複数のコーパスを用いた新しい文法シラバス策定の試み

第6回コーパス日本語学ワークショップ予稿集
(2014年9月,国立国語研究所)
複数のコーパスを用いた新しい文法シラバス策定の試み
庵
功雄(一橋大学国際教育センター)
宮部真由美、永谷直子(一橋大学言語社会研究科大学院生)
Creating New Grammatical Syllabus Based on Several Corpora
Isao Iori, Mayumi Miyabe, Naoko Nagatani (Hitotsubashi University)
要旨
日本語教育を取り巻く状況の変化にともない、新しい文法シラバスが必要とされている。
本稿では、そうした問題意識のもと、
4 技能に対応する 4 つのコーパスのデータにもとづき、
それに日本語学、日本語教育文法の知見を加味して作成した新しい文法シラバスの試案を
報告する。本稿の内容は今後の日本語教育に少なからぬインパクトを与えるものである。
1.はじめに
日本語教育を取り巻く現状の変化に合わせて、新しい文法シラバスが求められている(cf.
庵 2009, 2011a, 2014b)。こうした事情に合わせて、国立国語研究所の共同研究プロジェクト
の 1 つとして、「学習者コーパスから見た日本語習得の難易度に基づく語彙・文法シラバス
の構築」が行われ、その成果物として論文集の公刊が予定されている。本稿は、こうした
問題意識のもとに、現在利用可能な 4 種類の母語話者コーパスを利用し、そこにおける頻
度を重視した形で、初級から上級までを見通した文法シラバスの案を提案することを目的
とする。ただし、完全に頻度のみで項目を選定するのではなく、そこに、日本語教育文法、
および、「やさしい日本語」という観点を取り入れたシラバスの構築を目指すものとする1。
2.地域型日本語教育、学校型日本語教育と初級文法シラバス
本稿では、初級と中上級の文法シラバスについてそれぞれ(やや)異なる観点からアプ
ローチすることにする。本節ではまず初級に関する観点について述べる。
初級の文法シラバスについては、先に論者は「やさしい日本語」という観点から Step1, 2
という文法シラバスを提案した(庵 2009, 2011a)2。これは、地域型日本語教育3の現状にそ
1
日本語教育文法に関する論者の考えについては庵(2011b, 2013a)を、
「やさしい日本語」については庵
(2013b, 2013c, 2014a)をそれぞれ参照されたい。
2
Step1, 2 はそれぞれ初級前半、初級後半に相当するが、現行の初級シラバスに比べると大幅に項目が刈り
込まれている。この点について詳しくは庵(2009, 2011a)を参照されたい。
3
日本語教育を「地域型」と「学校型」に分けて考える見方については尾崎(2004)などを参照。
31
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(2014年9月,国立国語研究所)
くした「地域型初級」というものである4。
一方、日本国内の留学生教育をめぐる状況の変化などに対応するために、学校型日本語
教育においてもこの Step1, 2 をベースにした文法シラバスが必要との観点から、論者は学校
型日本語教育のための Step1, 2 を提案した(庵 2014b)。
Step1, 2 の主な特徴は以下の通りである(a~d は地域型、学校型共通。e は学校型のみ)。
(1)a. 理解レベルと産出レベルの区別を明確にし、産出レベルを中心とする。
b. 単文については、南(1974)にもとづく階層構造を想定し、各文法カテゴリーに属す
る項目を取り上げることにより、森羅万象を日本語で表現できることを保障する。
c. Step1 では活用を(実質的に)廃止し5、Step2 でも普通形(plain form)を作るのに
必要な形だけを活用形として導入する。
d. 同じ機能を担う形式が複数存在するときには「1 機能 1 形式」を原則とする。
e. 複文については、仁田(1995)にもとづく階層構造を相当し、各文法カテゴリーに属
する項目を取り上げる。
これらの理念にもとづく具体的なシラバスについては 6 で提案する。
3.「バイパスとしての「やさしい日本語」」と中上級文法シラバス
上で見た初級シラバス(特に地域型)は、
「やさしい日本語」が担う諸機能6との関係から
も全ての定住外国人に対して保障されるべきものであり、その重要性は極めて大きいが、
定住外国人にとって Step1, 2 だけで十分かと言うとそうは言えない。特に、定住外国人の子
どもにとってはそうである。
庵(2014a, 近刊)では、定住外国人の子どもが日本語を母語とする子どもに対して負ってい
