社会系教科教育学会『社会系教科教育学研究』第13号2001(p.135) 【書評】 池野範男著『近代ドイツ歴史カリキュラム理論成立史研究』 (風間書房,2001)21,000円 Iv.HVII iI「 (兵庫教育大学) 本書は,池野範男氏が1998年に広島大学に提出 した学位論文を補訂し公刊されたものである。タ イトルからして,かなり難解な専門書を想像する 読者もいるかもしれない。確かに,近代ドイツで (二)学校カリキュラム論と歴史カリキュラム論 成立した歴史科と歴史カリキュラム理論を特定し, その構造と社会的機能を明らかにしようとする本 研究は,わが国はもとよりドイツにおいてさえこ 終総括と課題(参考文献あとがき) 本書が研究対象とするのは, 1750年代から1820 れまで手つかずにあったと言われ,きわめて独自 性に富んだ専門書であることは疑いない。 ラウシュにより提起された三段階歴史カリキュラ だが,本書は単なる記述的研究ではないし難解 でもない。なぜなら,そこには著者の歴史教育に 対する明確な問題意識が反映されており,読者は 本書を通して自らの歴史教育経験や歴史教育観を 自問自答せざるをえなくなるからである。本書が 歴史研究でありながら,すぐれた教科教育学研究 として評価される所以もそこにある。 本書の章と節を示せば,以下のようになる。 序本研究の意義と方法 - 18世紀後半ドイツの歴史教育の状況と課題 (-)学校カリキュラムと歴史科 (二)歴史科の導入と課題の成立 二歴史内容領域の変革過程 (-)歴史内容領域における課題 (二)神の歴史としての普遍史教授論の展開 (≡)人間の歴史としての世俗史教授論の開発 のレベルで繰り返し学習する-こそが,近代歴史 三歴史教育内容編成論の展開過程 (-)歴史教育内容編成における課題 (二)広領域総合教科としての歴史科論 (三)出来事教授としての歴史科論 (四)理念的解釈教授としての歴史科論 (五)一般的規則・枠組教授としての歴史科論 (六)小括 四近代歴史カリキュラム理論の成立過程 (-) 1790年代以降の歴史カリキュラムの課題 の関係 (三)近代歴史カリキュラム理論の成立 (四)近代歴史科の特質 年代のドイツである。それは,この時期にコール ム理論一歴史を伝記的,民族誌的,普遍的の三つ 教育の基本型をなしたと考えるからである。 著者はその形成過程として,一章で近代歴史科 が成立するための二つの課題-内容の革新と編成を,二章で第一の課題である歴史教育内容の開発 過程,三章で第二の課題である歴史カリキュラム の開発過程をそれぞれ類型的に描き出す。そして 四章では,二つの課題を踏まえて成立した近代歴 史カリキュラムの理論的特質と,政治的陶冶とし ての歴史教育の意義を明らかにしている。 では,なぜ近代ドイツなのか。 (D近代学校教育 で最初に歴史教育が位置づけられたのがドイツで あること, ②わが国への影響が大きかったこと, ③そこで成立した歴史教育理論は現在にも受け継 がれていること,を著者は指摘する。ここからも, 著者の最大の問題関心は過去のドイツにではなく, 現在の日本にあることが窺えよう。わが国の歴史 教育が直面する問題の本質を見極めようとするか らこそ,成立期の歴史カリキュラムの構造と社会 的機能を問うのである。まずは「事実」として, 次いで別の「可能性」を探る試みとして。この 「可能性としての歴史研究」にこそ,著者の真骨 頂が現れているように思う。是非多くの方が熟読 吟味されることを期待したい。 -135-
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