井上 大先生 mifepristone でネルソン将軍降臨せず!

井上 大先生 : J Clin ENdcrinol Metab. 2014; 99: 3718-3727.
mifepristone でネルソン将軍降臨せず!
Changes in plasma ACTH levels and corticotroph tumor size in patients with Cushing's disease during long-term
treatment with the glucocorticoid receptor antagonist mifepristone..
【背景】本邦では、クッシング病(CD)の非外科的治療薬として、メチラポン等の副腎皮質ステロイド合成阻
害薬やブロモクリプチン等のドパミン作動薬(ACTH産生抑制)などが使用されますが、FDA とEUでは、黄
体ホルモン受容体拮抗薬(中絶薬)の mifepristone がグルココルチコイド受容体拮抗作用を有することから、
成人CDの高血糖抑制目的の使用が承認されています。しかし、理論的には、グルココルチコイド受容体拮
抗作用は、下垂体へのネガティブフィードバックを消失させるため、ネルソン症候群(クッシング症候群に対
する両側副腎の摘除後の下垂体腺腫の急速な拡大をきたす症候群)様の病態の出現の可能性が懸念さ
れます。
【方法】今回成人CD症例(n=43)を登録し、mifepristone を 300 ㎎∼1200 ㎎に漸増投与(SEISMIC)し、6
週間の休薬の後、長期間投与(LTE)し、血清ACTH濃度の変化、下垂体 MRI における下垂体腫瘍径の
変化について検討されました。
【結果】血清 ACTH 濃度は、SEISMIC 中、投与前に比し、平均 2.76 倍の濃度上昇を認め、LTE 期間中も
濃度上昇は維持されました。ACTH の濃度上昇は、mifepristone 濃度依存性であり、休薬期間中は、基礎
値まで低下しました。下垂体腫瘍は、投与期間中、36 例中 4 例で、腫瘍径の拡大を認め、30 例は変化なし、
2 例は縮小していました。拡大した 4 例のうち 1 例は、投与後 25 カ月で microadenoma から
macroadenoma へ進展していましたが、残りの 3 例は macroadenoma のサイズの拡大でした。
【結論】このように、今回の検討では、グルココルチコイド受容体拮抗薬により ACTH 濃度上昇が 2 年近く持続
したとしても、ネルソン症候群にみられるような腫瘍径拡大が、高頻度に出現するわけではないことが明らかとな
りました。メチラポンの処方を機に、下垂体腫瘍に目覚めた、井上先生からの報告でした。
(文責 阿比留)