る言語上のハンディをできるだけ早く埋め、彼(女)らが安定的に教科学習に取り組める
ようにするための言語上の調整を「バイパスとしての「やさしい日本語」」と呼んでいる。
そして、そうした「バイパスとしての「やさしい日本語」
」のための教材は次のような要件
を満たす必要があるとしている。
(2)a. 初級から上級までを見通したシラバスによって設計されている。
b. 限られた時間で学べるように、習得すべき項目が厳選されている。
c. 教材において、理解レベルと産出レベルの区別が明確で、各技能に特化した言語
知識を導入できる設計になっている。
d. 教室で学ぶことを補完する形で、e-learning などの補助教材が充実している。
4
これに関しては、Step1, 2 を教材化した庵監修(2010, 2011)も参照されたい。
Step1 でも「書きます-書きました/書きません」などの活用はあるが、これらは「ます」を「ました」
などに取り替えればいいだけで学習者の実質的な負担はないので、実質的には活用がないのと同じである。
6
「やさしい日本語」が担う諸機能について詳しくは庵(2013c, 2014a)を参照されたい。
5
32
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これらの理念にもとづく具体的なシラバスについては 6 で提案する。
4.使用したコーパスの種類と 4 技能
本稿では、2,3 で見た問題意識にもとづいて新しい文法シラバスを提案する。その際、
特に中上級においては、基本的にはコーパスにおける出現頻度を重視する(ただし、表現
上の必要性などの観点から項目を入れ替えることもある)
。
4.1
項目の選定基準
まず、項目の選定基準について考えるが、これは、現行の文法シラバスが「項目主義」
であることを批判した野田(2005)や白川(2005)を受け、
「用法主義」をとる。すなわち、重要
度が高い項目については、その項目の用法を単位として項目を選定する。
次に、項目の採用基準だが、これは、現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)の長
単位で品詞が「助詞」または「助動詞」であるもの全てとした。そして、それに連体修飾
などのコーパスでは検出しにくい項目を加えた。以上の 2 つの方針にもとづいた結果、対
象項目数は 246 となった。
4.2 コーパスの種類と 4 技能
ここでは、本稿で用いたコーパスと、それをどのように用いるのかについて述べる。
本稿で使用したコーパスは以下の通りである。
(3)a. 名大会話コーパス(全 129 ファイル)
b. 新聞コーパス(朝日新聞 2012 年版全ファイルのうち 24 日分をランダムサンプリ
ングしたもの)
c. 新書コーパス(Castel/J から配付されているファイルのほぼ全て)
d. BCCWJ(書籍・コアのみ)
本稿ではこれらを「話す、聞く、書く、読む」という 4 技能に対応するものと見なす。
まず、d の BCCWJ の書籍で頻度が高いものは「読む」において必要度が高いと考えられ
る。一方、c の新書コーパスの内容は、「読む」ことに加え、留学生が「書く」必要がある
テキストタイプであると考えられる。さらに、b の新聞コーパスの内容は、「読む」「書く」
に加えて「聞く」でも必要であると考えられる。最後に、a の名大会話コーパスの内容は、
「話す」を含む 4 技能全てで必要と考えられる。
以上のことから、a が最も基本的で、a→d の順で基本的でなくなる(=高いレベルの項目
になる)と考えることができる。このことを考慮に入れて、5 では各コーパスで頻度が高い
項目(各コーパスの特徴語)を抽出し、6 では具体的なシラバスの試案を提示する。
33
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5.コーパスの分析結果
ここでは各コーパスの分析結果について述べる。
5.1
コーパスサイズと総頻度による上位項目
まず、各コーパスのサイズ(形態素数)は次の通りである。
表 1 各コーパスのサイズ
名大
朝日
新書
BCCWJ
1101817
1354428
2014729
169730
次に、総頻度(100 万語単位換算)による上位 30 位までの項目は以下の通りである。
表 2 総頻度による上位項目(100 万語換算)7
総頻度順位 形式
1の
だ/です/で
2
(も)ある
3に
品詞
格助詞
名大
朝日
新書
BCCWJ
総頻度
19225
93654
56601
57892
227372
助動詞
格助詞
とりたて助詞
4は
(係助詞)
5た
助動詞
6を
格助詞
7が
格助詞
8て
接続助詞
9と
格助詞
10 で
格助詞
とりたて助詞
11 も
(係助詞)
12 ている
