2015 年 6 月 5 Over 5(今後 5 年間の 5 つの投資テーマ) 2020 年に向けて市場をけん引する投 資テーマ 金融市場の先行きを見通す際には、とかく短期的な視点が注目されるものです。何故かと Arvind Rajan マネージング・ディレクター インターナショナル・チー フ・インベストメント・オフ ィサー プルデンシャル・フィクス ト・インカム いうと、その理由は今さら言うまでもありませんが、今後 5 年間にわたりグローバル市場を けん引することが予想される主要な投資テーマを考えることなど極めて無謀であるからで す。一方、機関投資家は基本的に長期見通しを元に運用をしているということを忘れては いけません。当レポートでは、これから 5 年間にわたり市場をけん引することが予想される 投資テーマをご紹介します。 世界経済の成長速度は地域・国によって様々:G10 と新興国は中程度と低水準 の経済成長グループに分かれていくと予想 循環的な景気回復と量的緩和によるリフレ政策を通じてディスインフレと対峙: ただし、最終的にはその戦いに敗れるであろう 流動性と信用:潤沢な中での不足 コモディティ価格の行方:さらなる暴落の可能性は低いが、今後の需給関係は商 品ごとにまちまち 地政学:多極化の世界への緩やかな移行 リフレの勢力とディスインフレの勢力とのバランス Rising Ground Economy (左図) • 景気の底上げ • グローバル経済の不均衡改善 • コモディティ価格の安定 • グローバルな金融緩和の収束 • 米連銀の引締めに伴う「ひきつけ」 • オイルダラー還流減 (右図) • 所得格差拡大 • 低い生産性 • 金融危機後の規制緩和 • テクノロジー • 商品・サービスのグローバル化 • 先進諸国の大幅な借金 • グローバルな過剰貯蓄 • 高齢化に伴う消費減退 Inequality Withdrawal of Global QE & Monetary Accommodation 循環的なリフレ要因 長期的なディスインフレ要因 出所:プルデンシャル・フィクスト・インカム はじめに:ゆっくりと回復する世界経済 まず最初に今世界中で何が起こっているかというところから始めたいと思います。世界経済は今、 2008 年の世界金融危機発生から 7 年目に入っていますが、残念ながらまだ完全には回復していませ ん。過去 10 年間にわたり経験した名目経済成長率や急激なリフレーション、そして速やかな上り調 子の景気循環への回帰といった展開を予想していた人たちは失望しています。 大半の観察者は現在、世界/ユーロ圏危機が及ぼした大きな影響を認識すると共に、これらの危機の 余波の中、過剰債務を背景に平均よりも遅い名目成長率の回復に悩まされる状況を目の当たりにして います。少なくとも G4 では堅調な経済成長を牽引した信用創造が繰り返される公算が小さいことは 明白であるため、経済成長が 2000 年代の堅調な水準まで回復するとは誰も予想していません。事 実、ここ数年間の低成長は、多くの記事やレポートで取り上げられており、目下、長期的な景気低迷 の最中にあるのか、それとも単に世界的な貯蓄過剰にすぎないのかという点に関して、ラリー・サマ ーズ元財務長官やベン・バーナンキ米連邦準備制度理事会(以下、FRB)元議長など著名なエコノミ ストの間で論戦が繰り広げられています。コンセンサス予想の変化は、先進国の生産が一貫して予想 を下回ってきた現実を反映しています。 下方修正が続く:先進国市場における生産予測の推移(%) 120 120 115 Fall 2007 115 Fall 2008 110 105 110 Fall 2014 105 2007年を100とする 100 100 95 95 90 90 85 85 80 80 出所:IMF 2014 年 10 月現在 . さらに、量的緩和(QE)は G4 の金融政策の中で広く実践される不可欠な要素となりつつあるにもか かわらず、それがもたらすとみられる長期的なメリットとリスクについては依然として意見が分かれ ています。もっとも、QE に起因する急速なインフレに対する以前の懸念は、今や世界的なディスイ ンフレ傾向、もしくはデフレ 傾向に対する当惑にとって代わられています。緩やかな実質経済成長 率と低インフレというこれら 2 つの傾向が組み合わさる中で、低水準の名目成長率と高齢化が長期に わたる低金利をもたらす、というプルデンシャル・フィクスト・インカム(以下、PFIM)の長年の 見解が市場のコンセンサスになってきた模様です。(PFIM が過去に発行した「The Low Ranger”」お よび「Europe, Into the Void”」を参照。PFIM のウェブサイト http://www3.prudential.com/fi/index.html か らご覧頂けます)。欧州と日本は共に引き続き QE を断行しており、G4 では至る所で経済成長率と インフレ率が目標を大幅に下回ったままの状態が続いています。 昨年、世界市場は欧州金利の大幅な低下、米ドルの大幅な上昇、エネルギー価格の急落という 3 つの 主要な激変に見舞われました。この 3 つの動きはいずれも大きな波紋とリスクの上昇を伴いました。 Page 2 欧州国債市場の ほぼ 4 分の 1、そして日本国債市場の一部の利回りは目下マイナス圏にあるため、投 資家は世界中でより高い利回りを求めています。ドル高と原油価格の下落は特定の業界や国々のバラ ンスシートを悪化させ、以前は横ばい状態にあったデフォルト率を再び上昇させています。一方、 FRB は今年後半にも利上げに踏み切ることが予想され、市場は今後、数四半期にわたり不安定な展開 になると思われます。また、大半の新興国においては 10 年近くにわたり堅調な経済成長と信用の改 善が続いた後、ここ数年間は困難な状況に見舞われており、多くの国々は低調な輸出、停滞気味の資 本フロー、通貨安、コモディティ価格の下落、そして自ら招いた一連の固有の要因により、窮地に追 い込まれた状態が続いています。 我々はこうした困難な世界的状況を背景に、以下の 5 つの主要なマクロ経済要因が 2020 年までの金 融市場に影響を及ぼすと予想しています。原動力となるテーマとそれが主要な資産クラスへの投資に 及ぼす影響の対象を金利、信用、通貨に絞って、以下に説明します。 1) 世界経済の成長速度は地域・国によって様々:G10 と新興 国は中程度と低水準の経済成長グループに分かれていくと予想 世界経済は今後も緩やかながら成長することは可能… 過去数年間にわたり世界経済は構造的な逆風から回復しようとしてきました。構造的な逆風の中でも 注目されるのは、世界的な金融危機に起因する、ラインハート=ロゴフ論文で取り上げられたような タイプの過剰債務(訳注:当論文は、国家債務残高の対 GDP 比が 90%に達すると、GDP 成長率が減 速し始めると主張)や、もっと最近では欧州危機などがあります。新たな災難が起こらない限り(こ れについては後で詳細に取り上げます)、私たちは今後 5 年間にわたり世界経済が拡大し続けると考 えてよいと思われます。しかし、このような経済成長は過去の予想に比べると期待外れとなり続ける かもしれません。なぜならば、世界はもはや自然に活況を呈する場所ではないからです。ラリー・サ マーズ元財務長官が昨年述べたように、「適切な経済成長、設備稼働率、金融の安定を同時に達成す ることは益々困難」になっているようです。過去 10 年間で、先進国の潜在経済成長率が以前に考え られていた水準を大幅に下回ることが明白になってきました。 先進国と新興国何れにおいても難題 を抱える国々では、長期的な政策 — 特に構造改革 — が依然として持続可能な成長にとってのカギと なっていますが、優れた政策は導入されにくい(あるいは限定的にしか導入されない)ようです。そ れどころか、多くの国々では、政治的な膠着状態と膨れ上がった財政が金融政策への過度な依存につ ながっています。 Page 3 緩やか、かつ地域によってまだら模様:年間 GDP 成長率(%) 2015 年-予測 世界 2012 年 実績 2013 年 実績 2014 年 推定 ブルームバーグ の調査 プルデンシャル・ フィクスト・ インカム 潜在 GDP 成長率 3.4 3.4 3.4 3.4 3.2 -- 米国 2.3 2.2 2.4 2.5 2.6 2.3 ユーロ圏 -0.7 -0.5 0.9 1.5 1.4 1.0 中国 7.7 7.7 7.4 7.0 6.2 5.5 日本 1.8 1.6 0.0 0.9 0.9 0.5 先進国市場 1.2 1.4 1.8 -- 2.1 -- 新興国市場 5.1 5.0 4.6 -- 4.0 -- メモ項目: 2015 年 5 月現在 出所: PFIM、ブルームバーグ。世界成長に関する調査の予想はフローカー・ディーラー数社と PFIM の予 想に基づいています。ここで提示されている予想は情報提供のみを目的としています。これらの予想が達成させる保証はあり ません。 上記表では主要国に関する我々の経済成長率予想と推定潜在成長率とが、最近の実績値と併せて掲載 されています。米国経済は 2%~3%の範囲で着実に成長しており、慎重に調節された金融政策が成長 率をそのレンジ内に維持しています。