TOKAI UNIVERSITY THE INSTITUTE OF MEDICAL SCIENCES 「たこ足細胞 ( ポドサイト ) の傷害に起因する腎不全」 本島 英 Motojima Masaru 臨床薬理学 講師 小泉賢洋 Koizumi Masahiro 腎・代謝内科学 助教 岡部匡裕 Okabe Masahiro 分子生命科学 客員研究員 プロジェクトリーダー:松阪泰二 図2 イムノトキシン投与後の mRNA 変化 tdTomato(hCD25+) 図1 FACS による hCD25+ および hCD25- たこ足細胞の分離 Matsusaka Taiji EGFP(hCD25-) 総合医学研究所次長 基礎医学系分子生命科学 准教授 櫻井智恵 Sakurai Chie 分子生命科学 技術員 今井志穂 Imai Shiho 分子生命科学 技術員 【研究目的】 国民の健康と腎臟病 : 食物等の摂取量は日々大きく変動するにかかわらず、体液の組成や血圧等の人間の体内の環境は、健康である 目には、3130 が有意に2倍以上増加し、1938 が 1/2 以下に減少した。このような網羅的な情報は、たこ足細胞での分子病態を考え 限り一定に保たれている。この内部環境の恒常性は、主に腎臓によって尿への排泄量を調節する事によってなされている。糖尿病、腎 るうえでの基盤となるものである。 炎や高血圧により腎臓が傷害され、その機能が失われると、透析療法や腎移植をしなければ生存できなくなる。腎臟病は通常自覚症状 以前我々は、NEP25 マウスと hCD25 を持たないマウスの初期胚を凝集させる事によりキメラマウスを作製した。このマウスに LMB2 が乏しいために、世間的認知度は高くないが、透析療法を必要とする慢性腎不全患者は、我が国で現在 31 万人存在し、毎年 1 万人 を投与すると、hCD25 を発現するたこ足細胞のみならず、発現しない細胞も傷害をうける事がわかった。すなわち、一部のたこ足細胞 ずつ増加している。透析療法をうける慢性腎不全患者1人あたり1年間で 500 万円の医療費が必要で、透析療法だけで実に1兆5千 が傷害されると、当初傷害を免れた細胞も二次的に傷害をうけるのである。この二次的傷害が、腎臟病の自動増悪の鍵を握る現症では 万円の医療費を費やしている。さらに、日本人全人口の実に 10% 以上において、腎臓の機能が正常の半分以下に低下していて、これ ないかと考え、その分子機序を研究する基盤を築いた。キメラマウスは交配により再生産されないので、同様に一部のたこ足細胞のみ らの全員が腎不全になるわけではないが、心臓病や脳梗塞罹患のリスクが高い事が知られている。このように、腎臟病は国民健康上ま hCD25 の発現するモザイクマウスを開発した。次に、糸球体細胞を解離させ、FACS で hCD25 発現するたこ足細胞 (Td-Tomato+) と、 た医療経済上も重大な問題で、予防法治療法の開発は喫緊の課題である。 発現しないたこ足細胞 (EGFP+) をそれぞれ単離する技術を確立した ( 図 1)。これにより、LMB2 により直接的また間接的に傷害される 腎臟病の自動増悪 : 慢性腎不全をきたす腎臟病の多くは、はじめに糸球体が傷害される。糸球体とは、血液が濾過されて原尿が産生 たこ足細胞の遺伝子変化を、染色にたよらずに別個に解析する事が可能となった。濾過バリアとしての機能の維持に必須の nephrin は、 される場であり、糸球体上皮細胞 ( たこ足細胞、ポドサイト )、血管内皮細胞、メサンジウム細胞の3種から構成されている。このうちた 直接傷害細胞では4日目に著減するが、間接傷害細胞では、おくれて 7 日目に同レベルまで減少した ( 図 2)。たこ足細胞傷害マーカー こ足細胞は、生後に増殖も再生もできないため、その欠失は不可逆である。ある程度以上のたこ足細胞が失われると、その糸球体は糸 である Desmin は、どちらのタイプのたこ足細胞でも、ほぼ同様に増加した。また、ケモカイン Cxcl1 は、直接傷害細胞で4日目に著増し、 球体硬化症という形態を示し、その機能を失う。腎機能が廃絶した慢性腎不全患者では、両方の腎臓で約 100 万個ある糸球体のほと 間接傷害細胞では遅れて上昇した。Cxcl1 は、間接的傷害に関与している可能性が考えらる。 んどが糸球体硬化症に陥っている。腎臟病の治療が困難は要因の一つとして、ある程度以上の糸球体が硬化すると、大元の原因である 腎炎や糖尿病が制御されていても、腎機能が進行性に低下してゆく事があげられる。我々のグループは、この腎不全の自動進行性に焦 点をあてて研究している。 【結果と考察】 糸球体内の傷害伝搬機序 : 以前我々は、たこ足細胞特異的に hCD25 を発現するトランスジェニックマウス (NEP25) を開発し、それ に hCD25 特異的イムノトキシンである LMB2 を投与すると糸球体硬化症を発症する事を示した。