軍事に学ぶ事業経営2015 - JAPANESE

軍事に学ぶ事業経営2015
- JAPANESE STANDARD -
2015年2月2日
著者:佐竹右幾(さたけ
1
ゆうき)
目次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
第1章
8
軍事戦略論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
11.序論
12.数値化したランチェスター
13.プランニングを重視したクラウゼヴィッツ
14.学問化した孫子
15.守破離を実践したナポレオン
16.5W2H1Rを明確にしたハンニバル
17.教育・訓練を築き上げた山本五十六
第2章
戦略とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
21.戦略と戦術の違い
22.戦略の策定
23.国家戦略
24.企業戦略
25.技術経営戦略
第3章
戦術とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
31.戦術部隊
32.戦術の策定
33.5W2H1RとPDCA
34.環境の変化に伴う対応
35.要領・容量・用量
第4章
戦術を成功させるための後方支援・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
41.すべてのベースとなる後方支援
42.教育・訓練
43.人員・設備・資金
44.研究開発
45.マーケティング
46.物流・サービス
47.販売・広報
2
第5章
情報の収集・活用と応用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
51.情報収集
52.情報活用と共有
53.シミュレーション
54.環境・市場・事業分析
55.課題と対策
第6章
連携・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
61.アライアンスとアウトソーシング
62.コンソーシアム
63.EMS・ODM・OEM・CKS
64.競合と協業
第7章
技術革新による変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
71.歴史上の技術革新
72.進化・新化・深化
73.イノベーションは難しくない
74.イノベーションの分類
75.イノベーションのためのコンセプト創造
76.ヒューマン・テクノロジーからヒューマン・イノベーションへ
第8章
情勢判断による経営大綱の策定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48
81.経営・事業・市場分析と状況把握
82.戦略・戦術・後方支援の明確化
83.長期・中期・短期目標の策定
84.ムービング・ターゲット
第9章
指揮官たるリーダー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54
91. 組織やプロジェクトを成功させるリーダー
92. プロデューサーの使命と資質
93. 交渉力とプレゼンテーション能力
94. モチベーション・マネジメント
3
第 10 章 文化・歴史と科学 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59
101.おもてなしと武士道
102.人生も経営も積分と微分の繰り返し
103.文武と文系・理系
104.ビジネス・エントロピー
第 11 章 アントレプレナー(起業)・アントレプレナーシップ(起業家精神)・・・・・63
111.起業に必要なもの
112.アントレプレナー教育
113. 技術経営を学んで、起業ができるか?
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67
4
はじめに
昨今、
『経営戦略論』に対する文献が多く出回り、戦略と戦術の違いを明確に使い分ける
解説も一般的となってきた。しかし、戦略と戦術の定義を明確にしたからと言って、経営
や事業に成功する約束にはならない。戦略はあくまでも、
『目的』と同じく、
『目標や手段』
としての戦術に対し、抽象的である。しかし、このポイントが重要であり、さらに言えば、
戦術を確かなものとするための後方支援があってこそ『目的』にたどり着くことが出来る
と言える。
また、単なる「戦略のフィットを保つことを重視する戦略」は、実践的では
ないとも言える。
一般的な技術経営の諸々の書物は、単なる大企業のシステムや成功例を紹介し、勝手な
成功理由を説明しているに過ぎない。中小企業でも活用できる経営手法こそが求められて
いるのである。
なお、本書での【戦略と戦術、そして後方支援の明確化】は、経営手法を説明する上で
の単なる言葉の定義の明確化を目的としているのではなく、マネジメントを成功させるた
めには何をすべきか?
と言うことを適切に示唆することを主旨としている。そして、そ
のマネジメントは固定ではなく、時代や環境そして組織の変化に伴い、柔軟に対応するこ
とへの必要性にも触れている。
各業界の大企業・中堅企業問わず、明確に戦略、戦術を社員に知らしめる企業にはなか
なか遭遇しないどころか、事業大綱そのものを作成していない企業も少なくはない。販売・
拡販計画表や研究・開発設計計画表は事業大綱のほんの一部であって、真の意味では『事
業大綱』には匹敵しない。その『事業大綱』の中には、
【経営・事業の成功は、戦略(Strategy)
となる企業・事業の目的を成功させるための、戦術(Tactics)すなわち目標と手段を適確
に設定・実行するとともに、それをバックアップする後方支援(Logistics)と
なる物流・サービスそして人員・設備補充その他、協力先などを含めたインフラ整備をす
ることで、その成功確率を大幅にアップさせることが可能となる。】ということを明確に理
解できる内容にする必要がある。
しかし、福田和男氏が週刊新潮‘08.1.24の中での連載282で、
【いつごろから
か「戦略」と言う言葉が流行するようになった。
「戦略」は悪名高いほど定義することが難
しい】と記載している。
たしかに海外の書物の題名には戦略(Strategy)と言う文字がないのに和訳名では、
『戦
略・・・』と言う題名に化けている書物なども見受けられる。このような書物は一概に戦
略と戦術、すなわち目的と目標をごっちゃ混ぜしているものが多い。また、戦略論を語る
ときに必要不可欠な後方支援の位置づけも定義されていない。
“Strategy”も日本の和訳書
のほとんどが「戦略・戦術」となっている。
5
『戦略』は、悪名高いほど定義が難しいのではない。戦略、戦術そして後方支援の位置
づけをしっかり把握した中で整理すれば必然的に明確になるはずである。
実際に、日本のごく一部の企業は、しっかり戦略を把握して提示している。たとえば『世
界ナンバーワンになる!』、『世界的有名ブランドを構築する!』と言ったことが確かな戦
略であろう。
なお、この目的を達成させるためには、ストラテジック・インテント(Strategic Intent)
によるイノベーション創出やコア・コンピタンス(Core
Competence)と言う考え方に基づ
く競争の優位性確保と言う考え方は重要ではあるが、絶対的ではないことも実践例を挙げ
て本書で説明している。
また、本文にも触れているが、
『趙括の兵法』は、絶対にしてはいけない。過去の歴史で、
成功例や失敗例を学ぶこと、考察すること、学問を学ぶことは、市場や環境の変化に対応
するための参考、応用のための必要な知識になる。
しかし、過去の成功例や常識がそのまま、使えることは約束されない。
「柳の下には、二匹目のドジョウがいるかもしれない、いないかもしれない。」なのであ
る。
あくまでも、新たなる勝法を見つけるためには、検討・計画・実践・教育などが必要に
なる。
日本において、知的財産に対する処置・対応を失敗したがゆえにブランド力や競争力を
失った企業や、アナログからデジタルの技術変化に伴う環境・市場の変化に対応できなく
で、市場から消えた企業などの失敗に学ぶことは、多い。
市場は、日本の四季のように移りゆく。そして繰り返しも必ずある。その市場に適確・
迅速に対応するためにも【戦略・戦術・後方支援】すなわち、
【目的・目標と手段・諸対応
準備】の明確化が必要なのである。
スタッフ、タスクフォース、ストラテジィ、タクティクス、ロジスティクス・・・・す
べてがもともと軍事用語である。戦略論は長い戦いの中で精錬され、今日経済社会の中の
教本となっている。
世界三大戦略と言われる、孫子・ランチェスター・クラウゼビッツに学ぶことは多い。
日本では、優秀な戦術家を輩出したが、誰一人として戦略家は生まれ育たなかったとも言
われる。
それは今日の経済社会の中でも同じである。どうも私には、企業戦術を企業戦略と間違
えている企業が多いように感じる。また、第二次世界大戦時の失策の一つとして言われて
いることは、補給・輸送などの後方支援すなわち、ロジスティクスを怠ったことである。
本来、後方支援はさらに財務会計・設備・各種管理・通信・情報・教育・研究などさまざ
まな業務を含み多義にわたるものであり、現在一般的に用いられている『物流』のみを表
す狭義の意味ではない。
6
過去の先人・歴史に学び、冷静に現状を分析したとき、欧米各国には「国家戦略」があ
るが、日本には「国家戦略」がないという悲劇的な現状がある。日本には、せいぜい「国
家戦術」はあるが大事な戦略が未だにないのである。
『航空産業・宇宙産業で一番になる』、
『バイオで世界を制覇する』というアメリカに対して、日本は、世界に遅れと取らないよ
うに!をスローガンに、
『CO2 をエネルギー源とした車をつくる』、
『一家に 1 台、家庭用ロ
ボット』、
『カプセル一錠で健康診断』などである。明らかな違いが見えてくるではないか?
なぜ、この国は、
『温故知新』という言葉を子供のころに学んでいるのに、応用と反省がで
きないのであろうか?
戦術は大事なことである。戦術部隊を持っていなければ、当然目的にたどり着くことは
ない。ただし、それは戦略があって初めて目的が明確になり、後方支援があって初めて行
動ができるのである。
戦術部隊、後方支援部隊という言葉があっても、戦略部隊という
変な言葉は本来存在しないはずなのである。まさに、
「タクチーキのみを知りて、ストラト
ギーを知らざるものはついに国家をあやまつ」
(大村益次郎)なのである。よって、技術マ
ネジメントを含むトータルマネジメントは、1.戦略(ストラテジィ)<目的>、2.戦
術(タクティクス)<目標・手段>、3.後方支援(ロジスティクス)を的確に実践し、
「人、物、金、情報」を効果的に活用することによって、より的確なマネジメントが可能
となる。
真に兵法を歴史から学び、実践・応用できる組織あるいは人が勝利を得る事に異論はな
いはずである。なお、人も組織も成功からは何も学ぶことは出来ない。真剣に反省し、学
ぶことができるのは負けた(失敗した)時であり、
「理論は観察たるべく、協議たるべからず」
(クラウゼビッツ)という名言があることを忘れてはならない。
言い換えれば、他企業・他組織の成功例、方式・方法はそのまま取り入れて同じ成功を
期待することは危険であると言うことである。他企業・他組織での成功例は参考としなが
らも、自己の属する企業・組織に見合った手法を見出し、構築・運用し、常に見直し・修
正をかけることが最も必要なことである。
本著では、それらを再度軍事に学んでみようと試みている。
7
第1章
11
軍事戦略論
序論
《軍事に学ぶ経営学》として、真っ先に挙げるべきは、
“敗戦の将”の象徴である『趙括
の兵法』についてである。
趙括(ちょうかつ)とは、紀元前の中国戦国時代の趙の武将である。名将趙奢(ちょう
しゃ)の子であり、彼は幼少のころより兵学に通じ、兵法論については、右に出るものな
どいないと自負していた。父の趙奢でさえも、口論では論破するほどであったが、実際の
戦(紀元前 260 年:長平の戦い)で白起将軍率いる奏軍に破れて、一気に 40 万人の兵を失
い、国の滅亡へと導いた。
“己の策にうぬぼれ、敵の策を侮った戦の結果”とも言われる。
ここで学べることは、いくら経営学などを学んでも、実戦にて応用し、独自の手法を編
み出さなければ、“敗戦の将=趙括”と同じ、“無能な経営者”になると言うことである。
大手企業で成功を収めた手法が、そのまま中小企業で活用して成功することは、事例的
にもほとんど存在しないこともその裏付けである。また、大手企業で成功を収めた手法が、
仮に導入したい手法であったとしても、その企業の規模(組織規模、資金力など)で同じ
ことができないことも多い。
孫子の教えや、ランチェスターの第一法則や第二法則、その他クラウゼヴィッツのプラ
ンニング手法が、経営・事業でも活用でき、それがあたかも究極手法たるがごとく紹介し
ている書籍も数多く見受けられる。しかし、過去の軍事戦略家が紹介している内容は、そ
れぞれ一部の戦略・戦術であり、一人の戦略家が語ったことで、軍事でも経営でも勝てる
実証をしたものは、何も存在しない。
本章で紹介する戦略家、戦術家と言われる人たちの思想や哲学は、あくまでも我々が、
実践しかつ応用する経営でのヒントを探り出す、
「一つの情報」として捉えていただきたい。
12
14
数値化したランチェスター、13
学問化した孫子、15
プランニングを重視したクラウゼヴィッツ、
守・破・離を実践したナポレオン、16
明確にしたハンニバル、そして17
5W2H1Rを
教育・訓練を気付きあげた山本五十六、すべてが参
考となる事例であるが、その内容はあくまで参考にすべき事例集であって、実際の軍事で
あれ、経営であれ、その組織、環境、時期、規模などによって対応が変わるのは当然の理
であり、常に学んだことや習得した知識は、応用あるいはモディファイすべき内容である
ことを忘れてはならない。
8
また、各戦略論や戦術論は、何かしらかが、欠けている。本章で挙げる6つの情報をす
べて知ることで、初めて欠落のない戦略論や戦術論を語れるのである。
12
数値化したランチェスター
フレデリック・W・ランチェスター(1868 年-1946 年)は、1914年にオペレーショ
ンリサーチによる“戦闘の数理モデル”を発案した。それが、
“ランチェスターの法則”で
ある。 ランチェスターの法則は、第1法則と第2法則がある。本法則のベースは、
「戦場
で2つの戦闘単位が戦うこと」が前提となっている。
“ランチェスター戦略“と紹介しているものもあるが、本著では、あきらかに”ランチ
ェスター流戦術“と言うことになる。軍隊・自衛隊を経験したものならば、だれもが知っ
ていることだが、現実の部隊には、
「戦術部隊」はあっても「戦略部隊」などと言う用語は
存在しない。
なぜならば、「戦略」は、部隊・現場で行うものではないからである。「戦略」はあくま
でも組織のトップが実施するものである。すなわち、本著では、ランチェスターの法則は、
一つの“戦術論”と言うことになる。
121
ランチェスターの第1法則
A0-At=E(B0-Bt)
At
:A軍の当初の兵力数
A0
:A軍の時間t後の残存兵力数
Bt
:B軍の当初の兵力数
Bt
:B軍の時間t後の残存兵力数
E
:武器性能比
一対一での戦闘部隊間での戦闘をモデル化したものである。
例えば、A軍が5とB軍が3で、戦ったとした場合で、武器性能比Eを1とした
場合、A軍は、5-3=2の兵力が残存することになる。
122
ランチェスターの第1法則
A02-At2=E(B02-Bt2)
At
:A軍の当初の兵力数
A0
:A軍の時間t後の残存兵力数
Bt
:B軍の当初の兵力数
Bt
:B軍の時間t後の残存兵力数
E
:武器性能比
複数対複数での戦闘部隊間での戦闘をモデル化したものである。
例えば、A軍が5とB軍が3で、戦ったとした場合で、武器性能比Eを1とした
場合、A軍は、√52-32=4の兵力が残存することになる。
9
以上のランチェスターの法則を、経営学においては、営業戦術やマーケティング戦術へ
の活用にチャレンジしている。
勝つためには、いかにして
Eを増やすか?
第1法則と第2法則どちらを使うのか?