また、欧州では周縁国の生産能力の大幅な余剰を踏まえ幾分低 調ながらも緩やかな回復を予想しますが、回復のタイミングと程度は依然として非常に不透明なた め、欧州中央銀行(以下、ECB)は我々の予想対象期間の大半にわたり緩和的な政策を維持するでし ょう。また、景気減速の管理に着手したばかりの中国では(適正な政策選択が行われると想定する と)、経済成長率は今後数年間で約 5%~6%に減速する可能性があります。 金融危機後の改革はグローバルの信用供給を阻害しますが、その予想外のメリットは 、皮肉にも景 気回復の長期化です。控え目な政策、規制面の歯止め、そして幾分かの企業家精神とが今回の景気拡 大を第 2 次世界大戦後の標準よりもはるかに長いものにするとみられます。信用とレバレッジは最終 的に拡大する可能性がありますが、少なくとも欧州と米国では 2000 年代半ばにみられたような熱狂 的なものではなく、緩やかなものにとどまるでしょう。一方、アジアでは信用バブルのリスクが高ま っています。 …非同期性の成長、ただし格差はフィードバックループによる反作用によって抑制 される PFIM の潜在成長率予想は、地域間のスピード格差を如実に表しています。先進工業国は最近の推移 と一致する形で、4 つのグループに分かれるとみられます。潜在成長率の高いものから順に挙げる と、まずオーストラリア、ニュージーランド、カナダを含むグループ、次に米国と英国、3 番目が欧 州、そして最後が日本です。世界第 2 位の経済大国である中国は現在、減速しながらも孤高の存在 で、公式 GDP 成長率は約 7%、非公式予想は 5%程度となっています。潜在成長率の較差に加え、主 要国の景気サイクルはこれまでと同様に今後も同期せずに推移することが予想されます。コモディテ ィ生産国は危機を比較的無傷で乗り切っており、G4 の中ではまず米国、次に英国の景気が回復し、 日本は潜在成長率と同等またはそれを上回る水準にあり、欧州は依然として数年遅れた状況にありま す。 こうした非同期性の長期要因と循環要因は、いずれも今後数年間にわたり残存するとみられます。長 期的に見ると、こうした現象は極めて健全な現象であり、世界経済が世界同時的な好況と不況を回避 Page 4 することを可能にします。 ただし、2015 年上半期の一部のデータからは、収斂がある程度復活し、 欧州の景気が循環要因によって回復するのに伴い、世界的に金利に対する上昇圧力がかかることが示 唆されます。次のセクションでは、この現象をさらに詳しく見てみます。 しかしながら、一方で幾つかの安定促進的なフィードバック回路による反作用 — 市場関連と政策関 連の双方 — が国家間の経済格差傾向を抑制すると考えられます。特筆すべきは、景気対策としての 金融政策や為替、金利、コモディティ相場の動向です。例えば、ECB は欧州のデフレ圧力に対応し て量的緩和(以下、QE)に着手したのに対して、米国経済は健全な状態にあり、FRB は利上げの態 勢を整えています。こうしたインフレや政策の格差は最近、欧州の金利低下とユーロ安につながり、 これが欧州経済を押し上げています。同様に G3 の低調な経済成長は原油価格下落の一因となり、結 果として、これらの国々の経済を刺激する効果をもたらしています。 中央銀行の資産は量的緩和によって引き続き拡大(10 億ドル) 14,000 予測 > 12,000 10,000 ECB 8,000 日銀 6,000 イングランド銀行 4,000 米国 2,000 0 2015 年 3 月 31 日現在 出所:ブルームバーグ 予測の出所:プルデンシャル・フィクスト・インカム ここで提示されている予想は、プルデンシャル・フィクスト・インカムが当チャート提示時点での情報提 供のみを目的として作成したものです。これらの予想は自社モデルに基づいており、予想が実現する保証 はありません。 …しかし、前途に困難が横たわる可能性あり 緩やかながらも着実な成長は我々のメインシナリオですが、成長には大きなリスクを伴います。米国 経済の拡大は 7 年目に入っていますが、今後 5 年間で景気後退に陥るでしょうか? これまでで最も 長い拡大期は 10 年でした。従って、目先の景気後退は予想していないものの、リスクがあるのは明 らかです。現在の QE は継続されるのでしょうか、あるいは複数年にわたり複数の手段を用いた、金 融危機後の 1 回限りの対応だったことになるのでしょうか?この問いに対する答えは、米国の景気後 退を予想するか否か、そして「正常な」政策に至るまで何回の利上げを実施するのかに左右されます (次のセクションを参照)。欧州の長期的な景気回復の可能性を模索するためには、イタリアとスペ インの公的債務の行方を見守る必要があります。この分野では日本と同様に膨大な長期リスクが依然 として存在し、ここでは QE が十分なインフレを生み出すことができるか否か、そして債務の持続可 能性を取り戻すことができるよう十分な財政再建が行われるか否かに関しても疑問が残ります。さら に、QE が構造改革と相まって、経済成長に持続的な影響を及ぼすか否かとの疑問もあります。そう でない場合、QE にほころびが生じて為替レートの下落/インフレのスパイラルにつながる可能性があ Page 5 ります。全般的に、 G4 の QE とその解消は 市場と政策当局に新たな課題を投げかけています。中国 はソフトランディングを何とかして成し遂げる必要があります。そうしなければ、市場に大きな波紋 が生じることになるでしょう。我々は地政学と流動性の一時的な枯渇による脅威についても検討しま す。 新興国市場は先進国よりもさらに多様なグループであり、その見通しについて一般化するのは困難で す。本レポートの第 2 セクションと第 4 セクションで検討するように、新興国はここ数年間に外部シ ョックと内部ショックが組み合わさったことで打撃を受けてきましたが、債務と人口動態の動向は良 好です。世界経済の緩やかな回復という PFIM のメインシナリオでは、新興国は全体として複数年に わたる低迷から恐らく回復し、先進国の経済成長を大幅に上回ると予想しますが、各国間には固有の 重要な違いがあります。特に、新興国市場の国々は国内収支、対外収支両面での大きな格差を特徴と しています。各国の政策対応は大きく異なり、改革さらには不安定化、停滞と様々です。 このテーマが示唆するもの: 第 1 に、株式やハイイールド債などのリスク資産は、景気後退がない場合には小幅なプラスのリ ターンを生み出す公算が大きいものの、過去 5 年間の優れたパフォーマンスが繰り返される公算 は小さいとみられます。特にこれは、株式リターンが 10%台半ばもしくはそれ以上ではなく、1 桁半ばに近いことを示唆しています。信用スプレッドは金融危機後の水準よりもタイトではあり ますが、過去の底値から比べると相対的に高い水準にあります。従って、低水準の金利を踏まえ ると、信用スプレッドは魅力的にみえます。 第 2 に、新たな世界的な危機または暴落を引き起こす喫緊の要因は見当たりません。ただし、今 後数年間に浮上する可能性はあります。特定の先進国や新興国の社債(特にアジア)のレバレッ ジ上昇、中国株やバイオテクノロジー株など特定の市場やセクターの急騰、そして世界不動産市 場の特定のセクターおけるバブルが目につくのは確かですが、どれもまだ懸念するほど深刻な、 あるいは大きなものではない模様です。暴落の可能性を完全に否定するものではありません。そ れが起こるとしても、2000 年または 2008 年当時のように資産バブル、レバレッジ、あるいは信 用肥大等の要因によってのみ引き起こされるのではなく、それらの要因のその後の展開次第で引 き起こされる公算が大きいと言えます。 第 3 に、暴落が訪れようと訪れまいと今後数年間は大幅な変動が予想されます。理由としては、 財政・構造改革よりも金融政策に対する過度な依存、低調な名目/実質経済成長率、世界的な低利 回り、株価バリュエーションの上昇、低水準の政策金利と QE を背景とする各国中央銀行の限定 的な柔軟性、低水準の取引流動性、多極化の世界によって引き起こされる地政学的リスクが挙げ られます。 最後に、新興国債市場では既に、十分な悲観的見方を織り込んでいることから、我々はハードカ レンシー債をはじめ、一部の現地通貨建て債券市場に対しても選別的に楽観的な見方をとってい ます。しかし、全体としては楽観的なこの見通しは、多くの国固有の違いを覆い隠しています。 そこでは、各国の課題の重大性と政策対応の確からしさが、各国固有の結果を決定するとみられ ます。新興国については、コモディティに関するセクションでさらに検討します。 Page 6 2) 循環的な景気回復と量的緩和によるリフレ政策を通じて ディスインフレと対峙:ただし、最終的にはその戦いに敗れるで あろう 低金利はいつまで続くのか? 金融市場で今後 5 年間に最も興味深く関心をそそる出来事は、恐らく世界的な「リフレーション」の 戦場で起こり、特に長期にわたる異例の低インフレ率と異例の緩和政策の後に世界の金利がどの程度 速やかに、そしてどの程度まで「正常に戻る」ことができるかという点に尽きると思います。そし て、この戦いは循環的な景気の勢いと長期的なディスインフレの勢いの間の戦いになるとみられま す。 