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チームで支えよう パーキンソン病
パーキンソン病とリハビリ
(
インタビュー ▶
阿 部 仁紀
)
楽しいと身体が動く
好きなことを大切に
医師
表 1 パーキンソン病のリハビリテーションの基本
表 2 ホーン&ヤールの重症度分類
◦できるだけ体を大きく動かす。姿勢を伸ばす。音楽に合わせた
1度
リハビリ(ラジオ体操など )も有効。
◦ヤールステージに合わせたリハビリを行う。
2度
◦ヤール 3( 転倒しやすい )となったら注意する。
◉ 横浜なみきリハビリテーション病院 院長(神奈川県横浜市)
編
症状は体の片側で、 機能的障害はな
いか、あっても軽度
体の両側に症状があるが、姿勢保持の
障害はない
◦ウエアリング・オフが出たら、オフ時には無理をしない。
パーキンソン病は進行性の疾患ですが、適切な薬物療法と運動機能を低下の抑える
ことで、日常生活を送ることが可能です。重要になるのがリハビリテーション。パー
キンソン病患者の神経リハビリテーションに力を入れている、横浜なみきリハビリテー
ション病院院長の阿部仁紀さんに聞きました。
( 編集部 )
あべ よしのり
1993 年福島県立医科大学、
1998 年同大学院卒。2012
年に横浜なみきリハビリテーシ
ョン病院副院長、2014 年より
現職。日本神経学会神経内科専
門医・指導医。
◦自己流でかえって症状が悪化することも。例えば、ジストニア
( 筋肉が意思と関係なく収縮する状態 )が出ている筋を鍛え
ようとすれば、かえって悪化する。
も関係する物質なので、脳内のドーパミンの量が少なくなる
◦楽しいことをすると、
ドーパミンが分泌される。嫌なことを無理
た。最近はリハビリテーションの効果が証明されていて、近
と、本人のやる気が出ない、アパシーという状態が出現し
年重要性が非常に高まっています。ほかの病気のリハと
たり、疲労感が強くなることもあります。
4度
もっとも異なるのは、常に治療薬の服用とセットで、薬とリハ
パーキンソン病は、単なる運動機能の障害ではないので
ビリは両輪の車だという理解が求められる点です。パーキ
す。意欲や情緒に関係する障害のことを「 非運動症状 」
人のモチベーションを上げられるか、本人の得意なことを伸
ンソン病の薬は何年も飲み続けていると、薬が効かなくなる
というのですが、これが密接にリンクしています。不得意な
ばす中で、不得意なことを改善するというふうに持っていく
時間帯が生じてきます。
「ウエアリング・オフ」といい、症状
ことを無理にさせるなど、本人が涙をのぞかせるようなつら
ことが大切です。
によっては体が思うように動かなくなる場合があります。この
いリハビリをしても、ドーパミンが出るとは限りません。
でも、調子に乗り過ぎるのは禁物です。
「衝動制御障害 」
制限されるが、自力での生活が可能
活は困難となるが、 支えられずに歩く
ことはどうにか可能
にしない。
積極的に話すこともリハビリの一つ。
立ち直り反射に障害がみられ、活動は
重篤な機能障害を有し、自力のみの生
◦二つのことを同時に行う際には注意する。
◦趣味活動( 旅行、 歌、 絵を書くなど )を積極的に行う。人と
パーキンソン病の治療は、今までは薬物療法が主体でし
3度
立つことは不可能となり、 介護なしに
5度
はベッド、 車いすの生活を余儀なくさ
れる
バランス練習や注意深い歩行練習が大切になります。
さらにステージが進んで5になれば、寝たきりか車いすと
なります。体が動かないと、会話とか、食べるということが
非常に重要ですから、嚥下や発語のリハビリテーションが
ところが、例えばカラオケが好きな人ならカラオケをリハビ
というのですが、パーキンソン病の人はこの障害になりやす
大切になってきます。そこは言語聴覚士が関与する部分
リに取り入れて、それも単に歌うのではなくて、自分の得意
い。ドーパミンが出れば体が動くので、普通の人以上に楽