助動詞
13 れる/られる 助動詞
14 ない
助動詞
15 ね
終助詞
16 から
格助詞
とりたて助詞
17 か
(副助詞)
18 か
終助詞
19 ます
助動詞
20 ようだ
助動詞
とりたて助詞
21 って
(副助詞)
22 のだ
助動詞
23 から
接続助詞
24 よ
終助詞
とりたて助詞
25 や
(副助詞)
26 が
接続助詞
27 と
接続助詞
とりたて助詞
28 など
(副助詞)
29 けれど
接続助詞
30 ば
接続助詞
7
59133
29106
41369
39304
168912
17940
56873
38415
37100
150328
17187
51746
37711
43104
149748
27342
6603
17796
27273
19242
19646
57229
58349
43392
37513
35140
32511
23307
29260
25578
35291
29877
12424
39433
38496
30372
16980
21511
13993
147311
132708
117138
117057
105770
78574
18207
15954
13981
18082
66224
8050
2886
11900
27062
2991
10910
12614
7456
515
9583
9900
10832
7445
180
4084
16002
9592
7553
1078
4819
44862
35924
34354
28835
21477
10787
2272
3561
3971
20591
11386
2945
1161
2106
3607
8469
2251
3227
4398
3682
9580
4725
19425
19359
18753
17280
289
136
736
18441
4809
9945
13431
537
866
580
3530
2475
206
8826
2451
1214
17702
15737
15431
451
7440
3249
2899
14039
206
2533
4619
3684
4444
2798
4596
3005
13865
12020
92
6824
2375
2280
11571
8830
1475
333
2000
232
3210
672
2822
10067
9507
BCCWJ の検索は原則として長単位で行った。
34
第6回コーパス日本語学ワークショップ予稿集
5.2
(2014年9月,国立国語研究所)
各コーパスの特徴項目の抽出方法
次に、各コーパスの特徴項目を抽出するが、その際、次の指標を設定した。
(4) そのコーパスにおける頻度の割合が 40%を越える。
これは各コーパス間の出現頻度の割合の差からそのコーパスの特徴項目を取り出すとい
うものである8。
5.3
各コーパスの特徴項目
ここでは、各コーパスの特徴項目((4)を満たす)を取り上げる。
5.3.1
名大会話コーパスの特徴項目
表 3 名大会話コーパスの特徴項目9
名大比率順位 項目
1 ようかな
2さ
3 のだったら
4ね
5 って
6の
7 かな/かね
8 けれど
9 もの
10 よ
11 なんて/なんか
12 な
13 みたいだ
14 ようか
15 わ
16 たら
17 くらい
18 ましょうか
19 から
20 ようね/ようよ
21 たって
22 てある
23 か
24 ちゃ*
25 ようと{思う/考える}
26 し
27 からか
28 かしら
29 か
30 らしい
31 {たら/ば/と}いい
32 のか
33 かもしれない
34 からではない
35 そうだ*
36 てあげる
37 てしまう/ちゃう
38 のに*
39 ではない
40 かい
41 ておく/とく
42 てもいい
43 ぜ
品詞
終助詞
終助詞
接続助詞
終助詞
とりたて助詞(副助詞)
終助詞
終助詞
接続助詞
終助詞
終助詞
とりたて助詞(副助詞)
終助詞
助動詞
終助詞
終助詞
接続助詞
とりたて助詞(副助詞)
終助詞
接続助詞
意向形
接続助詞
助動詞
終助詞
接続助詞
意向形
接続助詞
終助詞
終助詞
とりたて助詞(副助詞)
助動詞
助動詞
終助詞
助動詞
助動詞
助動詞
助動詞
助動詞
接続助詞
助動詞
終助詞
助動詞
助動詞
終助詞
8
名大比率 総頻度順位 名大順位 総頻度順位-名大順位
97.2
153
82
71
96.9
34
20
14
94.9
166
91
75
93.9
15
4
11
93.7
21
11
10
91.5
41
23
18
89.4
66
37
29
87.7
29
18
11
87.5
129
56
73
87.0
24
13
11
85.2
55
27
28
82.9
36
22
14
82.0
68
40
28
72.6
114
68
46