世界経済の拡大は今後 5 年間にわたり続くことが予想されます。米国は現時点で既に 7 年間に及ぶ長 期拡大期にあり、このままのペースで行くと今後 1~3 年で完全雇用に達するとみられます。EU と日 本のインフレは現時点で目標を大幅に下回っていますが、長期にわたる金融緩和と量的緩和の双方が 恐らくは功を奏し、今後 5 年間の後半には両中央銀行のそれぞれの量的緩和によるリフレ政策の成否 が判明しているでしょう。もし成功すれば、EU では現在の米国と同様に ECB が量的緩和縮小を実行 し、利上げに向けた態勢を整えるとみられます。日本では同様に、うまく行けば量的・質的金融緩和 (QQE)はもはや必要とされないでしょう。中国は住宅投資の低調さと地方政府および国有企業 (SOE)の緊縮を補完するため、2015 年には財政・金融の両分野での大規模な景気刺激策が求められ ていますが、将来的にはかなりの進展が予想され、既に政策の正常化に着手しているかもしれませ ん。世界各国のこうした政策の正常化は、今後数年間にわたり政策金利期待を押し上げ、G4 のイン フレ期待を上昇させるとみられ、このことは FRB の失業/インフレ予測といわゆる「ドット・プロッ ト」にも表れています。 タカ派過ぎる?FF 金利、失業率、コア PCE¹の推移 12% Fed金利 Funds FF 10% Unemployment Rate 失業率 FedFed Projections 予測 PCE Inf lation PCE 短期 Near-Term Long Run 長期 8% 6% 失業率:5.1% Unemployment: 5.1% 3.1% 4% FF Fed金利:3.8% Funds: 3.7% 1.8% 2% 0.6% PCE:2.0% PCE Inflation: 2.0% 0% -2% Long 長期 Run >> 2015 年 6 月 30 日現在 出所:ブルームバーグ、連邦準備制度。1 PCE は個人消費支出デフレーターの前年比変化率を表しま す。ここで提示されている予想は情報提供のみを目的としています。これらの予想が達成される保証はありません。追加情 報開示の注記を参照ください。 Page 7 第 2 として、関連する循環的現象は量的な側面、すなわち新興国の外貨準備の蓄積の減速と QE の減 速に現れます。コモディティ価格の下落はオイルダラーの余剰金を減少させています。中国を含む新 興国の外貨準備の積み増しペースは緩やかなものとなり、場合によっては反転する可能性もありま す。同様に、5 年後には QE は先進国の大半で概ね中断、縮小、もしくは巻き戻しが行われるとみら れます。 これらの要因は共に、少なくとも G4 の債券利回りに対する上昇圧力になるとみられます。要する に、今後 5 年以内に米国以外の国々は、 米国が 2013 年以降既に通り抜けてきたのと同様の、緩和策 からの撤退による痛みを経験し始める可能性があります。そうであれば、テーパリングによる混乱の 原因が揃いつつあり、FRB の「ドット・プロット」によって予想されるような大幅な金利上昇の時代 が復活するということなのでしょうか? 債券の弱気派はまたしても失敗する公算大 答えを一言で言えば「No」です。なぜならば、今回も債券の弱気派は各国中央銀行の行動を制止す る同じ要因 - すなわち G4 の緩やかな経済成長と低インフレ率 - によって再び裏をかかれる公算が 大きいからです。上記で説明した循環的なリフレの加速は、明らかに市場の一時的な下落を引き起こ し、金利のボラティリティを高めるとみられますが、長期的要因という目に見えない持続的な足かせ によって抑制され、今後 10 年間もしくはそれ以上にわたり金利とインフレ率は抑制されるとみられ ます。これは米国では、低下している FRB のドットを大幅に下回る、市場が織り込んだ政策金利に 反映されています。ただし、我々は市場が織り込んだ金利でさえも高過ぎると考えており、長期的な 均衡水準は 1.5%~ 2.5%と予想しています。 経済の実態に合わせて修正: FRB の「ドット・プロット」(%) 5 Market Implied 市場に織り込まれた水準 Sep-14 2014 年Median 9 月中央値 4 Dec-14 2014 年Median 12 月中央値 Mar-15年Median 2015 3 月中央値 2015 年Mar-15 3 月議事録 Minutes 3 2 1 0 2014 2015 2016 2017 2015 年 3 月 31 日現在 Longer Term 長期 出所:ブルームバーグ では、なぜそれほど低い水準なのでしょうか? 強力な長期的ディスインフレ要因には世界的な高齢 化、先進国の過剰債務、サービスやテクノロジーを中心とする労働力のグローバル化、所得格差と生 産性の低迷、金融危機後の規制の残存効果などがあります。公開市場委員会(FOMC)は米国の経済 成長率に関して一貫して過度に楽観的ですが、我々はこれらの長期的要因の多くにその原因があると 考えます。次にこれらの世界的な趨勢について概観します。 Page 8 一貫して過度に楽観的:FOMC による米国の実質 GDP 成長率予想 % 4.5 2010 4.0 2011 3.5 2012 3.0 2013 2014 2.5 2015 2.0 2016 1.5 1.0 10/03 2017 長期 Run Long 10/09 11/03 11/09 12/03 12/09 13/03 13/09 14/03 14/09 15/03 2015 年 3 月 31 日現在 出所: FOMC 第 1 点目の人口動態に関して言えば、人口の高齢化は多くの先進国や一部の新興国で加速していま す。そして、それが及ぼす物価への影響については諸説ありますが、日本や EU などの国々で現在目 にする影響に基づくと、抑制された需要を通じてディスインフレ効果を及ぼすと考えられます。 第 2 点目として、発展途上国の貧しい若年層は安価な労働力の供給源であるため、グローバル化を通 じて物価下落圧力となります。足元の中国労働者 10 億人のうしろには 12 億人のインド人が控えてお り、もちろん他の新興国 ― 大半は人口構成が若い ― も全てデフレを輸出する順番を待っています。 また、グローバル化は製造業から貿易可能なサービス業へ、製品のフローから情報のフローへ、更に は知的財産の共有(法律上・非法律上の双方)と複製へと重点が移っています。 急速に高齢化する世界:先進国市場人口予想(平均:2015 年~2024 年) 人口合計に 対する割合% 42% 38% 0~19歳 55歳以上 34% 30% 26% 22% 18% 14% 2015 年 3 月現在 出所:国際連合、ハーバー・アナリティクス 第 3 点目として、先進国における高水準の債務(民間部門と公的部門)は、たとえ長期的に持続可能 であるとしても ― これは欧州と日本で疑問視され得る主張ですが ― さらに大幅に拡大する公算は 小さいため、2000 年代の経済成長を後押ししたような類の信用ブームが再び訪れることはないでし ょう。代わりに、債務は財政/民間支出を抑制し、経済成長を損なうとみられます。 Page 9 第 4 点目として、技術は ― その役割が運転手の要らない安価な自動車の導入にあろうと、あるいは X 線データの海外発送を通じた分析コストの削減にあろうと、あるいは大規模公開オンライン講座 (MOOC: Massively Open Online Courses)の導入にあろうと ― その影響の計測は困難ではあるもの の、もう一つの重要なディスインフレ要因です。 第 5 点目として、資本所有と賃金の不平等は消費の代わりに貯蓄率を押し上げる一方で、最近数十年 間における生産性の鈍化は、反転しない限り、名目成長率、そして恐らく名目金利に対する足かせと なり続けるでしょう。不平等の高まりによって不協和音が拡大し、政治体制がさらに麻痺したり、あ るいは過激で予測不可能な変化が引き起こされたりするリスクもあります。 最後に、米国と EU の規制(ドッド・フランク法、バーゼル III、その他の枠組み)という形での貸出 の阻害は、銀行の自己資本、リスク・ウェート、金融仲介機関の流動性に関する持続的な規制強化に つながっています。これらの規制はテールリスクの縮小と引き換えに、貸出とマーケットメーキング における摩擦を拡大させ、実質的に信用の伸びとインフレを抑制しています。 要約すると、世界的な景気サイクルの再上昇は長期的なディスインフレの勢いによって抑制され、長 引く不安定で居心地の悪い低金利の均衡をもたらしています。 このテーマが示唆するもの: 我々のメインシナリオでは、今後数年間に債券市場(クレジットまたは金利)の暴落が起こる可 能性は低く、インフレ率は低水準にとどまるとみられるため、大半の機関投資家は資産配分を大 規模に調整するのではなく徐々に調整していくことになります。国債のリターンは低迷するとみ られるものの、デュレーション・リスクの完全な回避 ― 戦略的および長期的の双方 ― は、特に イールドカーブが歴史的にスティープな状態にある通貨においては、不必要且つ不適切です。 