がポイントとして挙げられる。
ランチェスターの法則の経営への活用は、現代では、万能とは言えないであろう。通信・
インターネット等の普及とサプライチェーンの複雑化、そして企業間でのアライアンスや
コンソーシアムなどなどによる複雑なファクターの追加が、今の時代の”戦”の手法の変
化を求めている。
しかし、この数値化された「ランチェスターの法則」は、十分に参考となるのは、事実
である。数値化することの大切さは、忘れてはならない。
なお、第7章では、イノベーションを起こせる確率を数値化したモデルを紹介する。
13
プランニングを重視したクラウゼヴィッツ
経営学者のヘンリーミンツバーグ(Henry Mintzberg)は、彼の経営論の中で、「計画は
左脳で、経営は右脳で」と紹介している。非常にわかりやすい端的な説明である。
右脳を使うにも、まずは左脳で計画することが、最初のスタートである。
カール・フォン・クラウゼヴィッツ(1780 年-1831 年)の死後、1832 年に発表された
『戦争論』は、軍事戦略、戦術において、その定義を明確にした初めての書とも言える。
“戦略とは何か、戦略の構成要素は何か、勝利のための戦略要素は何かを適確に捉えて説
明している。
その『戦争論』の第5章での「戦争を計画する」では、以下のようなことが述べられて
いる。
①
戦争計画は戦争の設計図
戦争計画とは、戦争の設計図であり、諸々の戦争の戦闘構成要素を戦争の目的と
結び付ける役割を果たすことを説明している。
② 戦争の目的と目標の明確化が重要
クラウゼヴィッツは、戦争の目的と目標を明確にしないで戦争を開始することに警
告を発している。戦争の目的と目標は、戦争を行う場合の基本的な構想であり、それ
によってすべての方針が律せられるからである。
また、戦争の目的と目標によって、戦争で必要な資源や戦力の大きさが決定され、
戦闘や作戦などの細部の行動が決定されると説明している。
本『戦争論』を経営に置き換えて活用することは、非常に容易である。
・戦争を計画する
➡
事業を計画する。(事業計画を策定する。)
・戦争の目的と目標の明確化
➡
事業の目的と目標の明確化
戦争論を経営論に簡単に置き換えられる、ベースとなる学問書として、活用できる。
10
新入社員に教えるPDCA(Plan・Do・Check・Action)でもまずは、「Plan:計画」で
ある。しかし、「事業計画を策定する。」と言っても、単なる裏付けのない“売上目標値”
や“市場拡大願望”を列挙するだけで、明確かつ裏付けのある「目的と目標の明確化」を
示した、
「事業計画擬き」は、絶対に避けなければいけない愚策であることを、このクラウ
ゼヴィッツの『戦争論』で学ぶことができるであろう。
ただし、この『戦争論』だけで、あらゆる環境・時代・組織の違いによる『戦略と戦術』
を語り説明しているわけではないことを、見落としてはならない。
14
学問化した孫子
孫子の兵法は、十三編、すなわち始計篇・作戦篇・謀攻篇・形篇・勢篇・虚実篇・軍争
篇・九変篇・行軍篇・地形篇・九地篇・用間篇・火攻篇から成る。孫子の兵法は、2,0
00年以上も昔から、全世界の将軍や、優秀な指揮官に愛読されており、同時に多くの孫
子に関わる書物が刊行されている。
本著では、孫子の十三編を解説するつもりはない。著名な方々が、いろいろな視点から
解説、活用しているので、その点をあえて論ずることはしない。
ここで、取り上げたいのは、その『孫子の兵法』での、学問的教本としての構成とその
内容についての考察のみである。
有名な一文として、謀攻篇での「
彼を知りて己を知れば、百戦して殆うからず。彼を
知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦うごとに必ず殆うし。」
を取り上げると、その意味は、
『何々をすれば・知っていれば、どうなる。何々をしない場
合・知らない場合は、どうなる。』と言うことになる。
なお、全篇での教えは、
『何々をせよ』
『何々をしてはならない』
『何々とは、こういうこ
とだ』と言うことに抽象化できる。幅広い視野から、まとめ上げている兵法書としては、
群を抜くことは、間違いはない。次に紹介するナポレオンが愛読していたと言うことも納
得できる充実した内容であろう。
ただし、この『孫子の兵法』には、クラウゼヴィッツが重要とする、
『目的や目標』と『プ
ランニング』に対する具体策は不十分であると同時に、
『教育・訓練』のファクターは完全
に欠落していることは理解しておかねばならない。
15
守・破・離を実践したナポレオン
「守・破・離」とは、元来仏教に端を発する教えであるが、日本では、武道や茶道など
を通して、幅広くその意味が教えられている。その意味は
守=まずは決められた通りのやり方、手法を忠実に守り、
破=守で学んだ基本に自分なりの応用を加えて、
離=最後には形に囚われない自由な境地で、自分自身が確立させるというもの
と言うことであるが、英語で置き換えると
守=Learn、破=Break、離=Create と言う意
味になる。
11
ナポレオン・ボナパルト(1769 年-1821 年)は、彼の活躍の場で数々の名言を残している
が、優秀な指揮官としてふさわしい名言の一つに、
“無能な兵隊はどこにもいない。無能と
感じさせるのは無能な指揮官がいるからだ」という言葉を残している。
彼は、
『孫子の兵法』で理想として語られる連戦連勝の指揮官ではない。勝も負けも経験
している。典型的・一般的な軍人として士官学校を卒業し、1785 年には砲兵士官として任
官する。この時がナポレオンのまさに「守」の期間として、先輩や過去の優秀な指揮官に
学んだ時代である。その後 1796 年に、イタリア方面軍司令官となり、指揮官として手腕を
発揮した。これが次の「破」の時代である。そして、1799 年 11 月
フランスの民衆の強
大な支持を背景に、クーデターを起し、総裁政府を倒し、統領政府を樹立、自ら第一統領
になり、独裁政権を確立した。これが最終目的の「離」にあたる。この時は、1802 年 3 月
に長年の敵であるイギリスと講和条約を締結する外交政策と同時に、国内では、行政制度
整備などの内政面での諸改革そして産業全般の活性・復興などに力を注いだ。この中でナ
ポレオン法典は、1804 年が交付された。
最後には、100 日天下とは言われたが、皇帝の座まで上り詰めた。その彼の人生での結
果、内容はどうであれ、まさに、典型的な見本となる「守・破・離」が実践されていたの
である。
ナポレオンは、
「守・破・離」の典型的な実践者であるが、国の英雄が独裁者にまで上り
詰めた結果が1816年6月18日のワーテルローの戦いに敗れて、セントヘレナ島へ流
される結末となった。
連戦連勝だった、1796 年ごろの英雄で、数々の名言集を残しているナポレオンが失脚し
た年齢が46才である。すべてを悟ったかのように自分の能力に自惚れ、見えていなかっ
た・見ることができなかったのは、“人の心”であろう。
リーダーの資質として必要な敵や仲間への根回し・交渉と、自分亡き後の継承者の育成・
教育あるいは発掘の才がなかったのか、しなかったのかどちらかは判らないが、ナポレオ
ンの人生の後半は、我々が求むべき理想のリーダーとは言えない。
なお、有名なアルプス越え?(ハンニバルの模倣)と言われる、
“白馬に乗ったナポレオ
ン肖像画”の左下のボナパルトの名の下に、彼が優秀な指揮官として認めていた“ハンニ
バル将軍”の名が刻まれている。ナポレオンがハンニバルを師として仰ぎ、ハンニバルに
追いつき追い越したぞと言う、象徴を刻みたかったのだろう。
これが、彼の人生での、「天に唾を吐いた」結末の証なのかもしれない。
16
5W2H1Rを明確にしたハンニバル
ハンニバル・バルカ(BC247 年-BC182 年)は、カルタゴ(現チュニジア)の将軍である。
戦術家としても評価は高く、時として残忍な将軍としても恐れられていた。しかし、ロー
マに制圧されてきた国々では、ハンニバルを英雄として称えており、後世に語り継がれて
いる。
12
ハンニバルの戦法は、第二次ポエニ戦争(BC218年
別名:ハンニバルの戦い)の開
始とともに、ローマ軍の度肝を抜くことになる。ローマ軍が予想すら不可能だったアルプ
ス越え(ピレネー山脈越え)を果たし、ついにイベリア半島に進出してきたからだ。これが
トレビアの戦いである。その後、
“トラシメヌスの戦い”、
“カンナエの戦い”にて、地形の
有効的活用を実施しながら、ローマ軍を恐怖に陥れたが、この後からは、形勢が逆転、ハ
ンニバルと戦うことで、戦術を確実に身につけて、BC202年の“ザマの戦い”により、
ローマ軍はカルタゴ軍に圧勝し、これによりカルタゴの地中海での優位性は消失した。
その戦後、ハンニバルはカルタゴの行政に携わるきっかけを得て、敗戦国として、ロー
マの同盟国に支払わなければいけない莫大な賠償金も、行政改革の成果で、賠償金を完済
する手腕も発揮した。
ローマは、ハンニバルの戦いを通して、着実に身に着けた“戦術”をベースとして、確
実に強大な力を保有する国となり、その後の“マケドニア戦争”、ローマ・“シリア戦争”
に圧勝している。
なお、後世のローマ人は、偉大なるローマに立ち向かってきた強敵かつ畏敬の念を抱く
人物として認知しているようだ。
ただし、ハンニバルは優秀な現場の指揮官と言えども、共存すべき他国や、ローマから
同盟離反させようとする国々との根回しや交渉は上手だとは言えるレベルではなかった。
当然、本国カルタゴとの連携もままならず、ローマとの形勢が逆転したと言われている。
この中に、ハンニバルのもっとも注視すべき要点は、軍事作戦であろうが、行政改革・
対応であろうが、
“5W2H1R”※を明確にして戦勝・成功に導いているということであ
る。
その“5W2H1R”の、5つのW、すなわち、
“When(いつ),Where(どこで) ,Who
(だれが),What(何を),Why(なぜ)”と2つのH、すわわち、”How
Many(どのように
して)
“・”How・Much(いくらかかる)
“、そして最後にその結果がどうだったか?を表す
一つのR、すなわち”Result(結果)“を意味する。
※ 第3章3項にて、詳細説明あり。
17
教育・訓練を築き上げた山本五十六
「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず
やっている姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」
「苦しいこともあるだろう
言いたいこともあるだろう
不満なこともあるだろう
腹の立つこともあるだろう
泣きたいこともあるだろう
13
これらをじっとこらえてゆくのが
男の修行である」
以上、誰もが知っている山本五十六(1884 年-1943 年)の二つの名言であり、これに説
明は要らないであろう。重き言葉の中に、若者への「教育」と言う言葉が共通している。
日米開戦や日独伊同盟をはっきり反対していた唯一の日本海軍指揮官であるが、優秀な
戦術家として、今もなおアメリカにおいて、著名な人物として知られている。
山本五十六はご存知の通り、同僚や部下から非常に高い信頼を受けていた人物である。
「やってみせて・・・」、これができない企業の管理職や経営者がなんと多いことか。この
山本五十六の熱い思いが、部下からの信用を得て、一緒にとことんやりたい!と思われる
ことはそんなに難しいことでなないだろう。
「今どきの若い者などということを絶対に言うな。なぜなら、我々が若かった時に同じ
ことを言われたはずだ。 今どきの若者はまったくしょうがない、年長者に対して礼儀を知
らぬ。道で会っても挨拶もしない、いったい日本はどうなるのだ、などと言われたものだ。
その若者が、こうして年を取ったまでだ。だから、若者が何をしたか、などと言うな。何
ができるか、とその可能性を発見してやってくれ。」
この中に、若者に対する寛容と将来への期待が全部、つまっているではないか。
日米開戦に反対しながら、それを回避できなかった実際の結果を鑑みれば、どこまで優
秀な戦略家かは当然疑問になるが、軍事戦略であれ、経営戦略であれ、
「教育」は、重要な
ファクターであることに舞い違いはない。
「教育」と「強制」を間違っている指導者も世の中には五万といる。もう一度山本五十
六が残した、「教育」を考察していただきたい。
14
第2章
21
戦略とは
戦略と戦術の違い
日本語では、微妙な使いまわし方により、極めて繊細な違いを巧みに使い分けることが
できる良い面もあるが、特に「戦略」と「戦術」や「目的」と「目標」の違いの区別は、
極めて混沌としている。
大辞泉では、「目的」は、「目標」に比べて抽象的で長期にわたる目当てであり、内容に
重点を置いて使う。一方「目標」は、目指す地点・数値・数量などに重点があると説明し
ている。
この「目的」を英語で言い換えると、
“Goal”であり、
「目標」は、
“Target”と言う
ことになる。
本来、軍事で使用されていた「戦略」はこれに置き換えると抽象的で長期にわたる目当
と同じ「目的」に置き換えることができ、
「戦術」は、目指す地点・数値・数量などに重点
を置く「目標」や「手段」に置き換えて差し支えはない。
軍隊でも自衛隊でも、「戦術部隊」はあっても、「戦略部隊」などと言う、変な言葉は存
在しない。すなわち、
『当社の営業戦略は、市場シェアの30%を確保することだ!』など
と言う言葉は成り立たないことになる。
本著では、
“戦略はこうだ”、
“戦術はこうだ”と、評論家や経営学者と呼ばれる方々と議
論することを望まない。あくまでも、“軍事では、こう考える。”ことの説明をさせていた
だく。よって、「戦略の定義・解釈が違う」だとか、「当社の戦略はこうだから、違うこと
を言うな」と言う議論に参加するつもりはない。
戦略は“Strategy”、戦術は“Tactics”、そして後方支援(兵站)は“Logistics”であ
る。軍事を語る場合、この 3 つをすべて論じなければいけない。“Logistics”は、一般的
に民間企業では、「物流」のみを指し示す言葉として多く利用されているが、この
“Logistics”は、軍事では重要なファクターであり、太平洋戦争では、
“Logistics”を疎
かにした、日本海軍の敗戦とも言われている。
戦略と戦術を語る場合、後方支援を除外しては語れない。後方支援は、物流・通信・教
育・情報・サービスなど、「戦術」を成功させるためのベースである。
すなわち、「戦略」は、「後方支援」のベースにもとづいて、策定された、各方面の目標
と手段を実践する「戦術」の上に、“Goal”としての「戦略」が成立する。
(図21参照)
15
図21
22
戦略・戦術・後方支援構造図
戦略の策定
前項にも記載したように、
「戦略」とは、
“目的:Goal”である。題目では『戦略の策定』
となっているが、策定すべきは、「戦術」であり、「戦略」そのものは、策定すべきもので
はない。言い換えれば、
「戦略」を成功させるために、
「後方支援」を十分検討・準備して、
『戦術を策定』することにある。
自衛隊では、『戦略力の原則』として、下記の 11 項目を定義している。
①
目的:
究極の目的は、戦勝すること
②
創造:
戦場の特質などの状況変化に対応、状況に即応し戦勝方策を創出する
③
主動:
戦勢を支配し、戦勢獲得のために速やかに主動をとる
④
集中:
有形無形戦力を緊要な時期・場所に集中発揮させる
⑤
奇襲:
先行的情報入手により、敵の意表に出る
⑥
機動:
所望の時期・場所に戦力を投下し、有利な態勢を確保する
⑦
柔軟:
あらゆる状況に対応しうる準備、融通性のある計画、予備を確保しておく
⑧
統一:
全勢力を総合し共通目標に指向、指揮官権限付与、関係機関との連携をする
⑨
簡明:
錯誤と混乱を払拭するために明確な目標を提示する
⑩
保全:
敵の脅威から安全と行動の自由を確保する(情報、警戒、防護)
⑪
経済:
あらゆる戦力を有効活用、使用戦力を最小限に限定する
上記では、まさに①の「目的」が戦略であり、②創造・③主動・④集中・⑤奇襲・⑥
起動・⑦柔軟が戦術にあたる。⑧統一、⑨簡明、⑩保全、⑪経済は、兵站すなわち後方
支援である。
この11原則を、経営や事業に合うような言葉に置き換えると、表22のようになる。
16
表22
23
経営・事業に必要な11原則
国家戦略
過去の先人・歴史に学び、冷静に現状を分析したとき、欧米各国には「国家戦略」があ
るが、日本には「国家戦略」がないという悲劇的な現状がある。日本には、せいぜい「国
家戦術」はあるが大事な戦略は、阿部政権となった現代でも未だに明確ではないのである。
積極的な各企業トップを同行させての海外でのトップセールス、女性の社会での活躍の
場を増やすことへの積極的な発言と行動など、評価すべき内容は計り知れない。やっと、
日本のリーダーにも阿部首相のような逸材が出てきたと思う。
しかし、まだ「国家戦略」を明確にしているとは、言い難い。これもまたすばらしい「国
家戦術」の対応手法の数々である。反論する方も大勢いるであろうが、我々自衛隊にて、
戦略・統率を学んだものたちが、集まると反論するものはほとんどいない。
『航空産業・宇宙産業で一番になる』、『バイオで世界を制覇する』というアメリカの明
確な戦略に対して、日本は、世界に遅れと取らないように!をスローガンに、
『CO2 をエネ
ルギー源とした車をつくる』、
『一家に 1 台、家庭用ロボット』、
『カプセル一錠で健康診断』
などの戦術だけは明確である。
戦術は大事なことである。戦術部隊を持っていなければ、当然目的にたどり着くことは
ない。ただし、それは戦略があって初めて目的が明確になり、後方支援があって初めて行
動ができるのである。
戦術部隊、後方支援部隊という言葉があっても、戦略部隊という
変な言葉は本来存在しない。まさに、
「タクチーキのみを知りて、ストラトギーを知らざる
ものはついに国家をあやまつ」(大村益次郎)なのである。
17
24
企業戦略
前項の表22の経営・事業の 11 原則では、「財務」は、後方支援に記入している。当然
のことながら、資金繰りもままならないで財務運用もまともにできていなければ企業の存
続は危うい。しかし、財務は売上があって初めて、継続的・発展的な運用と管理が成立す
る。よって、「財務戦略」などと言う目的が前面にでてくることは、軍事面での 11 原則か
ら鑑みてもおかしなことである。軍事から考察すると、
「財務」は、戦略と戦術を確立させ
る、大事な後方支援(兵站)である。
また、軍事戦略から鑑みると、M&Aは事業の拡張あるいは、市場への参入のための手段
としての「戦術」に他ならない。
どんな企業であっても、M&Aが、経営・事業のGOALではないことは、明らかである。
よって、
「営業戦略」
・
「技術戦略」
・
「財務戦略」などと言う、各部門の「戦略」はおかしな
言葉であり、本来、企業が追い求める最終GOALの「企業戦略」に対して、
「営業戦術」・
「技術戦術」
・
「財務戦術」などを策定すると考えると、スマートな企業方針が見えてくる。
言い換えれば企業は、どこを目指すのか(GOALは?)を明確にする戦略が必要であ
り、その戦術を着実にこなしている企業は、ファーストリティリングやトヨタでうかがえ
るように確かに継続的な発展をしている。
しかし残念ながら、
「戦略」と「戦術」を明確に理解して区別している企業は、日本では
ほとんど見受けられない。
25
技術経営戦略
本著の題名は、
『軍事に学ぶ技術経営』であって、
『軍事に学ぶ技術経営戦略』ではない。
「戦略」と言う言葉だけが経営面で語られて、無法地帯に一人歩きしているように思えて
仕方がないが、軍事では「戦略・戦術・後方支援」がワンセットである。 よって、
「技術
経営」
(MOT:Management
Of
Technology)を軍事に学んで語るときは、
「戦略・戦術・
後方支援」をワンセットで考えなければいけない。ここで言う、
「技術経営戦略」とは、前
項の「企業戦略」に他ならない。
「技術経営」は、簡単に言うと、
“技術を経営の立場からマネジメントすること”である
が、前項22の“戦略の策定”の表22(経営・事業に必要な 11 原則)に記載されている
説明内容でも判るように、経営を実践するときに、技術的要素(イノベーション、差別化
製品など)を避けては通れない。経済産業省も、
「技術経営」を積極的に薦めているが、本
著では、「技術経営戦略」と言うワードを活用させていただく。
ただし、「技術経営戦略」を語るとき、「戦略・戦術・後方支援」がワンセットであるこ
とを忘れては、いけない。よって、『技術経営戦略』を成立させる場合、『技術経営事業大
綱』として以下の内容を検討し策定しなければならない。
18
《技術経営事業大綱の策定内容例》
Ⅰ 戦略<目的>
① 短期戦略
② 中期戦略
③ 長期戦略
Ⅱ 戦術<目標・手段>
① 事業の明確化
② 連携企業の確立
③ 研究開発・商品設計・品質保証の明確化
④ 営業活動手段・手法
⑤ 広報活動手段・手法
⑥ 市場把握のための調査(マーケティング)
⑦ 情報結果の活用と応用
⑧ 研究開発-ロードマップ-の作成
⑨ 商品開発-ロードマップ-の作成
⑩ 知的財産に対する取り組み
Ⅲ 後方支援<兵站>
① 人員・設備
② システム管理
③ 教育・訓練
④ その他インフラ整備(通信・物流・サービス他)
⑤ 情勢判断・分析・検討
19
第3章
31
戦術とは
戦術部隊
前項の第 2 章21
戦略と戦術の違いで、“軍隊でも自衛隊でも、「戦術部隊」はあって
も「戦略部隊」などと言う、変な言葉は存在しない。”と言うことを説明した。
『戦略』と『戦術』の違いを明確にセパレートして指し示している企業は極めて少ない。
しかし、日本で言うならば、当然自衛隊では、しっかり違いを示唆して、作戦等を組み立
てている。
「指示・号令された戦略」に対して、
「厳正な指揮のもと、適確な戦術を作成し行動に移す」
ことにある。
『戦略』と言う言葉が、徐々に民間企業経営などに使用され始めたのは、1980 年代後半
バブル崩壊が始まりつつあった時代であろうか?このころから、日本もおかしくなり、
“失
われた 30 年”と言われる日本の長い寒冷期が始まった。
言葉を言い換えれば、
『戦略と戦術の違いを知らない民間人や評論家?が、理解もしない
で、勝手な解釈で使い始めたことが、混乱の始まりである。
四方八方、勝手な解釈で、一人歩きしている言葉は、
『戦略や戦術』だけではない。最近、
聞かない日がないほど、巷であふれている『イノベーション』と言う言葉。
本来、”innovation”は、そのまま、翻訳すると、更改、革新、改革、刷新など幅広い
意味を指す。
しかし、現在いろいろな解釈定義があふれているが、今日民間企業で『イノベーション』
を語るとき、
『技術革新』だけを指すような解釈になっている。本来『技術革新』を英語で
示すのであれば、“technological
innovation”である。
“strategy・tactics“の『戦略・戦術』定義と“innovation“の『技術革新』定義は、
民間企業で、好き勝手にそれぞれ解釈しているところが、よく似ている共通点でもある。
EIZO株式会社(旧株式会社ナナオ)は、著者が 20 代のころ、ちょうどバブル時代で
あったときに、勤めていた田舎の町工場であった。今や目標であった非上場から一部上場
を達成し、今も新たな事業を拡張展開して成長している。
ここで、そのころ学んだ言葉に、
「進化・深化・新化」と言う号令のような言葉は、今も
忘れてはいない。これが、今で言う「イノベーション」と同じ意味のように感じるし、こ
の方が誤解を招かず判りやすい。
時を経て、21 世紀の現在、「イノベーション」と言う
言葉を使用しないで、「進化・深化・新化」をスローガンにしている企業も少なくはない。
『戦術』とは、一般的な言葉に置き換えると、
「目標や手段」のことと、前章で記載した
が、軍事的に訳さないで記載すると、戦術=戦闘技術ということになる。民間企業の組織
20
で言うと、営業部門、開発部門、製造部門、総務・経理部門等のすべての部門の実践がそ
れにあたる。ちなみに、同じように、
『戦略』を軍事的に訳さないで記載すると、戦略=戦
争策略ということになり、戦術と全く違う意味であることは、明白である。
軍隊で保有・維持・運用するのは、『戦術部隊』である。
企業の経営策略(戦略)が何なのか?そして、事業遂行術(戦術)はどうのようにすべ
きか?さらに事業遂行部隊(戦術部隊)をどのように投入すべきか?
