第5回 次期計画WG サイエンス勉強会(田中功・京都大院工)

材料研究におけるフォノン情報の活用
京都大学大学院工学研究科材料工学専攻
京都大学構造材料元素戦略拠点(ESISM)
田中
功
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材料の挙動や性質においてフォノン状態は電子状態とともに本質的な役割を持っているの
にもかかわらず,その情報を定量的に把握して,材料開発に活用するという研究は未だ驚
くほど少ない.その理由は二つある.第一は,電子状態に比べて実験的な情報が少ないこ
と,第二は,第一原理計算による全波数空間における定量的なフォノン情報が,電子状態
に比べて圧倒的に少ないことである.実験については,従来は中性子が主体であったが,
近年はX線非弾性散乱を用いた成果が上がるようになって来た.理論計算については,京
都大学で東後らが開発した phonopy(フォノパイ)コード[1]が世界的に広く使われるよう
になり,第一原理計算の精度でフォノン状態が掌握できるようになって来た.
フォノン状態についての情報をもとに,結晶の熱的性質,すなわち比熱や自由エネルギー
の温度依存性が定量的に評価可能である[2].また擬調和近似の範囲で,熱膨張係数を評価
することもルーチン的に可能である[2].フォノン間相互作用をあらわに計算することで,
格子熱伝導度についても定量化可能になった[3].本講演では,このようなフォノン状態に
ついての理論計算に基づいた材料研究の現状と放射光による実験とを組み合わせた将来展
望について述べる.
最初の例は,格子振動のソフト化を伴う相転移挙動に関する経路探索と構造予測である[4].
金属材料のマルテンサイト変態に関連して 1980 年代までに多くの中性子非弾性散乱実験が
行われたが,その後の進展は顕著ではない.いま放射光実験と理論計算により新しい展開
が期待されている.同様の手法は超高圧下での相転移現象の理解にも応用されている[5].
次に,金属構造材料における塑性変形の素過程における原子の集団運動を変形子(プラス
トン)という新しい観点から理解する試みについて紹介する.最後に,格子熱伝導度の第
一原理計算をもとに,マテリアルズ・インフォマティクス手法を援用して超低格子熱伝導
度物質を探索した例を述べる[6].同様の材料探索は,強誘電体などにも直ちに適用可能で,
その際に実験との密接連携が重要になると思われる.
[1] http://phonopy.sourceforge.net/
[2] A. Togo and I. Tanaka, Scr. Mater., 108, 1-1-5 (2015).
[3] A. Togo, L. Chaput, and I. Tanaka, Phys. Rev. B, 91, 094306-1-31 (2015).
[4] A. Togo and I. Tanaka, Phys. Rev. B, 87, 184104-1-6 (2013).
[5] A. Togo, F. Oba and I. Tanaka, Phys. Rev. B, 77, 184101-1-5 (2008).
[6] A. Seko, et al., Phys. Rev. Lett. 115, 205901 (2015).