香川県県民公開講座歯の健康から考える認知症，転倒，要介護状態の予防山本龍生神奈川歯科大学大学院歯学研究科社会歯科学講座日本人の平均寿命は世界のトップレベルです。しかし，自立して生活できる期間（健康寿命）は平均寿命よりも約 10 年短いといわれています。この要介護の期間を短くすること，すなわち要介護状態を予防することが日本の重要な課題となっています。近年の研究で，歯の健康が健康寿命に関わる可能性が明らかになってきました。要介護となる原因の 16%は認知症です。65 歳以上の日本人住民約 4 千人を 4 年間追跡調査したところ，歯がほとんどなく義歯を使っていない人は，20 本以上の歯がある人に比べて，年齢，治療中の病気，体格，飲酒・運動習慣，所得，物忘れの自覚の影響を除いても，その後の認知症発症リスクが 1.9 倍高いことがわかりました。歯が少ないにもかかわらず義歯を使わないと生野菜等を食べなくなり，ビタミンなどの不足によって認知症リスクが高まる可能性があります。また，歯を失う過程で歯周病（慢性炎症）が血液を介して脳に影響するかもしれません。義歯を使わずに咀嚼をしなくなることで，脳への刺激が少なくなる可能性もあります。転倒・骨折は要介護の原因の 12%を占めます。自分の歯が 19 本以下で義歯未使用の人は， 20 本以上自分の歯がある人に比べて，性別，年齢，追跡期間中の要介護認定の有無，抑うつ状態，主観的な健康観，教育歴の影響を除いても，その後に転倒するリスクが 2.5 倍高くなることがわかりました。歯が少ないにもかかわらず義歯を使っていないと，下顎や頭の位置が不安定となり，体のバランス機能がその影響を受けて転倒しやすくなる可能性があります。また，自分の歯が 19 本以下の人は，20 本以上の人に比べて，性別，年齢，体格，主観的な健康感，治療中の病気の有無，喫煙・運動習慣，所得の影響を除いても，その後に要介護となるリスクが 1.2 倍高いこともわかりました。これらの結果から，自分の歯を保つことは認知症，転倒や要介護状態になることを防ぐことにもつながりそうです。歯を失う原因の約 90%はむし歯と歯周病です。かかりつけの歯科医院を持って定期的に歯の健康をチェックしてもらうとともに，むし歯予防のためにフッ素入り歯みがき剤を使用し，歯周病予防のために歯と歯の間のブラッシングを行い，健康寿命を延ばしましょう。略歴山本龍生（やまもとたつお）学歴平成元年 3 月岡山大学歯学部卒業平成 5 年 3 月岡山大学大学院歯学研究科予防歯学専攻博士課程修了職歴平成 5 年 4 月岡山大学歯学部助手（予防歯科学）平成 6 年 8 月米国テキサス大学生物医学研究所客員研究員（～平成 8 年 1 月）平成 9 年 11 月岡山大学歯学部附属病院講師（予防歯科）平成 15 年 10 月岡山大学医学部・歯学部附属病院講師（予防歯科）（～平成 21 年 4 月）平成 15 年 12 月 WHO（世界保健機関）インターン（～平成 16 年 3 月）平成 21 年 4 月神奈川歯科大学社会歯科学講座歯科医療社会学分野講師平成 22 年 4 月神奈川歯科大学社会歯科学講座歯科医療社会学分野准教授平成 25 年 4 月神奈川歯科大学大学院歯学研究科社会歯科学講座准教授平成 27 年 10 月神奈川歯科大学大学院歯学研究科社会歯科学講座教授（現在に至る）専門分野社会歯科学，社会疫学，予防歯科学，口腔衛生学，口腔保健学受賞平成 13 年 10 月第 8 回国際歯周病学会 John O Butler Travel Award 受賞平成 19 年 10 月国際歯科連盟年次総会 Unilever Poster Award 受賞平成 23 年 10 月平成 23 年度日本口腔衛生学会学術賞 Lion Award 受賞所属学会日本口腔衛生学会（代議員，指導医，認定医），日本歯科医療管理学会（理事，評議員），日本歯周病学会（評議員），International Association for Dental Research，日本疫学会，日本公衆衛生学会，日本産業衛生学会，日本老年歯科医学会，日本歯科医学教育学会主な著書「健康長寿社会に寄与する歯科医療・口腔保健のエビデンス 2015（The current evidence of dental care and oral health for achieving healthy longevity in an aging society 2015）」（分担執筆）（日本歯科医師会，2015 年）「歯科五法コンメンタール－歯科関連法律の逐条解説－」（分担執筆）（ヒョーロン・パブリッシャーズ，2014 年）「スタンダード社会歯科学第 5 版」（分担執筆）（学建書院，2014 年）