それが明確にできれば、強い組織が確立できるのは、言うまでもない。
32 戦術の策定
いままで説明しているように、戦術とは、目標や手段であり、戦略を達成させるため、
計画から始まり、そのプランニングした内容に対して、あらゆる想定・準備そして実践を
することにある。
なお、戦術を成功させるためには、それを支える後方支援が必須であるが、その内容に
ついては、次章で説明する。資金調達・運輸を含む財務関連は、必要不可欠な後方支援と
して、説明する。
ここで、戦術の策定についての一部の項目を説明する。下記の①~⑩の項目は、事業を
遂行する上での、最小限の基本一例である。
【戦術の策定項目】
① 事業の明確化
② 連携組織・企業の確立(CFT※31 の立上げ・運用)
③ 研究開発・商品設計・品質保証の明確化
④ 営業活動手段・手法
⑤ 広報活動手段・手法
⑥ 市場把握のための調査(マーケティング)
⑦ 情報結果の活用と応用
⑧ 研究開発-ロードマップ-の作成
⑨ 商品開発-ロードマップ-の作成
⑩ 知的財産に対する取り組み
この事業を遂行する上での一般的な内容から逸脱する戦術を策定しなくてはいけない状
況が発生する場合がある。
新事業立上げや子会社の設立、M&Aの実行などの成長的発展のための戦術策定から、
敵対的妨害を仕掛ける競合などへの対処、クレーム対応などへのイレギュラーなことへの
戦術策定がそれにあたる。
戦術策定は、想定外な事象が発生した場合であっても、迅速かつ適確に実施しなければ
ならない。
すばらしい経営や事業は、アート(Art)とジョブ(Job)、すなわちアート・ジョブ(Art
job)のセンス(Sense
ware)を生かした戦術策定が決め手になる。
21
33
5W2H1RとPDCA
「5W2H1R」とは、
“When(いつ),Where(どこで) ,Who(だれが),What(何を),
Why(なぜ)”の5つのWと、”How
Many(どのようにして)
“・”How・Much(いくらかか
る)
“の2つのH、そして最後にその結果がどうだったか?を表す”Result(結果)“のRを
示す。
そして、「PDCA」とは、“Plan(計画),Do(実行),Check(確認),Action
(行動)”を示す。
戦術は、この5W2H1RとPDCAを明確にする必要がある。
この12個のワードのどれが抜けても、NGである。社員の指導と同じである。12個
のワードが抜けないようにマトリックスフォーマットにした参考例を図33に示す。
図33
34
5W2H1R-PDCA マトリックス表
環境の変化に伴う対応
新しい市場が求めるニーズやその変化した時代に合った経営や事業を成功させることが
できるかどうかで、企業の生存と成長が決定される。すなわち、環境の変化に伴うニーズ
の変化に対応できる組織や企業が求められるのである。
なお、日本は、自称『ものづくり大国』と言われているが、大企業のように諸々の人材
を抱えて、各業務に応じた多くの部署を保有する企業形態と、中小企業のように万年人材
不足に悩まされて組織を分割できず、数多くの業務を兼任しなければいけない企業形態で
は必然的に業務運営が異なる。この根本を理解しないと、概ね失敗する。
大手企業のかんばん方式を導入したが、うまく機能しない中小企業の話は、よく聞く失
敗例の一つである。
CKS(Collective Knowledge Stations)※32 と名付けられたシステム手法では、中小企
業であっても知識創造企業体がそれぞれの専門分野と得意分野、共有すべき分野を明確に
して集合体を創る。それは巨大大手企業システムに匹敵する。言わばアライアンスと言う
概念を越えた大連合軍の稼動である。従来システムと最も異なる挑戦的なCKSのポイン
22
トは、コア・アライアンスを形成する各企業があたかも巨大企業内組織のように業務シス
テムが連動されることにある。
なお、この時注意すべきは、H・イゴール・アンゾフが唱えた、
「①環境、②対応力、③
組織文化、④能力-が相互に釣り合うときに、組織は成功する」というポイントを見逃し
てはならない。
組織間連携であっても、企業関連圏であっても、通じる言葉である。
(開発工学 vol.31 No.2 2011. 環境の変化に対応できる事業形態.
―CKS“Collective
環境の変化に対応
Knowledge Stations”の活用―. 佐竹 右幾
右幾を参照)
を参照)
日本は、大きな環境変化・思想変化への順応性が極めて早い民族の集団だと言える。当
然変革が起きたときに順応できない若干の脱落者がでるものの、過去の日本は明治維新の
大変革や第二次世界大戦敗戦後の思想変化にきわめて従順に対応してきた。日本の場合、
欧米と違いカリスマ的なリーダーが独裁的に統括するより、集団の和が時代を動かしてい
ると言えよう。
確かに変革時にリーダーは生まれているが、その力は一人の力ではなく、その分野に長
けたリーダーたちの集まりが結束しているのである。当然これからも時代の変革に対応で
きるリーダーたちは現れるであろう。今後のリーダーたちに求められる資質は、幅広い識
見と『テクノ・プロデューサー(Techno-producer)』(亀岡秋男が提唱)に求められるよ
うな「コンセプト創造・戦略/戦術構築・総合調整」ができ、かつ夢と情熱そして執念を
持ちうる人材である。
また、過去の成功と失敗に学び、戦略(Strategy)、戦術(Tactics)、後方支援(Logistics)
を明確に把握して、実践することにより強固なトータルマネジメントが成功する。
よって、事業を成功させるためには、
「コンセプト創造・戦略/戦術構築・総合調整」が
でき、かつ夢と情熱そして執念を持ちうる強いリーダーの存在と、戦略・戦術・後方支援
を明確にして実践することが必要不可欠である。
なお、軍事の世界で例を挙げるならば、日露戦争は勝つべくして勝ち、太平洋戦争は負
けるべくして負けたことを説明するのに、判りやすい事例である。
日露戦争では、ロシア憎しの世界の国々が、リバウ港を出港したバルチック艦隊の動き
を日本にリアルタイムに情報を与えると同時に、休養・食料補充のための寄港をも妨害し
た。
戦意も失っていて、へとへとになって日本海に入ってきたその艦隊を壊滅できたのは、
そんなにびっくりすることだろうか?
太平洋戦争では、対艦巨砲から、空母を活用した空の時代へと変化していた。それをあ
からさまにしたのは、なんと大敗北した日本海軍自身である。空母より飛び立ったゼロ戦
による真珠湾攻撃の成功が何とも空母の活用を疎かにした日本の敗北への導いたのである。
23
1980 年代、民間業界で起こった話題として、VTR(Video Tape Recorder)でのVH
S方式対ベータ方式戦争が、日露戦争に似ている。VHS方式陣営は、松下電器-ビクタ
ー連合で、多くの他企業を取り込み、VHS方式採用提携企業数の圧倒的な差で、ソニー
率いるベータ方式陣営を木端微塵にした。いかに味方を取り込むかの勝負に勝ったのが、
VHS方式陣営である。
なお、太平洋戦争に似た敗北は、今現在の日本のエレクトロニクスでまさに起こってい
る。それは、アナログ製品からデジタル製品への移行である。当初国内で、アナログ製品
からデジタル製品に移行できなかった中堅企業がどんどん消失していく中で、デジタル化
に成功したかのように思えた大手企業も、デジタル化製品で敗戦続きである。スピードに
ついていけなかったと言うより、デジタル化への市場要求、ニーズを侮っていたと言えよ
う。
いやはや、日本人は何度も何度も、学習効果のかいもなくこうも同じ過ちを犯しつづけ
る民族なのか?
まとめるならば、
「環境の変化に伴う対応」は、日露戦争と太平洋戦争を学習すれば、い
つも簡単なことであると言うことである。
35
要領・容量・用量
日本語には、三つの『ヨウリョウ』が存在する。
まずは、一つ目の『ヨウリョウ=要領』。大辞泉では、「①物事の最も大事な点。②物事
の要点をつかんだうまい処理の方法」と説明している。この『要領』は、学生時代に教え
てもらえるような学問はない。しかし、社会人になった途端、何がなんだかわからない突
拍子もないタイミングで、上司や先輩に「もっと要領よく仕事をしろ!」と怒鳴られる。
若い人には堪ったものではない。
著者が知る限り、この『要領』を学生時代から学べるのは、防衛省管轄の自衛隊幹部養
成機関である防衛大学校だけであろう。一年生で入校した途端、怖い先輩や教官から、
「要
領!」と何がなんだか最初は理解不能なタイミングで飛んでくる。それが少しずつ『要領』
と言うものを覚えていくスタートとなっている。この『要領』は、センスとともに本来、
年齢を重ねるごとに磨き上げられてゆくものである。
次に、二つ目の『ヨウリョウ=容量』。大辞泉では、「①器物の中に入れることのできる
分量。容積。②一定条件のもとで物体が含みうる物理量。静電容量。」と説明している。
この『容量』は、作業・仕事上のキャパとして把握し、それを理解して業務を遂行すべ
きファクターである。
そして、三つ目の『ヨウリョウ=用量』。大辞泉では、
「用いるべき一定の分量。」と説明
している。この『用量』も、業務・プロジェクト遂行上、非常に重要なファクターではあ
るが、理解していない現場指揮官・管理者が多いことは、事実である。
『用量』は、同時進行する多数の業務やプロジェクトの数値的管理に使用できる。
24
例えば、
「Aプロジェクトには、人員実動配分時間2人×3hr/日、Bプロジェクトに
は、人員実動配分3人×4Hr/日」などのように数値を明確にするときに活用できる。
これら、
『三つのヨウリョウ:要領・容量・用量』を理解・把握・実践できることと同時
に、前項32での適確な戦術の策定、前項33での5W2H1RとPDCAの明確な実践、
前項34での環境の変化に伴う適切な対応をすべて理解したうえで戦術を実践すれば、経
営上の成功を手にすることは、容易い。
※31
CFT(Cross Functional Team):部門横断的に様々な経験・知識を持ったメンバーを集め全体的な「経営テー
マ」について検討、解決策を提案・実践する組織。
※32
CKS(Collective Knowledge Stations):2 社以上がお互いの得意分野部署を生かして 1 完成体となり共存する
国内新電気業界システム(⇒同じ部署を持っていながらお互い補う、EMS、OEMとは全く違うシステム)
25
第4章
41
戦術を成功させるための後方支援
すべてのベースとなる後方支援
第2章の21項「戦略と戦術の違い」の中で、
『戦略と戦術を語る場合、後方支援を除外
しては語れない。後方支援は、資金・物流・通信・教育・情報・サービスなど、
「戦術」を
成功させるためのベースである。』ことを記載した。
図41(経営事業策定相関図)のように「戦略A」
(目的)を達成させるためには、各方
面の「戦術 1)~n)」(目的と手段)を策定し、各戦術にはそれぞれ、「後方支援 1)~n)」
(対応準備)が必要となる。
このように鑑みると、組織や企業の中で、「戦略」そのものは多数設けるわけではなく、
求める理想を高くしてせいぜい数点に絞り込むことこそが必要であり、その一つ一つの戦
略を達成させるために目標と手段である「戦術」を各視点から設けることこそが、マネジ
メントである。
そして、これこそが“戦略プランニング”ではなく、
“戦術プランニング”であり、マネ
ジメントでもっとも正確に策定しなければいけないポイントでもある。
図41
戦略-戦術-後方支援相関図
26
世間には、経営戦略らしき文献や書物は数多く存在するが、戦略を支えるための戦術は
ともかく、戦術を行うために必要不可欠な後方支援との流れや因果関係を明確にした文献
は少ない。
先に説明したように、
“戦術プランニング”の中で、策定する「目標と手段」を実行に移
し成功させるためには、それを成功させるための、後方支援すなわち、社員への教育・情
報収集・インフラ整備・財務経理/投資計画など幅広い準備や対応が必要になることは、
すでに理解していただいたと思う。
“戦術プランニング”通りに上手く事が運ばない理由を解析すれば、この各種後方支援
の準備や対応が不足もしくは欠落しているということになる。
『戦略』『戦術』『後方支援』などの今までの説明を公式に置き換えると、
戦略 ≠ 戦術 + セレンデピティー
② 戦略 1 = [戦術1×後方支援n数
戦術1×後方支援n数]
1×後方支援n数]× N数
が成立する。
①
ゆえに、②の公式が成り立つためには、
「後方支援」がなければ成り立たないことが判る。
戦術や後方支援が0であると当然、「戦略」=0になる!
