多様化する退居先の中で、自宅復帰を目指して

3-第14-R②-3 一般演題
9月3日(木) 14:00∼15:00 第14会場 パシフィコ横浜 会議センター5階 501
在宅支援と地域連携② [座長]東 公子(介護老人保健施設第二京しみず)
第1群:101 入所
第2群:204 工夫・新たな取り組み
第3群:R3383 在宅支援と地域連携 在宅復帰
多様化する退居先の中で、自宅復帰を目指して
在宅強化型老健の次なる取り組み
介護老人保健施設 なんぶ幸朋苑
大塚 勇輝、森安 克彦、後藤 裕輔
平成24年度より在宅強化型老健を維持する中で“自宅復帰”に着目した。 できる限り自宅へ帰っていただきたい
。そんな思いで介護職として多職種と連携し、自宅復帰した取り組みを報告する。
【はじめに】 平成24年度より在宅復帰支援に取り組み、在宅強化型老健として今日に至っている。算定要件の一つ、在宅復帰率
の「在宅」とは、自宅だけでなく有料老人ホーム等(以下、在宅みなし施設)も含まれる。退居先の選択肢は様々あ
るが、できる限り「自宅」へ帰っていただきたい。そんな思いで介護職として多職種と連携し、自宅復帰へ向けた取
り組みを報告する。
【自宅復帰支援の問題点】
在宅復帰委員会、各ユニットの気付きから、以下の問題点を抽出した。
1) 自宅復帰に向けた目標(援助方針)が抽象的であったため、ただ期間が来たら退居の調整になっていた。介護に
おける生活リハビリが不十分だった。
2) 老健入居中に本人と家族の関係が希薄になることがある。
3) 自宅復帰にあたり、家族、本人に不安な思いがある。
4) 自宅での慣れ親しんだ生活に基づいた支援ができていない。
5) 居宅ケアマネジャーとの連携が希薄である。
【取り組み】
1)・多職種で入居前訪問を実施し、目標を明確にした。
・介護士が生活リハビリを実施した。
2)・家族へ面会をすすめ、普段の様子を報告した。定期的な面会が困難な家族に対しては、様子を綴った共有ノート
や電話連絡を活用した。
・外出、外泊を積極的に働きかけた。
3)・入居から自宅へ帰るまでの予定表を作成し、家族へ説明した。
・外出、外泊時のアンケートを実施し、悩みや、困難事例に答えた。
・退居前訪問(自宅)を中心に、退居後の介護を見据え、介護指導を行った。
・多職種による退居時指導書の記入方法を見直し、家族の状況(介護力、知識)を見据えた内容とした。
4)・楽しみ目的の外出から、退居後の生活を見据えた外出(退居後に利用するスーパー等)をすすめた。
5)・居宅のケアマネジャーにカンファレンス(初回、更新、退居前)への参加を働きかけ、積極的に情報提供し、入
居後も途切れないようにつなげた。
【結果】
(1) 目標が「ADLの維持・向上」「安全な歩行」など、抽象的な記述だったが、現在は自宅の中での生活範囲で
ある10mの伝い歩きができる、部屋が二階にあるため階段昇降ができる、など具体的になった。
また老健入居時、利用者に「捨てられた」「なぜここへ」と戸惑いがみられるケースもあったが、利用者も目標を
共有し、生活リハビリを行うことで、「リハビリを頑張って、家へ帰ろう」など、前向きな気持ちへと変化が生まれ
た。
(2) 入居中の情報共有を密にすることで、家族のニーズをタイムリーにキャッチしケアへ移すことが出来た。外出、
外泊にて、家族が実際にケアを行うことで、現状の共有、新たな問題の抽出へつながった。
(3) 予定表やアンケートを活用したことで、家族の不安の解消へつながった。退居時指導書に加え、直接家族に介
護指導を行うことで、「やってみます」「大丈夫です」といった安心感へとつながった。
(4) 外出前は久しぶりで不安な様子が見られたが、外出後は「帰ってもまた出来そう」など、自信へつながった。
実際に自宅復帰後も買い物へ行くなど、入居前の生活にスムーズに戻ることが出来た。
(5) 取り組み開始時はケアマネジャーの参加は少なかった。しかし、互いに必要性を感じ、早めに予定を立てるこ
とで参加が可能となり、自宅生活の問題点の共有が図れ、有意義なカンファレンスへつながった。
・全在宅復帰者における自宅と在宅みなし施設の割合は以下の通りである。
平成23年度: 自宅 68.2% ・ 在宅みなし施設 31.8%
平成24年度: 自宅 65.1% ・ 在宅みなし施設 34.9%
平成25年度: 自宅 74.6% ・ 在宅みなし施設 25.4%
平成26年度: 自宅 77.8% ・ 在宅みなし施設 22.2%
【考察】
在宅強化型老健となり、在宅復帰支援を見つめ直した結果、可能な限り自宅復帰の可能性を見出すことが、本当の
在宅復帰支援ではないだろうかと考え、在宅復帰支援の質の向上を目指した取り組みを開始した。
入居時に利用者が「捨てられた」「なぜここへ」と言われた言葉から、利用者が置き去りにされていると思ってい
ることに気付かされた。利用者に可能な限り、利用目的を共有し、共にケアをすすめることが大切だと感じた。
職員においては、ケア目標を明確にすることで、日々の生活支援から、自宅での生活に向けた支援へと変化してい
った。多職種共働をもとに、介護においても個別の生活リハビリに取り組み、実際に自宅に帰られたことは自宅復帰
支援の大きなやりがいとなっている。
多くの家族の思いには、自宅復帰に期待や不安、迷い等、とても奥深いものが潜んでいると支援を通じて感じた。
そんな思いに寄り添い、家族とともに支援を行い、不安や迷いを軽減することで、自宅復帰へとつながったのではな
いかと考える。
また、カンファレンスを通して在宅のケアマネジャーとの連携が図れ、切れ目のないサービス提供となり、本人、
家族の負担の軽減となることも分かった。
一つの取り組みが結果へとつながったのではなく、様々な取り組みが相まって、自宅復帰率の増加へつながったと
考える。
【まとめ】
家族にとって、老健施設を利用することは、在宅介護の継続の分岐点となっているのではないだろうか。私たちは、
利用者の機能維持・向上を念頭に、様々な利用ニーズに応え、自宅を中心とした住み慣れた地域での生活を続けるた
めの可能性を見出し、今後の在宅復帰支援に取り組んでいきたい。