72.2
78
49
29
71.4
33
24
9
66.9
57
35
22
66.0
199
127
72
63.2
23
17
6
61.6
169
106
63
61.3
165
100
65
60.7
94
57
37
58.6
18
15
3
58.3
121
76
45
58.2
126
80
46
57.5
56
36
20
57.1
211
159
52
54.4
140
88
52
52.4
17
16
1
51.5
93
60
33
49.2
86
55
31
48.9
48
33
15
47.6
82
54
28
47.2
196
132
64
46.0
89
61
28
45.4
151
95
56
44.3
46
34
12
44.3
71
52
19
44.1
32
26
6
42.9
208
148
60
41.7
83
58
25
40.9
104
77
27
40.4
178
123
55
(4)以外に、「総頻度順位と当該コーパスの順位が 40 以上であり、かつ、当該のコーパスでの比率が各コ
ーパス間で最も高い」という指標も設定したが、これのみを満たす項目はなかった。
9
*の項目は BCCWJ で短単位検索を行った。また、「かい」は BCCWJ と出現頻度が同じであった。
35
第6回コーパス日本語学ワークショップ予稿集
5.3.2
(2014年9月,国立国語研究所)
新聞コーパスの特徴項目
表 4 新聞コーパスの特徴項目
朝日比率順位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
項目
と見られ(てい)る
をめぐる
によると/によれば
ために(理由)
につき
など
ようと
際に
たところ
と考えられ(てい)る
てほしい
や
について
とともに
へ
をはじめ
を通じて
ものの
ようだ
から
つつ
を
上で
にわたる/にわたり/にわたって
による/により/によって
ずつ
たい
で
の
品詞
助動詞
格助詞
格助詞
接続助詞
格助詞
とりたて助詞(副助詞)
意向形
格助詞
接続助詞
助動詞
助動詞
とりたて助詞(副助詞)
格助詞
接続助詞
格助詞
格助詞
格助詞
接続助詞
助動詞
格助詞
接続助詞
格助詞
接続助詞
格助詞
格助詞
とりたて助詞(副助詞)
助動詞
格助詞
格助詞
5.3.3
新書コーパスの特徴項目
朝日比率 総頻度順位 朝日順位 総頻度順位-朝日順位
8 6.8
139
69
70
8 4.6
123
63
60
8 3.0
67
31
36
7 0.8
146
55
91
6 6.7
209
170
39
5 9.0
28
18
10
5 8.8
113
68
45
5 6.0
163
123
40
5 5.8
131
81
50
5 5.0
135
89
46
5 4.1
100
62
38
5 3.0
25
17
8
5 2.3
58
33
25
5 1.3
120
78
42
5 0.6
43
22
21
5 0.0
158
120
38
4 9.7
145
103
42
4 8.2
150
110
40
4 5.2
20
15
5
4 4.6
16
14
2
4 4.4
125
88
37
4 4.0
6
2
4
4 3.7
136
98
38
4 3.4
142
102
40
4 3.1
42
24
18
4 2.6
130
96
34
4 1.9
47
25
22
4 1.4
10
9
1
4 1.2
1
1
0
表 5 新書コーパスの特徴項目
新書比率順位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
項目
につれて/につれ
において/における
にしたがって/にしたがい
とも
に関わらず
に過ぎない
までもない
ているところだ
に際して/に際し
と思われ(てい)る
にせよ
をもって
にも関わらず
ようとしても/ようとも
まい
にしても
としたら/とすれば/とすると
上に
に至るまで
ことに/となる
からといって
に違いない
と同時に
からこそ
からだ*
なければならない
に限らず
たところで
だけでなく
とともに
かと思うと
ためだ*
さえ
ほど(~ば~ほど)
のみ
に対する/に対して/に対し
品詞
接続助詞
格助詞
接続助詞
接続助詞
接続助詞
助動詞
助動詞
助動詞
格助詞
助動詞
接続助詞
格助詞
接続助詞
意向形
助動詞
接続助詞
接続助詞
接続助詞
格助詞
助動詞
接続助詞
助動詞
接続助詞
接続助詞
助動詞
助動詞
とりたて助詞(副助詞)
接続助詞
とりたて助詞(副助詞)
接続助詞
接続助詞
助動詞
とりたて助詞(副助詞)
とりたて助詞(副助詞)
とりたて助詞(副助詞)
格助詞
36
新書比率 総頻度順位 新書順位 総頻度順位-新書順位
7 7 .0
186
