2015年度日本建築会大会(関東)で、論文を発表

日本建築学会大会学術講演梗概集 (関東) 2015 年 9 月 40151
WIB 工法による鋳造工場振動対策
正会員
工場振動対策
性能設計
WIB 工法
振動測定
竹宮 宏和*
同
高岡 雄二**
同
原田 浩之**
うなり現象
1.まえがき
某工場の鋳造棟内の製造機械の稼働に伴う振動によっ
て,隣接する S 造 4 階建て事務所棟において有感振動が
生じていた.その振動を低減させるために,振動伝播経
路において WIB 工法による振動対策を実施した.本報告
図2
では対策前後における振動測定結果と,WIB 工法による
振動測定位置
振動低減効果について報告する.
録サンプリングは 1/512s とし,収録波形のデジタル処理
2.対策概要
においては,振動レベルは 630ms の時定数で指数平均し
図 1 に鋳造棟と事務所棟の配置ならびに WIB 工法によ
たオールパスの最大値,1/3 オクターブバンド分析におけ
る対策工の施工範囲を示す.ここで WIB 工法の仕様は,
る 0-P 値は各周波数帯域における加速度振幅の最大値(+
シミュレーション解析に基づき 15dB 程度の減振効果が得
側と-側の平均)とした.
られるものとした.また,構成セルの施工には機械撹拌
4.対策前の振動測定結果
による柱状改良工法を採用することとした.なお,鋳造
図 3 に事務所棟 4 階の加速度時刻歴波形を示す.鋳造
棟内で発生する振動は,事前の調査により,主に仕掛り
棟内で発生した振動は,地盤を伝播して隣接する事務所
品の付着ダストの振い作業(自由落下と振動ローラー上
棟へと伝わり,3 階,4 階では床スラブと共振して,うな
移動)によるものであることが確認されている.
り現象を伴う有感振動を生じさせている.ここで,床ス
3.振動測定の概要
ラブの構造は小梁 2 本が配置された 7m×7mのデッキ合
振動測定は,振動源から経路地盤,事務所棟 1 階から 3, 成スラブである.
4 階への伝播性状が捉えられるように,図 2 に示す 8 測点
図 4 に加速度のフーリエスペクトルを示す.9.5Hz と
(直交 3 成分/1 測点)で同期を取り行った.データの収
10.7Hz の近接した位置に明瞭なピークが存在しており,
これら 2 つのピークがうなり現象を生じさせている.
図 5 に振動加速度レベルの 1/3 オクターブバンドスペク
鋳造棟
トルを示す.同図には振動の目安として日本建築学会の
居住性能評価指針の性能評価曲線を併記している.フー
リエスペクトルに見られた 2 つのピークは中心周波数
10.0Hz 帯域に吸収されて 1 つのピークとなり,3 階,4 階
では V-90 を大きく上回っている.
事務所棟
10
10.7Hz
9.5Hz
加速度(Gal)
1
0.1
0.01
0.001
1
10
周波数(Hz)
図4
図1
事務所棟 4 階のフーリエスペクトル(対策前)
建物の配置と WIB 工法の施工範囲
Mitigation of Casting Factory Vibration by WIB Construction
TAKEMIYA Hirokazu, TAKAOKA Yuji, HARADA Hiroyuki
― 307 ―
事務所棟(4階中央) : 対策後
15
10
10
加速度(Gal)
加速度(Gal)
事務所棟(4階中央) : 対策前
15
5
0
‐5
5
0
‐5
‐10
‐10
‐15
‐15
0
5
10
15
20
25
30
0
5
10
15
時間(s)
20
25
図 3 事務所棟 4 階の加速度時刻歴波形(対策前)
図6
90
事務所棟 4 階の加速度時刻歴波形(対策後)
90
V‐10
V‐10
80
80
V‐30
70
V‐50
60
V‐70
50
V‐90
40
振動源付近
30
1階
20
[0‐P]振動加速度レベル(dB)
V‐30
[0‐P]振動加速度レベル(dB)
30
時間(s)
70
V‐50
60
V‐70
50
V‐90
40
振動源付近
30
1階
20
3階中央
3階中央
10
10
4階中央
4階中央
0
0
1
10
100
1
10
周波数(Hz)
図5
100
周波数(Hz)
1/3 オクターブバンドスペクトル(対策前)
図7
1/3 オクターブバンドスペクトル(対策後)
表 1 に各測点における振動レベルを示す.事務所棟内
表 1 に対策前後における振動レベルの変化を示す.表
では 70dB を超える有感振動が生じているが,振動レベル
中には対策前後の計測時における振動源の加振力の違い
の要求値は,振動を感じ始める閾値とされる 55dB 程度で
を振動源付近の振動レベルを用いて調整した「対策前の
あるため,減振効果 15dB を対策工の設計目標とした.こ
調整値」と「対策後の調整減振量」も示している.1 階外
こで,表 1 に示したシミュレーション解析による予測減
部における調整減衰量を見るとシミュレーション解析に
振量は 11dB であり目標とした 15dB まで達していないが, よる予測減振量 11dB よりも大きく 13dB になっている.
