[連載] Washington, D.C. 通信

連載 Washington, D.C. 通信
俺にも思いつかなかったよ。」などがそれだ。
スタート地点に立つ教師が,前を歩く生徒に
声援を贈るようにすら感じられるということ
「あなたが羨ましい!」
だ。確かに米国は子どもを褒めて育てる文化
だ。褒め言葉が進化してきたのかもしれない。
“I’m jealous of you.” “I’m so proud of you.”
“You are so talented.”
東京学芸大学附属国際中等教育学校
雨宮 真一
2014 年 3 月下旬,ワシントン補習授業校
“You make me really love my job.”
“It’s a pleasure to have you in my class.”
“You are such an exceptional student.”
学校や習い事の様々な場面で日常的に先生
での勤務を終え,3 年ぶりに帰国した。米国
の口から飛び出すこれらの言葉が聞こえると,
での生活を整理しながら十分に心の準備をし
自分は教師として今までにこんなセリフを
たつもりではあったが,東京に戻ってみると
言ったことがあるだろうかと考えてしまう。
生まれてから 30 年以上過ごしたはずの見慣
褒められた生徒たちはさぞ恐れ入っているだ
れた故郷がまるで異国のように感じられた。
ろうとチラッと顔をのぞくと,平然としてい
海外に出て第一の,帰国した際に第二のカル
る。もう少し謙遜したほうがいいよ。
チャーショックがあるとは聞いていたが本当
ところで叱るときにはどうしているのか。
だった。街行く人々が皆日本人だ(当たり前
娘は学校で先生が生徒に大声を張り上げるの
だ)
。運転する道路が狭い。見通しが悪い交
を聞いたことがないという。集会などで大勢
差点での道路反射鏡の存在にはしばらくして
の生徒を静かにさせるときは,会場の電灯を
気がついた(これは便利だ)
。スーパーの棚に
チカチカ点けたり消したりして注意を促す。
は納豆が 5 列も並べられている(夢のようだ)。
授業で騒ぐ子どもにはツカツカと歩み寄り,
6 年生になった娘の眼には,文化の違いが
目線を同じ高さにして静かに諭す。それでも
別の角度から映っていたに違いない。帰国し
言うことを聞かない場合は校長室に送られる。
て 3 ヶ月が経った頃,妙なことを言った。
その後必要に応じて保護者が呼び出されたり,
「先生の褒め方が違う。日本の先生はゴー
カウンセラーが指導にあたる。授業担当がす
ルから私たちを見ている感じで,アメリカの
べてその場を収めようと頑張るのではなく,
先生はスタートから私たちを見ているみた
チームで分業して指導する体制のようだ。
い。」…どういうこと?
話をまとめるとこういうことらしい。日本
4
4
の教師は,先を生きる者としての目線から褒
褒めることに関して,現地の新聞で次のよ
うな記事を読んだことがある。
『褒められることに慣れた子どもたちは,
めることが多い。褒めた内容については教師
失敗をすると簡単に諦めてしまったり,他人
自身は当然できているという立場である。例
のせいにする傾向があることが現代の(米国
えば「よくできました。」「頑張ったね。」な
の)学校現場では問題になっている。』
どがある。つまり教師はゴール地点に立って
「そりゃそうだろう。記事にするほどのこ
生徒に手招きをしているのだ。しかし米国の
とでもないのでは。」と感じる我々は,日本
教師は,生徒を自分自身より上に置いて褒め
で厳しく育てられた世代だ。指導は甘すぎて
ることもあるという。「こんなことができる
も厳しすぎてもうまくいかないだろう。さて
なんて,あなたが羨ましいわ。」「その考え,
今日の自分はブレずに指導できただろうか。
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