また、先の第1項(軍事戦略論に学ぶ)で触れた、
「自己の属する企業・組織に見合った
手法を見出し、構築・運用し、常に見直し・修正をかけることが最も必要なこと」を言い
換えれば、「常に戦術(目標と手段)を有効にするイノベーションを創出することが必須」
と言うことになる。
これを公式に置き換えると
戦術1 ≒ イノベーション
そして、
「後方支援」は、補給・輸送・財務会計・各種インフラ整備・各種管理・情報・
③
教育・研究などさまざまな業務を含み、「各種対応・準備」と総称することが出来る。
ゆえに、②と③の公式から、「後方支援」は、
④ 後方支援n数(対応・準備) ≒ 戦略1÷(イノベーション×N数)
すなわち、『戦略』は、言葉を言い換えると、「自分たちの存在を“イノベーション”に
より、世に存在意義を知らしめること」にあると言っても良いであろうし、後方支援はそ
のイノベーションにより対応や準備が変わるとも言い換えられる。
後方支援としての品質管理・環境管理そして情報/セキュリティ管理、これらの管理マ
ネジメントは全て、国際規格のISOなどでその運用方法が明確に定義付けられていて、
この認定制度に対応している日本企業は少なくはない。
しかし、この管理とその他後方支援業務を同じように管理して運用することにより、戦
略(目的)、戦術(目標と手段)を成功させようと考える企業はほとんど存在しないのが現
状である。
27
42
教育・訓練
日本において、知的財産に対する処置・対応を失敗したがゆえにブランド力や競争力を
失った企業や、アナログからデジタルの技術変化に伴う環境・市場の変化に対応できなく
で、市場から消えた企業などなど、失敗に学ぶことは多い。
市場は、日本の四季のように移りゆく。そして繰り返しも必ずある。その市場に適確・
迅速に対応するためにも【戦略・戦術・後方支援】すなわち、
【目的・目標と手段・諸対応
準備】の明確化が必要なのである。
それは、軍事であろうが、経済であろうが同じである。過去の事例だけを学んで、戦争
に勝てた事例は、歴史上存在しない。『すべては、移りゆく』のである。
その中で、企業・組織が、継続的・発展を遂げるためには、管理職から関係スタッフま
でを対象に、事業遂行のためのそれぞれの職・責務に合わせた教育・訓練を実施すること
は、必然である。そこで注意すべきことは、教育は卓上の理論のみを教えるものであって
はいけないということである。
たとえば、以前に別企業の一部署で同じような業務フローを経験していて職務を理解し
ている、あるいは過去に類した事業を成功させていたなどを経験していたとしても、新た
な任務を遂行した時に、成果を見出すことができることもあれば失敗することもある。
しかし、ここで結果が失敗であっても、必然的に『次回からは何をしなければならない
か?』を、普通の仕事人ならば誰でも学習する。即ち実践が最大の教育とも言い換えられ
る。
過去の事例などを参考とせずに実践したとしても、失敗が多くなる。実践のみを優先し
て、過去に学ばなければこれも、失敗の繰り返しになる可能性が高い。
よって、管理システムでよく使われる、PDCAサイクルは、図42のようにSTUD
Yを中心に設置して、PDSサイクル⇒DCSサイクル⇒CASサイクル⇒APSサイク
ルをまわしながら、経営・業務を実践することが必要である。
なお、「教育」は、常にアグレッシヴでなければいけない。
図42
新PDCAサイクル
28
現在の日本教育システムで、世界的ハイレベルなプロデューサーやリーダーがどんどん
育つと言うことは、限りなく困難である。ただし、それに対応することが可能となるのが
日本の集団・連携の力である。これは、日本の義務教育がもたらした利点でもある。
しかし、日本では高校生以上になると、いつの間にか理系、文系に分けられる。そして
高学年になればなるほど、文系は、科学から遠ざかり、理系は、文化・歴史からどんどん
遠ざかる。
先にも触れたように、過去に学ぶことは少なくはない。そして過去の文化や歴史の過程
の中に、新しいイノベーションを起こすためのヒントやアイディアが埋もれていることも
誰もが否定はしないであろう。
だからこそ、将来日本を引っ張っていくリーダー育成のために、文化・歴史と科学を交
えて考察するような、まさに知識科学に匹敵する学問の充実が必要なのである。文化・歴
史と科学の学問を、単純に両方学ぶのではなく、応用された新学問が必要ということであ
る。
日本の競争力を強化するためには、幼少期からの科学への教育充実と、10 代前半からの
リーダー育成、そして高学年でのプロデュース教育が必要であることを唱えたい。
以上のように、後方支援の中の、『教育・訓練』は、極めて高い重要性を持つ。
43
人員・設備・資金
人員補充・設備補充は、健全な“利益ある成長”を鑑みた時、適時、適切に実施すべき項目であ
る。そして、その実施は費用対効果を重視して行う必要がある。
表41の参考例のように、費用対効果を考察することは最低限必要なことである。
表41
人員増員・設備投資簡易費用対効果確認表
※
図43
別紙
図43
各利益相対表
参照
各利益相対表
29
表42では、売上高だけではなく、営業利益を鑑みた中で、毎期の人員増員と設備投資
金額が適切な費用対効果を生んでいると考察される。
当然、定常的な財務対応は、健全な事業を運用する上で、大事なベースである。
すなわち、ヒト・モノ・カネは・後方支援の大事なコアである。これら、物資が途絶え
ることは、敗北を意味することに他ならない。
44
研究開発・製品企画
第1章12項にて、
“ランチェスター”を紹介しているが、ランチェスターの法則の応用
展開として、「強者の戦い方」と「弱者の戦い方」が違うことを説いている。
弱者⇔強者と言う言葉が、適切かどうかの議論は別として、これを民間企業で置き換え
ると、“大手企業と中小企業の戦い方は、必然的に違う“ということである。
経産省が定義している中小企業の規模・解釈が広いために、すべてがそうだとは言い切
れはしないが、一般的な中小企業では、大手企業が定常的に実施している研究開発への投
資と課題設定は、そう簡単にはできていない。
目先の作業に追い回されて、慢性的な資金不足と人手不足に悩まされ、新しい事業展開
模索やイノベーションを創出することへの時間と金をつくり出せないでいる。
それゆえに、製品企画などと言う、おこがましい?こともできない。
そのマンネリの悪循環スパイラルが、いつになっても“下請からの脱却”を阻害し、慢
性化した自転車操業にもつながる。この状態だから、
『富国強兵』になることは、極めて困
難である。
企業が、健全に継続的に発展、成長するためには、大手企業・中小企業問わずに、常に
市場・環境を見極めながら、新しいイノベーションを常に創出してゆかなくてはいけない。
ただし、軍事と過去の歴史に学べば、中小企業でも、大手に匹敵する『研究開発』への
投資、市場・環境の変化に追従する『製品企画』は、それほど難しいことではない。その
手法については、第6章の「連携」で説明紹介するが、企業を存続させるためには、中小
企業でも、定常的にイノベーションを創出するような、
“仕掛け”を創り出すことは必然で
ある。
このシステム構築こそが、
「戦術」を成功させるための、ソフト的「後方支援」内容とな
る。
45
情報収集・マーケティング
前項での『製品企画』を実施するには、『戦略的製品企画能力』を養うことが、“イノベ
ーションの創出を容易にする”近道である。
『戦略的製品企画能力』とは、企業内にて、事業やプロジェクトの遂行や成果によって
新たに収集できた情報・ノウハウによって、さらなる事業展開や拡張、応用ができる能力
を意味する。
30
実際に、明確化された事業に対してプロジェクトを運用しているときに、その目的物と
違う製品企画構想や改善手法を見出すことは、それほど驚くことではない。ただし、あく
までもプロジェクトを遂行する組織間や企業間での絶対なる信頼関係の基盤のもと、多く
の情報開示、共有があってのことである。情報交換や情報の集約・整理は、新たなるヒン
トが生まれる絶好のチャンスでもある。この情報の共有化により、プロジェクトを遂行す
る各組織・各企業の継続的な革新を推進させるための、スパイラルアップにも繋がるもの
である。
よって、「情報の共有」がすなわち、「戦略的製品企画能力の共有」へと繋がっていくの
である。
なお、マーケティング活動が情報収集のすべてのように錯覚している組織は多く実在す
るが、業種によって成果は様々だが、特にエレクトロニクス業界で、マーケティング部隊
が、活躍・成功していることを耳にすることは、極めて希である。
その答えは簡単である。「戦略的製品企画能力の共有」がなされていないからである。
日本は、日露戦争時、海外からの情報を利用して勝利した経験もあるにはあるが、太平
洋戦争時代は、日米の「情報収集力の差」が、戦争の優劣を決定したことは著明な事実で
ある。未だ、日本は、民間レベルであっても、「情報収集力」が強いとは言えない。
46
物流・サービス
物流、まさしく一般的に知られている、LOGISTICSである。日本は、太平洋戦
争時、LOGISTICSでの『補給』を軽視したとの文献も多数あるが、日本は補給に
関しては、軽視はしていないと言う文献も最近著明となってきた。(『太平洋戦争時のロジ
スティクス
日本軍は兵站補給を軽視したか』林譲治著
学研)
線路、車、船舶、機関車などなど、どれをとっても日本軍が軽視した事実は確かにない。
日本軍は、『軽視』ではなく、『作戦・計画の失敗・駄作戦術・計画の無理/破綻』があっ
たのである。
その理由は、移り行く戦場・戦況への適切な対応、すなわち“やめる”
・
“継続”
・チェン
ジ“の采配をとる指揮官が不出来だったことに尽きる。
歴史は、同じ事を何度も繰り返す。
現在の経済戦争で、今現在同じことが起きていることを、そして同じ結末を歩んでいる
ことを何人の日本人が気づいているのであろうか?
大手ネット通販企業のアマゾンと、今や敵は家電量販店ではなくネット通販会社と戦お
うとしているヤマダ電機にも同じ構図が見える。
31
約 2 兆円の売り上げを達成して、業界の雄として勝ち誇ったのも、つかの間であった。
『情報と物流(補給)』の圧倒的ネットワークを駆使して、あらゆる物流に浸食したアマゾ
ンへの対抗を宣言しているものの、その構図は、過去の太平洋戦争に類似する。
サービスに関しても、国際的ビジネス感覚(ここでは、利益を生み出すビジネスを指す)
から逸脱する日本的サービス感覚は、
“欧米の利益を生み出すための参考書”となるだけで、
日本初のサービスが、海外からの逆輸入のビジネスモデルになった時、変革のできない昔
ながらの日本企業にはあ、企業存続を脅かす、鋭い刃物として振りかざされる。
再度歴史を見直せば、その先も見えてくる。
47.販売・広報
販売は、当然顧客に売る製品があって成立する。それは、形あるハードから無形なソフ
ト、サービスなどの中に幅広く創出される。
そして、その製品の販売方法・広報活動は、その組織の規模、市場性、業種などによっ
て、それぞれ多種多様である。
これは、戦場と同じである。その環境・地形・立地条件・人員・設備・食料・資金など
などの現況を鑑み、その状況に見合った、最適な戦法を組み立てて実戦に挑むのである。
21 世紀、中小企業は、大企業のような大きな宣伝費を必要としなくても、広報活動がで
きるようになった。それがインターネットである。当然ながら、パソコンも使えない、ネ
ット業界も判らない、新しいことは難しい、と言っている中小企業の経営者が存続できる
時代ではない。
販売手法であれ広報活動であれ、環境・市場の変化で、手法を変えて臨機応変に適用し
てゆかねばならない。その時の戦い方は、時を経て、
“美しい戦い方”と“美しくない戦い
方”のどちらかが語られる。それは、勝てば良いと言うものではない。どれだけ、
“語り継
がれる見本となる戦法”を世に知らしめることができるか?
戦争と経済は、同じである。
32
第5章
第5章 情報の収集・活用と応用
51 情報収集
前章の第4章『戦術を成功させるための後方支援』45項で、情報収集・マーケティン
グついて少し触れているが、情報収集力が、国の差、企業の差、組織の差になることぐら
いは、誰でも頭では知っているだろう。しかし、いざ実戦となると、明晰に処理できる組
織や個人は少なくなる。
“マーケティング部隊”が、機能を発揮していない大手企業も少なくはない。情報・マ
ーケティングが最重要課題と言いながら、
“マーケティング部隊”が機能しないために、作
っては、解散させ、また呼び名を変えてみては、解散・・・と堂々巡りをいつまでもやっ
ている企業さんを見ると切なくなってくる。
情報収集は、『戦術』すなわちその《目標と手段》を明確にして、《時と場=時機・タイ
ミングと市場・環境》を掌握することにある。
経営は、『人・モノ・金、そして情報』だと言う。取ってつけたように、いつ頃からか、
『人・モノ・金』
に、『情報』が追加された。
ミッドウエー海戦時、ザルの中に水を入れて、すべて零れ落ちるがごとく、情報が漏洩
し続けた日本が大敗を記したことは有名である。その後に『情報戦』の大切さを知ったが、
すでに手遅れであった。
『人・モノ・金』に『情報』が追記されたのは、」1990年代ぐらいであったであろう
か?
バブルが崩壊して、経済で外国勢に負け始めた頃だったろうか?
また、同じ事、
やっちゃった!って、言う感じだ。どうも日本人も、学習の成果がない。
この、“学習したのに何も覚えていない、応用できない人たちのこと”を、“ザル頭”と
言う。
なお、情報収集の手法の一例としては、
“こちらから情報を提供して、その見返りとして
こちらが欲しい情報を引き出す手法がある。軍事でも経済でも同じようなことは、日々い
たるところで、行われている。
情報は、デリケートなファクターでもある。
「自分は、賢い・偉い・優秀などと人に見せつけたがる者」、「俺は、バカだ・小心者だ
と、セミのようにうるさく言いまわる者」など、各個人が、日常自然に発している言葉、
すなわちその発信情報で、敵をつくったり、味方をつくったりしている。
話をすれば、人との交流の中でその人の情報が必ず出てくる。
その中で、
「黙って、何も動かない・反応しない人間」ほど、怖くて、不気味なものはな
い。組織も国も、同じことがいえる。何を考えているのかわからない脅威は、当然経営・
経済でも有効的に使える。
33
言い換えると、どんな情報でも良いが、何でもよく発信してくれる組織や人は、扱いや
すいのだ。
52 情報活用と共有
情報収集は、事業・プロジェクト遂行上、非常に大きなファクターであり、
『孫子』の名
言流に言えば、「情報なくして戦略なし」と言える。
市場調査どころか、外部からの情報を持ち帰ることのない営業を保持している企業に継
続的な発展と成長はない。情報収集レベルがその組織の未来を左右するのである。
なお、情報がしっかりと現場から上がっていて、当社は、まったく問題がないと勘違い
している経営者も少なからず存在する。これが、悲しい日本企業の現実である。トップ自
らが壁を作り、フィルターをつくっているのに気付かない、言わば21世紀の「裸の王様」
企業の存在である。
このような状況に陥る企業には、共通点がある。これは、旧日本軍が大敗した状況とも
類似する。
それは、
① 優秀な部下の意見や協力者の意見に耳を傾けず、すべてが自分中心だと対外的に
見せつけたがる指揮官がいる組織・企業であること。
② 上司が日々の報告を強制し、すべてが減点主義である組織・・企業であること。
③ 幹部と担当の接し方、教育の違いに気付いていない指揮官・幹部が仕切っている組
織・企業であること。
の3つが一つでも存在するということである。
このような組織は、間違いなく、遅かれ早かれ消滅する。歴史がすべてを語っている。
この3つの一つでも心当たりがあれば早急に治療をしなければいけない。
どこの国であっても、最終判断をして命令を下すのは、その組織の指揮官である。これ
に変わりはない。しかし、太平洋戦争時代の日本海軍とアメリカ海軍を比較したとき、全
くその進め方は異なる。各種の意見を言わせてその中で最適な手段を見出そうとするアメ
リカに対して、自己の経験とその時の感で、指揮を出した日本で、間違いなく優劣がつい
た。
また、現状の軍隊でも、アメリカは現場での情報の共有化を大事にしている。
(当然、秘
密情報を共有開示するものではないが。)。例えば、アメリカ陸軍には、AAR(After Action
Review)と言うシステムが徹底されている。言わば、作戦終了後の“反省会”であるが、
これがまた、日本が学ぶべき一つの手法である。
これは、反省会であっても、幹部や兵士を軍法会議にかけて、責任を転嫁するためのも
のではない。成功したか失敗したかが問題ではなく、行った行為に対する振り返りである。
振り返り、事象を整理することにより、NEXTへの継承・応用・改善などを明確にする
ことが目的である。
失敗した部署や個人の犯人捜しをすることが目的ではない。これができない日本のリー
ダーが多いことか。これは、今に始まったことではない。旧日本軍でも、現代の企業経営
者でもほとんど変わりはない。
34
ナポレオン曰く、
『無能な兵士はどこにもいない。無能なのは、自分の無能さに気づかな
いバカな指揮官である』と。
隣国の、
『旅客船の船長が、乗船客を置き去りにして、自分だけが逃げていった!』と笑
うことのできる日本の経営者が、果たして何人存在するであろうか?
