片頭痛と心血管障害 心血管障害の有無は

片頭痛と心血管障害
心血管障害の有無は,最善の治療薬選択とともに片頭痛に関連するリスクに影響
を与える.片頭痛自体は一次性頭痛として考えられている.すなわち,基礎疾患によ
って引き起こされるものではない.しかしながら,多くの時間が片頭痛患者に頻繁に
起こるようにみえる疾患について研究に費やされてきた.これらの疾患が,一般人口
に比べ片頭痛患者で高頻度にみられるならば,それらは共存症と呼ばれる.もうひと
つの研究は,これらの共存症が適切に管理されれば,片頭痛が改善もしくはより治療
可能になるかどうかである.
片頭痛は血管由来と一般に考えられているが,それとは反する証拠も存在する.
痛みには拍動性の特性があり,それは血管由来であることを示唆する.片頭痛はスト
レスや体動により悪化するが,これは血圧上昇に関連しており,時に脳卒中と類似し
た症候を呈する.
片頭痛の頻度上昇により将来起こるであろう心血管障害には,レイノー現象,高血
圧(一貫性はないが),そして虚血性心疾患が含まれる.構造的心疾患は時に片頭
痛と関連し,これらは心腔や弁の取り替えを含む.これらの障害が片頭痛を引き起こ
すとは信じられていないが,片頭痛を有する患者により高頻度に起こるかもしれな
い.
おそらく,ありふれた血管障害をみて片頭痛の頻度を調べるのが最も簡単で,治療
との関連も同様である.時間経過とともに繰り返し起こる片頭痛の症候を伴う頭痛は
血管由来ではなさそうだ.潜在する緊急性のある血管障害を示唆する手がかりは,
通常,突然の新しい頭痛で,決して経験したことのない“雷鳴”のように起こる頭痛で
ある.これが起こった場合は,血管障害が迅速に検索されるべきである.
高血圧
高血圧は頭痛を引き起こすものと,医師,患者の双方ともに等しく当然のことと長
い間,思われている.あるとても興味深い研究では,患者が自身の高血圧を自覚して
いる場合,74%の患者が頭痛も自覚していると回答した.患者が自身の高血圧を自
覚していない場合には,たった 16%しか頭痛を自覚していなかった.大規模研究はこ
れを支持し,患者が自身の高血圧を自覚していない場合には頭痛の頻度の増加は
みられなかった.他の研究では,片頭痛患者では高血圧のリスクが 2 倍高いと推定し
ている.
2006 年に Cephalalgia 誌に発表された 21,537 人の研究では,収縮期血圧ではなく,
拡張期血圧の上昇が片頭痛と相関していた.これは,高血圧と片頭痛の関連につい
ての研究で一貫した所見がない理由であろう.大半の研究は,血圧上昇が収縮期か
拡張期かどうか分析していない.2004 年,国際頭痛学会は慢性的な軽度~中等度の
血圧上昇は頭痛を引き起こさないと結論づけた.最近のガイドラインでは,高血圧に
より引き起こされる頭痛は,かなりの高血圧でなければなく,血圧の正常化により消
失しなければならない.頭痛の際には,少なくとも収縮期血圧 180mmHg 以上かつ/ま
たは拡張期血圧 120mmHg でなければならない.頭痛の間もしくは血圧降下後も持続
する頭痛の際のわずかな血圧上昇は,頭痛の原因としてみなさない.
冠動脈疾患
心疾患もしくは冠動脈疾患のリスクは片頭痛に伴い上昇するが,前兆を有する患
者に限られる.前兆は一般に片頭痛発作前に起こり,通常は 5-60 分持続する可逆
的な視覚的な症候と定義される.前兆は片頭痛患者の 4 分の 1 にしか起こらない.統
計は,喫煙や避妊薬によって影響を受けるが,避妊薬は単独で片頭痛以上に血管病
リスクを高めることが知られている.推定では,前兆のある片頭痛は冠動脈疾患のリ
スクを 2 倍にする.
心形態異常-卵円孔開存
上記のように,片頭痛患者とりわけ前兆のある患者において,心形態異常がしばし
ば見つかる.これらのひとつが,卵円孔開存で右房と左房を連絡する小さな孔である.