セクション 1 で述べたように、信用サイクルと利回り追求は、あと数年間は続く見通しです。ク レジットは金利に対する魅力的な代替にみえます。緩やかで非同期生の経済成長は回復を長引か せ、信用逼迫の可能性を最低限に抑える一方で、規制が強化された貸出環境と、既に起点が高水 準にある債務水準は 2000 年代半ば当時のような信用ブームを阻止するとみられます。一部の金 融セクター、ストラクチャード証券、非エネルギー・セクターのハイイールド債、エマージング 債のスプレッドは極めて魅力的にみえます。 一方で、産業セクター社債では、長期にわたる低金利環境と着実ながらも緩やかで低調な経済成 長が持続的なレバレッジ積み上げと M&A 活動につながるとみられるため、警戒が必要です。ア ジアなどの特定の地域ではバブルも形成されつつある可能性もあります。新規発行は質の良いも のから悪いものまで広範にわたっている上に、もはや信用サイクルの初期段階にはないため、 投 資家は銘柄を注意深く選択する必要があります。国、セクター、発行体のボトムアップ分析によ る選択が極めて重要です。 金利をめぐる市場の混乱が新興国に及ぼす悪影響への懸念に関しては、ハードカレンシー建て新 興国債券は、最終的にはプラスながらも変動の激しいリターンをもたらすという過去の実績を損 なうことなく、困難な期間を脱するものの、個別銘柄間の大きな格差を伴うと考えています。QE 終了と世界の金利の正常化は新興国における競争的な通貨安に終止符を打つとみられます。ま た、もはやデフレ要因でもインフレ要因でもないコモディティは、世界の需要ベクトルを牽引す るのではなく、追随することとなるでしょう(セクション 4 を参照)。 Page 10 金利水準と比較して魅力的:堅調なファンダメンタルズ/テクニカル状況はスプレッドのさらなる縮 小を引き起こす公算大 bps 2500 バンクローン ハイイールド債券 エマージング債券 投資適格社債 投資適格CMBS 2000 900 スプレッド(bps) 800 700 1500 1000 500 危機前の 底値 (5/31/07) 現在 600 500 519 286 400 482 267 300 382 143 200 130 78 100 102 90 0 0 2015 年 3 月 31 日現在 出所:社債、新興国債券、CMBS はバークレイズ、ハイイールド債は BofA メリルリンチ、バンクローンは クレディ・スイス・ファースト・ボストンより。ローン・データは 1 週間のタイムラグ。 一方、欧州と日本の投資家に関しては、債券配分の大幅な見直しが当面の間必要かもしれませ ん。これらの地域の債券市場では、極めて低いまたはマイナスの利回りが今後何年にもわたり続 くとみられます。このため、欧州と日本の投資家は、それぞれの国債によって従来提供されてき たリターンと景気後退への保険機能の双方を他に探す必要があります。PFIM ではそれらの機会 を見出すために債券市場内の伝統的な 4 つのチャネル全てを推奨します。具体的には、 デュレー ション範囲の拡大、より低格付のクレジットへの拡張、通貨範囲の拡大、ストラクチャード証券 の対象拡大を図ります。各国景気の収斂の兆候が見られない中、こうした利回り追求は G10 内の スティープなイールドカーブを引き続きフラット化させ、ユーロ安と円安を維持し、米国債利回 りに対して押し下げ圧力を及ぼし続けるでしょう。 PFIM は投資家に対して、我々のメインシナリオに対する主要なリスク - すなわち内因的に、あ るいは外的ショックの結果引き起こされる米国や欧州における深刻な景気低迷 のリスク- にも 留意するよう忠告します。 世界国債指数において低水準またはマイナスの G10 利回りを有する債券の比率は高い 100% マイナスの利回り Negative Yields 80% 利回り0.5%未満 Yields < 0.5% 60% 40% 20% 0% Switzerland Germany スイス ドイツ Japan 日本 Netherlands France オランダ フランス 2015 年 5 月 20 日現在 Belgium ベルギー Italy イタリア United 米国 States United 英国 Kingdom Canada カナダ 出所:シティグループ、プルデンシャル・フィクスト・インカム Page 11 3) 流動性と信用供与:潤沢な中での不足 米国の QE 主導による金融政策が G4 の他の国々に波及し、2000 年代半ばの銀行の行き過ぎを抑制す ることを目的とした金融規制が速やかに進展するのに伴い、 2 つの注目すべき事柄が信用供与と流動 性に起こっています。一点目として、中央銀行が供給した流動性が銀行の貸出意欲を高める結果につ ながらなかったため、資本市場へのアクセスを有する大手企業は、家計や中小企業、そして銀行に依 存する企業と比較して、恩恵を享受する傾向にあります。2000 年代半ばのシャドーバンキングと資 産担保市場の行き過ぎに対する金融危機後の対応において、規制当局は銀行を取り締まり、銀行に対 してストラクチャード・ファイナンスなど特定の主要市場セグメントからの撤退や、欧州では中小企 業向け融資からの撤退を促しました。バーゼル III 規制は、欧州におけるこうした与信不足を悪化さ せるとみられます。最終的には銀行のこうした撤退は資本市場に取って代わられるとみられます。こ うした動きはレバレッジド・ローン市場、ハイイールド債市場、 ローン担保証券(CLO)、商業用 不動産ローン担保証券(CMBS)市場、資産担保証券(ABS)市場の一部で起こっていますが、2000 年代半ば当時とは程遠い状況です。 この全体的にまだら模様の信用環境はバブルを引き起こすと予想されるかもしれませんが、広範な懸 念にもかかわらず、大規模な資産バブルは見当たりません。特に、金利に関する我々の見通しを踏ま えると、債券市場全体 - 金利およびクレジット - が大きなバブル状態にあるという一部の人々が提 示している見方には反対です。例えば、欧州国債や日本国債の低水準またはマイナスの実質/名目利 回りをバブルと呼ぶ向きもあるかもしれませんが、PFIM はそれを、概して金融規制と QE がもたら す意図的な効果であると言った方がふさわしいと考えています。しかし、QE の効果を何と呼ぶにせ よ、QE が政策当局者と市場を未踏の領域に明確な出口戦略なしに置き去りにしたことは否定しよう がありません。市場を形成する大手プレイヤーの関与によって、ボラティリティの上昇と意図しない 結果に対するリスクの両方の影響を受け易い状況がもたらされています。 ハイイールドのエネルギー・セクターやエマージング市場の産油国のクレジットが抱える問題をバブ ルの破裂の兆候であると指摘する向きもありますが、我々にはハイイールド債とエマージング債では 日常茶飯事の一つの局面であるようにみえます。大きなバブルはまだ作り出される機会を得ていませ ん。理由としては、米国と欧州で厳しい金融規制体制が導入されていること、緩やかでかつ同期して いない世界経済の見通し、そしてセクション 4 で検討するように、コモディティのスーパーサイクル が終了しているという事実などが挙げられます。 ただし、新たな形態のバブルの創出については引き続き注視しなければなりません。私たちが見つけ 出すことのできる潜在的なバブルの大半はセクター、資産クラス、地域ごとに局在しています。現 在、アジアの一部の信用市場や不動産市場、プライベートエクイティやテクノロジー・セクターの一 部、中国株、そして国有企業(SOE)や不動産に関連する中国経済の一部に小さなバブルが存在して いる可能性があります。 二点目の現象として、米国・欧州の銀行やブローカー・ディーラーに対する資本/リスク/流動性規 制、および SIFI(システム上重要な金融機関)に対する規制監督体制の強化の結果、債券の流通市場 における取引流動性が減少している点が挙げられます。 大半の銀行やブローカーはボルカー・ルー ルの下で自己勘定取引業務を停止しました。各社のバランスシートは 2008 年の金融危機以降、急速 に縮小しています。ただし、このデータに示される減少は、2008 年以前のストラクチャード・クレ ジット商品の組成によって過大評価されています。 Page 12 ブローカー・ディーラーのバランスシート上に残 米国債の発行済み残高に対する月次取引高の された社債はごくわずか 比率は減少* 18% 兆米ドル 5.0 4.5 10億米ドル 350 発行済み米国社債の総額 プライマリー・ディーラーの社債在庫(右軸) 300 16% 14% 250 12% 200 10% 150 8% 100 6% 2.5 50 4% 2.0 0 2% 4.0 3.5 3.0 2015 年 3 月 31 日現在 両チャートの出所:ハーバー・アナリティクス * プライマリー・ディーラーによる。発行済み 残高は連邦準備制度の保有分を含んでいません。 米国債のような流動性の最も高い証券でさえ、発行済み残高に対する取引高の割合は縮小してほんの わずかとなっています。G4 の中央銀行や新興国の準備金管理機関のような大規模で比較的動きの少 ない市場参加者による流動性の高い証券の買い入れも、市場の流通量を減少させています。