情報活用と共有とは、トップ自らが、冷静に歴史に学び、他国にも学び、情報が正確に
上層部に上がる環境をつくり、連携する組織や企業と正しい情報で共有・共存することで
ある。
日露戦争は、司令官であった東郷元帥が優秀だったことだけで勝利した訳ではない。そ
の時の世界情勢で、大国ロシアが憎い諸国が、リアルタイムにバルチック艦隊の動き・ル
ートなどの情報を日本に与えていたファクターは大きい。
53 シミュレーション
情報収集・マーケティングを実践的に活用できるために、ここに一つの戦術としての手
法を紹介する。
図51は、電機業界でのターゲット市場のシミュレーションをしている。現量産製品と
開発製品の利益性と将来性を把握し、今後どこを攻めなくてはいけないかを明確化する。
この中で分析している4つの領域、すなわち、
①
受注警戒領域
②
受注要検討領域
③
積極的受注獲得領域
④
撤退検討領域
に対して、一目瞭然で、③項の『積極的受注獲得領域』をこなすことが理想であることは
言うまでもないが、②項の『受注要検討領域』でも、将来性が有望視されるもので低利益
率製品でも施策の一つとして検討する価値はある。
図51
ターゲット市場PPM(Product
Portfolio
35
Management)
なお、情報を活用検討するには、このシミュレーションと併用して、定性的分析手法の
新QC7つ道具※51 などの利用と現場密着実践型のブレーンストーミング・ブレーンライテ
ィングにより、『情報結果の活用、応用』が引き出せる土俵をつくることは有効である。
54 環境・市場・事業分析
まず、事業を実施検討分析する前に必ずしておかねばならないことは、自社の経営力・
技術力をしっかり把握すると言うことである。これができていないと、戦などできる訳が
ない。そこで、現時点の自社全般の強みと弱み(得意分野と不得意分野)が判るよう、前
項の定性的分析手法で、解析することは、一つの方策である。そして、現状の状況考察に
あたり、戦略<目的>
⇒
戦術<目標・手段>
⇒
後方支援
そして情報収集を鑑み
て、それを導く各種の情勢を判断・分析する必要がある。
この時、自社に不足もしくは、保有していない組織や能力があった場合であって、人・
設備・資金・時間・技術などの制限により独自では対応できないことへの施策として、協
力先への委託もしくは、協力先との連携を検討する手段がある。本内容に関しては、次章
にて触れる。
自社の現況を分析・把握する内容は、企業としての、創造力・企画力・情報収集力・営
業力・管理力・指導力そして財務力と経営力などの幅広い分野に対して実施する。
その上で、自社が目指す環境・市場を検討・分析して、その攻め方を構築し、実践する。
なお、創造力、企画力は開発設計部隊だけに求めているのではない。すべての部署に必
要である。また、他社の成功手法はあくまでも参考として、独自のシステム構築をしなく
ては継続的な企業・組織の継続的発展と存続はない。
図52は、自社の状況把握を簡単に実施する場合に、活用できる、
《SWOT分析》手法
のフォーマットである。それぞれのS・W・O・Tに該当する項目を列挙することから始ま
る。本フォーマットの活用は、作成することが目的ではない。自社が現時点で、直接・間
接・潜在的に保有している“O(機会)”を理解し、障害となる“T(脅威)”を把握して、
経営や事業の改善に役立たせることにある。
図52
SWOT分析のフォーマット
※51 新QC七つ道具は、①親和図法、②連関図法、③系統図法、④マトリックス図法、⑤マトリックス・データ解析法、
⑥アローダイヤグラム法、⑦PDPC 法を示す。本来、計的工程管理=SPC(Statistical Process Control)の一つ
の手法として用いられるが、この定性的分析手法は、事業・プロジェクトの推進に流用展開ができる。
36
第6章 連携
61 アライアンスとアウトソーシング
アライアンスとアウトソーシング
大手企業が実施しているアウトソーシング(Outsourcing)は、現状自社の組織機能とし
て、保有していない部署の実務作業を外部に委託するというより、自社内の最重要視する
事業や部門に注力するために、不採算事業や部門の人員の削減、費用の削減あるいは利益
率の確保を目的として、実施する傾向が強い。
すなわち、現状の大手企業から見たアウトソーシングは、加工賃の安い企業へ下請けに
出すことに他ならない。よって、アウトソーシングには、委託する企業と受託する企業間
で、強い力関係を発生させる。
自社が保有していないあるいは弱い部門をアウトソーシングする実例も見受けられるが、
WIN・WINの関係とはならないことが多い。
たとえば、A社メーカーの購買部門が弱いために、それが得意であろうB社商社に実施
させたとした場合、得意・不得意分野の発生による不満、お互いの知識不足や求める成果
の微妙な食い違いにより、早い時期に崩壊する。
例えば電機業界では、特に資材購買において『集中と分散』を繰り返すと言われるが、
委託先での自達を廃止して、自社において集中購買を実施して、大量受注による部材コス
トの削減を実施している大手企業の方が、利益率のアップ・改善をしているのが現状であ
る。
一方、アライアンス(Alliance)は、大手企業であれ、中小企業であれお互いの不足す
る機能の補強や事業投資に対する分担を目的として成立している。
しかし、この場合であっても、資金力の違いやアライアンス事業への分担量や質の違い
により上下関係が発生しやすい。よって、アライアンスでは、大手企業と中小企業の間の
縮図は、限りなく成立しにくい。これを避ける最終形態は結局合弁会社の設立かもしくは
吸収合併であろう。
62 コンソーシアム
コンソーシアム(Consortium)とは、大辞林では、
「大規模開発事業の推進や大量の資金
需要に対応するため、国際的に銀行や企業が参加して形成する借款団や融資団、または組
合・連合」と説明しているが、本来 Consortium は、ラテン語で、「提携・共同・団体」を
意味する。
アライアンスは、企業間で提携して共同で事業を遂行することに対して、コンソーシア
ムは、政府・企業・団体などが共同して事業を遂行することの違いがある。
前項で、アライアンスでは、大手企業と中小企業の間では、成立しにくいことを説明し
たが、言葉を言い換えると、アライアンスは、大手企業間の戦術の一つであり、コンソー
37
シアムは、業界の壁を超えて、政府までを巻き込んだ大組織で活用する戦術の一つともい
える。よって、コンソーシアムやアライアンスは、中小企業間の戦術としては成立しない。
第 1 章で、『数値化したランチェスター』を紹介しているが、ここで、大企業の戦術と、
中小企業の戦術が違うことを十分理解する必要もある。
63 EMS・ODM・OEM・CKS※61
1970年代から1980年代、大手電機メーカーから生産や開発の委託を受注し、そ
こで蓄積したノウハウと技術力を活かして、自社ブランドを確立した中堅企業・中小企業
が成長して発展を遂げている実例も少なくはない。それはOEMを通して、長年にわたる
大手企業の設計ノウハウ・品質ノウハウ・製造ノウハウなどを学び他社との差別化できる
製品の確立ができた一握りのメーカーである。一方、大手企業のライセンスを取得して一
時的にその時代の雄となった企業は、現在ほとんど存続していない。ソニーのベータ方式
を制してVHSがVTRで勝利を治めたが、その新参メーカー企業はおろか発信源である
V社もが、時代のニーズに対応できず負け組みとなって市場から消えつつある。
次世代の画像媒体、記憶媒体あるいはアナログ製品からデジタル製品への対応などに対
して遅れたメーカー、すなわち負け組みとなったメーカーには結果的に共通点がある。し
かし、経営的ジャッジは単なる時代のニーズのアンテナだけを求めるものではなく、どこ
と組むかも重要なファクターとなる。
1980年代の大手電機メーカーは利益率を確保するために前工程や古くなった技術で
の製品などをどこに下請に出すかであった。その考え方や手法は現在のEMS委託方法で
も見受けられるように根本的な体質・手法は変わっていない。
その中で、大手企業から開発や製造の委託を受けた中小企業は、他社競合先に事業を奪
われないように、その事業に見合った専用設備の投資を第一優先として対応する。その専
用化は、環境の変化、市場の変化には非常に弱いものになってしまう。投資による設備償
却は、マイナーチェンジに伴う新規製品開発・製造などのインクリメンタル・イノベーシ
ョン(Incremental
Innovation)※62 には対応できるものの、移りゆく環境・市場の変化
に伴い新たに生まれたラジカル・イノベーション(Radical
Innovation)※63 製品には対応
できなくなる。設備償却が終わらないうちにこの時期を迎えた中小企業は、新規投資に対
する資金繰りや新しい技術への人的対応、そしてノウハウ習得の時間を要するリードタイ
ムにより、危機に直面する。
よって脱下請を目指す中小企業には、一時的に製造工程を安定的に維持させることので
きる大手企業からのOEMやEMS受託は魅力ではあるが、イノベーションを起こすよう
な新規事業を目指そうとした場合、それが強力な障害にもなりうる。
すなわち、OEMやEMSを受託する企業側にとっては、難しい事業判断に直面する機
会が多く発生するのである。
38
なお、このOEMやEMS受託を成長過程として、大手企業の設計ノウハウ・品質ノウ
ハウ・製造ノウハウなどを学んだことにより、他社との差別化ができて、著名なブランド
メーカーとして発展・成長した企業も確かに実在する。
EIZO(旧株式会社ナナオ)は、当初三菱電機の下請け工場として創業し、強力な個
人オーナーである村田製作所の創設者村田昭の資金力をバックとして、大手企業のTVや
VTRのOEM受託生産の中で大手企業の技術・製造ノウハウを吸収し、自社ブランド事
業として、まずは、パソコンモニターを世に投入した。
そして、技術的優位性が高いディスプレーモニターのブランドメーカーとしてその地位
を獲得した。そしてその技術をさらに展開して、アミューズメント事業への拡張、さらに
は医療機器事業を立ち上げその地位を確固たるものとし、大手企業への仲間入りを果たし
た。
この自社ブランドでの事業確立と利益の確保が見え出したとき、その時のナナオは企業
経営判断として、下請けOEM事業からの完全撤退を決定した。
同じように三菱電機の下請工場として創業したイイヤマは、OEM受託から脱却してE
IZOより早く上場を果たしたが、環境(市場)の変化に、次なる事業展開や他社との差
別化を見出せずに市場から消え去った。
また、OEMにてノウハウを習得して、自社ブランドを確立したものの、違う経営判断
のもと、大手企業からのOEM、EMS受託もいまなお事業の柱として持続させながら、
自社ブランド製品にも対応しているメーカーも存在する。安定した資金源を得るためには、
大手企業の大量生産型の受託生産を行わざるを得ないことも実情であろう。
一方、電機業界の商社が、受託開発・製造をスタートさせてメーカーの仲間入りを果た
している企業も存在する。その多くはEMS受託生産を事業主体として、大手企業と共存
している。なお、日本では特異な企業発展をしている加賀電子は、EMS受託生産を続け
ながら、M&Aなどにより、ブランドメーカーの吸収合併も続けながら自社ブランドメー
カーの確立を目指している。
基本的には、大きな資金力と組織力を有する大手企業からの受託開発・生産が電機業界
における多くの中小企業の事業主体であることには間違いはない。
ただし、このOEM、EMS受託事業に大きく傾倒している場合、市場の激変がありそ
の変化に対応できない大手企業との事業であった場合、中小企業もその運命は時の運に流
される。
OEMやEMSを中小企業に委託する大手企業では、自らの利益率を上げるためのもっ
とも適した手法であり、受託する中小企業から鑑みれば、その利益率を公平に分配する事
業形態ではあり得ない。
39
よって、現状の大手企業から見た受託生産依頼は、管理費・加工賃の安い企業へ下請け
に出すことに他ならないのがまさに実情であった。
ただし、最近実に興味深い現象が加速している。
台湾メーカ-である、FOXCONNは、シャープなどからEMS生産受託で企業を大
きくしていく中で、本来の受託先ブランドメーカーより、資金的にも力を持つようになり、
独自の開発技術部隊をも増大させていった。
これが、日系EMS大手メーカーでも同じような現象が多くみられるようになった。大
手メーカーは、誰に唆されたのか、人員を削減し社内ノウハウをEMS先に開示し、その
ジャッジまでゆだねるようになった。
気がつけば、知恵袋であったおじさんたちは、
“リストラ”の名の元に、
“21 世紀姥捨て
山”に捨てられ、次世代の若者スタッフがコツを聞きたくても、周りにそのコツやノウハ
ウを教えてくれる人がいなくなった。そして皮肉にも、
“下請け”に使っていたEMS先に
力を借りないと、すでに「自給自足」ができない体となってしまったのである。
反対に、EMSメーカーは、今まで保有できていなかった開発技術部隊を設置して、着
実に技術者を増員させている。これもまた皮肉にも大手メーカーがリストラした人たちを
採用して、業績を上げているのだ。
まるで、“日本の戦国時代”の「21 世紀版」を見ているかのようである。
表61に、CKS、OEM、ODM、EMSの各開発・製造外部委託手法を比較した。
なおこの中に紹介しているCKS(Collective Knowledge Stations)は、中小企業間で
編みだされた新しい連携システムである。
そのCKSでの最大の特徴は、『品質面』であり、協力企業間で、「相互に対応する」こ
と、そして「共有」することである。OEM・ODM・EMSでは、必ずその事業を委託
した側のシステムやルールあるいは管理体制を強制する。
CKSでは、違う国同士が、共通通貨を扱うまさにEU諸国のユーロ通貨のように機能
させることにある。そこでは、品質保証における『品質保証体系』が連結の鍵を握ってい
る。
「相互に対応する」こととは、各業務工程における品質管理をそれぞれ受け持つことを
言う。各業務工程における品質管理とは、製品品質を保証するための、部材品質、設計品
質、製造品質などを言う。
この点が、CKSのもっとも大きな特徴でもある。なお、
「分担専任企業が実施」する『営
業面』、
『製造面』、
『購買面』、
『サービス面』、
『技術面』は、その責任の所在が明確になる。
これは大手企業のような、充実した組織を保有していない中小企業でも、連携すること
によりグローバルな事業展開が可能であることを示唆している。
40
表 61
開発・製造外部連携手法システム比較表
64 競合と協業
産業技術上の戦略的目標を創出させるグランド・デザインにあたっては、研究技術開発
に関わる多くの目標連鎖(Cascade
Chain
Link)を作り込むことが日本の戦略的構築機
能を強化する上でも、重要なポイントとなる。
そこで、いろいろな手法を利用した社外との連携、あるいは産学官の連携などにより、
テクノフロー(技術知識の流通)を活用することにより、より活性化させなければいけな
い。この目標連鎖により、優れた創造力と構想力、豊かな経験と見識のある頭脳集団の知
的総合力を発揮できる可能性が高くなる。
『競争する(compete)という語源は、ラテン語の”共に求め合う”(competere)であ
る。』<猪瀬博>とのことだが、まさに高度な戦略的目標を達成させるためには、今までコ
ンペティターとしていがみ合うだけの相手をアライアンスとするような政策転換が必要で
ある。
※61:各用語の説明は、表 61 の「開発・製造外部連携手法システム比較表」を参照のこと。
※62:インクリメンタル・イノベーションとは、既存技術の改善あるいは既存製品の改善・改良。
※63:ラジカル・イノベーションとは、劇的な変化をもたらす技術。
41
第7章
第7章 技術革新による変化
71 歴史上の技術革新
2013年8月に進水式を終えた海上自衛隊の最新鋭ヘリ搭載護衛艦(22DDH)
「い
ずも」は、全長248m、基準排水量19,500トンと、旧日本海軍の主力航空母艦「飛
龍」
(全長227.35m、基準排水量17,300トン)を凌ぐ大きさである。海外から、
准航空母艦と指摘されるのも当然なことだ。
航空母艦の歴史は、非常に興味深いものがある。
正確に言うと、航空母艦を最初に作ったのは日本ではない。
世界で最初に水上機母艦
を造ったのはフランスで、水雷艇母艦フードル(Foudre)、基準排水量 6000 トンを改装した
ものであった。
そして、最初から航空母艦として建造したのはイギリスのハーミス
(Hermes) 基準排水量 1 万 850 トンである。しかし
2年遅れて建造開始した日本の「鳳翔」
(ほうしょう)基準排水量7,470トンがイギリスより約2年早い1922年12月に
竣工した。そのため、正規航空母艦を最初に保有した名誉を日本が手にすることになった。
そして、この航空母艦を主体とした『機動部隊』
(広辞苑:航空母艦を中心とし巡洋艦・
駆逐艦などで編成され、 航空戦を主任務とする高速艦隊のこと)を確立したのは、まさし
く日本だと言われる。ただし、悲しいことにその本来の優位性と効力を理解することなく、
アメリカの『機動部隊』に大敗した。
日本が真珠湾攻撃でその効果を知らしめて、アメリカがその効用に気付き、海戦の戦術
を一変させたのである。大艦巨砲主義を崩壊させた機動部隊の戦術は、軍事上の大きな革
新である。
本著では、何度も言っているが、この日本には『学習効果がない!』と言う言葉に尽き
る。この軍事上の失敗は、形を変えて経済上の失敗として繰り返されている。
“Japan
as
Number1!”とヨイショされて、マネーゲームに現を抜かしているうちに
またやっちゃった!って、感じだ。
繊維産業界と同じ経過をたどり始めたと言う電機業界では、世界の縮図と市場の急速な
変化が垣間見られる。
大手企業の依頼主から受託する下請企業では、生き残りのための対応方法の多様化が見
える。
価格競争の厳しい環境を生き抜くためにさらに3次下請け先に仕事を出す・工賃のさら
に安い中国内地に生産工場を移転して工賃を抑える・加工賃(賃金)の安い生産国へ生産を
移転させるなどのようなコスト対応優先の企業が存在すると同時に、大手企業でのリスト
ラの一環で放出された人財を再雇用しその大手のノウハウ・情報を活用し今までに有して
いなかった開発設計部隊の設置などによる新たなる事業・新規顧客を獲得するなど、企業
として生存するための涙ぐましい数々の努力が見える。
42
それに対して、もともとの依頼元の大手企業では、この国の将来や独自技術の保有・発
展なぞ何も考慮せず、自分たちの利益のみを追及するために、リストラ(人の削減・事業
の縮小・事業売却)のみを要求する悪代官のような株主やファンドにより、以前の民主党
政権よりさらに最悪な事業仕分が宣告されて、衰退を加速させられている。
もともと、1980年代にアメリカが経済で足踏みしていた手法を日本が今やらされて
いるのだ。本当に馬鹿である。それでも、まだ「バブル崩壊を先に経験した日本は、世界
に先駆けた師であり、世界金融が同じ傾向に進んでいる(類似点を誇張しすぎ!)と、正
当化しようとしている輩たちが蔓延っている。
1970年代~1980年代、日本は確かに、技術革新と言うファクターにおいて、間
違いなく世界をリードした。VTR技術を始めとする、多くの破壊的イノベーションを生
んだ。
しかし、その後一変する。デジタル化の遅れ、ユーザーニーズとのズレ、PC・インタ
ーネットの普及によるマーケット変化への対応遅れなどにより、一気に電機業界は、失速
した。
歴史を顧みると、軍事では「刀から鉄砲へ」・「海から空へ」、経済社会では「ハード
からソフトへ」・「アナログからデジタルへ」などなど、道具・手法が変わることへの拒
絶を排除し必然性と重要性を理解し、素早く切替え対応ができた国や組織・企業、すなわ
ち『技術革新の対応がうまくできたところ』が、勝者となっている。
72 進化・新化・深化
『イノベーション』と言う言葉が、使われ始めたのは1995年ぐらいからだろうか?
