近距離無線応用による現場作業の効率化 - 東芝ITコントロールシステム

−物品の位置情報・属性情報を遠隔自動認識し効果的で効率的な現場作業管理を実現−
近距離無線応用による現場作業の効率化
(物品所在管理システムとプッシュ型エリア情報配信システム)
東芝 IT コントロールシステム㈱
1.はじめに
情報のデジタル化、ネットワーク化がいかに進も
うとも、製造業にとって素材・部品・半製品・製品
芦川栄晃/指田吉雄
ている。しかし、この 2.45GHz タイプでも電波伝搬
特性上、見通し距離で 5m 程度の例が多く、物陰とな
る場所へは電波が届きにくい。
といった「モノ」を企画・調達・設計・製造・試験・
当社では、より遠距離で物陰にも電波が届きやす
販売・保守・廃棄に至るまでのライフサイクルにお
いものとして従来タイプとは異なる 300MHz の微弱
いて、
「動き」としてアクチャルに取り扱うことは重
電波を用いたRFIDを新たに採用して応用システ
要である。
ムを開発した。中距離タイプRFIDに当社固有の
現場の「モノの動き」として、今何処に、どんな
アンテナ技術をプラスした独自方式によって、受信
状態で、どんな品質で置かれているのかが統一した
可能距離約 30m(環境条件により変わる)を実現し
情報として自動的に入手できるツールや、更に加工
た。
した新たな情報を、必要とする場所の、必要な相手
先に、プッシュ型で自動配信して、互いに情報を共
有できるツールがあれば、各種アプリケーションへ
の適用と様々な作業支援が可能となる。
製造・試験検査・品質管理・生産管理・物流・保
全・工務など各部門の現場作業を支援ツールによっ
て効率化させることは、操業や経営の変革に必要な
ファンダメンタルズの一つである。
当社では、現場での「モノの動き」を効率的に知
表1 本方式と他の無線タグ方式特徴比較
項目
無線周波数
検出距離
物陰探索
同時読取個数
距離調整
コスト
他の無線タグ方式
2.45GHz
125KHz,13.5MHz
約5m程度
数10cm程度
不可(見通範囲) 距離不足
複数
一般には1個
可変可能
固定or僅かな範囲
高
低
本無線タグ方式
303.8MHZ
約30m
可能
複数
可変可能
中
2.2 システム構成と主要諸元
的管理する支援ツールとして、機動性・簡便性の視
図1に本システムの基本構成を示す。広い場所に
点から無線技術応用をベースとしたシステム機器を
置かれている物品にRFIDを取り付け、高利得の
開発している。
アンテナとRFID受信機を組み合わせている。
これらは微弱電波又は小電力を利用し物品に取り
無 線 タグ
つ け た 無 線 タ グ ( RFID : Radio Frequency
R FID
IDentification)にて識別を行い、付帯情報・位置
情報を読み取ることで「モノの動き」を管理する。
R FID
アンテナ
探 索エリア
この応用事例として、物品所在管理システムとプッ
シュ型エリア情報配信システムについて以下に紹介
する。
2.物品所在管理システム
R FID
無 線 タグ受 信機
図1 物品所在管理システムの基本構成
2.1 本システムにおけるRFIDの特徴
近年ユビキタス社会の発展に伴って、RFIDが
表2に本システム機器の諸元を示す。RFIDは
脚光を浴びている。RFIDは、近接型として
電池搭載で 7 桁のアルファベットIDを一定時間ご
125KHz、13.5MHz を使用したタイプと、比較的距離
とに送信し続けている。受信機は複数のRFIDを
がとれる 2.45GHz 帯を使用したタイプが主流となっ
同時に読取可能であり、タグ数が少ない程、読取時
や、あらかじめ探索したい物品をプリセットするこ
間を短くできる。
とも可能である。
表2 物品所在管理システム機器の主要諸元
RFID(無線タグ)
項目
受信機
諸元
無線種別
項目
微弱電波
図3は、倉庫内の全平面をカバーできるよう所定
諸元
エリア毎にRFID受信機を固定設置した物品在庫
電源
AC100V/DC12V、
又は単三電池×4(充電回路付)
管理システムの例である。本事例では、各無線タグ
