福祉の閲覧室第90号 2015年8月17日発行 日本社会事業大学附属図書館報 Japan College of Social Work Library Report 読書マラソン推進委員会 読書マラソン推進委員会 学部1年 栗林歩季 学部1年 吉野ゆかり 社大に入学して四ヶ月が経った。大学生活は 誰かから本を勧められて、それにどっぷりと めまぐるしく、あっという間に前期が終わり、 ハマってしまうことが多い。誰しも経験したこ 夏期休業がやってきた。北海道出身の私は初め とがあるだろう。それに、おすすめの本を聞く ての本州の夏に慣れず、早くも夏バテ気味であ ことで、その人のまだ見ぬ一面を知れたような る。 気持ちになれるのだ。 私は読書マラソン推進委員会に入っている。 私が通っていた小学校には「この本大好き!」 高校時代、図書局という図書館に関わる活動に という行事があった。年に数回行われる行事で、 参加していたこともあり、大学でも本に関われ 全校生徒が自分の好きな本の紹介文を紙に書 たらいいなと思っていたのが理由だ。社大の図 いて発表するというものである。優秀な紹介文 書館は福祉系単科大学にふさわしく、社会福祉 は職員室の前の廊下に掲示されるので、親にな 関係の図書が突出して多い。だがもちろん、そ にか自慢したかった私はどうやったら選ばれ れ以外にも魅力的な本がたくさんある。 るだろうといつも試行錯誤していた。読書感想 図書館は宝石箱である。既にきらきらと輝い 文の課題図書、ノンフィクションの感動的な話、 て眩しいものや、これから輝くのだろう原石、 様々な本を読んで紹介文を書いたが、優秀賞に 自分にしかわからないような光を放って誘い 選ばれることはなかった。 込んでくる本もある。人がそれぞれに珠玉を見 だが、小学校5年生の秋にとうとう私の紹介 つけて、あらゆる世界へと踏み出すきっかけと 文が優秀賞に選ばれた。そのとき紹介した本は なる、それが図書館である。 いわゆる「先生受け」を狙った本ではなく、 「と そして、その宝石さがしを手伝う一環として、 読書マラソン推進委員会は図書の展示を行っ ている。現在図書館三階にて展示されている ても感動したから誰かと分かち合いたい!」と 感じた本当に大好きな絵本だった。 6月6日に私たち読書マラソン推進委員会 「戦争に関連した図書」は、私たち一年生が主 は東京駅にある丸善に選書ツアーに行ってき 体となってつくりあげた。戦後七十年という節 た。皆様々な本を選んでいた。どの本も、好き! 目の今年、夏にぴったりの読書とし いろんな人に読んでほしい!と感じたものば て、本を選ぶ一つの手がかりとして かりなので、是非私たちが選んだ本にどっぷり くれたらと思っている。 とハマってほしい。 1 本棚から1冊 『モモ』ミヒャエル・エンデ作・絵 ; 大島かおり訳、愛蔵版 岩波書店 2001 年 3 月(請求番号:K943.7-え(子ども福祉図書館)) 紹介者:小田美季社会福祉学部准教授 ミヒャエル・エンデ(1929‐1995)はドイツの作 家である。彼の代表作には、 『ジム・ボタンの機関車大旅 行』『モモ』『はてしない物語』などがある。『モモ』は 1973 年にドイツで出版された。日本語訳の初出版は 1976 年で、その後、愛蔵版や新書も出版されている。 子どもから大人まで幅広い年代の人たちが楽しめるファ ンタジーである。 『モモ』の中表紙には、 「時間どろぼうとぬすまれた 時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語」 とある。モモは円形劇場の廃墟に住みついた少女。モモ がこの町にやってきて、近所の人たちとの交流が始まる と、彼女のところにはいつも誰かが訪ねてきた。それは、モモが相手の話を本当に聞くことがで きるという才能を持っていたからである。しかし、 「時間貯蓄銀行」を名乗る「灰色の男たち」 の出現により、人々は時間を倹約し始め、ゆとりある生活を徐々に失っていく。やがて時間どろ ぼうである「灰色の男たち」とモモの戦いが始まる…。 