米国債な ど流動性の高い市場では通常のビッド・オファー・スプレッドは悪化していないため、流動性に対す る影響は不明です。銀行やブローカーは市場の急落時に大量の流動性を提供する立場にないため、今 後流動性に起因する市場の混乱が、市場の慣行や規制の枠組みの見直しを迫る要因となるかもしれま せん。 極めて破壊的なシナリオを作り上げることも可能です。例えば、見通しの根本的な変化や当初の大量 の資金流出が個人投資家向けミューチュアルファンドからの連鎖的な大量の資金流出を引き起こし、 償還への対応不能、価格の大幅な下落、そして価格の透明性の(願わくは)一時的な喪失を伴うとい ったシナリオです。投資家は自己のポートフォリオの流動性を認識する必要があります。債券のベン チマークの大半が影響を受ける可能性があるため、パッシブ型の資産配分は解決をもたらしません。 4 つの主要な債券ベンチマーク(米国適格債インデックス、米国適格社債インデックス、ハードカレ ンシー建て新興国債インデックス、米国ハイイールド債インデックス)について、ビッド・オファ ー・スプレッドを用いて構成証券を「流動性が最も高い(A)」から「流動性が最も低い(E)」ま での 5 つの区分に分類すると、統合インデックスでさえも流動性の低い債券を一部含んでおり、他の インデックスは流動性のかなり低い証券を多く含んでいることが分かります。 Page 13 米国市場全体、社債、新興国債券、ハイイールド債の各インデックスの流動性特性(%) 100% 90% 80% 70% E 60% D 50% 40% C 30% B 20% A (最も流動性が高い) (most liquid) 10% 0% US Agg 米国総合 US Corp 米国社債 EMBIGLD 2015 年 5 月現在 High Yield ハイイールド 出所:プルデンシャル・フィクスト・インカム さらに、投資家が現在取っている可能性のある追加的な流動性リスクが適切に補償されているか否か を計測することは困難です。データは限られているため、市場の混乱に関して予想される規模と範 囲、並びにそうした市場の混乱が起きる可能性がどの程度あるかを推測する必要があります。ただ し、リーマン・ブラザーズのデフォルトとその後の混乱は、市場の流動性の喪失が及ぼす影響を評価 するための一つの有益なシナリオを提供してくれます。通常のビッド・オファーとリーマン危機当時 のビッド・オファーを比較すると、債券市場の流動性の高いセグメントでさえも、当該イベント発生 に際して 1~2 四半期にわたり流動性を著しく喪失したことが分かります。 市場参加者は 2008 年危機のような流動性の全面的な引き揚げを恐れているかもしれませんが、可能 性がより高いのは、例えばハイイールド債などの単一のセクターまたは単一の資産クラスで流動性の 一時的かつ中規模の喪失が起こることです。そのような事象に際しては(リーマン危機のような重大 な事象でない限り)、ディーラーは以前の方が流動性をもっとうまく提供できたかもしれません。こ うしたことは中規模の下落相場においては、ボラティリティは上昇するものの、資産間の相関性は低 く、またアクティブ投資家にとっては、マーケットメーカーが流動性を提供しないことで生み出され た価格の混乱を活用するチャンスが高まることを示唆しています。 Page 14 通常時とリーマン危機下における流動性の高い証券のビッド/アスク・スプレッド比較(bps) bps 16 14 ビッド/アスク通常時 Bid/Ask Normal Markets 12 Bid/Ask Lehmanリーマン危機時 Stress ビッド/アスク 10 8 6 4 2 国際機関 債 モーゲー ジ債 日本国債 英国債 ドイツ国 債 政府機関 債 2014 年 9 月 30 日現在 米 国債 0 出所:ブルームバーグ、プルデンシャル・フィクスト・インカム このテーマが示唆するもの: 最近の規制強化によって、米国や EU では銀行業務、シャドーバンキング、資産担保証券 (ABS)によって引き起こされた 2008 年の金融危機が再発する可能性は低下しています。一方 で、この規制によって過去数年の極めて不均一な信用市場の状況、すなわち、従来型の成長ブー ムまたは広範なバブルを引き起こす可能性の低い状況が続いています。銀行の仲介機能の低下に よって、欧州は 2020 年までにさらに規模の大きい厚みのある資本市場になると予想されます。 取引の流動性は「セル・サイド」からではなく「バイ・サイド」からもたらされる必要が高まる と予想されます。特に短期での流動性供給を必要とする投資家や運用会社は、ストレス・シナリ オにおける資金償還ニーズへの対応能力を確保する必要があります。 いわゆるフラッシュ・クラッシュは、市場で進行中の脆弱性を示唆するものかもしれませんが、 これまでのところ、債券市場な重大な流動性イベントを免れています。しかし、流動性は今後市 場にとって重大なリスクになる可能性があります。ディーラーがリスクを取ることができない、 あるいは取りたくない場合、たとえわずかなショックでも市場の流動性を極めて速やかに枯渇さ せかねません。このため、調整は価格の(一時的な)下落を通じて行われることになるとみられ ます。過去と比べると、市場は特に個別の市場、地域、資産クラス、またはセクター内での中規 模かつ一時的な流動性の喪失をより多く経験するかもしれません。 流動性に起因する市場の急落は、証券を魅力的なバリュエーションで買う機会をこれまで以上に 提供するとみられ、これがアクティブ運用における相対価値の持続的な源泉になると思われま す。投資家はクレジット分析とボトムアップ運用により、2014 年~2015 年の新興国市場やハイ イールド・エネルギー・セクターの急落のような、広範にわたる流動性がらみの出来事を収益機 会として活用することが可能になるでしょう。 Page 15 4) コモディティ価格の行方:さらなる暴落の可能性は低いが、今 後の需給関係は商品ごとにまちまち 長期にわたる冬の時代を経験 コモディティは複数年にわたる長い低迷期にあり、約 5 年前に終了したコモディティの需要/価格の 大幅な拡大/上昇を特徴とする 15 年に及ぶスーパーサイクルの痕跡はほとんど残っていません。過去 1 年間に原油価格が下落したことで、3 つの主要なコモディティ・セクター(具体的には工業用金 属、農産物、エネルギー)の全てが不振に見舞われていたことになります。この不振の理由について はこれまでも議論されており、具体的には 2000 年代の信用ブームの衰退、世界/欧州危機からの緩慢 な回復、そしておそらく最も重要な点として、中国の空前の経済成長とインフラ建設ブームの減速な どが挙げられます。 銅、原油、農産物の価格:スーパーサイクルの終了(基準値を 100 として指数化) 600 500 Copper 銅 ブレント原油 Brent Crude (Right Axis) S&P Agricultural Index S&P GSCI GSCIアグリカルチャー・ インデッ クス 400 300 200 100 0 2015 年 4 月 30 日現在 出所:ブルームバーグ 最後に下落した原油については、上記の全ての要因に加えて、原油特有の 2 つ要因が下落の引き金と なりました。一つは米国における「タイトオイル」(シェールオイル)の増産、そしてもう一つは、 OPEC/サウジアラビアが生産割当量を引き下げずに高コストの生産者を締め出すとの明確な決定を下 したことでした。コモディティの 3 つのグループはいずれも需要面では多くの共通要因を持つ一方 で、供給面では概して商品毎に個別の要因を抱えています。そして、実際に今後 5 年間の価格と需要 の動向もこれら需要供給それぞれの要因により決定づけられるとみられます。 Page 16 先物価格カーブからみてとれる大きな不確実性 原油先物価格カーブの変化: 2014 年~2015 年 $110 10% 8% 確率 Probability $100 6ヶ月 6-Months 一バレル当たりの価格 7% オプション価格に織り 込まれたWTI先物価格の 確率分布 Dollars per barrel 9% 12ヶ月 12-Months 6% 24ヶ月 24-Months 5% 4% 3% 2% $90 $80 原油価格予想の大幅な下方修正 $70 $60 1% 5/18/2014 先物WTIカーブ Forward WTI Curve 5/18/2015 先物WTIカーブ Forward WTI Curve 0% $50 原油先物価格 2015 年 5 月現在 左側チャートの出所:ブルームバーグ、プルデンシャル・フィクスト・インカム 右側チャートの出所:ニ ューヨーク・マーカンタイル取引所、ブルームバーグ 尚、PFIM の原油に関するより詳細な見通しについては、最近のホワイトペーパー「Adjusting to a World of Surplus Crude—From Peak Oil to Crude Abundance in Just Over a Decade」をご参照ください。 (PFIM のウェブサイト http://www3.prudential.com/fi/index.html からご覧頂けます) 新たな秩序 大半のコモディティが大幅に下落したことを踏まえると、これ以上の波乱は起こらないと考えられま す。 