Position Statement AAA 2015 「AAA 発足 1 周年を迎えて」 2015 年、AAA として今我々が行うべきミッションは何か? 一般社団法人 Act Against Amputation 代表理事 大浦紀彦 生活習慣の悪化による糖尿病や動脈硬化などの増加から足に病変を持つ患者さんが 増えている。杏林大学形成外科には、年間 200 名を越える新しい足病患者さんが外来へ 訪れる。そのうち 10%は下肢を救済できない手遅れの患者さんである。すぐに手術で下 肢を切断しなければ、命が危ないという重篤な虚血や感染症を合併しているためである。 下肢を失うとどういうことが起きるのか、想像をしてほしい。 「なーに、今の医療は進歩している。義足だってある。切断くらいたいしたことないさ」 と考えるのは、想像力が乏しいか現実を知らないからである。70 歳以上の糖尿病で手 の巧緻性が低下し、網膜症を合併した高齢者が義足をつけて歩行できる可能性は非常に 低い。 杏林大学形成外科で、足を治療する患者さんの6割は透析をしている。そのほとんど が外来の透析クリニックへ通院している。しかし、足を失うとクリニックへ一人で通え なくなる。家族の支援が得られればよいが、一人暮らしの人だったり、家族が働いてい て家にいなければ、他の誰かに連れて行ってもらわなければならない。助けてくれる誰 かが見つかれば、まだよい。クリニックに通えなければ、長期に入所できる透析施設を 探すしかない。透析ができる施設での生活を選択するしかなくなるのである。 足を失うということは、生活が一変するということである。誰かの手を借りないと生 活ができない状況になることである。足があれば自分が好きな時に好きなところへ行く ことができるーーこの空気のように普通なことができなくなるということ。人間として の自由と尊厳が失われてしまうことなのである。このことを想像できる患者さんは少な いだろう。いや、分かっていても想像したくないのかもしれないが・・。 一方で明るい希望もある。足の外科学会の重鎮でいらっしゃる井口 傑先生がとある 学会で、「足を失う主たる原因は、4~50 年前は悪性腫瘍が、30 年前は骨髄炎が、近年 は糖尿病・重症下肢虚血というように、経時的に変遷がみられ、大切断の主原因は変化 している」とお話されていた。言い換えると悪性腫瘍や骨髄炎は、現在では切断の原因 とはならず、ある程度下肢を温存できるように治療が進歩したとも言える。 糖尿病・重症下肢虚血に関してはどうであろうか。重症下肢虚血は、血管外科が主と なって牽引してきた領域であるが、患者数の増加と手遅れの症例の増加に対して、血管 外科医の数が追い付かない状況であった。今から 7~8 年前より循環器内科、形成外科 がこの領域に参入し、積極的に治療を行うようになった。カテーテルデバイスやカテー テルの技術の進歩、創傷治療デバイスや治療法の進歩などで救済できる下肢も増加して いる。切断の主原因である糖尿病・重症下肢虚血も、日本下肢救済足病学会や AAA など の活動によって、切断をせずに済む患者さんも少しずつ増えてきた。これは、患者さん にとって朗報である。これをさらに積極的に取り組み加速させる必要がある。 しかし間違った情報を信じ、軟膏だけ塗布して壊疽が進行、手遅れになるケースや、 足病変を専門に診る病院が見つからずに、病院を転々とする間に増悪するケースも多い。 がん治療と同様に足病においても早期発見、早期治療が大原則なのである。早期発見の ためには、どういう疾患なのか、一般の患者さんに知ってもらう必要がある。一般の医 療機関で対応ができる仕組みを作る必要がある。 いつも講演でお話をするが、がんは現在の医療の中でど真ん中に位置し、厚生労働省 は 1970 年代からがん撲滅を最重要事項として掲げてきた。その結果、まだがんを撲滅 することはできていないものの、①中高年のがん検診などの予防とスクリーニングの確 立、②手術、抗がん剤治療、放射線治療などのエビデンスに基づいたステージごとの治 療の充実、③がん拠点病院の設置、④がん拠点病院と一般病院との連携システムの確立、 ⑤緩和ケア、ターミナルケアによる終末期医療システムの確立といった、医療システム の構築が 2015 年現在なされている。