A分科会 障がい者の異性との対人プログラム

A分科会
障がい者の異性との対人プログラム ~長崎能力開発センターでのからだ探検隊~
発表者
宮原 望・宮本
コーディネーター
宮原
和真・駒田加奈子
春美
能力開発センター
・知的障がい者の職業訓練校(定員:各学年20名
麺製造科 10 名、園芸科10名)
・訓練期間:2年間
・年齢:15歳~(中学校卒業以上)→ 高等部卒業~20代後半が多い
長崎大学医学部保健学科の学生によるからだ探検隊実施
1 回目
~ステキな大人って~
①はじめの会 ②プライベートゾーン ③安心できる距離 ④大人のマナー
⑤ネットとの付き合い方 ⑥のうかい新喜劇 ⑦おわりの会
2 回目
~恋するキモチって~
①はじめの会 ②恋するキモチ ③ふれあいって何だろう? ④のうかい新喜劇
⑤おわりの会
*事前準備を職員も一緒に行い、青年期版(能開版)のからだ探検隊を完成させる
長崎能力開発センター職員によるからだ探検隊実施
全体での実践 ・ステキ大人って(2 回)
、恋するキモチ
夕方の実践
・1つのプログラムを30分~60分の時間で行う
・10月から毎週実施
個別での実践 ・全体の流れについてこられない訓練生に行う
・職業・生活担当者と話し合い実施
<ステキな大人って>
○ プライベートゾーン(場所編、からだ編)
・みんなの場所、わたしの場所とはどういうところなのかを理解し、その場所にあった行動ができる
ようになる(
「わたし」の言葉には「自分」という意味があることを教えてから使用)
⇒ お店や部屋、作業場など実際に利用している場所を写真に撮り、それらを使用して学習する
・からだの正式名称を覚える。プライベートゾーンを理解し、大切なマナーを覚える。
○ 安心できる距離
・日常生活での正しい距離感を理解して社会生活を過ごせるようになる
・距離が近すぎたり相手の体に故意に触ったりすることで感じる嫌悪感などを知る
⇒
2 人一組になり、適切な距離とそうでない距離を実際に体験する
⇒
サークルを使用して距離感を学習する
緑(安全)→自分・ラブな人、黄 →家族・友だち・職員など、赤(危険)→知らない人、初
めて会う人など
・一人一人安心できる距離が違うことを知る
・状況や反応を見ながら応用編も教える(作業中、終礼時など)
○ 大人のマナー(男女別に学習する)
・体の洗い方、マスターベーションのマナー、生理用品、下着の選び方、性器の拭き方などを理解し
て正しい方法を身につける
*マスターベーションの学習は、訓練生の実情を知ってから始める
<恋するキモチ>
○ 恋するキモチって
⇒ 恋するキモチ以外の「好き」な気持ちを聞く(芸能人、家族、アニメのキャラクターなど)
。それ
以上に「好き」な気持ちを「恋するキモチ」と説明
⇒ 恋するキモチになるまでの6つの気持ちについて劇をしながら学習する
① 夢に出てくる ② 胸がドキドキする ③ ずっと見ていたくなる ④ 手をつなぎたくなる
⑤ 一緒にいたくなる ⑥ ずっと考えたくなる
*劇終了後に他にどんな気持ちがあるか意見を聞く。(例:LINE をしたくなる。デートをしたくなる。
結婚したくなるなど)
○ ラブの約束
① 相手も本当にラブか確認しよう ② ラブの相手は一人だけ ③ 落ち着いて考えよう
④ 大人(職員)に相談しよう
○ ふれあいってなんだろう
・ふれあいとはどんなことかを理解し、段階があることを知ってもらう
「目と目」→「手と手」→「手と体」→「口と口」→「手と性器」→「性器と性器(セックス)」
*手と体のふれあいは「ラブ」になってから
○
性器と性器のふれあい(セックス)の条件は?
・働いてお金を稼げるようになってから。子どもが育てられる。自分で生活できるようになってから
相手の気持ちがわかる
*自分もラブな人もお互いセックスしたいという気持ちになったら初めてこのふれあいができる
○
ふれあいの3つの注意点
① 性暴力 ② 望まない妊娠 ③ 性感染症
*具体的な学習内容については、来年度以降の取り組みになる
<からだ探検隊後の取り組み>
・一人部屋ではあるが、なかなか一人になる時間がもてない状況だったため、プライベートタイムを
導入する
*導入後の聞き取りでは、訓練生26名中17名ができて良かったと答え、9名の答えが「変わらない」
だった。半数以上がプライベートタイムを利用している。
<実践後の変化(職員アンケート)>
・共通理解できる言葉ができたことで、普段の支援、アドバイスがしやすくなった
・男女の距離感について意識ができていた
・マナーや体に対する相談を同性の職員にできるようになった
・指摘するところなど「大学生も言っていたよね?」
「約束だったよね?」という声かけをすることで
納得することが増えた
・女子の生理、下着の重要性や対応は上手くなり、失敗が減った
・トイレを汚すことが減った
<今後の取り組み>
・定期的なからだ探検隊の実施
・実践してきた内容から新たなプログラムの作成、実施
・今までの失敗事例、企業のニーズなども取り入れながら能開版のからだ探検隊作り
・訓練生が地域社会で実践して身につくような取り組みをする
<質疑・応答>
Q:障がい者の対人教育とあるが、健常者と障がい者の違い(性に関する事)はあるのか?
