昆虫に学び、粉末状の粘着剤を開発

昆虫に学び、粉末状の粘着剤を開発
リキッドマーブル工学に基づく粉末粘着剤の創出
(大阪工大工) ○藤井秀司、澤田静香、中山沙織、上野和之、下嶋康平、
中村吉伸
(マックスプランク研究所) ミヒャエル カプル、ハンス-ヨーガン ブット
[3R02]
(Tel: 06-6954-4274)
アブラムシの中に、自ら排出する蜜の液滴表面を固体ワックス粒子で覆うこ
とで液体を団子状にし、液体が基材(アブラムシの体、巣の内壁)に濡れ広が
らないようにすることで、自身が巣の中で溺死することを防いでいるものがい
る。このような表面が固体微粒子により被覆された液滴は、リキッドマーブル
と呼ばれ、これに応力を加える(指で練るなど)ことで液を内部から取り出す
ことが可能である。これまでに、液体を弾く粉の上で液滴を転がすことで、人
工的にも簡単にリキッドマーブルの作製が可能であり、その集合体は粉体とし
てふるまうことが明らかになっている。
粘着剤は、高粘度液体状高分子であり、瞬間に接着するという特性と、事前
に任意の形状に加工しておくことが可能であるという特徴を持つため利便性が
非常に高くシール、ラベルとして広範に利用されている。さらには我が国の重
要産業分野である自動車、電子材料等の先端工業分野においても必要不可欠な
材料として使用されている。技術遷移のスピードが速い中、廃れる技術は多い
が、モノとモノをくっつ
ける粘着は、いつの時代
においても広範な工業分
野で常に必要とされる技
術であり、今後もなくな
ることはないと思われる。
これまでの粘着剤は、フ
ィルム基材に塗布した形
態(粘着テープ)および
スプレーによる噴霧形態
で利用されているが、そ
のべたつきが低ハンドリ
ング性の原因となり利用
範囲に制限がかかってい
るのが現状である。
本研究では、高粘度液体で
ある粘着性高分子の液滴表面
を固体微粒子で覆ったリキッ
ドマーブルを作製し、粘着剤
の粉末化を実現化した。この
粉末状粘着剤は、流動性を有
する粉体として振る舞うが、
指で練る、基板に挟む、ねじ
を締めるなど外部応力を加え
ると粘着性を発現する刺激応
答性粘着剤として機能する。
本研究で開発した粉末状粘着
剤は、新規の粘着剤の形態で
あり、これまでの形態では粘
着剤を塗布することが叶わな
い微小空間への粘着剤の運搬
を実現し、目的箇所の選択的
接着を可能にする。そのため、
建築物の微細な亀裂部分の接
着や、微小反応容器、マイク
ロチャネル等の微小部材の位
置選択的接着が可能になる。
さらに、意匠性の高まりによ
り形状が複雑化する自動車、
電子製品に使用する部材の接
着も可能にする。
本研究成果は、粘接着・粉
体が関与する産業・学術分野への波及効果が大きく、バイオミメティックスに
基づく省エネルギー・低環境負荷型の機能性材料創出を可能にするため社会貢
献が高いと考えている。現在、化学系企業と共同で粉末状粘着剤の量産化技術
の開発を行っている。
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金
新学術領域研究(研究領域提案
型)「生物多様性を規範とする革新的材料技術」、「元素ブロック高分子材料の創
出」および二国間交流事業共同研究の支援を受けた。
<適用分野>
住宅・建材、自動車、航空機、電車、船舶、情報機器(テレビ、パソコン、携
帯電話)、マイクロ流路、微小反応容器、文化遺産修復 等