実際、投資家はコモディティ価格の急上昇とそれに続く急落に慣れてきたため、今後、本当の サプライズはコモディティ全体の価格がこれまでよりももっとレンジ内の動きにとどまることによっ てもたらされるかもしれません。さらに、コモディティは供給に重大な混乱がないとすれば、今後 5 年間は世界市場を主導するのではなく、世界市場に追随する公算が高いようにみえます。特に、今後 は 2011 年以降に起こったのと同じような規模での暴落と調整が起こるとはみられません。実際、各 コモディティがどの地点で底打ちするかを予想するのは困難ですが、セクション 1 で取り上げた世界 の需要状況は今後 5 年間のコモディティ価格にとって若干の支援要因となる一方で、原油、銅、鉄鉱 石などの個別コモディティ価格が上下両方向に大きく変動する余地は大いにあります。コモディティ 価格の下落がそれほど厳しくないとすれば、そのデフレ効果はそれほど心配するべき材料とはならな いでしょう。 このテーマが示唆するもの: 過去数年間のコモディティ市場の動向は多くの人にとって全体で一つの現象に見えたかもしれま せんが、今後の運命は各コモディティや発行体固有の特性によって様々に分かれるでしょう。例 えば、一部の石油関連企業の債券と株式には既に好バリューの兆候が見られる一方、別の企業は 明らかに成長が見込まれません。このことは、米国の株式/ハイイールド債市場の石油セクターの リターンがプラスながらも個別リターンに大きなばらつきがあることに現れています。同様に、 工業用金属の中では、銅の今後の需給動向は今後長年にわたり供給過剰が続くと予想される鉄鉱 石よりもはるかに良好です。セクション 2 で検討したように、原油価格の下落を受けて、オイル Page 17 ダラーの循環(エネルギーに費やされた資金がオイルダラーの準備基金を通じて G4 国債に流 入)はこれまでも、そして今後も市場の主役にはなり得ないと考えられ、このことは限定的には G4 の金利に対する上昇圧力として作用するとみられます。 石油生産会社:各社のファンダメンタルズの強弱がスプレッドに反映(bps) bps 1,400 1,200 bps 3,000 メキシコ投資適格石油会社 ロシア国営企業 2,500 インド・ハイイールド石油会社 1,000 米国ハイイールド石油会社1 2,000 米国ハイイールド石油会社2 800 中国ハイイールド石油会社(右軸) 1,500 600 1,000 400 500 200 0 0 2015 年 4 月 30 日現在 出所:ブルームバーグ 原油先物カーブの大幅な低下とそこに織り込まれたボラティリティの拡大は今日のコモディティ の典型的な状況であり、これはより現実に即したバリュエーションと将来的なリターンの取り得 るレンジ拡大を示唆しています。にもかかわらず、コモディティ関連の国や社債クレジットはあ まりにも画一的に捉えられてきました。価格チャートが示すように、これらの銘柄間では相関性 の高いスプレッドの拡大が当初見られたものの、コモディティ価格が底を打ち値固めした後は、 一部の銘柄は急速に回復し、どの企業が存続可能なビジネスと生き残るために十分に強固なバラ ンスシートを有しているかが明らかになってきました。メキシコの準ソブリン債はほぼ回復し、 ロシアのソブリン債は大幅にスプレッド縮小したものの一部戻したにとどまり、その他の石油生 産銘柄のスプレッドは大幅に変動して高止まりし、デフォルト・リスクが高まっています。 新興諸国の中で、原油価格の大幅な下落は原油輸出国に打撃を及ぼし、ベネズエラなどの一部の 国々ではデフォルト・リスクが高まっています。これらの多くの国は中南米にあり、大幅な交易 条件の悪化に見舞われています。しかし、これらの国をグループ全体としてみると、以前のコモ ディティ価格の急落時に比べるとはるかに良好な立場にあります。多くの場合、エクスポージャ ーは様々な種類のコモディティに拡散しており、コモディティ価格のさらなる下落が経常収支に 及ぼす影響は痛みを伴うものの、大半は対応可能とみられます。バランスシートの健全化と外貨 準備の増加は、大半の新興国がかつて 1980 年代と 1990 年代後半のコモディティ価格の下落時に 被ったようなホールセール市場に対する圧力/デフォルトを回避する助けにもなるとみられます。 実際、一部の特殊な事例を除いて、不透明感とリスク・プレミアムの上昇を背景に債券価格が下 落した新興コモディティ輸出国の大半は、原油先物と他のコモディティ価格が想定しているメイ ンシナリオの下では、今後堅調なリターンを達成する見込みです。 Page 18 新興国各国の地域別貿易依存度とコモディティ種類別エクスポージャー 貿易 相手国割合% 新興国 ラテ ンアメリカ ブラジル チリ コロンビア メキシコ ペルー ヴェネズエラ 欧州中東アフリカ ロシア トルコ ハンガリー ポーランド 南アフリカ アジ ア 韓国 マレーシア インドネシア タイ 米国 欧州 中国 コモディテ ィ 輸出 ( 輸出合計に対 する割合 % ) 1 コモディテ ィ価格が継続的に 10%下落した場合の影響 金属 農産物 経常収支 ( 対GDP % ) エ ネルギ ー 10.9 10.9 36.2 77.6 14.7 48.0 19.4 17.5 14.9 5.9 17.3 5.0 17.8 22.7 5.5 1.6 16.8 12.7 58.5 65.6 85.8 18.6 89.4 98.0 20.4 59.1 10.0 1.3 62.3 1.8 27.5 6.5 10.8 3.0 16.3 0.1 10.6 0.0 65.0 14.3 10.9 96.1 -0.3 -2.0 -1.1 -0.2 -1.1 -3.0 2.3 6.0 1.3 1.3 8.3 45.0 37.0 71.4 70.4 21.4 6.4 9.0 7.4 5.4 11.8 74.4 -32.5 -25.22 -28.62 65.3 7.4 -4.5 -9.1 -10.1 50.6 1.3 -2.6 -1.0 -1.9 3.8 65.7 -25.4 -11.0 -13.1 10.9 -1.7 0.6 0.6 0.3 -0.4 5.2 8.7 7.8 5.9 6.0 8.9 9.5 9.2 9.0 12.6 11.4 17.0 -45.0 41.0 60.7 -34.7 -5.4 0.0 9.7 -11.8 -4.1 17.3 17.8 -3.8 -35.5 23.7 33.2 -19.1 0.6 -1.4 -0.7 0.5 出所: 2014 年 12 月 31 日付「JPM EM Outlook and Strategy」 コモディティを含む。 種類別コモディティ輸出 1 マイナスの数値はコモディティ純輸入国を示唆。2 数字は他の 広範にわたるコモディティ価格急落の終了は、新興国通貨にとって長期的にある程度プラス材料 であり、通貨の下落を食い止めます。しかし、FRB の利上げに伴い米ドルは全般に強含むとみら れ、新興国の通貨安は交易条件の悪化と政策の無為に対する安全弁の役割を果たすため、全体と して通貨の見通しは不透明です。しかし、ブラジル、トルコ、インドなど高利回りの新興国現地 市場の抱える課題は主に政治的なものです。有権者は期待を修正する必要があり、政治指導者に は不慣れな不人気の政策の実行が求められます。これは今後数年間にわたる政治的混乱と市場の ボラティリティにつながるとみられるため、各国の分析と資産選択の重要性 が浮き彫りになりま す。 5) 地政学:多極化の世界への緩やかな移行 一極化後退の枠組み 1980 年代後半の共産主義崩壊の後、米国が唯一の超大国として君臨した束の間の時代があり、フラ ンシス・フクヤマが幾分尚早に「歴史の終わり」を宣言したのは有名です。ユーフォリア(強い高揚 感)は長くは続かず、間もなく一連の地域紛争や地勢戦略的な影響力をめぐる小競り合いへと発展し ました。米国は世界の大半を防衛するため、自国の GDP とは極めて不釣り合いな軍事負担を引き続 き担っています。ここ数年間で米国は、「一極化」後退の枠組みに向けて緩やかに移行する世界の中 で影響力を行使する限界と制約について一段と認識するようになっており、一方欧州は同地域の GDP からするとはるかに過小な支出ながらも、徐々により多くの責任を担うようになっています。 中国は自国の GDP と人口により見合った影響力を徐々に主張し始めている一方で、インドやブラジ ルなどの他の国々はまだ実力を発揮するに至っていません。世界で進行中の地政学的紛争の多くにつ いては、こうした枠組みの中で理解することができます。 Page 19 不一致:主要国の防衛支出、GDP、人口の対比 合計 % 100% 90% 80% 70% インド 60% 日本 50% ドイツ 40% ロシア 30% 中国 20% 米国 10% 0% 軍事費 GDP 人口 出所:「軍事支出」-世界銀行の開発指標 2013 年現在。「GDP」- IMF 2015 年 4 月現在。「人口」- 国連 2015 年 4 月現在 こうした変化は進行中ですが、急速に進行するとは思えません。