異なる視野への色覚刺激に対する大脳半球機能差

千葉大学人間生活工学研究室修論概要(2004)
修士論文
異なる視野への色覚刺激に対する大脳半球機能差
キーワード:視野領域、ラテラリティ、色、反応時間
人間生活工学教育研究分野 03UM4116 中村 一雄
■研究の背景
右手利きの人を被験者とした。いずれの被験者も色覚に
人間側の情報処理特性を考慮したデザインをおこなう
異常はなかった。被験者には、刺激が提示されるまでモ
ための一つの方法として、視野・色彩に関する研究は重
ニター中央の注視点を見るように教示した。モニターま
要である。視野・色彩を考慮に入れたデザインをおこな
での距離は 50 cm とした。
うことで、人への負担を減らし、使いやすいインターフ
ェイスの構築への適用が考えられる。
例えば、安全性の向上を目的として、人がより容易に
判断できるような自動車の計器類のデザインや、より作
業効率が上がるパーソナル・コンピュータのディスプレ
注視点
刺激提示場所
イのレイアウトが挙げられる。
図 1 刺激提示場所
■研究の目的
視野・色彩に関する先行研究の結果では、上方の視野
は左視野と同様な特徴を内包していて、下方の視野は右
視野と同様な特徴を内包しているという可能性を示唆し
ている(矢口、2001)。また、青・緑・赤では、右視野-
右手で反応する条件に比べて、左視野-左手で反応する
[ 刺激タスク ]
刺激として、視角 2°の正円を実験 1・2 ともに用いた。
無彩色刺激(黒)と 6 色の有彩色刺激からなり、タスク
画面の背景色は無彩色(白)であった。刺激の提示時間
は実験 1・2 ともに、150 msec であった。
条件の反応時間の方が有意に短かった(佐々木ら、2002)
red
blue
という結果も示されている。
yellow
magenda
green
cyan
しかし、色覚に関しては、左半球有意という結果も多
図 2 色覚刺激
数存在し、どちらが大脳優位半球かということは明らか
になっていない。また、色彩と視野・方向についての研究、
つまり、左右水平提示のみではなく、上下を含めた全体
的な視野に色彩を絡めた研究は少ない。
本研究では、上下左右、斜めの 8 方向に色覚刺激を提
示し、それに対する反応時間を比較検討することで、色
覚刺激検出における大脳左右半球の機能差について調べ
ることを目的とした。
■研究の方法
[ 実験概要 ]
画面中央の注視点から視角 2°、4°、6°の同心円上
に等間隔に配置された、上下、左右、斜め 8 方向の 8 × 3
計 24 ヶ所の提示場所に刺激を提示した(図 1 参照)。刺
激は無彩色刺激(黒)と 6 色の有彩色の色覚刺激からなる。
それらの刺激に対しての反応時間を測定した(図 2 参照)。
[ 被験者 ]
被験者は健康な男子大学生 6 名。Edinburgh Handedness
Inventory、Chapman test、H.N. 利 き 手 テ ス ト の 結 果、
black
[ 実験条件 ]
○実験 1
画面に刺激が提示されたら、その提示場所に対応した
テンキーを押して反応してもらった。
○実験 2
色覚刺激が同心円上に同時に異なる 3 箇所に提示され、
色覚刺激と同時に注視点上にも色覚刺激が提示された。3
箇所に提示された刺激のうち一つの刺激が注視点上の刺
激と同じ色彩なので、その刺激の提示された方向に対し
て、テンキーで反応してもらった。
[ 解析 ]
反応時間の解析方法は、提示場所、視角、色を要因と
して、一元・二元配置の反復測定分散分析を用いた。そ
の後、多重比較検定 Student-Newman-keuls:SNK を行った。
■結果
[ 実験 1 研究結果 ]
8 方向間で有意差がみられ、特に顕著に現れたのが、
左右間であった。上下間ではみられなかった ( 図 3 参照)。
千葉大学人間生活工学研究室修論概要(2004)
色ごとに上下間を比較したところ、黒・青・シアン・
上
緑で上側が下側に比べて有意に反応時間が短かかった。
右上
0.75
左上
0.7
0.6
左
7 色間の比較をおこなったところ、青と緑、青と黄、
反応時間
(平均値)
右
0.5
左下