また、どのような支援をしていけばいいのか
A:私の意見になってしまうが、性に関して基本的に大きな違いはないと思う。「自分の身を守る」「相
手の身を守る」ためにルールとマナーを教えていくことが大事。障がい者の場合、繰り返し教えて
いくことも大切だと思う。
家庭で一緒にお風呂に入る時やスキンシップを通して「体の大切さ」を教えていく。早い時期か
ら取り組むことが大事だと思う。
Q1:10月頃からマスターベーションを始めたが、からだ探検隊で学習したおかげで一通りの処理が
できている。学校ではしない、家庭のトイレですると取り決めをしているが、登校前などトイレに
行けばする状態になっている。外出前にそうなった場合、途中でやめさせていいのか、それとも最
後まで終わらせた方がいいのか?または、
「登校(外出)前に済ませる」とスケジュールに組み込ん
だ方がいいのか?
Q2:多機能型事業所利用の中1の自閉症の男の子。学校ではしないとなっているため、事業所に着い
ておやつを済ませるとすぐに押入れに入って始める。後処理は男性職員が行う。
全体活動などの際は、勃起している状態でもやめさせて活動に誘っていた。途中でやめさせていいの
かどうか?
A:途中でやめることは難しい。Q1のお子さんはプログラムをすごく守る子。学校でしないための方
策として、朝済ませてから・・でもいいのかなと思う。
事業所は「みんなの場所」
。先ほどの実践発表の中に「プライベートタイム」を設けたということが
あった。
「こうしたらいいよ」という答えにはなりませんが、そういうことを共有し、長くいる事業
所の中で、皆さんで考えていくという方向になるのかなと思う。
A:あくまでも就職を考えた時、仕事中にトイレでされるのは困るし、それをパターン化されても困る。
幼尐期からパターン化されていることを崩すということはとても難しいので、働くということを基
盤に考え、自宅で必ずできる時間帯、夜なら夜と決めていただくといいのでは。
また、プライベートタイムを設けているが、この時間は何をしてもいい時間。このことも参考に
していただければと思う。
Q:訓練期間中のお付き合いは禁止となっているが、これまでに訓練生同士での付き合いはあったのか。
その際、どのように指導したのか。
A:距離が近くなったり、手紙のやり取りなどある。学習する前は「ルールだからダメ」と、とても指
導的だったが、現在は共有キーワードがあるので学習(教育)が中心になっているというところが
大きく変わった。言葉を共有できることは大きなことだと思う。
Q:高齢者の場合、性衝動が大きすぎると薬物でコントロールするという選択肢もある。社会生活に戻
るということを目的とするならば、ある程度普通の人と同じように生活できる状況を作ることも必
要なのかなと思うが?
A:子どもの場合、成長発達の過程の一つとして捉え、薬を使ってコントロールするのではなく、ルー
ルやマナーの方が大事だと思っている。
Q:普段、性教育をする中で、LBGT の事を考える。何か配慮をするとか、最近変わったことがあれば
教えてほしい
A:現在は基礎編をしているところで、多様性の部分にはまだふれていない。今後、DV や性感染症を取
りあげる中に多様性も入れていかなければいけないなと思っている。27年度の夏に向けて、その
応用編に入っていきたいと思っている。
<参加者の感想>
・2年間という有期の施設で、今後、社会で仕事したり、暮らしていくために避けては通れない性に
ついての学びを丁寧に訓練生と向き合って日頃から行っていることにとても感動しました。
・言葉だけでなく、写真や絵などを使っていてとてもわかりやすい内容だったので、訓練生にとって
もとてもいいのではないかと思った。
・知的障がい者の施設だから詳しく行われているのでしょうが、普通小学校や中学校でも行ってほし
い内容だと思った。
・相手の気持ちの確かめ方はどのように教えておられるのか気になりました。
・公共施設のマナー(例えば温泉など)がわかると活動の幅が広がるのかなと思います。時々相談を
受けます。
・とても理解しやすいプログラムで、子どもに対応する際の参考になりました。ありがとうございま
した。
・早期からの教育の大切さを再確認しました。そための取り組みを考えていかなければならないと思
います。
・早期からの教育がなされず成人になった方への支援、難しいですね。
・障がい者当事者が性をどう学習しているのか、また、どう捉えているのかの体験談をお聞きしたい
です。
・障がい者同士での会話(健常者)がないと思います。
・自分(51歳)が聞いていても、子どもの時にこんな性教育があったら全然丌安に思わず、もっと
前向きに恋愛を考えられただろうなと思いました。
自閉症で生活介護の事業所に通う息子を持ち、ここまで来るまでに様々な課題にぶち当たり、その
都度、様々な方に支えられ、今、性教育研究会に所属しているところですが、重度の子にもできる
ところがたくさんあったので、事業所の指導員とともに尐しずつ取り組んでいきたいと思います。
・現在、多機能型事業所で学童を対象に日々悩み多いところでしたが、その後、彼らが就労につなが
り、青年期までにルール、マナーを身に付けられるのか!?とても参考になりました。
・すごくわかりやすい説明でした。施設(訓練所)での取り組みでここまでやっているところは他に
ないと思うし、わかりやすく何度も繰り返し・・・というところも大切だと思いました。
訓練生が卒業した後の行動にすごくつながることですし、他の事業所や、できれば学校でも取り組
んで欲しいと思いました。
・いろいろな場所に性教育に行かせていただいていますが、今年度は特別支援学校や児童養護施設な
どの新たな場での性教育を経験しました。何をどうしていいか迷っていましたが、本日のセミナー、
大変参考になりました。
・能力開発センターの職員の皆様の努力、利用者さんの社会性や生活を見据えた教育内容をご紹介い
ただきありがとうございました。具体的に、日常生活の中でも繰り返しここまでしなければいけな
いのかと考えさせられました。