世界では問題が複雑になり過ぎ、一 つの覇権国だけで問題を解決するにはコストがかかりすぎるため、旧来の同盟国の再編と新たな同盟 国の形成が今後も続くでしょう。国内政治と地域同盟に重点を置くことは、世界の多極化への傾向を 押し止めます。米国に関して言えば、中東における最近の失策、重要性の異なる複数の紛争地帯がも らたす迷走状態、国内の支出面での制約、国際レベルでの外交上のコンセンサスの欠如を背景に、地 域的な問題に対しては地域的な解決策を見出そうとするでしょう。例としては、台頭する中国に対抗 するためのアジア諸国との連携、中東地域の同盟再編、東側に対する NATO(北大西洋条約機構)の 一段の注力などが挙げられます。 このことは、難しさを増す国際情勢の進展に対処するためコストと責任の共同負担を伴う、より多国 間的なアプローチを米国が採用する可能性が高いことを意味しています。ただし、米国が果たす主要 な、そして固有の役割が大幅に移譲される公算は小さいとみられます。米国以外の世界の国々の態勢 が単にまだ整っていないというのが、その理由です。幸いなことに、対応が必要とされる脅威のリス トはまだ市場への脅威は小さなものにとどまっています。ただし、潜在的な脅威のリストは幾分長く かつ重大です。これらの脅威のいずれか、および他の予想外の脅威によって、今後 5 年間に市場が大 きな混乱に陥り、世界の政治的主導力が試される可能性もあります。 世界の紛争—2015 年 現状の脅威 • • • 重大な潜在的脅威 • • • • • 大規模なサイバー攻撃 大規模なテロ攻撃 北朝鮮情勢の緊迫 南シナ海での衝突 イラン核開発を巡る不透明性 2015 年 5 月現在 ウクライナ東部での衝突 イラクの宗派間対立と内戦 シリア内戦 出所:米外交問題評議会( CFR)、プルデンシャル・フィクスト・インカム Page 20 欧州は遠心力に直面 欧州に関しては、過去と同様に、共通のアイデンティティの形成が今後 5 年間の主要な課題になるで しょう。新たな加盟国が加わる中で、新たな政治/外交/軍事的な枠組み内で新たな問題に対応する必 要があります。ギリシャのような明白なリスクは別として、他の遠心力も作用しています。というの も、(英国などの)一部の旧来の加盟国は新たな制度構造における自国の重要性を疑問視する可能性 がある一方で、(一部の南欧諸国などの)野心的な新加盟国は、内部調整に困難をきしている EU へ の加盟のメリットを疑問視しかねないためです。反 EU 派は明らかな少数派ではありますが、世論で の認知度は高く、メディアでのカバレッジも大きく、今後の選挙では引き続き現状に異を唱えるとみ られます。欧州が経済成長に失敗すれば、こうした遠心力は増幅しかねないため、これは今後 5 年間 でカギとなるリスクです。緩慢で厄介な統治構造は、その多くがまだ各国政府の手に委ねられている 構造改革に関する合意形成を困難にする可能性があります。共同外交政策の枠組み構築という点で進 展はあるものの、各国が主導権を維持する中で、政治的存在としての欧州は極めて連邦化され細分化 されており、一般に汎欧州的な防衛構想は、米国が依然として支配的な発言力を持つ NATO を通じ て調整される必要があります。さらに、EU にとって(そしてその事柄に関して言えば日本にとって も)、米国が防衛の責任を過度に担っていることは極めて好都合であり、手放しがたいコスト面での メリットです。このため、EU は概ね域内の課題に焦点を当て、地政戦略面で決定的な指導的役割を 担うのを回避するとみられます。 中国は主に国内問題に焦点を当てる姿勢を維持 中国は、米国の覇権にとって最大の長期的挑戦者ですが、今後 5 年間は国内問題に一段と重点を置く と予想されます。中国の最大の関心は共産党の正当性を維持することであり、その一環として強い経 済の促進と強力な軍隊の構築が求められるでしょう。従って、天然資源と戦略的資源の確保は、今後 5 年間の中国の目標にとって極めて重要であり、このことは近隣地域に一段と焦点を当てる姿勢を決 定づけることにもなるとみられます。また、米国/ロシアの関係が引き続き緊張にさらされる公算が 高い中で、中国は国際外交においてより傍観者的なアプローチを維持しながら、一方で世界の様々な 地域で「経済外交」を推進するとみられます。しかし、一段と強力で積極的になる中国は、旗色を鮮 明にせざるをえなくなり、覇権主義的な意図を疑われ非難されるとみられます。 一方、ロシアは経済的な活動力が低下 米国にとって目先のより明白な脅威は、引き続きロシアからもたらされるとみられます。ウクライナ はロシアにとって意図しない結果をもたらしましたが、恐らく最も重要な結果は、ロシアが米国や他 の西側諸国の利益が関与する G7 や NATO など公開討論の場で国際外交を展開する重要な国になる機 会を失い、それによって同国の役割が国際的に過小評価されることになった点でしょう。ロシアの野 心にとって目先の主な障害は財政面に関するものです。ロシア経済はそもそも脆弱だったのですが、 原油価格の下落によって選択肢がさらに制限されています。今後 5 年間にロシアは近隣における軍事 的存在感と近隣諸国との政治的な連携を引き続き拡大するとみられますが、これらの国々は、多くの 場合、不本意ながら同盟国になるとみられるため、ロシアの外交・経済力はさらに弱体化するでしょ う。さらにアルメニアやアゼルバイジャンの例のように、あからさまな戦争には至らないものの、近 隣諸国との間の緊張の高まりに直面し、財政的・軍事的関与が必要になるとみられます。従って、今 後 5 年間はウクライナとの紛争、グルジアやモルドバとの緊張、アルメニアやアゼルバイジャンなど との潜在的な紛争がロシアの経済と外交を弱体化させ、超大国になる野心を抑制するとみられます。 Page 21 一方、中東は不安定な状況が続く見通し 中東は個別のさまざまな宗教的・民族的・国家的対立による混乱を背景に、不穏な情勢が続くでしょ う。当地域の多くでは世俗主義者とイスラム教主義者のイデオロギーの長期的な対立の構図が続いて いる上、こうした大命題はサウジアラビア/トルコ/エジプトなどスンニ派が支配権を握る主要国とイ ランの対立にも現れているスンニ派とシーア派の分裂によって複雑化しています。更に、ISIS の急速 な拡大によって情勢は一段と危険になっています。ISIS は時代遅れのイデオロギーではあるにせよ、 過小評価してはなりません。ISIS は何らかの形で存続し、進化する可能性が高いとみられます。また イランで核の選択肢が加わったことは、イスラエルとの昔ながらの反目同様に、リスクを高めていま す。過去とは異なり、西側諸国が当地域に及ぼす影響力は限定的で、目標も限定的です。米国の場 合、これらの目標にはテロリズム(特に ISIS)や軍事侵略の封じ込め、これらの脅威から石油生産を 守ること、安定化の促進、そして可能であれば、イスラエルとアラブの平和プロセスの促進などがあ ります。最近ではどれ一つとして大きな進展を遂げるのにそれほど成功しておらず、今後も進展しづ らい目標となり続けるのは確実です。イラク、アフガニスタン、チュニジア、エジプト、トルコの最 近の「イスラム民主主義」の実験に関して言えば、エジプトの最近の独裁支配への復帰とトルコの独 裁体制の強化は、こうした民主化にとっては重大な後退であり、今後 5 年間でその長期的な実現可能 性についての評価がより明らかになるでしょう。 このテーマが示唆するもの: 米国が世界第 1 位の経済大国から世界第 1 位の超大国になるには 75 年(1870 年~1945 年)かか りました。米国が今後 5 年間にその地位を失う可能性は低いと言えますが、細分化された 21 世 紀の世界では予測しづらい厄介な国々の台頭を伴うことになるため、地政学的リスクの高い状況 が続くとみられます。 英国、スペインなどの国々で反 EU 政党が人気獲得を狙う中、欧州の今後数年間の選挙サイクル とギリシャの行方によっては、EU を守るための決意(これまでのところ概ね確固としたもので すが)が試されるかもしれません。何故かというと、ECB の経済成長の再促進と活性化に向けた 試みが成功すれば支援材料となり、周縁国の構造改革の有効性の可否も今後 5 年間でさらに明白 になるでしょう。反 EU センチメントの増幅につながる、経済成長加速の失敗は、依然として主 要なリスクです。 中国はアジアとアジア市場における影響力を引き続き拡大させるとみられますが、役割の拡大に 伴い日本や近隣諸国との間で起きている断続的な対立が続くことが予想されます。中国とコモデ ィティ産出国との長期的な戦略的結びつきは、世界のサプライチェーンの重要な決定要因になる とみられます。名目経済の拡大が続く中国が成長鈍化に対応する中、中国は引き続き世界のコモ ディティ需要の頼みの綱となり続けるでしょう。インドは経済成長の復活に伴い、今後 10 年で 世界経済に対してより大きな影響を及ぼすことになるとみられます。 最後に重要な点として、中東・北アフリカ地域では、長期にわたる地域的な対立とイスラム教徒 間の対立による騒然とした状況が予想されます。その間には ISIS による脅威、既存体制への脅 威、シリア、リビア、イエメンなどの国々で引き続く内戦や代理戦争、並びにこれらに付随する 原油の供給中断リスクや西側諸国に対する脅威、等が重大なリスクになり続けるとみられます。 