140
46
6 7 .4
79
40
39
6 6 .7
187
144
43
6 4 .3
147
96
51
6 2 .5
207
184
23
6 1 .6
149
102
47
5 9 .6
159
121
38
5 8 .8
198
172
26
5 8 .5
201
179
22
5 5 .4
137
93
44
5 5 .2
180
145
35
5 4 .4
174
138
36
5 3 .0
160
127
33
5 2 .8
191
162
29
5 2 .5
152
118
34
5 0 .9
128
87
41
5 0 .2
116
79
37
5 0 .0
205
188
17
4 6 .3
183
158
25
4 5 .7
69
44
25
4 5 .6
175
148
27
4 5 .4
148
119
29
4 5 .1
164
137
27
4 4 .9
172
147
25
4 4 .8
81
51
30
4 4 .7
90
64
26
4 4 .1
192
170
22
4 3 .6
194
180
14
4 3 .5
115
84
31
4 2 .4
120
91
29
4 2 .1
210
200
10
4 1 .4
138
111
27
4 0 .6
106
78
28
4 0 .4
177
156
21
4 0 .4
132
104
28
4 0 .3
62
41
21
第6回コーパス日本語学ワークショップ予稿集
5.3.4
(2014年9月,国立国語研究所)
BCCWJ(書籍・コア)の特徴項目
表6
BCCWJ(書籍・コア)の特徴項目
BCCWJ比率順位 項目
AようがAまいが/AだろうがBだろ
1
うが
2 のではない
3 おかげで*
4 といっても
5 はずがない
6 という/といった
7 どころ
8 ようとすると/ようとしたら
9 のみならず
10 のに(目的)*
11 ように(間接引用)
12 にしろ
13 と考える/と考えられる
14 やら
15 すら
16 のだ
17 に至るまで
18 ます
19 のだから*
20 わけがない*
21 せいで
22 ては*
23 てくださる
24 に違いない
25 だろうか
26 のに(逆接)*
27 ようとしない
28 わけだ*
29 ところだ
30 ことができる
31 はずだ
32 のだろうか
33 からには
34 てやる
35 わりに
36 かい
37 なり
39 たところだ/たばかりだ
40 ようにする
41 さえ
42 なら(主題)
品詞
BCCWJ比率 総頻度順位
BCCWJ順位 総頻度順位-BCCWJ順位
意向形
8 8.2
184
144
40
助動詞
接続助詞
とりたて助詞(係助詞)
助動詞
格助詞
とりたて助詞(副助詞)
意向形
とりたて助詞(副助詞)
接続助詞
格助詞
接続助詞
助動詞
とりたて助詞(副助詞)
とりたて助詞(副助詞)
助動詞
格助詞
助動詞
接続助詞
助動詞
接続助詞
接続助詞
助動詞
助動詞
終助詞
接続助詞
意向形
助動詞
助動詞
助動詞
助動詞
終助詞
接続助詞
助動詞
接続助詞
終助詞
とりたて助詞(副助詞)
助動詞
助動詞
とりたて助詞(副助詞)
接続助詞
7 8.3
7 4.4
6 2.6
6 1.0
5 7.7
5 7.1
5 7.1
5 5.8
5 5.0
5 4.2
5 4.0
5 3.5
5 2.7
5 1.9
4 9.9
4 9.5
4 9.5
4 9.0
4 8.6
4 7.9
4 7.8
4 7.7
4 6.7
4 6.6
4 6.6
4 6.1
4 6.1
4 5.9
4 5.4
4 5.4
4 5.0
4 3.9
4 3.2
4 2.9
4 2.9
4 2.7
4 2.4
4 1.6
4 1.4
4 1.2
95
202
171
188
31
157
200
195
168
111
185
107
156
154
22
183
19
117
204
190
119
99
148
76
97
189
70
133
77
103
108
203
134
193
208
182
173
124
106
110
62
183
145
167
17
124
187
182
151
91
165
85
127
123
15
164
14
97
194
179
99
84
121
55
82
178
51
110
61
90
95
195
112
189
199
174
160
105
92
98
33
19
26
21
14
33
13
13
17
20
20
22
29
31
7
19
5
20
10
11
20
15
27
21
15
11
19
23
16
13
13
8
22
4
9
8
13
19
14
12
6.シラバスの試案
ここでは新しい文法シラバスの試案を提案する。Step1, 2 は初級前半、初級後半に対応し、