一般人口における PFO は全人口の約25%存在し,その大多数が無症状である.
PFO は片頭痛を有する患者の 1/3,また前兆の有する患者の18%にみられると推定
される.PFO の閉鎖術は、その利点が不明であることから推奨されない.
レイノー症候群と末梢動脈疾患
レイノー症候群は通常,冷えた手もしくは足と関連する疾患で,障害部位は痛み,
蒼白となる.しばしば暗青色を呈し,痛みを生じる.動脈は寒冷により収縮し,その部
位では血流が低下する.レイノー症候群をトリプタンもしくはジヒドロエルゴタミンで治
療する際には,さらなる動脈の狭窄を招くことがあるため注意しなければならない.β
ブロッカーはしばしば片頭痛予防薬として使用され,前記の障害も避けることができ
る.
レイノー症候群は心臓や頭部以外の他の血管病を合併し,これらは末梢動脈疾患
と呼ばれる.末梢動脈疾患は増大する冠動脈疾患のリスクの手がかりになることが
ある.末梢動脈疾患の存在は,急性期片頭痛治療時に使用するトリプタンもしくはジ
ヒドロエルゴタミンがしばしば禁忌となる.これは下肢動脈を障害する疾患は,おそら
く心血管障害の指標となるからであり,また,これらの薬剤が下肢のさらなる血管狭
窄を招くかもしれないからである.
心血管障害合併時の片頭痛治療
残念なことに,血管径を減少させるあらゆる片頭痛治療薬は,たとえごく一時的で
あっても,心血管障害を有するあるいはその可能性のある患者には使用することは
できない.コントロール不良の高血圧,高コレステロール血症,あるいは喫煙,糖尿病,
肥満,遺伝など幾つかのリスク因子により増大するリスクを有する患者では,これら
のリスク因子は治療されるとともに,トレッドミル検査や負荷核医学検査で精査する必
要がある.トリプタン(スマトリプタン,リザトリプタンなど)はジヒドロエルゴタミンと同様
に心血管を18%程度狭窄させる.これは健常心血管ではわずかな狭小化であるが,
コレステロールの高い患者では重大になりうる.
イブプロフェン,ジクロフェナク,ナプロキセンなどの全NSAIDsは,心臓発作のリス
ク増大との関連のため,FDAから黒枠警告(最も注意を喚起するレベルの副作用情
報)を受けている.NSAIDsは心臓へのリスクの程度において一様ではないが,ナプロ
キセンは最も安全である.他のNSAIDsも心臓へのリスクは一様ではないが,使用頻
度の高い患者で副作用がみられる.多くても週に2日程度のNSAIDsの使用は,心臓
発作の既往のない大半の患者では一般的に安全である.血管の狭小化を起こさずに
片頭痛の痛みを和らげる他の急性期ないし必要に応じた治療として,メトクロプラミド,
プロクロルペラジン,ジフェンヒドラミン,バクロフェン,アセトアミノフェン,ガバペンチ
ンがある.トリガー部位の注射や神経ブロックも使用されるかもしれない.
片頭痛の予防戦略は,急性期治療の選択肢が限られる血管病と片頭痛を有する
患者にとって重要となる.トピラマート,ベンラファキシン,そしてプロプラノロールやカ
ンデサルタンのような血圧治療薬がボツリヌス毒素Aと同様に,片頭痛の強度・頻度
の両者の軽減にとても効果的である.
要約すると,心血管障害,末梢動脈疾患と片頭痛の関連は存在するかもしれない
が,同時に存在する喫煙,糖尿病,コントロール不能高血圧,他のありふれた血管リ
スクから分離することは難しい.心血管障害,末梢動脈疾患の存在は,確実な片頭
痛の急性期治療薬・予防薬の使用を制限する.動脈の狭小化を引き起こす全ての治
療薬が避けられるべきだが,片頭痛の痛みや頻度を軽減する多数の効果的な治療
薬が残っている.
Translated by
Deborah E. Tepper, MD
Cleveland Clinic Headache Center
Cleveland, OH, USA
Yuji Kato, MD, PhD
Assistant Professor
Department of Neurology and Cerebrovascular
Medicine, Saitama International Medical Center,
Saitama Medical University