(演題名):副腎摘出術を実施した犬の副腎腫瘍 10 例の治療成績

(演題名):副腎摘出術を実施した犬の副腎腫瘍 10 例の治療成績
(発表者の氏名)○平林美幸,石川勇一,林宝謙治
(所属)埼玉動物医療センター
(英文演題名)Surgical outcome of 10 dogs with adrenal gland tumor
(英文氏名)○Miyuki Hirabayashi, Yuichi Ishikawa, Kenji Rimpo
(英文所属)Saitama Animal Medical center
【はじめに】
副腎腫瘍はステロイドホルモンやカテコラミンを過剰産生し,様々な臨床症状を示す内分泌腫瘍
の一つである.症状が軽度な場合や非機能性の場合には偶発的に発見されることもある.治療とし
て外科的摘出を検討するが,大量出血のリスク,内分泌の変化に関連した血栓や循環動態の変動の
リスクがあることから容易ではない.今回,当院にて行われた副腎腫瘍摘出症例について回顧した.
【症例】
2007 年 1 月から 2014 年 10 月までに埼玉動物医療センターを受診し,外科的摘出を実施した副腎
腫瘍を対象とした.犬種はミニチュア・ダックスフント,雑種が各 3 例,シェットランド・シープド
ックが 2 例,ヨークシャー・テリア,ワイヤー・ホックス・テリアが各 1 例であった.手術時の年齢
は 8 歳から 14 歳齢(中央値 10.5 歳齢),性別は雌 5 例,雄 5 例,体重は 3.7-29.8kg(中央値 9.3kg)
であった.10 例中,5 例は他疾患(乳腺腫瘍 2 例,膣腺癌,前立腺腫大,歯石沈着)に関する検査中に
副腎腫大を偶発的に認めた.来院時,副腎腫瘍に関連していたと考えられる臨床症状がみられたの
は 6 例であり,症状の中で最も多く認めたのは多飲多尿であった.
【術前検査】
スクリーニング検査として血液検査,血液生化学検査,尿検査,X 線検査,超音波検査を行った.副
腎腫大は 8 例が片側(左側 7 例,右側 1 例),2 例が両側で,それらの短径は 8.6-47.0mm(中央値
18.5mm)にわたった.ACTH 刺激試験,低用量デキサメサゾン抑制試験,高用量デキサメサゾン抑制試
験,内因性 ACTH,血圧などを組み合わせて測定することにより,副腎皮質腫瘍,副腎髄質腫瘍、非機
能性腫瘍を予測した.外科的摘出については,X 線検査,超音波検査,CT 検査によって転移および血
管への癒着の程度,浸潤の有無を評価し,摘出可能と判断した上で決定した.
【治療】
コルチゾール産生の高い症例は手術日までトリロスタンを投与し,術後の内分泌コントロールの
モニターには電解質,血糖値,ACTH 刺激試験を用いた.血栓予防には,低分子ヘパリンの持続点滴を
行った.術中所見として,副腎腫瘤が周囲組織と強固に癒着していたのは 7 例,輸血は 3 頭で実施し
た.病理組織学的検査の結果は,副腎皮質腺腫 3 例,副腎皮質腺癌 5 例,褐色細胞腫 2 例であった.周
術期(術後1ヵ月以内)に死亡した症例は 2 例(褐色細胞腫 1 例,副腎皮質腺癌 1 例,周術期死亡率
20%)であり,その他の症例は長期生存している(全体の生存期間中央値 480 日,平均生存期間 704
日,範囲 0 日〜1926 日,周術期を乗り越えた 8 頭の生存期間中央値 777 日,平均生存期間 877 日).
【考察】
本研究の副腎腫瘍は,偶発的発見が 60%であった.ヒトでは非機能性腫瘍の対応がある程度確立
されているが,獣医学領域では未だ統一した見解はない.また,褐色細胞腫は術前に実施可能な検査
が限られており,今後の課題と思われる.本研究での周術期の死亡率は過去の報告(20-40%)と同等
であった.副腎腫瘍の摘出術は周術期の死亡率が高く,綿密な手術計画と術中,術後はもちろんだが,
術前管理も重要である.しかし,周術期の管理方法については世界的にもコンセンサスが得られて
いない点が多く,今後の更なる検討が必要と考えている.