江戸・東京の神社にみる都市の緑への貢献宮川隆良 1. 研究の背景・目的神社の起源は神の住む禁足地などでの祭事の際に臨時に建てた神籬(ひもろぎ)などの祭壇と言われており，非常に古くから存在している．神社が存在し続けていることは私たちの生活と深く関わっていることを示している．自然の中に神々が祀られているという考え方は自然を守る活動につながっている．神社は鎮守の森と呼ばれ，自然崇拝のシンボルとしても捉えられてきた．都心においては，歴史と自然を感じられる貴重な財産であり公園と共に緑を提供する空間でもある．しかし近年，都心の神社は縮小が進み，その面積は減少傾向にある．本研究は東京都心における過去から現在の神社の位置，面積の変化，神社の位置する地形条件(特に高低差)を調査し，そこから都市の緑の保全について神社の果たす役割および貢献について考察することを目的とする． 2. 研究方法研究の流れは，図１に示す通りである．「対象神社の選定」は過背景・目的去の江戸の範囲である朱引図内，さらにその中でも人口の集中している町奉行所の支配範囲である墨引の範囲内とする．「対象神社の概要把握調査・GIS データの構築」は，国土地理院の平成１８年度の基盤地図情報より平成１８年度の神社，復元江戸情報地図（朝日新聞社刊） G IS データの構築現地調査より安政３年(１８５６)の神社を抽出する．また，地形図を地理情報システムに入力し，抽出した神社の位置および広がりを重ね合わせ，江戸時代に現在で面積にどのような変化が起きたのかを調べ，江戸・現在の変化の解析結論・考察更に，江戸期にあった神社が遷座しているものについても明らかにする．最後に，それらの変化を通して，神社が有する特徴について，図１フローチャート緑の保全および地形的立地条件という観点から考察を加える． 3. 調査結果平成１８年度(図２)と安政３年(図３)の１１区の全体の地図を比較してみると，どちらも万遍なく神社が配置されており，神社という日常的存在の特徴が分かる．また，地域をズームアップして千代田区(図４)と新宿区(図５)に注目し，安政 3 年の神社と重なっている平成 18 年度の神社を残存している神社，そうでないものを安政 3 年以降に建設・移転された神社とした．千代田区の残存している神社(日枝神社、神田明神等 8 社)を見てみると，多くが高低差の大図２平成１８年度神社配置図図３安政三年神社配置図きい地形に位置していることがわかり，平均して５ｍの高低差がある一つ一つを安政 3 年の時の面積と比較してみると，柳森神社と太田姫稲荷神社を除き 6 社の神社の面積が減少している．全体でおよそ 5 割程度減少している．安政 3 年以降建設・移転された神社(お玉稲荷社等 15 社)は，高低差がほとんどなく，平均して 1,3ｍ，12 社の神社の高低差が 0ｍになっており，平地に位置していることがわかる．また靖国神社，東京図 4 平成 18 年度千代田区神社配置図図 5 平成 18 年度新宿区神社配置図大神宮，金山神社，花房神社を除く 11 社が稲荷神社である．面積的にみると 100 ㎡以下の小さい神社が目立ち，平地であることにより遷座し，縮小が進んでいると判断できる．また，新宿区の残存している神社をみてみると(表１新宿区の残存している神社の面積・高低差)，千代田区同様に高低差のある神社が多く残っている．高低差の平均も 4,73ｍあり，面積も新宿の中で広いものが残存している．神社を一つ一つ比較すると，穴八幡神社，成子天神社，鎧神社を除く神社 17 社が減少している．安政 3 年以降建設・移転された新宿区の神社(表２新宿区の建設・移転された神社の面積・高低差)は高低差がほと図６新宿区の残存している神社の面積変化んどなく，平均して 0,6ｍ，13 社の神社の高低差が 0ｍになっており，平地に位置していることがわ表 1 新宿区の残存して表 2 新宿区の建設・移転さかる．面積的にみると新宿区において小さい神いる神社の面積・高低差れた神社の面積・高低差社が目立ち，平地であることにより遷座し，縮小が進んでいると判断できる． 4 結論・考察神社は，高所にそれも高低差があり，自然を敬う神社の本来の姿を残したまま都内の緑地の維持に貢献していることがわかった．しかし平地に存在する神社は多くが遷座，縮小を繰り返し緑の減少が著しかった神社の建立は，その地域での重大事件や祝い事をエポックとして記録し，残すためになされるケースが多い為極めて地域性が高い．神社はその価値ゆえ，なくなることなくほとんどのものが災害，戦火を経ても存在し続けている．しかし平地に存在する神社は多くが遷座，縮小を繰り返し緑の減少が著しかった．