がかなり大きくなります。
患者の中には、薬効が切れたオフのときこそ頑張って運
な曲を繰り返し歌ったりすると、ドーパミンがたくさん産生さ
しいのです。でもやりすぎてしまうと、その反動でドーパミン
動をした方がいいと考えている人もいますが、これは間違
れます。体の動きも良くなって意欲も出てくる。これは意欲
がガクンと減り、深いオフが出現することがあります。
いです。体を動かそうとあせり、不安感が高まるほど、オフ
や情緒にかかわる報酬系、あるいは報酬に対する期待に
の時間が延びてしまう場合もあります。オフのときは、本人
働きかけ、刺激することが、ドーパミンの分泌を促すからで
がリラックスできる内容でリハビリのメニューを組みましょう。
す。いかにドーパミンをうまく出すか、これがパーキンソン病
そして体を動かすリハビリテーションは、薬が適度に効いて
のリハビリの本質であり、目的なのです。
とき、一生懸命リハビリをしようとすればするほど、かえって
悪循環が生じてしまいます。
P嚥下や発語の障害は
言語聴覚士のかかかわりで
また、歩行時にうまく足が出なくなる「 すくみ足 」が出る
ことがあります。すくみ足は家庭で多く認められますので、
これまで家の中で歩行練習をしていたのなら、屋外や病院
のリハ室など、広いところで行う歩行練習に変更します。
ヤール分類のステージによっても違うし、人によってモチ
ベーションも体力も違う。ケースバイケースですから、介助
いるオンのときを見計らって行う。そうすることが結果として
旅行なども有効です。人間は、
ノベルティシーキング( 新
薬の効く時間を延ばし、効果を高めることにつながります。
奇探索傾向 )といって、新しいものを追求したいという特性
介助者が患者の病気はどのくらい進行しているのかを
変なことが起こってしまいます。
「パーキンソン病でも、脳こ
があります。だから新たな場所に行くと、わくわくします。私
把握し、その段階に応じたリハビリテーションを行うことも大
うそくで片まひになった人と同じように、リハビリして体を動
たちの患者にも「パリに行ったら、今までで一番体が動い
切です。パーキンソン病の重症度を5 段階で示した「ホー
かせばいいんだ。とにかく家の中で歩かせよう」という考え
た」という方がいました。考えたり計画したりするだけでも
ン&ヤールの重症度分類 」
( 表 2 )の、
どのステージに当て
方は一面的です。
いい。楽しいことを考えると、ドーパミンが出るからです。
はまるかで、リハビリの内容を考えます。例えばステージ1、
Pキーワードは
「ドーパミンを出す 」リハ
つまり、パーキンソン病のリハビリは、サイエンスに加えて
2の人はどんどんリハビリを進めていい。
者が病気の特性を理解せずに悪い指導をしてしまうと、大
在宅ケアでは、ケアマネジャーがチームケアの主役になる
わけですから、プランを作成する際は、パーキンソン病のこ
リハビリに、本人が得意なことやわくわくできることを取り
アートが必要なんです。サイエンス的な意欲、意識的な繰
後方に突進するなど転倒しやすい症状が出てきたら、ス
うした特性を理解した上で進めていただきたいです。パー
入れることも大変効果的です。パーキンソン病は、脳内の
り返し練習と、アート的な自己の報酬、本人が期待を持て
テージが 3に進んだ可能性がある。そうなると、リハビリの
キンソン病の理解力によって、本人の Q O Lなどに大きな差
ドーパミンという物質の分泌が低下する病気です。意欲に
ることを繰り返し行い、増強することが大切です。いかに本
内容を見直す必要があります。転倒のリスクが高いので、
が出ると思います。
(談)
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月刊ケアマネジメント 2015.12
月刊ケアマネジメント 2015.12
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