指向性八木アンテナ,無指向性ホイップアンテナ
がどのエリアに存在するかをサーバ側でリアルタイ
無線周波数 303.8MHz
電波範囲
約30m
アンテナ
データ種別
固定データ
感度調整 8ステップ調整可能
電池寿命
2∼5年
読取動作 複数タグ同時読取可能
IDコード数
約80億
端末
2.3
(2)物品在庫管理システム
ムに集中監視でき、物品の在庫、棚卸の管理が可能
Windowsパソコン、又はPDA(PocketPC)
である。
応用例
(1)遠隔物品探索システム
HUB
図2は、アンテナに指向性のものを適用して物品
の所在方向を遠隔で的確に検知できるようにした物
品探索システムの例である。
HUB
RS232c/Ethernet変換器
受信器
指向性アンテナ
無線タグ
無線タグ
受信機
R FID
無線タグ
R FID
TAG
指向性探索エリア
無線タグ
PDA
TAG
約30m
無線タグ
受信機
PDA
指向性アンテナ
走行
探索
無線タグ
走行
R FID
R FID
エリア1
エリア2
・・・
エリアn
探索
指向性探索エリア
走行
探索
なお、このシステムは「モノの動き」についてだ
指向性探索エリア
R FID
R FID
図3 物品在庫管理システム例
走行
無線タグ
けでなく、
「ヒトの動き」の管理にも応用出来る。入
退室・在室管理といったセキュリティ管理、あるい
は現場パトロール状況管理といった労働安全管理の
図2 遠隔物品探索システム例
本システムはPDA(携帯情報端末)とRFID
受信機、高利得指向性アンテナをフォークリフトに
面にも役立てられよう。
3. プッシュ型エリア情報配信システム
3.1 システム概要と特長
搭載している。
約 500g のポータブルタイプRFID
本システムは作業エリア内で当該作業に必要な
受信機とPDAの組合せによって小型軽量化をはか
物品識別と情報管理を即座に行うことにより、作業
り実用性に配慮している。
効率と生産性の向上を図ることを目的としている。
フォークリフトで探索走行することによって、受
前述の中距離RFID、アンテナ、受信機の組合せ
信機が物品に取り付けたRFIDの情報を読み取り、
に加え、エリア限定された通信手段として
それがPDAへ表示される。受信機の感度を調整し
Bluetooth 無線によるPDAへの情報配信機能を応
て電界強度を計ることで、大まかな遠近識別も可能
用している。物品個々にRFIDを取り付けること
である。PDA搭載のアプリケーションソフトはユ
により、
多数の物品の検知と識別管理ができ、
また、
ーザーニーズに対応させてカスタマイズを行う。R
指向性アンテナにより電波範囲を限定し、必要な場
FIDと物品を関連付けた管理データベースの実装
所毎に必要な情報を配信できる。
本システムの主な特長は次のとおりである。
①省電力で狭小範囲向けの Bluetooth 無線を採用し
た結果、PDAの長時間運用を可能にし、プッシ
3.3 応用例
(1)配送作業への応用
図5は、物流業での倉庫内作業に適用した想定例
ュ型情報配信を実現した。
②構成要素(PC、PDA、Bluetooth、RFID、指向
である。倉庫内保管エリアでは作業者が所定の場所
性アンテナで構築可能)が簡素で安価である。
(ワイヤレスワークスポット)に入ると、RFID
③設備のメンテナンス指示、組立現場やピッキング
を検出して、出荷計画を基に作業者へのピッキング
での作業指示など広範囲なアプリケーションに
指示をPDAに表示する。集められた物品は出荷エ
適用できる。
リアに運ばれ、出荷エリアでは同様に配送先・品名・
④既存システムとの組合せで多様な用途に展開が可
数量などの出荷作業指示を与える。
能で、拡張性に優れる。
3.2 システム構成と主要諸元
図4にシステム構成を示す。Bluetooth 無線は、
半径約十数 m の範囲を標準とするが、エリアを限定
する必要から指向性アンテナを適用して数 m 程度
に狭めた。RFID受信機と Bluetooth アクセスポ
イントは各作業エリアに配置される。RFID受信
機がRFIDを検出するとそのIDをサーバPCに
ピッキング指示N
O.