Step3 は文体を整理するレベルとする。Step4~6 はそれぞれ中級、中上級、上級に対応する。
なお、紙幅の関係上、各項目について、項目名、品詞、総頻度順位のみを記す。
このシラバスは、基本的に次の方針で策定されている。
(5)a. Step1,2 は総頻度順位の上位のものを取り入れるが、日本語文の構造上必要な項目
は適宜加える。
b. Step3 は名大コーパス、Step4 は新聞コーパス、Step5 は新書コーパスにおいて頻度
順で上位の項目を優先的に含める。
c. 当該の Step において表現機能上必要な項目については、頻度順とは関係なくその
Step に含める。
37
第6回コーパス日本語学ワークショップ予稿集
(2014年9月,国立国語研究所)
表 7 新しい文法シラバス
Step
項目
の
です
に
は(主題)
た
を
が
と
で
も
ない
から
か
か
ます
ではない
たい
と思う
より
が
て
と(引用)
ている(進行中)
(ら)れる(有情物主語)
ね
のだ(理由)
から
品詞
格助詞
助動詞
格助詞
とりたて助詞(係助詞)
助動詞
格助詞
格助詞(目的語)
格助詞
格助詞
とりたて助詞(係助詞)
助動詞
格助詞
とりたて助詞(副助詞)
終助詞
助動詞
助動詞
助動詞
助動詞
格助詞
格助詞(主語)
接続助詞
格助詞
助動詞
助動詞
終助詞
助動詞
接続助詞
総頻度順位
1
2
3
4
5
6
7
9
10
11
14
16
17
18
19
32
47
52
59
7
8
9
12
13
15
22
23
3 だ/で(も)ある
3 は(対比)
ている(結果残存、繰り返
3
し)
3 (ら)れる(使役受身)
3 ようだ
3 って
3 のだ(解釈)
3が
3 と(事実的)
3ば
3 という/といった
3 たら(事実的)
3さ
3な
3 だろう/であろう(推量)*
3 てくる/てく(方向性)
3の
3 による/により/によって
3へ
3 として
3 だけ
3 てしまう/ちゃう
(さ)せる(「(さ)せてくださ
3
い」)
か(おかげか/せいか/
3 ためか/わけか/からか
/のか)
3 ていく/てく(方向性)
3 てくれる
3 みたいだ
3 なら/のなら(条件)
3 てある(結果残存)
3 たって
3 のだったら
3 可能形
連体修飾(内の関係)(産
3
出)
4 ている(完了)
4 (ら)れる(無情物主語)
4 のだ(言い換え)
4 と(条件)
4 など
4 てくる/てく(アスペクト)
のか(説明を求める疑問
4
文)
(さ)せる(「(さ)せてもらう
4
/(さ)せてくれる」)
助動詞
とりたて助詞(係助詞)
2
4
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
2
2
2
2
2
2
2
2
Step
品詞
終助詞
とりたて助詞(副助詞)
接続助詞
接続助詞
意向形
助動詞
接続助詞
終助詞
とりたて助詞(副助詞)
接続助詞
接続助詞
助動詞
接続助詞
助動詞
とりたて助詞(副助詞)
助動詞
助動詞
助動詞
助動詞
接続助詞
格助詞
助動詞
接続助詞
接続助詞
総頻度順位
24
25
29
33
37
38
39
48
53
60
61
64
72
73
75
77
82
85
90
97
102
104
110
127
4 くらい
4 について
とりたて助詞(副助詞)
格助詞
57
58
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
項目
よ
や
けれど
たら(条件)
よう/ましょう
でしょう(確認要求)*
ても*
のか(前提のある疑問文)
たり
ので*
ながら
ことが/も/はある/ない
ために(目的)
てもらう
しか
ことができる
かもしれない
ようになる
なくてはならない
のに(逆接)*
ための
てもいい
なら(主題)
ように(目的)
分裂文(変形)(理解)
連体修飾(内の関係)(理解)
助動詞
12
4 に対する/に対して/に対し
格助詞
62
助動詞
助動詞
とりたて助詞(副助詞)
助動詞
接続助詞
接続助詞
接続助詞
格助詞
接続助詞
終助詞
終助詞
助動詞
助動詞
終助詞
格助詞
格助詞
格助詞
とりたて助詞(副助詞)
助動詞
13
20
21
22
26
27
30
31
33
34
36
38
40
41
42
43
44
45
46
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
助動詞
終助詞
格助詞
助動詞
助動詞
助動詞
終助詞
終助詞
格助詞
助動詞
助動詞
助動詞
とりたて助詞(副助詞)
格助詞
助動詞
終助詞
助動詞
助動詞
助動詞
65
66
67
69
70
74
76
78
79
81
83
86
87
