フランクフルト大学日本学科 新刊 ゲーブハート・リゼッテによる最新研究著作「闇の到来―プレカリアートをめぐる現代 日本文学」(出版社:EB VERLAG BERLIN)は現代日本における新しい貧困をめぐる 論説をテーマとしている。研究対象となる1990年以降の文学には、社会で問題 視されるフリーター、ニートそして引きこもりといった階層に象徴されるように、 転落への不安や絶望にみちた日本の姿が浮き彫りにされている。すべての作品には 共通して、日本国内に満ちた、時には日本嫌いともなって現れる、根強い不満が描 かれている。その一方で幸福感がますます得られにくくなっていくグローバル社会 にあって、けなげに幸せをつかもうとする努力をそれらの作品は焦燥感ただよう幸 福探しとしても描写している。再編成された市場では労働条件が悪化し、「失われ た10年間」によって到来した経済崩壊は日本に生活水準の悪化とあらたなチャン スとの両方をもたらした。こうした新たな社会困難は(近年ドイツでも同様の状況 が指摘されているように)中流階級をパニックおとしいれ、若い日本人のやる気を 喪失させ、彼らは自らを「ロスジェネ」と称するまでに至っている。 本書は希望を失った日本と精神的行き詰まりに悩むその若者たちを描いた文学作品 をするどく分析している。村上龍、桐野夏生、内田春菊そして岡崎祥久らの作品分 析は同時に日本のプレカリアート文学史でもあり、最近メディアで取り上げられる 下層階級や貧困層をめぐる紋切り型の報道に異論を唱え、市場経済中心的価値観に しばられた議論に一石を投じるべき著作となっている。 著者紹介:ゲーブハート リゼッテ氏は現在ドイツ・フランクフルトのゲーテ大学 日本学科主任教授。研究テーマ及び専門は現代日本のアイデンティティ探求と日本 の現代文学。
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