シアンと黄の間で有意差がみられた。実験 1 では 7 色間
単位:sec
右下
下
で有意な結果を得ることはできなかった(図 7 参照)。
black
blue
cyan
green
magenta
red
yellow
*
*
0.75
0.8
*
0.6
0.7
反応時間
(平均値)
図 3 色と方向について(two-way-ANOVA)
単位:sec
0.4
0.65
間的な情報処理を被験者に課した可能性があった。しか
し、先行研究で言及されている上側視野と下側視野に関
red
yellow
green
magenta
blue
実験2
cyan
0
black
red
yellow
green
magenta
blue
0.6
cyan
方向に関する有意な結果が得られ、実験 1 は総じて空
black
0.2
実験1
図 7 色別の反応時間について
する結果が、本研究では得られなかった。
■ 考察
[ 実験 2 研究結果 ]
8 方向間で有意差がみられ、左右間とともに、上下間
でも反応時間についての有意差がみられた(図 4 参照)。
[ 色と方向について ]
実験 1 では出現しなかった色と方向の交互作用が実験
2 ではみられた。また、色別の反応時間についても同様
上
左上
反応時間
(平均値)
右上
0.7
にみられた。特に、青色についての反応時間が短かった。
単位:sec
これらの事から、実験 1 に比べて実験 2 の方が色彩判断
0.6
左
black
右
0.5
blue
を求めたことで、全体的に反応時間の遅延はみられたが、
green
色と方向の関係において有意差が多くみられた。
red
[ 色と左右方向について ]
cyan
左下
magenta
右下
yellow
下
佐々木らの研究結果に加えて、無彩色とシアン、マゼ
図 4 色と方向について(two-way-ANOVA)
ンタ、黄に関しても左視野に提示された刺激に対する反
左側(左視野)が右側(右視野)よりも反応時間が短
応が有意に速いという結果がえられた。これらより、色
いということは、右大脳半球が優位半球であるというこ
彩判断においては右脳半球が優位半球であるということ
とを示唆したといえる。
が示唆された。色彩判断という高次な情報処理により、
右脳半球の機能的優位性が発揮されたと考えられる。
0.8
単位:sec
[ 色と上下方向について ]
black
blue
cyan
green
magenta
red
yellow
0.75
反応時間
(平均値)
0.7
0.65
up
実験 2 では、色と上下方向ともに主効果がみられ、交
互作用もみられた。下側視野よりも上側視野の方が反応
時間が短かった。色別にみると、黒・青・シアン・緑で
down
方向
この傾向がみられた。
図 5 提示場所 - 上下について
また、色・上下方向を要因として、7 色と上下方向間
の比較をおこなったところ、方向・色の主効果がみられ、
空間的情報処理に関する先行研究では、上側視野に比
べて下側視野への刺激提示に対する反応時間が短いとい
う結果が得られていたが、色彩判断を求めた本研究では
交互作用もみられた(図 5 参照)。
0.8
逆の結果が得られた。つまり、色彩判断を求めたことで、
0.75
*
空間的情報処理とは異なる結果が得られたのではないか
*
*
*
0.75
反応時間
(平均値)
反応時間
(平均値)
単位:sec
と考えられる。
0.7
単位:sec
0.7
red
yellow
green
magenta
blue
下
cyan
0.65
black
red
yellow
green
magenta
blue
cyan
上
black
■ まとめ
0.65
図 6 提示場所 - 上下ー色ごとについて
上下方向別に注目し、7 色間の比較をおこなった。そ
の結果、上方については、青と黄、シアンと黄、緑と黄、
赤と黄の間で有意差がみられた。下方についてはみられ
なかった(図 6 参照)。
○色覚判断に対しての反応は、右視野に比べ左視野への
刺激提示の方が反応時間が短かった。
○色覚判断に対しての反応は、下側視野に比べて上側視
野への刺激提示の方が反応時間が短かった。
○色別にみると、青色が最も反応時間が短かった。