史からアベノミクスを考える/小野塚知二が語る」(『EMPower』第8号、EMP倶楽部、2013年9 月14日)http://emp-office.sakura.ne.jp/office/empfile/EMPowerVol8_Final_Web.pdf ③小野塚知二「兵器はなぜ容易に広まったのか ―武器移転規制の難しさ― 」創価大学平和問題研究所『創 大平和研究』第27号、2013年3月、pp.65-91.④ ④横井勝彦・小野塚知二編著『軍拡と武器移転の世界史 ―兵器はなぜ容易に広まったのか― 』(横井勝 彦と共編著)日本経済評論社、2012年3月、viii+296p. ⑤奈倉文二・横井勝彦編著『日英兵器産業史 -武器移転の経済史的研究』日本経済評論社、2005年2月、pp. 111-153. ⑥奈倉文二・横井勝彦・小野塚知二著『日英兵器産業とジーメンス事件 -武器移転の国際経済史-』日本 経済評論社、2003年7月、xi+324p. -2 -
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