製品コード
製品名
数量
出荷先コード
RFI
送り、サーバPCはデータベースなどのアプリケー
ションと連携して、その作業に必要な情報(作業指
示、物品付帯情報など)をアクセスポイントよりP
DAに送信する。PDAには情報がプッシュ表示さ
ワイヤレスワークスポット
図5 倉庫内作業への適用例
れるので、作業者の呼び出し操作が不要となり、操
(2)組立検査工程作業への応用
作ミスもなく情報伝達時間が短縮される。
PDA情報配信系のシステム機器諸元を表3に
図6は、製造業での最終組み立て検査工程に適用
した想定例である。検査エリアに運ばれてきた製品
示す。
に付けられたRFIDを検出し、事前にサーバに入
力されている品質情報を基に、サーバから検査作業
サーバPC
者のPDAへ製品個々について作業指示を与える。
検査の結果、不良が発見された場合、検査作業者は
LAN
PDAからその状況データを入力しサーバへ送る。
Bluetoothアクセス
RFID受信機
指向性アンテナ
ポイント
加修工程へ回された製品は、そのRFIDが検知さ
れると、サーバから不良状況とその作業指示が修理
Bluetooth無線
RFID
#1
PDA
RFID
#n
図4 プッシュ型エリア情報配信システム構成
表3 情報配信系システム機器の主要諸元
作業者のPDAへ表示される。
このように、物品の移動する位置(エリア)と作
業情報とを効果的に結びつけることができる。
4.本ソリューションの有効活用と導入効果
生産や物流の現場で生産計画が期待通り機能しな
項目
内容
サーバ OS
Windows 2000 以降、 または Linux
い要因としてモノ、ヒト、情報が必要なタイミング
アクセスポイント
Bluetooth v1.1 – Ethernet
で必要な場所に配信されないことがあげられる。作
アンテナ
内蔵無指向性または外装指向性
業におけるムダな時間について集成材生産工場の作
電波範囲
数 m∼十数 m
業時間を分析した表4の報告データ例1)があるが、
価値を創出する時間割合は 14%に留まっている。
RFID、無線伝送を組合せたものへの転換が進ん
表4 作業時間の分析例
①
②
③
④
付加価値が発生している時間
歩いている時間
手待ちの時間
モノを探している時間(その他)
でいく。今後の製造業における現場作業の革新を本
14%
42%
19%
25%
ソリューションが担うことを確信する次第である。
注)本稿における製品名、商品名は各社の商標ま
たは登録商標である。
本稿で紹介したツールの事例では、モノのロケー
ションを含む状況情報、指示ガイダンス等を適時に
適量だけ適所、適者にPDA等を介して配信する。
<参考文献>
このような情報の一元管理と連携は、④のモノ探し
1)小池克昌:
「管理することの大切さを痛感」
『工
ロス、②の動作ロス、③の管理ロスを低減させ、現
場管理』2003 年 1 月号,Vol.49,No.1,p36-39 日
場作業の効率化・容易化・均質化を実現させる。工
刊工業新聞社(2003)
程管理・品質管理・在庫管理などの各システム間で
情報を共有・交換・変換する場合でも、情物一致し
た情報データであってこそ、情報連携が真に全体の
生産性向上に繋がる。
5. おわりに
RFIDを応用し、作業現場での「物の動き」を
効果的かつ効率的に管理する 2 種のシステムを紹介
した。日本のモノづくりの原点は現場・現物・現実
の三現主義にある。新時代の新三現管理では従来の
バーコード・紙・人によるものから、ITツールと
・品質情報管理⇒特定検査対象者に対する指示
・作業内容指示
・物品位置情報
サーバ
Bluetooth
AP #1
状態:
製品コード
ロットNO.
S/N
組立オプション
RFID受信機
状態:Repair Line Out
加修有無:不良コード
製品コード
ロットNO.
S/N
製品コード
ロットNO.
S/N
加修有無:不良コード
加修内容
検査方法
戻入場所
製品コード
ロットNO.
S/N
検査パターン
検査結果
RFID
RFID
RFID
Bluetooth
AP #1
RFID受信機
状態:加修工程到着
加修有無:不良コード
製品コード
ロットNO.
S/N
OUT
RFID
RFID
製品コード
ロットNO.
S/N
検査パターン
検査項目
RFID
RFID
IN
状態:Line In
製品コード
ロットNO.
S/N
組立,検査ライン
組立,検査ライン
RFID
加
加修
修工
工程
程
図6 検査工程への適用例