それによって、がん治療は、発見から看取りまで が健康保険制度の中で、行うことができるようになった。これは、がん治療に対する長 期的な方針をぶれずに行ってきたことが実を結んだからである。 がんや、生活習慣病、成人病の予防には予算をつけている。予防できれば大きな医療 費削減につながるからである。しかし糖尿病・重症下肢虚血に関してはどうであろうか。 現在のところ、厚生労働省は積極的なアクションをほとんど起こしていないと言っても よいだろう。 現状を挙げてみると、 1)重症下肢虚血(CLI)を知らない人が多くいる。リスクのある足に対して定期的な 検診・スクリーニングが行われていない。 2)治療は地域格差があり、日本中どこでも同様の治療が行えるわけではない。ある病 院で下肢救済が行えるが、ある病院では切断、さらには死亡に至るという格差が歴然 と存在する。 3)下肢救済を適切に行える拠点病院は数が少ない。国立がんセンターのような、行政 主導でつくられた下肢救済センターはまだひとつもない。 4)拠点病院を支援する一般病院の数も少なく、足病変をもった患者さんは断られるこ とが多い。つまり連携も困難な状況である。 5)足を失うと生活が変わり、精神的な影響も大きい。にもかかわらず、この分野で患 者さんの精神的なケアに取り組むことはほとんど皆無である。どの病院もそこまで 手が回らない。 これらの事柄を是正するために、我々が取り組むべき課題は山積している。足病変の 現状を把握する疫学研究、拠点病院を全国に増やすこと、連携の確立など本来、行政主 体でやらなければならないことを、我々がやらなければならない。そのため、この領域 の積極的に取り組む病院のスタッフは疲弊している。システム構築がなされていない状 態で、手探りの状態で、患者を診察し、連携をつくり、在宅へ戻していくからである。 この病院スタッフの疲弊についても取り組まなければならない。スタッフも人間であり、 辛い状況が続くと、やがて高く熱いモチベーションも消えてしまうからである。 この灯を消してはならない。 これらの現状について認知を広めていくとともに、何らかの行政主導のシステムを一 つずつ構築していくことが望まれる。 そのために、AAA が行っていくべきミッションは次の5つと考える。 1)下肢救済の重要性を患者さん自身に考えてもらうこと。 2)早期発見・早期治療を、患者さん自身がアクションできるよう啓発すること。 3)下肢救済拠点病院がどこにあるのか、その病院と連携している病院がどこにあるの か、情報を集約し公開していくこと。 4)下肢救済のエビデンスに基づく治療方法を医療従事者に提供していくこと。 5)行政、企業、大学、病院が一丸となり、下肢救済のためのデバイスの開発、治療方 法の確立、医療システムの充実等、情報共有の場となること。 国を動かすことができるのは最終的には民意であり、患者さんの声が、下肢救済のシ ステム構築には是非とも必要なのである。そのために、2015 年はまず「透析患者さんの 足を救う」ことを強化テーマとし、全腎協との関係も強めていきたいと考えている。 我々は、この空気のように普通なこと=歩くという人間としての自由と尊厳が失われ ることがないように、足、下肢を救済するために、全身全霊を尽くして努力し、行動を 起こすことを改めてここに宣言する。 2015 年 2 月 10 日 ~つなごう、足の情報 なくそう、下肢切断~ ■一般社団法人 Act Against Amputation(AAA)ウェブサイト http://www.dm-net.co.jp/footcare/aaa/ ■「足病変とフットケアの情報ファイル」 (足の情報サイト) http://www.dm-net.co.jp/footcare/ ■Team AAA メンバー募集中 http://www.dm-net.co.jp/footcare/aaa/member/recruit/ ■お問合せメールアドレス(事務局) [email protected]
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