88
89
91
92
93
94
助動詞
49
4 のではない
助動詞
95
終助詞
4 しそうだ(動詞のみ)
助動詞
54
63
68
84
94
165
166
4
4
4
4
4
4
4
4
助動詞
助動詞
助動詞
助動詞
とりたて助詞(副助詞)
助動詞
終助詞
終助詞
4 ように(間接引用)
格助詞
111
助動詞
助動詞
助動詞
接続助詞
とりたて助詞(副助詞)
助動詞
12
13
22
27
28
40
4
4
4
4
4
4
助動詞
接続助詞
接続助詞
格助詞
終助詞
接続助詞
112
116
117
123
129
146
終助詞
48
4 からといって
接続助詞
175
助動詞
助動詞
助動詞
接続助詞
助動詞
接続助詞
接続助詞
50
てみる
かな/かね
によると/によれば
ことに/となる
わけだ*
べきだ
だろうか
わ
において/における
からだ*
ておく/とく
{たら/ば/と}いい
ばかり
にとって
そうだ*
ではないか(否定疑問)
だけだ
らしい
てある(準備)
助動詞
49
4
4ず
助動詞
51
4
4 ていく/てく(アスペクト)
4 なんて/なんか
4し
助動詞
とりたて助詞(副助詞)
接続助詞
54
55
56
4
4
38
てくださる
てほしい
わけで{は/も}ない*
はずだ
さえ
と考える/と考えられる
のだろうか
のではないか
てはならない/てはいけない
としたら/とすれば/とすると
のだから*
をめぐる
もの
ために(理由)
分裂文(情報の受け継ぎ)(理
解)
連体修飾(外の関係・内容補充)
(産出)
お~になる(尊敬語)
ハ-ガ文(形容詞、名詞)(産出)
98
99
100
101
103
106
107
108
109
第6回コーパス日本語学ワークショップ予稿集
Step
項目
品詞
5 ている(経験・記録)
助動詞
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
助動詞
助動詞
意向形
終助詞
とりたて助詞(係助詞)
格助詞
終助詞
とりたて助詞(副助詞)
助動詞
接続助詞
接続助詞
助動詞
接続助詞
意向形
接続助詞
とりたて助詞(副助詞)
5 たところ
5
5
5
5
5
5
(2014年9月,国立国語研究所)
総頻度順位
Step
項目
品詞
総頻度順位
6 を通じて
格助詞
145
22
49
80
91
96
105
114
115
118
120
121
124
125
126
128
130
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
接続助詞
助動詞
接続助詞
助動詞
とりたて助詞(副助詞)
助動詞
とりたて助詞(副助詞)
とりたて助詞(副助詞)
格助詞
助動詞
接続助詞
接続助詞
助動詞
格助詞
接続助詞
助動詞
147
149
150
152
154
155
156
157
158
159
160
161
162
163
164
167
接続助詞
131
6 のに(目的)*
接続助詞
168
助動詞
助動詞
助動詞
接続助詞
助動詞
終助詞
133
134
135
136
137
140
6
6
6
6
6
6
とりたて助詞(副助詞)
とりたて助詞(係助詞)
接続助詞
助動詞
格助詞
助動詞
170
171
172
173
174
176
格助詞
142
6 ほど(~ば~ほど)
とりたて助詞(副助詞)
177
終助詞
助動詞
助動詞
助動詞
143
144
148
151
6
6
6
6
接続助詞
格助詞
とりたて助詞(副助詞)
格助詞
180
181
182
183
5 ようかな
終助詞
153
6
意向形
184
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
意向形
終助詞
助動詞
助動詞
接続助詞
助動詞
終助詞
接続助詞
終助詞
終助詞
169
178
179
188
190
196
199
202
208
211
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
6
接続助詞
接続助詞
接続助詞
意向形
意向形
とりたて助詞(副助詞)
接続助詞
接続助詞
とりたて助詞(副助詞)
格助詞
助動詞
意向形
185
186
187
189
191
192
193
194
195
197
198
200
5
5
5
5
5
のだ(発見)
(さ)せる(「(さ)せる」)
ようとする
ではないか(認識要求)
こそ
に関する/に関して
ようか
だけでなく
しかない
とともに
ちゃ*
ようにする
つつ
ようと{思う/考える}
にしても
ずつ
ところだ
てやる
と考えられ(てい)る
上で
と思われ(てい)る
かしら
にわたる/にわたり/に
わたって
ぞ
ていただく