この物語では、「灰色の男たち」とモモの対決というスリルあふれる展開を楽しめる。それ と同時に、社会福祉で重要視される傾聴や「人と人とのつながり」について考えさせられる。さ らに、時間とライフ(life(英)、Leben(独)。人生、生命、生活。)について立ち止まって考 えさせられる箇所として、以下の語りがある。 「なぜなら、時間とはすなわち生活だからです。そして人間の生きる生活は、その人の心の 中にあるからです。」 (前掲書、p.73) 2005 年出版の新書では同じ箇所が以下のようになっている。 「なぜなら時間とは、生きるということ、そのものだからです。そして人のいのちは心を住 みかとしているからです。」 ( 『モモ』ミヒャエル・エンデ作 ; 大島かおり訳、岩波少年文庫、2005、 p.83) ドイツに次いで『モモ』の発行部数が多いといわれる日本には、エンデの常設展のある黒姫童 話館(長野県信濃町)がある。そこの喫茶「時間どろぼう」で豊かな時を過ごすことは趣がある かもしれない。 2 本学から徒歩 15 分 小説に見る多摩全生園またはハンセン病について 本棚から1冊番外編:3冊+1 『いのちの初夜』北條民雄 1976.8 角川書店(角川文庫) 3階 文庫新書 913.6-ホ 『非常 寒風 雪国抄』川端康成 2015.3 講談社(講談社文芸文庫) 3階 文庫新書 913.6-カ 著者の北條民雄は 22 歳から結核でその生 北條と親交があり「最初の一夜」と題され 涯を閉じる 24 歳までを全生病院(多摩全 た小説を「いのちの初夜」と改題したのは 生園)で過ごした。昭和初期のことである。 川端康成だった。本書所収の「寒風」は、 自らの体験をもとに、ハンセン病患者とし ハンセン病療養所から知人の死の連絡を て入院する最初の1日を小説「いのちの初 受けた語り手が、療養所を訪れ、亡骸と対 夜」として綴った。主人公である尾田と、 面し、帰路に着くまでが描かれる。そこに 世話人である佐柄木との交流を中心に、外 は、院内スタッフや故人の友人とのやりと の世界から切り離される際 りや在りし日の回想が綴 の衝撃が描かれる。当事者 られる。語り手と死者は、 としての圧巻のリアリテ 川端と北條に、ある程度置 ィ! き換え可能である。 『あん』ドリアン助川 2015.3 ポプラ社 (ポプラ文庫) 2階 選書ツアー 913.6-ド 舞台は現代(平成 20 年代半ば)。76 歳の 徳江は、パッとしないどら焼き屋でアルバ 『全生園の森(創立 90 周年記念写真集)』 1999.9 多磨全生園創立 90 周年記念事 イトを始める。徳江の作る“あん”は格別 業実行委員会 で、お店は繁盛しだすのだが・・・。格別 3 階 和書 498.6-タ な“あん”の裏側に秘められた徳江の過去 とは。本書に出てくる「天生園」はもちろ 活字と一緒に、写真もど ん、「全生園」のこと。本書を読むと、ハ うぞ。 ンセン病に関する導入的基礎知識を知る ことができる。2015 年の映画化に際し、 全生園で撮影が行われた。 3 選書ツアーに行ってきました 【2015 年度第1回選書ツアー@丸善丸の内本店】 毎年度恒例となりました選書ツアーも本年度で 5 年目を迎えることになりました。 本年度は、教育後援会から選書ツアーにおける図書購入費用のご支援をいただいております。 6月6日に、学部生 8 人、職員1人の計9人で丸善丸の内本店を訪れ、選定してきました。 選定後、図書館での重複等のチェックを行い、119 冊の図書を受けいれました。 現在2階の選書ツアーコーナーに展示中です。ぜひご利用ください。 選書ツアーは、今後、第2回を秋以降に開催予定です。 興味のある方(学部生・院生)は、図書館スタッフまでお気軽にお声かけください。 「福祉の閲覧室」次号は、2015 年 11 月発行予定 日本社会事業大学附属図書館 ([email protected]) 〒204-8555 東京都清瀬市竹丘 3-1-30 TEL: 042-496-3030 4
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