電波吸収舗装を用いたETC通信エラーの改善に向けた施工事例 (11月

1084
第29回日本道路会議
電波吸収舗装を用いたETC通信エラーの改善に向けた施工事例
福岡北九州高速道路公社 北九州事務所
奥野
時雄
同
清原
洋一
○ 臼杵
文昭
鹿島道路(株)九州支店
1.はじめに
ETC(電子料金収受システム)は、無線通信を利用して車両と料金所のシステムが必要な情報を交換し、
料金の収受を行うものであり、ITS(高度道路交通システム)の一つである。2001 年に一般利用が開始さ
れたETCは、対応料金所の増加,車載器の価格低下および割引制度の拡充などの要因もあり、利用率 86.5%
(全国値・2011 年 4 月時点)と急速に普及してきている 1)。ETCは、料金所付近の交通渋滞の解消や様々
な経済効果が期待される一方、その供用面においては、通信用電波が周辺構造物によって多重反射し、所定
の通信領域外で車載器と通信を行ってしまう場合があることがわかっている。
本文では、都市高速道路における料金所の舗装修繕工事において、上記のような不具合に対し、舗装路面
からアプローチできる電波吸収舗装を活用し、通信エラーの改善に向けて取り組んだ施工事例について述べ
るものである。
2.対策箇所
対策箇所は、福岡県北九州市に建設された指定都市高速道路である「北
九州高速道路」のうち、5号線に設置された大谷料金所である。本料金所
は、八幡東区の中心に位置し、皿倉山や大型アミューズメント施設に近接
することから、路線内でも利用者が多い料金所の一つである。
本料金所は、写真-1に示すように、鋼製桁による高架型の本線および
ランプの下方に位置する。さらに、その側方には鋼製の橋脚がある上、発
信アンテナ直下の舗装は連続鉄筋コンクリート舗装となっていた。このよ
写真-1 対策前の大谷料金所
うな立地条件の場合、通信アンテナから発射された通信用電波は、周辺構
造物によって乱反射しやすくなる。現実にも、車両の通行時における通信エラーが散見されていたことから、
上方の鋼製桁に電波吸収パネルを設置するなどの対策を実施したが、通信エラーの改善には至らなかった。
3.電波吸収舗装
上記のような経緯もあり、本対
策箇所の舗装は、電波吸収舗装を
切削 60
連続鉄筋コンクリート舗装
表層 排水性アスコン(13)
基層 電波吸収アスコン(13)
40
40
連続鉄筋コンクリート舗装
採用することとし、舗装路面から
通信エラーの改善対策を図ること
とした。舗装構成は図-1に示す
対策前
対策後
図-1 電波吸収舗装の舗装構成(単位:mm)
とおりである。基層に使用した電波吸収アスコンは、首都高速道路などにおける施工例 2)をもとに配合設計
を実施し、混合物中に人造黒鉛(最大粒径 10 mm)を配合したものを用いた。
なお、この舗装構成は、図-2に示すような効果を期待し、設定したものである。発信アンテナから発射
された電磁波(5.8GHz)は、表層に使用した排水性アスコンの中に進入する。この際に、進入した電磁波は、
第29回日本道路会議
舗装体内の空隙によって、散乱して減衰する。さら
反射電磁波
の減衰
電磁波
5.8GHz
に、進入を続ける電磁波は、基層に使用した電波吸
収アスコンに吸収される。吸収されなかった電磁波
は反射するが、表層の舗装体内の空隙によって、さ
排水性アスコン(13) 散乱
散乱
らに散乱して減衰する。これらの作用により、反射
する電磁波は、発射された電磁波と比較して、わず
かとできる仕組みである。
電波吸収アスコン(13)
吸収
連続鉄筋コンクリート舗装
図-2 電波吸収舗装の効果イメージ
4.対策結果
本対策箇所における電波吸収舗装は、写真-2に示すとおり、2011
年 2 月に施工した。現時点では、供用状況に特に問題はない。
また、通信エラーの改善効果については、対策箇所において、移
動式の受信電力測定装置により、発信アンテナからの受信電力を測
定することで確認した。測定は、対策前を 2010 年 2 月に行い、対策
後を 2011 年 2 月に行っている。測定結果は、図-3に示すとおりで
あり、このことから以下のことが言える。
写真-2 対策後の大谷料金所
(2011 年 4 月時点)
(1)対策前は、発信アンテナから 15~20m手前の範囲において、受
信電力が-60~-75dBmとなっていた。ETC対策工法書 3)に
よれば、「通信領域外において受信
しており、受信を必要としない箇所
で電波受信を行っている可能性があ
5m
1.5m
1.5m
車両進行方向
前に発生していた車両の通行時にお
囲が影響していた可能性が高いと言
4m
対策前
ったと考えられる。すなわち、対策
けるETCの通信エラーは、この範
6m
10m
電力を-75dBm以下にすること」と
車両検知器
発信アンテナ
1.5m
対策後
1.5m
える。
(2)対策後は、発信アンテナから 4~20
m手前の範囲において、受信電力が
-75dBm以上となる箇所は、ほぼ解
消することができた。このため、本
凡 例
-75 -65 -60 -55 -50 -45
受信電力(dBm)
ETCが作動 極めて
低い
極めて高い
高い
する可能性
低い
図-3
受信電力の分布平面図
対策箇所では、電波吸収舗装を採用
することで、一定レベルにおいて、電波の乱反射を改善できたと言える。
5.おわりに
本対策によって、対策箇所における電波の乱反射は、一定レベルで改善できた。現在、ETCの通信エラ
ーが解消されているか検証しているところである。今後も、道路のユーザーは道路利用者である「すべての
市民」であることを再認識しながら、すべての市民に愛される道路づくりを心掛けて行きたいと考える。
【参考文献】1)国土交通省道路局HP:ETCの利用状況(速報値),2011 年 5 月
2)坂田他:酸化鉄ダストを用いた電波吸収舗装の現場への適用事例、舗装 39-11,2004 年 11 月
3)日本道路公団:ETC対策工法書,2000 年 10 月