に違いない
てあげる
ようね/ようよ
ぜ
たがる
はずがない
せいで
からではない
ましょうか
おかげで*
かい
からか
尊敬語(不規則)
お~する(謙譲語)
連体修飾(外の関係・非制
5
限節、相対補充)(産出)
6 ている(反事実)
6 まで
6
6
6
6
6
6
6
ようと
ては*
としても
のみ
ためだ(理由)*
と見られ(てい)る
ことにする
助動詞
格助詞/とりたて助詞
(副助詞)
意向形
接続助詞
接続助詞
とりたて助詞(副助詞)
助動詞
助動詞
助動詞
12
とも
に過ぎない
ものの
まい
すら
つつある
やら
どころ
をはじめ
までもない
にも関わらず
とはいえ
と見る
際に
と同時に
ざるを得ない
きり
といっても
からこそ
たところだ/たばかりだ
をもって
わけにはいかない
にせよ
にあたって/にあたり
なり
に至るまで
AようがAまいが/AだろうがBだ
ろうが
にしろ
につれて/につれ
にしたがって/にしたがい
ようとしない
ようとしても/ようとも
に限らず
わりに
たところで
のみならず
にて
ているところだ
ようとすると/ようとしたら
6 に際して/に際し
格助詞
201
12
6 からには
接続助詞
203
35
6 わけがない*
助動詞
204
6
6
6
6
6
6
6
接続助詞
接続助詞
接続助詞
格助詞
接続助詞
205
206
207
209
210
113
119
122
132
138
139
141
上に
にしては
に関わらず
につき
かと思うと
語順倒置(ハ-ガ)
謙譲語(不規則)
7.まとめ
本稿では、日本語教育を取り巻くさまざまな状況に対応するために必要とされる新しい
文法シラバスの策定法について考えた。このシラバスは、タイプの異なる 4 つのコーパス
の頻度にもとづいて、そこに日本語教育文法の知見を加味して策定されたものである。今
後は、このシラバスにもとづいた教材の開発に傾注していきたい。
謝
辞
本稿は、日本学術振興会による科学研究費助成金基盤研究(A)「やさしい日本語を用い
た言語的少数者に対する言語保障の枠組み策定のための総合的研究」
(平成 25~28 年度
研
究代表者:庵功雄)、および、国立国語研究所の共同研究プロジェクト「学習者コーパスか
39
第6回コーパス日本語学ワークショップ予稿集
(2014年9月,国立国語研究所)
ら見た日本語習得の難易度に基づく語彙・文法シラバスの構築」(プロジェクトリーダー・
山内博之)の助成を受けたものである。
参考文献
庵
功雄(2009)「地域日本語教育と日本語教育文法:
「やさしい日本語」という観点から」
『人
文・自然研究』3、pp.126-141、一橋大学
庵
功雄(2011a)「日本語教育文法からみた「やさしい日本語」の構想:初級シラバスの再
検討」『語学教育研究論叢』28、pp.255-271、大東文化大学
庵
功雄(2011b)「日本語記述文法と日本語教育文法」森篤嗣・庵功雄編『日本語教育文法
のための多様なアプローチ』ひつじ書房
庵
功雄(2013a)「日本語教育文法の現状と課題」『一橋日本語教育研究』創刊号、pp.1-12、
ココ出版
庵
功雄(2013b)「「やさしい日本語」とは何か」庵功雄・イ・ヨンスク・森篤嗣編『「やさ
しい日本語は何を目指すか』、pp.3-13、ココ出版
庵
功雄(2013c)『日本語教育、日本語学の「次の一手」』くろしお出版
庵
功雄(2014a)「「やさしい日本語」研究の現状と今後の課題」『一橋日本語教育研究』2、
pp.1-12、ココ出版
庵
功雄(2014b)「文法シラバスの作成を科学する」公開シンポジウム「シラバス作成を科
学にする―日本語教育に役立つ多面的な文法シラバスの作成―」予稿集
庵
功雄(近刊)「言語的マイノリティに対する言語上の保障と「やさしい日本語」
」
『ことば
と文字』2、くろしお出版
庵
功雄監修(2010, 2011)『にほんごこれだけ!1、2』ココ出版
尾崎明人(2004) 「地域型日本語教育の方法論的試論」小山悟他編『言語と教育』、pp.
295-310、くろしお出版
白川博之(2005)「日本語学的文法から独立した日本語教育文法」野田尚史編『コミュニケ
ーションのための日本語教育文法』
、pp.43-62、くろしお出版
仁田義雄(1995)「日本語文法概説(複文・連文編)」宮島達夫・仁田義雄編『日本語類義表
現の文法(下)』、pp.383-396、くろしお出版
野田尚史(2005)「コミュニケーションのための日本語教育文法の設計図」野田尚史編『コ
ミュニケーションのための日本語教育文法』
、pp.1-20、くろしお出版
南不二男(1974)『現代日本語の構造』大修館書店
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