Page 22 投資する際のカギは… グローバル経済の加速に必要な構造改革は実行されないか、もしくは不十分 となる可能性が高い。 FRB のドット・プロットはタカ派色が強すぎ、債券利回りはレンジ内の動き にとどまるものの、激しい変動が予想される。 デュレーションはイールドカーブのスティープな特定の先進国・新興国通貨 において選別的に魅力的。 リスク資産(株式、ハイイールド債)はプラス・リターンをもたらしはする ものの、従来の目覚しいパフォーマンスを再現する公算は低い。 クレジット・スプレッドは特に金融銘柄、ストラクチャード証券や一部のハ イイールド債を中心に概ね魅力的。 コモディティ価格の下落と FRB の利上げにもかかわらず、ハードカレンシー 建て新興国債券は魅力的であるものの、国および銘柄の選択がこれまで以上 に重要になる。 一部の現地通貨建て新興国債市場やその新興国通貨にはバリュエーション上 の投資妙味がある。 リスク: 米国または EU の深刻な景気後退は PFIM のメインシナリオを無効にすると みられるものの、この可能性を完全に排除することはできない。 グローバル危機を引き起こす要因や大規模な資産バブルの兆候は足元は見当 たらないものの、これらは依然として中期的に重大なリスク。QE とその最 終的な解消は、意図しない結果をもたらす可能性がある。 取引流動性不足は投資家にとって重大なリスクをもたらす一方で、相対価値 追求の投資機会を提供。 グローバル化された多極化の世界では、足元のいくつかの脅威が資産市場に ボラティリティをもたらす可能性がある。 o 欧州の遠心力 o テロ攻撃、サイバー攻撃、核の脅威 o 地政学的緊張 Page 23 注記 データの出所(別途記載のない限り):プルデンシャル・フィクスト・インカム 2015 年 6 月 1 日現在 本資料は、経済状況、資産クラス、有価証券、発行体または金融商品に関する資料作成者の見解、意見及び推奨を示したもの です。本資料に記載されている情報は、現時点でプルデンシャル・フィクスト・インカム(以下「PFI」)が信頼できると判 断した情報源から入手したものですが、その情報の正確性、完全性、および情報が変更されないことを保証するものではあり ません。本資料に記載した情報は、現時点(または本資料に記載したそれ以前の日付)における最新の情報です。基礎となる 前提条件および見解は予告なく変更されることがあります。PFIは情報の一部または全部を更新する義務を負うものではあり ません。また、情報の完全性または正確性について明示黙示を問わず何ら保証するものでなく、誤謬についての責任を負うも のでもありません。 本資料を当初の配布先以外の方(当初の配布先の投資アドバイザーを含む)に配布することは認められておりません。また PFIの事前の同意なく、 本資料の一部または全部を転用することや記載内容を開示することを禁止いたします。本資料は特定 の証券、その他の金融商品、または資産運用サービスの勧誘を目的としたものではなく、投資に関する判断材料として用いる べきではありません。どのような投資戦略やリスク管理技術も、いかなる市場環境においてもリターンを獲得できることや、 リスクを縮小できることを保証することはできません。過去のパフォーマンスは将来の運用成績を保証するものではなく、ま た信頼できる指標となるものでもありません。投資は損失となることがあります。本資料に記載されている情報や 本資料か ら導出した情報を利用したことにより(直接的、間接的、または派生的に)被り得るいかなる損失ついても、一切責任を負い ません。プルデンシャル・フィクスト・インカムおよびその関係会社は、それぞれの自己勘定を含め、本資料で示した推奨や 見解と矛盾する投資判断を下す可能性があります。 本資料はそれぞれのお客様の置かれている状況、投資目的、あるいはニーズを考慮しておりません。また、特定のお客様に対 して特定の証券、金融商品、または投資戦略を推奨するものでもありません。いかなる証券、金融商品、または投資戦略につ いても、これらが特定のお客様にとって適 切であるかどうかに関する決定は下しておりません。本資料に記載された証券また は金融商品についてのご判断はご自身で行ってください。 本資料に表示する予測や予想は本資料作成日時点のものであり、予告なく変更されることがあります。実際のデータはこれら の予想や見通しとは異なり、本資料には反映されない可能性があります。予想や見通しは非常に不確実なものです。したがっ て、いかなる予想や見通しも単に可能性として数ある結果のうちの一つを表すものとしてみなされるべきものです。予測や予 想は推測されたもので、仮定事項に基づく値であり、後日大幅に修正される可能性があるため、経済や市場の状況の変動に伴 って大きく変更されるおそれがあります。PFI はいかなる予想や見通しに関する更新や変更の義務を負うものではありませ ん。 利益相反: PFIおよびその関連会社が、本資料で言及した有価証券の発行体との間で、投資顧問契約や他の取引関係を結ぶ可 能性があります。 時には PFIおよびその関連会社や役職員が、本資料で言及した有価証券や金融商品をロングもしくはショー トするポジションを保有する可能性、およびそれらの有価証券や金融商品を売買する可能性があります。PFIの関連会社が、 本資料に記載する推奨とは無関係の異なる調査資料を作成して発行することもあります。営業、マーケティング、トレーディ ングの担当者など、本資料作成者以外の従業員が、本資料に表示する見解とは異なる市場に関するコメントもしくは意見を、 口頭もしくは書面で PFIの顧客もしくは見込み客に提示する可能性、または、本資料に表示する見解とは異なる独自の投資案 を提示する可能性もあります。利益相反もしくはそのおそれについて、詳しくは PFIのフォームADV第2A部をご覧ください。 PFI は、米国の 1940 年投資顧問法(改正済み)の下で登録している関連投資顧問会社であるプルデンシャル・インベストメン ト・マネジメント・インク(以下「PIM Inc」)およびプルデンシャル・ファイナンシャル(プラメリカ・ファイナンシャル) を通して事業を行っています。欧州および一部のアジアの国においては、PIM Inc およびプルデンシャル・フィクスト・イン カムはプラメリカ・インベストメント・マネジメントおよびプラメリカ・フィクスト・インカムとして事業を行っています。 プラメリカ・ファイナンシャルは、英国プルーデンシャル社とはなんら関係がありません。 情報提供については、日本では、国内の登録投資顧問会社であるプルデンシャル・インベストメント・マネジメント・ジャパ ン株式会社が担当しています。プラメリカ、プラメリカのロゴ、およびロック・シンボルは、プラメリカ・ファイナンシャル およびその関係会社のサービスマークであり、多数の国・地域で登録されています。 © 2015 Prudential Financial, Inc. and its related entities. 2015-1477 Page 24 本資料は、プルデンシャル・フィクスト・インカムが作成した“Five Over Five”をプルデンシャル・インベストメント・マネ ジメント・ジャパンが翻訳したものです。 原文(英語版)と本資料の間に差異がある場合には、原文(英語版)の内容が優先します。 本資料は、情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の勧誘又は販売を目的としたものではありません。また、本資 料に記載された内容等については今後変更されることもあります。 記載されている市場動向等は現時点での見解であり、これらは今後変更することもあります。また、その結果の確実性を表明 するものではなく、将来の市場環境の変動等を保証するものでもありません。 本資料に記載されている市場関連データ及び情報等は信頼できると判断した各種情報源から入手したものですが、その情報の 正確性、確実性について当社が保証するものではありません。 過去の運用実績は必ずしも将来の運用成果等を保証するものではありません。 本資料は法務、会計、税務上のアドバイスあるいは投資推奨等を行うために作成されたものではありません。 当社による事前承諾なしに、本資料の一部または全部を複製することは堅くお断り致します。 “Prudential”、プルデンシャル・ロゴおよびロック・シンボルは、プルデンシャル・ファイナンシャル・インクおよびその関連 会社のサービスマークであり、多数の国・地域で登録されています。 プルデンシャル・インベストメント・マネジメント・ジャパン株式会社は、世界最大級の金融サービス機関プルデンシャル・ ファイナンシャルの一員であり、英国プルーデンシャル社とはなんら関係がありません。 プルデンシャル・インベストメント・マネジメント・ジャパン株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第 392 号 PIMJ201507140360 Page 25
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