萬屋 杏菜

作文部門
優秀賞
近く
て遠い国
フジサンケイ
ビジネスアイ賞
よろず や
あん
な
萬 屋 杏菜 東京学芸大学附属国際中等教育学校 3年
2100㎞。東京から台北までの距離だ。近いと感じるか、遠いと感じるか。私は遠いと感じ
ていた。台湾の食べ物を食べたことも、台湾の人に会ったこともなかったからだ。
奨励賞
そんな台湾と関わりを持ったのは、日本ではなくオーストラリアだった。昨年、短期留学で
オーストラリアに行きホームステイをしたときのことだ。ホストシスターが、何やら漢字が書か
れている紙を見せてくれた。読める? と聞かれた。日本語ではないし、中国人の友達が書い
ていた中国語ではないような…。読めない、と正直に言った。すると、
「台湾から来た子が、
私たちの名前を台湾語で書いて
くれたんだ。」と教えてくれた。なるほど、読めなかったわけ
特別賞
だ。もう一度見ると、何となく見たことのある漢字があった。それぞれの漢字の音読みをつな
げてみると、確かにホストファミリーの名前だった。意外に台湾語と日本語の漢字は似ている
な、と親しみを覚えた。それを真似して、日本語でもホストファミリーの名前を書いてプレゼン
トして帰ってきた。喜んでもらえた。また台湾の子の受け入れをすると言っていたから、これ
から来る子にも見てもらえるかな、と期待を込めて。
帰国した後、台湾語と中国語の違いを調べてみた。台湾語では繁体字を、中国語では簡
体字を多く使うらしい。簡体字は繁体字を崩したものらしく、中国語の漢字を読むことがで
きないのは簡体字だからだそうだ。繁体字は、日本の古い漢字と同じ字を使っているものも
多い。だから台湾の漢字を読むことができたのかな、と思った。ということは、日本と台湾は
似ているところがあるのではないか。親近感が湧いてきた。もっと台湾のことが知りたい、と
思った。とはいえ、日本で今まで全く関わりがなかったのにどうやって知ればよいのか。食べ
物が頭に浮かんだ。ホームステイ中、日本のスイーツを作って、と言われて和菓子を作った。そ
の時、
「台湾の子が教えてくれたスイーツ、よく作るようになったのよ。」と言っていたのを思
い出したからだ。オーストラリアで台湾料理を楽しめるなら、日本でも楽しめるだろう、と思っ
た。家の近くで台湾料理を出している店はないのか、と調べた。意外にたくさんの台湾料理
店があった。家族と食べに行ってみることにした。
台湾料理は中華料理と似ているんだろうな、という先入観があった。一口食べた瞬間、そ
れがどこかに吹っ飛んでいった。見た目は中華料理なのに、味が中華料理とは違った。何が
違うのだろう。食べ進めてみてわかった。中華ほど味が濃くない。どこか日本の味がして、食
べやすかった。中華料理に和食に使われるダシや醤油の風味を加えたような、そんな味がし
た。台湾料理が和食に近いことがわかった。さらに、修学旅行で訪れた沖縄で食べた料理の
味付けに近いものを感じた。和食なのにどこかスパイスが効いていたり、中華料理の味付け
がしてあったり、という沖縄料理。沖縄と台湾は地理的に近い位置関係にあるからなのだろ
うか。修学旅行から帰ってきたばかりだったので、とても親近感を覚えた。
家に帰ってから、また調べてみた。台湾料理は中華料理の影響を大きく受けているだけで
はなく、日本統治下時代に受けた和食の影響、地理的な影響で海鮮を多く使用していること
が特徴的だという。レシピを調べてみると、日本でも簡単に手に入る食材や調味料で作れる
ことがわかった。普段の料理に少し豆板醤やオイスターソースを入れて調理してみれば、台湾
料理らしくなるかもしれない。日本人でも家で簡単に台湾料理を楽しめそうだ。食文化にも日
本とのつながりが見つかった。
今まで遠い国だと思っていた台湾。少しのきっかけで、近い存在になった。親近感を持っ
た。このことから、2つのことを学んだ。
一つ目は、地理的に近い国は文化も近いということ。今までは、近くにあっても国が違え
ば文化が全く異なる、と思っていた。しかし、台湾が日本に似ていることを、食文化や言語の
面で感じ、地理的距離と文化的距離は相互関係にあるのではないかと感じた。近い存在に
なったとはいえ、私はまだまだ知らないことだらけだ。文化の共通点や違いを学ぶことで、台
湾のことだけではなく日本のことも知ることができる。日本中の多くの人が台湾について学ん
だら、台湾の文化を知るだけでなく、似ている日本の文化についても学ぶことになるだろう。
日本と台湾を結ぶものが見えてくるきっかけになる。近いところにあるのだから、もっとつな
がりを持てると思う。
二つ目は、国境は大きな壁でないということ。台湾との間には領土問題もある。海を隔てる
のだから遠い気もする。しかし文化は似ている。最も壁になっているのは、私たちの遠いとい
う思い込みなのではないか。両国の人の意識が変われば、台湾との交流が増え、台湾がより
身近になっていくのではないか。
日本と台湾。隣どうし。意識を変え、交流を盛んにするのは私たち若い世代の役割だ。