イノベーション(Innovation)は、本来の英語の意味を越して、広い意味で、『技術革新』
の代名詞として和製英語化した。第3章でも少し触れているが、巷であふれている
“Innovation”と言う言葉は本来そのまま翻訳すると、更改、革新、改革、刷新など幅広
い意味を指す。
日本人に限らず人は、語呂合わせが好きだ。日本では、
「整理・整頓・清掃・清潔・しつ
け」と言う少し強引だが、その5つのローマ字読みの頭文字をとって、5Sと総称し、
『5
S運動の実施』とか『5Sの徹底』とかをスローガンに挙げている企業も少なくはない。
その中で、語呂合わせの神髄を極めているのが、ものづくりへの『進化・新化・深化』
(SHINKA)と言う語呂合わせ標語だ。
それぞれの“SHINKA“の意味は、その漢字から読み取れるのでここでは説明を割
愛する。この言葉を最初に使い始めたのは誰だかわからないが、1980年代後半から耳
にするようになったことに間違いはない。使っている言葉は違うが、この『SHNKA』
の意味は、最近多用する『イノベーション』と同じ意味のことのように思える。
43
しかし時代が変わり、またこの『SHINKA』を『イノベーション』の代わりにスロ
ーガンとして掲げて事業を推進する企業もまた増えてきた。そして、この『SHINKA』
は時を経て、
『進化・新化・深化』に新たなる『伸化や真価』などをプラスして、バージョ
ンアップした『SHINKA』を掲げている企業も出てきた。
このいろいろな意味での『SHINKA』オンパレードも、非常に響きが良く著者個人
としては、素敵なワードであると思っているが、本著では、
“技術革新”を『イノベーショ
ン』と呼称統一して、以降説明する。
73 イノベーションは難しくない
出来の悪い師は、自分の弟子に『できない』ことを教える。優秀な師は、『できる』こ
とを教える。
「お前は、俺の子供で頭が悪いから、一流大学なんて入れやしない。時間の無駄だから
悪あがきはやめて、どこでもいいから早く仕事しろ。」
「お前は、身体が弱く、身長も小さく恵まれていないから、努力したって柔道なんて無
理だ。柔道の道はあきらめて、普通のサラリーマンになりな。」
これらの言葉を聞いて、皆さんはどう思うであろうか?
『できない』ことを教えるこ
とが果たして教育であろうか?芯の通った子供であれば、当然このような「呪いの囁き」
に耳を傾けず、熱く自分の夢に向かって、突き進むであろう。
そして、夢を実現した人たちは、『できる人』と『できない人』がこの世に存在する本
当の意味に気付くのである。
「イノベーションは難しい!」こんな言葉を、将来性のある前途有望な学生さんたちに
堂々と講義している方々がいらっしゃるが、上の事例とどこが違うのであろうか?
「一緒でしょ!」
以下、「イノベーター創出率」の簡易算出法を紹介する。
《難しいからやめたほうがいいんじゃない?》
①
『同調する人』
と
と言うアドバイスに、
『同調しない人』がいる
1/2
その『同調しない人』の中に
②
『実行計画をする人』
と
『実行計画はしない人』がいる
1/2
その『実行計画した人』の中に
③
『行動に移す人』と『行動に移さない人』がいる
1/2
その『行動に移した人』の中に
④
『最後まで実行する人』と『途中でやめる人』がいる
1/2
その『最後まで実行した人』の中に
⑤
『成果を出す人』と『成果を出さない人』がいる
1/2
その『成果をだした人』の中に
⑥
『十分満足する人』と『満足しない人』がいる
44
1/2
この6段階を掛け合わせると、
1/2×1/2×1/2×1/2×1/2×1/2
≒
0.0156
すなわち、この1.56%の『満足しない人』が永遠の真のイノベーターである。「イ
ノベーションは難しい」と言っている人と「過去の自分の成功事例」ばっかりほざいてい
る人とは友達にならないようにしよう。イノベーターには、とっても危険な悪性ウィルス
である。
74 イノベーションの分類
『イノベーション』を語る書物・文献はごまんとある。そしてその説明も千差万別であ
る。先にも説明したが、本来の“Innovation”と言う英語から、使い勝手を良くして和製
英語化した『イノベーション』への、それぞれの解釈と思いの違いからであろう。
当然、“Innovation”と言うワードは、英語圏ではどこでも通じるが、日本人が言って
いる『イノベーション』と同じかどうかは疑う必要がある。
そこで、和製英語の『イノベーション』にならないよう、世界的に流用できる定義で、
ここでは整理してみた。
イノベーションを大きく分類すると『インクリメンタル・イノベーション』
(Incremental
Innovation)と『ラジカル・イノベーション』(Radical Innovation)の二つに分類され
る。
インクリメンタル・イノベーションとは、既存技術の改善あるいは既存製品の改善・改
良などを意味し、ラジカル・イノベーションとは、劇的な変化をもたらす技術を指す。
そしてこの 2 つのイノベーションのそれぞれに、製品(Product)、工程(Process)、シ
ステム(System)、サービス(Service)などのイノベーション(Innovation)が創出される。
すなわち、日々、
“魂を込めたものづくり”や“サービスの追及”をして入れば、必ずイ
ノベーションは創出されるのである。数多く創出されるインクリメンタル・イノベーショ
ンと、時として世間・市場を劇的に変化させることのできるラジカル・イノベーションは、
《創出活動を継続していれば、必ず出るモノ》なのである。
図71は、《イノベーションの創出モデル》を表している。
イノベーションは、
「目標連鎖」
「創造連鎖」
「価値連鎖」の相乗効果により、ラジカル・
イノベーションとインクリメンタル・イノベーションが、①システム・②プロセス・③プ
ロダクト・④サービスで創出される。
45
図 71
イノベーションの創出モデル
75 イノベーションのためのコンセプト創造
常にイノベーションを創出していくためには、コンセプト創造(Concept
Creation)は
不可欠である。このコンセプト創造は、大きく四つに分けられる。
一つは、AとBを足すものあるいは、AからBを引くものである。(以下、連結・切離
コンセプト創造という)
AとBを足すものとしては、ガソリンエンジンと電気モータを
複合したハイブリッドカーや、TVとVTRを一体化したテレビデオなどのプロダクト・
イノベーションが該当する。また、AからBを引いて成功したものの代表例は、カセット
テープレコーダーの録音再生機能を再生機能オンリーとしてモバイル化した、”ウオーク
マン”がプロダクト・イノベーションとして該当する。
二つ目は、AをA´などに改善するものである。(以下、改善コンセプト創造という)
代表例としては、製品生産法にてラインコンベア方式からセル生産方式に変更して製造方
法の改善を行なったプロセス・イノベーションや、据え置き電話機をコードレス化して使
い勝手を良くしたプロダクト・イノベーションが該当する。
三つ目は、Aを大きくしたり、小さくしたり、あるいは
どである。(以下、変形コンセプト創造という)
違う形・方法に変えるものな
サービス・イノベーションとしての代
表例としては、店に行かなくても、製品が購入できる通販ネットビジネスの確立による流
通業界の変革などが該当する。
そして四つ目は、Aを全く違うもの(性質)に変える、あるいは予期しなかった現象に
なるものである。(以下、置換コンセプト創造という) 言葉を変えると、【新しい発見】
である。代表例として、中世ヨーロッパでの錬金術(金を作ろうとして全く違う有用な物
46
質などを見つけた)や偶然に発見した導電性ポリマーのように触媒の量を多くしたことに
より電気の流れるプラスティックができたことなどが該当する。ただし、ここでは【新発
見や偶然の発見】というサイエンスファクター(Science
Factor)も含まれる
当然、大きなインパクトがあり、強力なイノベーションにより市場に旋風を巻き起こす
ものは、置換コンセプト創造であろう。ただし、VTRやハイブリッドカーが世界を凌駕
したことは事実であり、日本人がイノベーションにおいて劣等感を持つことはない。連結・
切離コンセプト創造や改善コンセプト創造のようなイノベーションは、これからも日本で
は多数発生するであろうし、これらのコンセプト創造はある程度の社会人教育でも達成可
能と考える。
ただし変形コンセプトや置換コンセプト創造は、やはり幼少からの教育手法を見直し・
改善をすることにより強化できると考える。当然、中には【日本人らしからぬ人物】もい
るわけだが、日本では遥か江戸時代より『出る釘は打つ!』
『変わったことを発する人物を
除外する』という風潮があり、初期の段階で芽を摘んでしまう。この風潮をなくすだけで
も、日本のイノベーションレベル
は、さらにアップするであろう。
76 ヒューマン・テクノロジーからヒューマン・イノベーションへ
『ヒューマン・テクノロジー』と言う言葉が流行ったのは、1980年代ごろであった
だろうか?人にやさしい人間工学を考慮した商品設計に使われていたが、最近何故かあま
り耳にしなくなった。
本著では、過去を懐かしんで、死後硬直化している言葉を復活さ
せようと言う意図はないが、なぜ聞かなくなったのであろうか?人間工学が高水準に達し
て、それ以上の追及は必要がないと言う訳ではないだろうが。
ただ、この言葉を一般的
に使用することに飽きただけかもしれない。
これまで、プロダクト・プロセス・システムそしてサービスと言う観点から、『イノベ
ーション』を説明してきたが、ここでもう一つトライしてみる価値のあるイノベーション
がある。
それが、『ヒューマン・イノベーション』である。人のためにやさしい『ヒューマン・
テクノロジー』に対して、時代のニーズに合ったコンセプト創造を着実に創出できる人、
環境の変化に追従できる人の育成法確立など、人そのもののイノベーションを指す。それ
がここで言う『ヒューマン・イノベーション』である。
これができればどこも苦労はしないであろうが、不可能なことではない。先にも触れて
いるように、まさに「幼少からの教育手法を見直し・改善をすることにより強化できる」
であろう。
47
第8章
第8章 情勢判断による経営事業
勢判断による経営事業大綱の策定
事業大綱の策定
81 経営・事業
経営・事業・市場
事業・市場分析
・市場分析と状況把握
分析と状況把握
自社が、何を目指すのか?どこを目指すのか?を明確にするには、第5章にて『情報の
収集・活用と応用』にて、情報収集とその情報活用の共有、シミュレーション、環境・市
場・事業分析などの手法を紹介した。
例えば、外部からの情報収集としての市場調査は、難しいことではない。大それたアン
ケートや形式的なマーケティングをしなくとも、日々の営業活動の中の、外部から持ち帰
る情報に必ず宝石が埋もれている。この情報の中に埋もれる宝石の発見とその活用・応用
が、自社のボトムアップにも繋がるのである。
また、
『情報』は、外部にだけあるものではない、内部にも豊富に存在する。内部組織で
の風通しを良くして、共有する情報、埋もれている情報を活用、応用することは、組織の
手腕、リーダーの手腕にかかっている。
情報収集は、経営上の目的(戦略)ではない。収集した情報をいかに分析し、検討し、
活用し、応用できるかが最大の目標(戦術)なのである。
これらのことをしっかり理解して、『経営事業大綱』は策定される。
図81は、《「技術」経営事業大綱》策定のための各項目に対する検討・改善・指針する
ために流れを判りやすくした相関図である。
この相関図を説明することができる企業の「防衛白書」、すなわち「経営白書」のベース
になるものが、『経営事業大綱計画書』である。
図 81
《技術経営事業大綱》策定ベース相関図
48
82 戦略・戦術・後方支援の明確化
第2章・第3章・第4章にて、戦略・戦術・後方支援の違いや考え方ならびにすべきこ
とを紹介した。
経営大綱(計画)の策定や、新規プロジェクトなどの新規事業・プロジェクトの遂行時
において、この「戦略・戦術・後方支援」を明文化することにより、目指す「目的」
“Strategy
=Goal”と、
「目標」
“Tactics=Target”、そしてそれを達成させるための「後方支援」
(兵站)“Logistic”が鮮明に見えてくる。
すなわち、より正確かつ精度の高い経営・プロジェクトの実践が可能となるのである。
図82は、この「戦略・戦術・後方支援」を明確にして、プロジェクトを運用する場合の
確認リスト表の参考例である。
図82《戦略・戦術・後方支援》を明確にしたPM用確認リスト
82《戦略・戦術・後方支援》を明確にしたPM用確認リスト
ここでは、戦略(目的)をまず明確にして、それを達成させるための戦術(目標・手
段)を列挙し、その対応に必要な後方支援(人・モノ・金・情報・教育・・・など)を明
確に記載することを求めている。さらに、「情勢判断・意思決定等」コメント追記と必
要な5W2H1R(Who、When、Where、What、why+How many、How much+Result)をも
らさず明確に記入できるようにしている。
49
83 経営事業大綱の策定
経営事業大綱の策定
『経営事業大綱』計画書には、
①
統率・組織・事業
②
③
戦略<目的>
(短期戦略・中期戦略・長期戦略)
戦術<目標・手段>(事業内容・協力体制・開発設計と品質保証・営業活動
広報活動・市場把握のための調査・情報結果の活用と応用
研究開発活動・知的財産・その他)
④ 後方支援
(財務・人員/設備補充・管理機能・教育・訓練・その他)
⑤ 情勢判断・意思決定(現事業分析・現状況化における意思決定・将来構想)
を明確に記載・説明する。
なお、この中で、「製品開発計画」や「事業計画」に関しては、“戦術ロードマップ”と
して、将来を明確に描くための『開発製品ロードマップ』と『事業計画ロードマップ』を
策定する能力が、経営者・リーダーに必要となってくる。
図83に製品ローマップを作成するときのベースを示す。ここでは、X軸を時間軸とし
て、Y軸に次世代製品のバージョンアップ等をおく、フォーマットとなっている。
図83
製品ロードマップ作成上のベース
次世代製品への転嫁としては、①機能・デザイン多様化、②小型化・薄型化、③高機
能化、④簡素化・低コスト化、⑤新技術応用化
などが想定される。
なお、大手企業でも、『開発製品ロードマップ』は作成しているが、『事業ロードマッ
プ』を作成している企業は少ない。経営に必要なのは、まずは、
『事業ロードマップ』で
50
ある。このロードマップでは、次項のムービング・ターゲットの説明での『やめる・継
続・チェンジの見極め』にも繋がるが、現在の事業の位置づけ・将来展望・構想などを
シミュレーションする上でも、経営的に最重要な項目と言えよう。
図84に事業ロードマップの作成一例を示す。
図84
事業ロードマップ作成一例
84 ムービング・ターゲット
“改定作業が頻繁に実施される・目標が変わる・軌道修正が必要となること”を『ムー
ビング・ターゲット』
(Moving Target)と呼ぶ。方向を見失った経営では当然いけないが、
経営や事業は、必ずあるタイミングで、“目標を変えるか否か”の分岐点に出くわす。
それが、正しいとジャッジメントする場合、臨機応変にかつ迅速にそしてスマートに対
処しなくてはいけない。
市場は生き物である。ゆえに経営スタイルも事業内容もいつまでも同じことを続けて、
存続することはありえない。
この中で、事業計画(BP)と事業体系(BM)を構築するとき、①物の動き・流れ、
②金の動き・流れ、③情報の動き・流れ、④人・組織の役割・バリューチェーンを明確に
把握しなければならない。(図85
BP-BM図参照)
事業規模に最適化させたビジネスモデルを描くことが、ポイントになるが、このとき、
想定しなければいけないのが、
「出口をいくつか想定する」と言うことである。ここで言う
51
“出口”とは、経営主体の変化、組織主体の変化、顧客資源の変化などに伴い、『やめる』
『継続』『チェンジ』の判断時期を示す。
5 年・10 年で到達する姿を描くことは、必須であり、出口想定の視点から重点課題を顕
在化させることが、事業成功のカギとなる。
まさしく、経営・事業は、“人”、“物”、“金”、“情報”、そして“時”と“場”を操るこ
とである。
図85 BP-BM図
図86は、X軸に時間の経過を、Y軸に市場への投入製品の売上規模において、一つ
の事業における製品群の、
《やめる・継続・チェンジ》のジャッジタイミングの一例を示
したものである。
市場に投入している製品の売り上げが飽和した時、または飽和する予兆が見えたとき、
それがその事業や製品の“EMARGENCY”として、危機感を持つことが必須であ
る。
どのような製品であろうとも、市場に受け入れられる“寿命”がある。改善やデザイ
ンの一新、あるいは機能の高性能化・簡素化、または投入市場の変更・追加により、さ
らなる需要の拡大が見込まれるものもあれば、市場・環境の変化に伴い余命がなくなる
可能性があるものもある。また新たなる技術が新製品を受け入れる市場が生まれること
も、我々はいくつも経験している。
CRTモニターから液晶モニターへ、VTRからDVD・HDDへ、そしてアナログ
製品からデジタル製品へ、などなど、ここ最近 20 年間を見ても数々のドラマがある。
その中で、生き残って更なる拡大をしている企業・事業体系を変えた企業、そして消
えていった企業など例をだしてもつきない。企業が存続するにあたっては、この製品や
事業の《やめる・継続・チェンジ》の見極め・ジャッジメントが非常に大きなファクタ
ーであることは、言うまでもない。
この見極めは、難しいことではない。儲かっているときはそれを考えない・いつかは
訪れる市場の変化を否定する、あるいは市場の変化を認めたくないという対応が終焉を
引き起こすのである。
52
図86 「やめる・継続・チェンジ」ジャッジタイミング例
53
第9章
91
指揮官たるリーダー
組織やプロジェクトを成功させるリーダー
危険な状態を十分認識しながら乗客を置き去りにして真っ先に逃げ去る船長、未熟な研
究者が起した悪質な行為として組織が一若者にすべての責任を負わせるなど、最近の身近
な話題を取り上げても理解できること、それは「そんなに組織やプロジェクトを成功させ
る真のリーダーが、世の中にごろごろしていない」と言うことである。
日本の『義務教育システム』は、全世界的にみても素晴らしいシステムである。しかし、
その義務教育の中で、毛の生えた程度の「道徳」は教えても、
「リーダーシップ」を教えて
いる時間はほとんどない。
学生時代に、部活やサークル活動により、間接的にリーダーシップなるもののうわべを
学び、その時の手法や大切さを社会人になって組織で、うまく活用している人材は確かに
大勢いる。しかし、それはゴルフを始めたときに、
“プロに教えてもらったか、教えてもら
っていないか”と同じように、ベース知識がないと、その後の上達が違ってくる。
昨今、
「経営者は、冷酷になれ。従業員のことは 2 の次 3 の次だ!」とあたかも悪人育成
を煽るような書物も売れているようであるが、明らかに“戦争を知らない子供たち”が“先
輩や上司を論破した!”などと優越感に浸っているのと同じ部類の無知な人々である。人
類文明は、いつの時代も同じことを繰り返している。
そういう人たちは、もう一度、紀元前 250 年ごろの『趙括さん』に学んでほしいものだ。
当然、リーダーたるもの、PDCA※91 を明確にして、さらにそのサイクルの個々の5W
2H1Rを考察し、ブレのないゴールを指し示すものである。
組織を動かすのは、リーダーであれスタッフであれ、人である。組織間、企業間、国家
間・・・
“立候補して学級長になる”、“立候補して総理大臣になる”など、手を挙げら
れない人たちから見ると一見立派ではあるが、手を挙げるからには、
「真のリーダーシップ
学」をしっかり学んで、実戦してほしいものだ。
軍隊や自衛隊を経験した人たちは、部隊の指揮官が、部隊の兵士からの信望がないと、
必ず戦場で“こっぱみじん”に敗れることを知っている。
この日本の失われた20年間は、まさに、このことを理解できない政治家、民間企業の
経営者たちにより弱体化した。若者のせいでは決してない!
