EGFP 遺伝子導入体細胞クローン胚を利用した妊娠ウシ羊水中胎子細胞の効率的採取 法の確立およびクローン胚の作製 谷口俊仁 1)、福原順子 2)、林 登 3)、岸 昌生 4)、佐伯和弘 4) 1)わかやま産業振興財団、2)和歌山畜試、3)岐阜畜研、4)近大生物理工 【はじめに】黒毛和種をはじめとする肉用種雄牛の産肉能力検定は、後代検定によりお こなわれているが、近年、検定を短期化する方法として「クローン検定」が考案された (図 1)。現在、クローン検定は子ウシ細胞由来クローンを検定牛とする方法で試行さ れているが、妊娠中の胎子細胞からクローンウシを作出できれば、検定期間の短縮が可 能である(図 2) 。そのため我々は、妊娠ウシ羊水から胎子細胞獲得を試みた。しかし、 オス胎子を妊娠していることが確認された妊娠牛から経膣的に得られた羊水中の細胞 株を用いてクローン胚を作製したところ、全てのクローン胚の性別はメスであった(図 3)。これは、経膣的に羊水を採取する際に子宮壁や膣壁の細胞が混入したためと考え られた。そこで我々は、EGFP 遺伝子を導入した体細胞を用いたクローン胎子を妊娠さ せ、その羊水を採取すれば、EGFP 蛍光の有無により胎子細胞が識別できると考え、こ の方法を用いて効率的に胎子細胞を採取する方法を検討した(図 4)。さらに得られた 胎子細胞由来のクローン胚作製を試みた。 【材料および方法】 (実験 1)EGFP 遺伝子導入胎子を妊娠した雌ウシから羊水を分画 採取し、得られた細胞の EGFP 蛍光によりどの分画に胎子細胞が多く含まれるかを検 討した(図 5)。まず、β-act/luc+/IRES/EGFP 導入ウシ繊維芽細胞をドナーとしたク ローン胚を発情同期化した雌ウシの子宮内に移植した。胚の受胎を確認した後、胎齢 82、90 および 99 日に超音波妊娠診断装置(SSD-500、Aloka)と COVA needle(ミ サワ医科)を用いて経膣的に羊水を吸引採取した。羊水は採取開始から 5ml ずつ分画 採取し、それぞれの分画に含まれる細胞を AmnioMAX II 完全培地 (Gibco)で 2 回遠心 洗浄した後、コラーゲンコートディッシュを用いて同培地で培養した(37℃、5% CO2、 95%空気)。各分画は採取開始から分画 1、2、3 および 4 とし、各分画で増殖した細 胞について、継代ごとに蛍光顕微鏡で観察し、EGFP 陽性細胞を胎子由来細胞、EGFP 陰性細胞を母体由来細胞と判定した。 (実験 2)得られた胎子由来細胞株を用いてクローン胚を作製し、胚の初期発生につい て検討した(図 6) 。クローン胚は、EGFP 陽性細胞が優勢であった細胞株(胎齢 90 日、分画 2 由来)を AmnioMAX II 完全培地でコンフルエントまで増殖したものを除核 未受精卵子と電気融合することで作製した。対照には、0.4% FBS 添加αMEM で 7-9 日間血清飢餓培養したウシ耳介由来繊維芽細胞を用いた。作製されたクローン胚を Ca2+イオノフォアおよびシクロヘキシミドにより活性化処理後、修正 SOF で 168 時 間培養(39℃、5% CO2、5% O2、90% N2)した。得られた胚盤胞期胚は蛍光顕微鏡 により EGFP 蛍光、さらにフォトンカウンター(ARGUS-50、浜松ホトニクス)によ りルシフェラーゼ(LUC+)発光を観察することにより胎子由来のクローン胚であるこ とを確認した。さらに、胚盤胞期胚の細胞数を対比染色法(Thouas et al. Reprod. BioMed. Online, 2001)により染色し、内細胞塊(ICM)および栄養膜細胞(TE)の 細胞数を計測することで、胚の品質の評価をおこなった。 【結果】(実験 1)いずれの胎齢においても、分画 1 から得られた細胞は非常に増殖力 が高く、4 継代目までに EGFP 蛍光陰性細胞が優勢となった。一方、分画 2、3 および 4 から得られた細胞は比較的増殖が緩やかであり、EGFP 蛍光陽性細胞が優勢であった (図 7)。 (実験 2) EGFP 陽性細胞が優勢である細胞株を用いて作製されたクローン胚の融合率、 卵割率、胚盤胞期胚への発生率はいずれも対照の繊維芽細胞由来クローン胚と同等であ った(p>0.05、表 1 および図 8)。さらに、この細胞株由来の胚盤胞期胚は全て EGFP 蛍光、LUC+発光が観察され(25/25)、これらの細胞数を計測したところ、ICM、TE、 総細胞数いずれも対照胚と同等であった(p>0.05、表 2 および図 9) 。 【結論】ウシの羊水採取において、胎子細胞を効率的に得るためには採取開始直後の 5ml を破棄することが有効であり、さらに、得られた細胞から効率的に胎子細胞由来ク ローン胚が作製できることが示された。現在、非遺伝子組換えウシ胎子を用いた同様の 手法による胎子細胞採取をおこない、クローン胚の個体発生能などについて研究を実施 している。 なお、この研究に用いた胎子由来の遺伝子導入クローンウシが誕生した(図 10)。さ らに、この子ウシの耳介組織および耳介由来の培養細胞において、EGFP 蛍光および LUC+発光が確認された。この子ウシは現在近畿大学生石農場で育成中である。 この研究は科学技術振興機構・和歌山県地域結集型共同研究事業によりおこなわれた。
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