シミュレーション解析では減振効果を安全側に小さく見
これは実際には 3 次元で発揮される WIB 工法の構成セル
積もるため,実際には 15dB 程度の減振効果が得られるも
の制振効果が,シミュレーション解析では 2 次元でしか
のと判断した.
考慮されていないためと考えられる.
表1
鋳造棟
評価
項目
場所
事前実測値
振量 12dB に比べ,3 階中央,4 階中央での減振量がそれ
事務所棟
振動源
付近
シャッター
付近
外部
Lv
66.0
65.4
無対策
Lv
69.4
誤差
ΔLv
-3.4
無対策
図 8 に事務所棟内における減振効果を示す.1 階での減
振動レベルの一覧
1階
3階
4階
壁際
壁際
中央
壁際
中央
59.2
55.9
56.5
72.7
59.8
73.9
69.1
61.9
58.9
58.2
75.6
62.5
77.6
-3.7
-2.7
-3.0
-1.7
-2.9
-2.7
-3.7
シミュレーション値
Lv
*
69.1
51.0
48.0
47.3
64.7
51.6
66.7
ΔLv
*
0.0
10.9
10.9
10.9
10.9
10.9
10.9
対策工
Lv
67.2
65.0
47.4
45.5
47.2
57.9
47.9
57.1
減振量
対策工
予測減振量
ぞれ 16dB,18dB と大きくなったのは,床スラブでの振動
増幅に繋がる 10Hz 前後の振動成分が低減され,うなり現
象が解消されたためである.
80
70
ΔLv
-1.2
0.4
11.7
10.4
9.2
14.8
11.9
16.8
対策前の調整値
Lv
67.2
66.6
60.4
57.1
57.7
73.9
61.0
75.1
対策後の調整減振量
ΔLv
0.0
1.6
13.0
11.6
10.4
16.0
13.1
18.0
振動レベル(dB)
事後実測値
5.対策後の振動測定結果
60
50
40
30
図 6 に事務所棟 4 階の加速度時刻歴波形を示す.対策
前に現れていたうなり現象はなくなり,振動振幅も大幅
1階
3階中央
4階中央
対策前
55.9
72.7
73.9
対策後
45.5
57.9
57.1
図8
に低減されている.
図 7 に振動加速度レベルの 1/3 オクターブバンドスペク
事務所棟内における振動レベルの比較
6.むすび
トルを示す.対策前に比べ振動加速度レベルは大きく低
鋳造工場に隣接する事務所棟の振動対策に WIB 工法を
減されており,日本建築学会の居住性能評価曲線の V-30
実施した.その結果,目標減振量 15dB に対し,最大で
程度の大きさとなっている.なお,振動源の同一性は,
18dB の減振効果が得られ,事務所内の振動環境が改善さ
振動源付近における振動性状が対策前(図 5)とほぼ同じ
れた.E&D テクノデザイン(株)の黒柳真司氏、小松弘明
であることから確認できる.
氏には設計と振動計測業務で協力をして頂いた。
* E&D テクノデザイン(株)
**三井住友建設(株)
* E&D Techno Design
** Mitsui Sumitomo Construction
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