なお、部下ができることが何もできない、なにも理解できないリーダーが仕切る組織な
ど成功することは、絶対にありえない。
“自分ができることでも部下に任して、自分は、さらなる視野を広めて大海を考えた行
動・思慮を実践する。”これが、真のリーダーである。ここを間違えているリーダーが多す
ぎる。『守・破・離』の守に戻り、learn すべきである。
54
言い換えると、真のリーダーとは、『“ものづくり”、“ひとづくり”、“組織づくり”をプ
ロデュースする』ことが、使命である。
92
プロデューサーの使命と資質
アライアンスを形成する企業間や、企業内においても他部署をまたぐ業務にて、リーダ
ーシップを発揮する人材の能力と資質は、重要な要素であるが、事業・プロジェクトを成
功させるためには、組織・企業間をまとめ、動かすことのできるプロデューサーが必要不
可欠となる。
このプロデューサーの強力なリーダーシップは、事業成功の鍵を握る大きなファクター
である。
プロデューサーの使命は下記の 7 項目である。
①
協業あるいは合同で行う事業の目的と目標の明確化
②
事業大綱計画の作成とその管理
③
プロジェクト組織体制の作成とその管理
④
事業遂行時の適切な確認と見直し
⑤
定期的な会議招集とその管理
⑥
事業を成功させるための活発なる情報収集とその活用
⑦
強力なリーダーシップ
同時に、プロデューサーが、企業間・組織間で連携して事業やプロジェクトを成功させ
るためのソフト面として下記の5項目を忘れてはいけない。
①
同じ目標(事業)をめざす夢・志
②
イノベーションを創出する執念
③
夢を語りながら与えられた分野の遂行
④
事業を成功させる情熱
⑤
情報の共有
前91項に、
“真のリーダーとは、
『“ものづくり”、
“ひとづくり”、
“組織づくり”をプロ
デュースする』ことが、使命である。
“と説明したが、さらにプロデューサーは、その事業
やプロジェクトを成功させるための幅広い知識と経験と、3つの”YORYO“すなわち、”
要領・用量・容量“を正しく理解し、行動できる人財でなければいけない。
要領とは、臨機応変・素早く対応できる柔軟な思考力と行動力を指し、
用量とは、その時の事業、プロジェクトに用いるべき一定枠の分量使用判断力を指し、
容量とは、自己の能力、組織のキャパの把握とその有効的活用力を指す。
93
交渉力とプレゼンテーション能力
根本的に交渉とは、
「自己の利益を守るために自分の主張を、対相手に納得させ、承諾さ
せることが真の【交渉】であり妥協という言葉は、
【交渉】としてはマイナス点である。 譲
55
歩も本来避けるべき手法であり、
【交渉】で、収拾がつかない場合は、別の選択肢、代替案
などを用意することは一つの策である。」と言うことである。
人間は、物心がついた幼少のころから、【交渉】を経験し、大人になっていく。
どうしても友達が持っている、あの同じ“おもちゃ”がほしい!
店の前で、転んで手
足をバタバタして、買ってくれるまで泣き叫ぶ。親が叱ろうが、おこそうが、泣き止むど
ころか、さらに大声を出して要求する。周囲の目も気になりだした親が、とうとう根気負
けして仕方なく、子供に“おもちゃ”を買い与えてしまう。子供の勝ちだ!
さすがに大人になってからは、このような手法は、公私ともに認知されないのは当然で
あるが、これもれっきとした交渉(一方的ではあるが)れっきとした【交渉】の一つだ。
思春期ともなれば、彼女をゲットするために、あの手この手で、興味を引いてもらう手
段を考える。
すなわち、交渉とは、ビジネス上・組織上に限らず、プライベート時間でも、あらゆる
場面で発生している。
よって、プライベートで、欲求を恥ずかしがらずに、見せて行動できている人は、ビジ
ネス上も、いとも簡単に、顧客との交渉を楽しみこなすことができることは、当然であろ
う。マナーと法を順守した中で、
“さわやかに人間としての欲求を満足させることのできる
人材”、それがすなわち、「交渉力に長けた人材」と言うことになる。
ただし、ビジネスにせよ、プライベートにせよ“タイミング”や“ツボ”がある。
たとえば、当初から興味を持っている顧客に対しては、結論や主目的を最後の持ってい
く『クライマックス法』がよく、興味をもたれていないと思われる顧客には、最初に結論
や言いたいことをぶつける『アンチクライマックス法』を使う交渉心理術が有効である。
ただし、クレームなどの問題が発生して、顧客との交渉に臨むときは、結論を早く出そ
うとする場合に『アンチクライマックス法』が有効ではあるが、その使い方を十分注意し
なければならない。
94
モチベーション・マネジメント
現状の日本において、著名な企業での社員のモチベーションの低下を耳にすることが非
常に多くなった。
このモチベーションの低下は、決して急激な景気悪化のためではない。景気悪化は、過
去何度も何度も日本は経験している。すべての悪の根源は、組織のリーダー・経営者なの
である。
C.K.プラハッドと、ゲイリー・ハメル※92 は、1980 年代の日本企業の強さを分析し
た結果、
「グローバル・リーダーに上り詰めた企業には共通して、企業が求めるターゲット
に対する強い執念が社員から経営者まで一貫して存在している」と唱えている。
56
これを『ストラテジック・インテント』(Strategic Intent)と呼んでいる。「世界のナ
ンバーワンになる」と言って社員が武者震いしたとき、その『ストラテジック・インテン
ト』により強力な組織力を生み出すというのである。
すなわち、最近使用されてきたモチベーション・マネジメントが、実はしっかり日本の
企業の根底にあったということである。欧米に学ばずとも、日本にはしっかり実在してい
たのである。
日本は、
『戦略プランニング』では欧米に負けていると彼らは言う。しかし、この『スト
ラテジック・インテント』は、戦略プランニングの域を超えた壮大な目標でもあるとも言
っている。
現状の日本企業では、果たしてその強さの根源だったはずの『ストラテジック・インテ
ント』を発揮している企業は、今どれだけあるのだろうか?
あえて、モチベーション・マネジメントという学問領域を設定して学ばないといけない
日本の現状が悲しい。スポーツでも、組織でも、「一つの共有できる夢」に向かって、『情
熱と執念』により、共に汗をかき、
『夢』に向かっていけば必ず成果を生む。 しかし、な
ぜ難しいのか?
その理由は、簡単である。
夢を語り情熱と執念を持って、共有の夢を持たせて、部下を武者震いさせ奮起させる真
のリーダーが育っていないからである。それどころか、己の言動が、社員のモチベーショ
ンを根こそぎ破壊していることに気付かないバカな経営者が増えたことも、失われた日本
の20年の要因の一つである。
すなわち、経営者・リーダーが、経営や事業・プロジェクトを成功させるためには、や
るべき目標を明確にして、揺ぎ無い執念を持ち、熱く語り、組織が活性化させるための社
員・スタッフの高いモチベーションを持続させることにある。
次の言葉は、社員・スタッフと共に目標を成功に導くための5つの要素である。
(これは、
“五標”と呼ばれる。)
①
人に夢を語れるか
②
創造や改革を生み出す執念を持っているか
③
楽しみながらも自分に厳しいか
④
情熱を持続しているか
⑤
人と情報や夢を共有しているか
「愛しき、社員」と思って、会社経営を実践している経営者は、果たして日本に何%存
在するのであろうか?
57
船長・艦長を知っている人たちには、当然の一般常識であるが、古今東西、船長・艦長
は、船が沈没しようとする危機に見舞われたとき、乗員・乗客を助けることを第一優先で
行動する。
旧日本海軍では、沈もうとしている艦から乗員を脱出させたあと、艦長だけが、椅子に
身体を縄で縛りつけて、艦と共に沈んでいったという話も聞く。
そういう中で、韓国の旅客船の船長が乗客を残して真っ先に船から離れて逃げたことは、
非難の対象になることは当然の理である。
しかし、隣の国のこの事例を馬鹿にできるほど、
「船長の責務」を真に理解している経営
者が、果たして日本に何人いるのであろうか?
隣の国のこの船長の行動を嘲笑う立場にない経営者の方が間違いなく多いはずだ。
船長・艦長の使命は、
①
船・艦の全権限と全責任を負う
②
緊急事態時、自己の危険を顧みず、真っ先に乗客そして乗員の安全を確保する
ことにある。
船・艦と会社は、どうして違うのか?
船長=経営者と考えれば、
「社員を生存させ、次
世代に情報やノウハウを伝えさせることこそが、真の経営者」と言うことにはならないで
あろうか?
リーマンショック以降、 “知恵袋だったはずのおじさんたち”が、リストラの名のもと
に、姥捨て山に捨てられた。気づいてみれば、偉そうに“Japanese
Quality”などと言え
ないような製品の品質劣化に陥っている日本企業が存在することは事実である。
当然企業は、組織・社員を維持するために、利益を追求し確保して、継続的・発展的経
営を持続させなければいけない。
しかし、社員と家族(同族)を区別(差別)して、使い捨てカメラのように社員を扱う
企業が継続的成長を遂げることは100%あり得ない。
※91 PDCA:
※92
P(Plan=計画)、D(Do=実行)、C(Check=確認)、A(Action=活動)
C.K.プラハラッドとゲイリー・ハメル:
この『ストラテジック・インテント』の思考延長線で、自社固有
の中核的な組織能力として、後の『コア・コンピタンス』を発表
している。
58
第10章
第10章
文化・歴史と科学
101
101 おもてなしと武士道
おもてなしと武士道
『おもてなし』も『武士道』も、日本人が誇る言葉であることに間違いはない。
まず、全世界的に知られている意味での『武士道』は、新渡戸稲造の著書によるもので
ある。“宗教無くして、どうして子供に道徳を教えるのだ?”と言う諸外国からの問いの
答えが、『武士道』である。本来の『武士道』とは、日本の封建社会における主君への忠
誠心、階級社会での倫理や価値基準がベースとなっていたものである。
新渡戸稲造が『武士道』の著に記した、仏教の死生観、神道の愛国心・忠誠心そして儒
教の道徳心を、持った経営者リーダーは、今の日本に存在するであろうか?