LMB2 は蛋白質合成を阻害するが、 極めて微量の LMB2 が、静注後短期間に体内から消失するにもかかわらず、数週間の経過で糸球体硬化症を発症させる機序に興味が もたれた。磁気ビーズの灌流により糸球体を単離する事は可能であるが、3種の糸球体構成細胞からたこ足細胞を単離する事は困難で あった。我々はこの問題に対して RIBOTAG マウスを使って対処した。RIBOTAG マウスは Cre を発現する細胞において、リボゾーム蛋 白質 Rpl22 に HA タグが挿入されるようにデザインされたマウスである。RIBOTAG マウスと、 たこ足細胞特異的に Cre を発現するマウス、 および NEP25 マウスを交配させ、基底状態とたこ足細胞傷害後の、糸球体とたこ足細胞の RNA を単離し、Array 解析を行った。基底 29 状態では、5 万5千余の probe のうち 5070 が有意にかつ2倍以上濃縮してたこ足細胞に発現していた。また、たこ足細胞傷害後7日 たこ足細胞傷害後腎臓内 Angiotensin(A)II 増加の機序 : たこ足細胞傷害により蛋白尿と糸球体傷害が起こるが、尿細管傷害も続発し、 腎臓内 AII の産生が増加する。我々は、たこ足細胞傷害後に、AII の前駆体である angiotensinogen が尿細管管腔内に漏出し、それか ら AII が産生させる事を明らかにした。増加した AII は、悪循環的に腎傷害を増悪している可能性がある。 Selected Papers. 1. Unilateral ureteral obstruction attenuates intrarenal angiotensin II generation induced by podocyte injury. Okabe M, Miyazaki Y, Niimura F, Pastan I, Nishiyama A, Yokoo T, Ichikawa I,Matsusaka T. Am J Physiol Renal Physiol. 2015;308:F932-7. 2. Podocyte injury-driven intracapillary plasminogen activator inhibitor type 1 accelerates podocyte loss via uPAR-mediated β1-integrin endocytosis. Kobayashi N, Ueno T, Ohashi K, Yamashita H, Takahashi Y, Sakamoto K, Manabe S, Hara S, Takashima Y, Dan T, Pastan I, Miyata T, Kurihara H,Matsusaka T, Reiser J, Nagata M. Am J Physiol Renal Physiol. 2015;308:F614-26. 3. Sirtuin1 Maintains Actin Cytoskeleton by Deacetylation of Cortactin in Injured Podocytes. Motonishi S, Nangaku M, Wada T, Ishimoto Y, Ohse T, Matsusaka T, Kubota N, Shimizu A, Kadowaki T, Tobe K, Inagi R. J Am Soc Nephrol. 2014 [Epub ahead of print] 4. The structural and functional organization of the podocyte filtration slits is regulated by Tjp1/ZO-1. Itoh M, Nakadate K, Horibata Y, Matsusaka T, Xu J, Hunziker W, Sugimoto H. PLoS One. 2014;9:e106621. 5. Autophagic clearance of mitochondria in the kidney copes with metabolic acidosis. Namba T, Takabatake Y, Kimura T, Takahashi A, Yamamoto T, Matsuda J, Kitamura H, Niimura F, Matsusaka T, Iwatani H, Matsui I, K a i m o r i J , K i o k a H , I s a k a Y, R a k u g i H . J A m S o c N e p h r o l . 2014;25:2254-66. 代謝システム医学部門 Metabolic Systems Medicine 30
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