戦場で自国の兵士、部下を大事にする指揮官は、確かに日本にも存在した。現代におい
て各種業界の経営者を見るとき、果たして存在するのかは疑わしい。
『おもてなし』は、 “裏表無し”“見返りを求めない”ものとして、欲のない美しい行
動として、日本人なら誰もが誇りに思うことである。
相手が自分のことを嫌っていても、『おもてなし』を行うことも珍しくはない。しいて
言えば、『おもてなし』とは、“モノでの見返り”を求めるのではなく、“ココロの見返
り”だけを求めている珍しい文化だと言える。
『おもてなし』は女性的表現、『武士道』は男性的表現として、表裏一体のものとして、
大事に継承させることは、国、組織、企業の存続にマイナスになることはない。
しかし、日本人でも、嫌いなやつ・敵になったやつには、『敵に塩を送る』こともしな
いどころか、笑顔の『おもてなし』すら、できない小物の経営リーダーは、ごまんと存在
する。
102 文武と文系・理系
レオナルド・ダ・ヴィンチ (1452-1519)の才能は芸術の世界だけでなく、
科学の世界でも発輝され、人体や馬の精密な解剖図をつくったり、当時としては画期的だ
った飛行機やヘリコプターの原型の発明をしたりして、多方面で活躍している。
彼の知識は、幅広い分野におよんでいる。その当時、”技術経営”という学問があったな
らば、まさに彼は『テクノプロデューサー』であり、豊富な知識とそれを活用したコンセ
プト創造力と実現力に学ぶべくことは多い。
なお現在の日本では、レオナルド・ダ・ヴィンチのような世界的ハイレベルなテクノプ
ロデューサーが、育つことは限りなく困難な教育体制である。
日本の教育では、高校教育から文系と理系に分けられて、教育カリキュラムが組み込ま
れる。そのため何時しか、文系は“数学”が嫌いになり、
“積分・微分”と言う言葉にアレ
ルギー反応を起こす。理系は“歴史”・“文法”に拒絶反応を起こして疎遠ぎみになる。
59
しかし、ふと大人になって気づくタイミングがある。
「もう少し、数学を真面目にやっと
けばよかった。」「もう少し英語を頑張れば良かった。」「もう少し歴史を知るべきだ」と。
『文武両道』と言う言葉が昔からあり、現代ではスポーツと勉学に秀でた人物に対して
用いられているが、文系と理系の両刀使いに秀でた人物に対して用いられる適切な言葉と
しては、『文理一体』が適切であろう。
この『文理一体』の秀でた人物の世の中への送出こそが、強い国づくり、強い組織づく
りに貢献することになる。物事への挑戦やイノベーションまでもが、歴史の中に多くのヒ
ントが埋もれている。それに気づくセンスを磨くことの鍛錬も必要ではあるが、まずは知
ることから始まる。また、他国の文化でも自国の文化の中にも宝石のようなヒントはごま
んと埋もれている。
よって、
“歴史・文化に詳しい、プレゼンテーションが得意でスマートな数学に強い理系”
の人材を育成することが強い国、強い企業づくりに直接貢献することになる。
103 人生も経営も積分と微分の繰り返し
人生も経営も積分と微分の繰り返し
前項で、《・・・何時しか、文系は“数学”が嫌いになり、
“積分・微分”と言う言葉に
アレルギー反応を起こす。》と記載しているが、文系出身者は、積分公式の∫f(x)dx や微
分公式の dv/dt を聞いたり、目にしたとしても、チンプンカンプン判らないという人たち
は少なくはないだろう。
しかし、積分・微分は、紀元前 2000 年には普通に使用されているのだから、それほど難
しい学問ではない。単に公式がそのような感覚を与えている一種の錯覚であろう。
そこで公式を使わないで、言葉で積分と微分を説明すると、
「積分は、細かく分けたものを積み上げる」
「微分は、大きなものを細かく分ける」
と言う説明になる。
言葉にすると、簡単に受け入れやすくなる。そして誰もが、日々の仕事や人生で経験し
ていることに気付く。人生の中で、仕事の中で、細かく分けたものを積み上げたり、大き
なものを細かく分けたりしていることに気付くのである。
第7章『技術革新による変化』73項『イノベーションは難しくない』の中で、簡易(近
似値)計算にて、“イノベーター創出率”も算出しているが、とても身近なところにこれら
数学が使われるのである。
今までの日本は、このようなことには疎い民族だったかもしれない。しかし、国際社会
で勝ち残るために、シミュレーション能力と合わせて伸ばしたい数学的考察力である。
60
104 ビジネス・エントロピー
人類は、19 世紀、20 世紀に次々と近代化を促進する便利な道具を生み出してきた。ただ
これらの便利なものは、世界的な悲劇である戦争にも活用された。 現在の21世紀では、
洪水のような情報をコンピュータなどが処理して一見、迅速に活用しやすく便利になって
いるように見えるが、どこへ行っても携帯電話に呼び出され、いろいろなメールが一日に
何十件も入ってきてその返信に追われる余裕のない時代となっている。
果たしてこれを幸せな時代と言って良いのであろうか。これらの便利な道具によって、
今まで以上に作業量が多くなっている人々は少なくないはないであろう。
これを情報社
会の『エントロピーの増大』という。
19 世紀・20 世紀は、移動手段を制する国々が世界をリードしてきた。船舶、蒸気機関車、
自動車、飛行機・・・。21 世紀は『エントロピーの増大』を制することが出来る国こそが
21 世紀以降の真のリーダーであると言えるであろう。
人類文明が存続する中で、
『エントロピーの増大』は避けては通れない。よってその処理
手段を明確にできれば更なる人類文明の発達は可能となる。
日本は、大きな環境変化・思想変化への順応性が極めて早い民族の集団だと言えるが、
欧米と比べて、シミュレーション能力は極めて劣っている。「シミュレーション」
(Simulation)はこのまま日本語になっているが、敢えて訳すのならば、模倣的状況設定、
「日本には戦略がない」と言った数々の欧米人はこ
模倣的実験ということになるであろう。
の点も指摘してのことであろう。また、学問の世界でも物事の「図式化・モデル化」は、
お世辞にも欧米と同等とはいえない。
しかし、自然を見て学び、世界に類を見ない自然のスモール版である日本庭園を造り、
食を飾って、味とともに見た目を楽しむ国が日本なのである。そして日本人の手の器用さ
は群を抜く。このセンスの中に、日本そのものが世界競争の中で勝ち残っていくヒントが
隠されている。
欧米の先進国では、一生懸命働いたあとに、日本では考えられない長いリフレッシュ休
「欧米に追いつき追い越せ」と言う号
暇を持つ国々がある。一方、日本では明治維新以降、
令のもと、
「勉強する・働く」ことが第一優先として進んできたが、本来日本人が本当にい
ろいろな遊び方を知っている民族なのであるということを、大勢の日本人が忘れている。
日本庭園を造り、四季とともに変わりゆく景色を楽しみ、鳥の囀り、虫の鳴き声、そして
容を変える月や風、気を感じ楽しむ。
全世界を虜にしている日本アニメやファミコンが日本発であることも、時代が変わって
も常に楽しい遊び方を創出できる民族だからこそ成功しているジャンルなのである。それ
が忘れられている。
20 世紀以前の、欧米を師と仰いで追う時代は既に過去の歴史である。早く、日本が文明
社会の師となる行動や言動を行う自信と能力を持つ必要がある。日本産業が競争力を維持
し、さらなる強化をするポイントがこの温故知新にある。
61
人類文明が存続する中で、
『エントロピーの増大』は避けては通れない以上、この現象
を上手く処理しなくてはいけない。だからこそ、人々に『ゆとり』を提供する、即ち『遊
びを創出する時間』を取り戻させるための産業に新しいビジネスチャンスが隠れており、
これを適確に対応できれは強い日本の再構築にもなるであろう。
発明されたことで、
「ゆとりの時間」を作ることができたもっともポピュラーな製品は
洗濯機であろう。
洗濯で1日の大半を費やしていた主婦にとっては大変な重宝物であったであろう。こ
の製品の出現で、別のことに時間を活用することができた。風呂の火を熾す、ご飯を炊
く・・・これらプロダクト・イノベーションが世の中の主婦を解放した。そして、男社
会であった各企業の組織に女性が進出することも可能になったのである。
(ただし、それ
は家庭の中での作業時間の短縮と反対に、今までしていなかった新たなる行動が生活の
中に追加されたことも意味する。)
このような『ゆとりの時間』を与えたイノベーションは、ビジネス社会ではあるであ
ろうか?なかなかこれと言った該当する画期的なものは見当たらない。コピーもFAX
も、パソコンもそして携帯電話もビジネス道具としては便利になっていても、
『ゆとりの
時間』を与えているものではない。それどころかこの便利な製品群のおかげで、我々は
もっともっと忙しくなっているのが現状であろう。
もともと文明は、安全で安心して豊かに暮らせるようにするために進化してきたはず
である。ところが、現在の『便利さ』が本来の目標から、少し狂わせているようにも見
える。Eメールや携帯電話などの『便利さ』が、仕事を増やし、まさしく情報社会の『エ
ントロピーの増大』を招いている。
これら便利な製品のおかげもあり、リストラと言う名のもとに人員が削減され、安定
した仕事場を失うことにより人間関係の希薄さが助長され、さらに組織崩壊・不安定と
言う悪循環スパイラルに陥ってしまっている企業も少なくはない。皮肉な結末である。
よって、
『事業の集中と分散』の検討と合わせて、常に『経営・業務の選択と統合』を
行い、
『エントロピーの増大』による適正判断経営阻害状態にならないようにする必要が
ある。
この対応が出来なければ、イノベーションの創出を阻害してしまうどころか、企業存
続も危うい。
62
第11章
111
アントレプレナー(起業)・アントレプレナーシップ(起業家精神)
起業に必要なもの
起業に必要なものは、《情熱》・《執念》・《アグレッシヴさ》・そして《融合から生まれる
ひらめきと応用》である。ただし、この人類文明の中の経営や起業に対して100%正解
だと言う答えなど絶対に存在はしない。
成功・実績を出せば称えられ、失敗・実績を出
さねば悪になる。戦争と同じである。
“勝てば官軍“、 勝戦国がすべての正義である。敗
戦国は、弁明など言えない。
実際に己自身が、実践で気づいたことは、起業だけではなく新事業やイノベーションに
も通ずること、すなわち、『人、もの、金、情報』だけでは、“成功の法則”は成立しない
ということである。起業に必要な、《情熱》・《執念》・《アグレッシヴさ》・そして《融合か
ら生まれるひらめきと応用》と合わせて、
『人、もの、金、情報』に、さらに『時、場』と
いう重要なファクターがプラスされて、
“初めてスタート地点に立てる!”ということであ
る。
「世代と環境」、すなわち「時と場」などが変われば、昔成功した事例だとしても活用な
んて、絶対にできやしない。また、時が満ちていなければ、環境・市場ができていなけれ
ば、どんなに斬新な企画も製品も日の目を見ることはない。それを著者が 20 代のとき、
“世
界初のTV電話の設計・量産”でまさに体感した。
起業時にしっかりと売上想定シミュレーションをしていたとしても、その期待を裏切ら
れることも珍しいことではない。どれだけしっかり経営学や過去事例を学んだとしても、
世の中、“必ず想定外なこと”が発生するものである。
だからこそ、起業の一つのベースの考え方として、
『人、もの、金、情報、時、場』が必
要となってくる。
この中の『人、時、場』を違う言葉で表すと、近藤修司氏が提唱する『間の理論』
(人間
力、時間力、空間力』に通じる。
すなわち、三つの“間(ま)”が必要ということになる。
起業では、この三つの項目に“間に合わなければいけない”。間に合ったときに、初めて
“もの”と“金”が動き、かつ生きてくるのである。
ここで言う「人」とは、リーダーたる経営者の資質も含まれる。リーダーたる者の、
“決
断力”
・
“判断力”
・
“技術力”
・
“応用力”
“統率力”
・・・・・など幅広い能力が求められる。
同時に、組織を創り・実行するスタッフの各種能力・モチベーションが求められることは
言うまでもない。
この中で、
「時」とは、その時点での「市場参入・商談成立チャンス・タイミング」
・
「製
品投入・開発タイミング」・「事業の継続・やめる・チェンジタイミング」などを示し、そ
の事象に対する判断力、臨機応変力、活用力・応用力などが必須であることを示している。
63
そして、
「場」とは、ビジネスのねらいとしての「現時点・将来のターゲット市場」
・
「競
合市場」
・
「協業市場」などをしっかり把握して、
“目指す戦いと共存の場“を確立させるこ
とを示している。
112
アントレプレナー教育
昨今、日本でもアントレプレナー教育の必要性を提唱する個人や団体・組織は確かに増
えてきた。それは、輝かしい“Japan
as
No.1!”の崩壊とともに、「なぜ、また世界に
負けたのか?“(起業家が少ない?)の問いに日本人が導き出した、現在の日本教育の一つ
の欠点に対する対処法の一つだと結論づけたからだろう。
実際に、アントレプレナー教育を実施する一部の中学校や高校が存在している。ただし、
その“アントレプレナー教育”は、起業家を育てるための教育ではなく、
「各自の自己認識
をはかり、自己に自信を持つことで、創造力、イニシアティブ、
チャレンジ精神、コミ
ュニケーション力、決断力、判断力、問題解決能力、チームワーク力といった技能を培わ
せる」と拡大解釈して教育している面もある。これは「職業訓練校を目指すわけではない
から」との理由である。
このように『アントレプレナー』(Entrepreneur)も、日本人の手にかかると『イノベ
ーション』(Innovation)と言う言葉と同じように自分たちが活用しやすいように、英語
が和製化する。創造力・イニシアティブ・チャレンジ精神などを教育したいのであれば、
今巷で流行っている「TOKIO力」※111 を育成すると言った方が適切ではないかと著者
は考える。
著者は、本来正しい英語の意味での“アントレプレナー教育”や“アントレプレナーシ
ップ教育”は、日本では必要がないと判断する。
しかし、幼少のころから(特に 10 歳前後に徹底教育が良い)の創造力・問題解決能力・
精神力・判断力そしてサバイバル力の育成は、今以上に強化すべきである。これにより、
将来自分がサッカー選手になるのか、起業家になるのか、自分自身で人生のゴールを導き
出す優秀な子供たちが育っていくのである。
ゆえに、“アントレプレナー教育”と言う言葉は日本では適切ではない。各子供たちの
果てしない創造力とチャレンジ精神は、必然的に何になりたいかを独自に導き出し、それ
に向かって努力するのである。
よって、我々大人がすべきことは、「すべての子供たちの楽しく・厳しい未来の夢を、
バックアップする支援・教育環境を整備すること」である。心配しなくてもこれができれ
ば別に「起業家」イズムを教育しなくても「起業家」志望が減ることはない。何せ、“モ
ディファイ”は得意な民族なのだから。日本人は、他民族にはない“ふりかけ”手法を熟
知している。
白いご飯も、ふりかけを変えるだけで、見た目も味も変えてしまう技を持
っている唯一の民族なのだから、欧米流の“型にはめる”必要は全くない。
64
113
技術経営を学んで、起業ができるか?
「MBAが会社を滅ぼす」の著者、ヘンリーミンツバーグ氏は、MBAを学んだ経営者
の成績が決して良いとは言えないとの実際データを説明している。
この財務・効率優先型の経営学であるMBA教育に対して、技術を経営の立場からマネ
ージするMOT(技術経営)教育は、どちらかと言うと、ヘンリーミンツバーグ氏が提唱
する現場優先型のマネジメント教育ということになる。
本章では、どちらの学門が良いとか悪いとかの論争をするつもりはない。あくまで両社
とも学問であり、参考とすべき・学ぶべき内容はどちらにもある。
しかし、どちらの学問も基本的には、“組織あり”からの学問である。企業をゼロから
立ち上げる学問ではない。
第1章の『軍事戦略論』第11項の序論にて、以下の内容を記載している。
《本章で紹介する戦略家、戦術家と言われる人たちの思想や哲学は、あくまでも我々が、
実践しかつ応用する経営でのヒントを探り出す、「一つの情報」として捉えていただきた
い。12
14
数値化したランチェスター、13
学問化した孫子、15
プランニングを重視したクラウゼヴィッツ、
守・破・離を実践したナポレオン、16
明確にしたハンニバル、そして17
5W2H1Rを
教育・訓練を気付きあげた山本五十六、すべてが参
考となる事例であるが、その内容はあくまで参考にすべき事例集であって、実際の軍事で
あれ、経営であれ、その組織、環境、時期、規模などによって対応が変わるのは当然の理
であり、常に学んだことや習得した知識は、応用あるいはモディファイすべき内容である
ことを忘れてはならない。
また、各戦略論や戦術論は、何かしら欠けている。本章で挙げる6つの情報をすべて知
ることで、初めて欠落のない戦略論や戦術論を語れるのである。》
ここで言いたいのは、すなわち、いろいろな考えや学門、ボキャブラリーを増やすこと
によって、判断材料とすべき知識は豊富になるが、どれだけ莫大な情報を知りえても、あ
くまでも学んだことはすべて情報の中の一部に過ぎないと言うことである。
当然、何をするにしても情報は多いに越したことはない。しかし、絶対に忘れてはいけ
ないことは、人生には必ず“想定外の対応”に出くわすことなのである。
“しっかり準備しておけば・ルールを守っていれば・もう少し注意しておけば・・・す
べては想定内で済んだはずだ!“と、皆さんだいたい後付する。後でどう屁理屈をひねり
出そうが、目が飛び出すほどのビックリする想定外は必ず誰にでも訪れる。
想定外があるからこそ、勝ったり負けたりするのである。
ゼロからスタートする起業では、この“想定外”が、継続事業している存続企業よりは
るかに多いことは避けられない。
65
これらを乗り越えるには、経営学だけでは語れない「精神論・意地・執着心」と“想定
外”が発生した時の「臨機応変さ・要領・機転・直感・センス」が将来を左右することは、
誰にも否定はできない。
※111: TOKIO力: 自給自足やサバイバルができる技能や精神力、情熱やリーダーシップなどの人徳など様々な
能力を総合した力を意味する俗語。「TOKIO 力」はジャニーズ事務所に所属する 5 人組のアイドルグル
ープ「TOKIO」に由来する。TOKIO は日本テレビ系列の番組「ザ!鉄腕!DASH!!」内の企画で、田畑
を開墾し農業を行ったり家を建てたりといった活動をすることで話題となっていた。(実用日本語表現
辞典より)
66
参 考 文 献
Ansoff.I.H.(2007)Strategic Management.Palgrave Macmillan Press.(中村元一監
訳『アンゾフ戦略経営論〔新訳〕』中央経済社
2007)
Hamel,G.Prahalad And C.K.(2002)Collaborate with your Competitors-and Win.
Harvard Business Review.
Mintzberg.H.「Crafting Strategy」『Harvard Business Review
2007.2』P78-P92
ダ
イヤモンド社
Mintzberg.H.Diamond ハーバード・ビジネスレビュー編集部編訳『H.ミンツバーグ経
営論』ダイヤモンド社
William L. Ury (1995)『ハーバード流“NO”と言わせない交渉術 』三笠書房(斎藤精一郎
訳)
Prahalad.C.K.And K.Hamel.
「Strategic
P136-P155
Intent」
『Harvard Business Review
2007.2』
ダイヤモンド社
Prahalad. C.K.And K.Hamel.
「The Core Competence of The Corporation」
『Harvard Business
Review
2008.4』P96-P1165 ダイヤモンド社
奥出阜義.(2011)『ハンニバルに学ぶ戦略思考学』ダイヤモンド社
亀岡秋男・古川公成.(2005)『改訂版
イノベーション経営』放送大学教育振興会
亀岡秋男.
(2000)
「日本型イノベーション・システムの再構築にむけて」
『慶応経営 論集』
是本信義.(1998)『兵法のすべてがわかる!』三笠書房
佐竹右幾.(2009)「CKS(Collective Knowledge Stations)」[論文]
67