平成 26 年度政策・実務研修(JAMP 共同実施研修)レポート優秀作 市町村税徴収事務 広島市における滞納整理事務の課題について 広島県広島市財政局収納対策部徴収第二課 1 藪本 明子 はじめに 広島市では滞納整理事務の効率化を図るため、数年にわたって組織改正を推進 してきました。平成 23 年4月には、高額案件を扱う特別滞納整理班が特別滞納整 理課へと昇格しました。そして平成 25 年7月には、各区役所で行っていた市税、 保育料及び下水道受益者負担金の滞納整理事務を、本庁の財政局に新たに収納対 策部を設け、集約化しました。収納率を見ると、平成 25 年度現年度分は 99.2%で、 平成 23 年度から 99%台を維持しています。平成 25 年度滞納繰越分は 27.9%と前 年度よりやや下がったものの、合計では 96.6%となっており、平成23年度以降、 収納率は上昇傾向にあります。 さらに平成 26 年7月から、市税等に加えて、国民健康保険料、介護保険料及び 後期高齢医療保険料の滞納整理についても、収納対策部で取り扱うことになりま した。この組織改正によって、賦課区や徴収金ごとに行われてきた財産調査、差 押等の処分を、滞納者一人に対して一括で行うことになり、より効率的に事務を 行う体制が整えられたと言えるでしょう。以下では、広島市における滞納整理事 務の現状と課題について整理し、講義内容や他市町村の方の話を参考に、広島市 が今後どのように滞納整理事務を進めていくべきか、自分なりの考えを述べたい と思います。 2 現状と課題 ⑴ 分業制の弊害 広島市では、一般担当課、差押担当課及び特別滞納整理課にそれぞれ役割分担 して滞納整理事務を行っています。一般担当課は、差押処分前の滞納者に対する、 折衝、財産調査、差押等を、滞納者の居住地ごとに担当者を割り振って行ってい ます。差押担当課は一般担当課が差押をした案件の移管を受け、差押後の折衝、 追加の差押、換価手続き等の事務を行います。また、滞納額が基準より高額にな れば、一般担当課と差押担当課から特別滞納整理課へ移管されます。この分業制 により効率的に事務が進む反面、差押担当課の職員は同一業務ばかり行うため、 職員が育たないという課題が挙げられます。また、各担当の業務量や難易度にあ まりに差がつくと、職員の不満が噴出し、職員間の連携がうまくいかないことも あります。実際に、滞納額が高額になるまで放置して特別滞納整理課に移管する といった、責任を他の担当に押し付ける事態も発生します。 1 市町村税徴収事務 ⑵ 放置案件、執行停止案件 固定資産税における死亡者課税等、職員がノウハウを知らないため、これまで 放置されてきた案件がしばしば見られます。最悪の場合、時効により徴収不能と なってしまうこともあります。また、マニュアルが定められているにも関わらず、 所属長ごとに執行停止処分に対する姿勢が異なっていることも、改善すべき点で あると考えられます。 ⑶ マンネリ化した事務 各区役所で行ってきた業務を集約化したがために、滞納者が利用している金融 機関等から遠くなった案件が大半であり、財産調査等も原則として郵送で行うよ うになりました。滞納者の大半は、郵送による文書照会のみで処分可能な財産を 発見することが可能です。しかし、財産を発見できないのに何度も同じような調 査を繰り返したり、反応もないのに催告書等の送付を繰り返したり、事務がマン ネリ化して処分が進まない案件も多く見られます。そのような場合は、別の方法 を講じることが急務であると言えます。 ⑷ 職員のモチベーションの維持 周囲の職員を見ていると、職員のモチベーションに個人差があると強く感じま す。若手職員は、知識は少ないながらもモチベーションが高い職員が多く、滞納 者からうるさく言われることも厭わず、自分なりの目標を掲げ、事務を進めてい っています。広島市では、日々の財産調査や差押等の件数を記録し、上司に報告 することとしています。しかし、件数が多いから報償があるわけでも、少ないか ら罰則があるわけでもありません。差押処分に腰が重い職員がいることが、他の 職員のモチベーションの低下を招いている一因だと考えられます。 3 解決策 ⑴ ローテーションと担当間の連携 分業制により、職員がその業務に特化し過ぎることで、滞納整理全般がわから なくなってしまうことを避けるために、担当替えのローテーションを短いスパン で組み、様々な業務を経験できるようにすべきだと考えます。また、案件の無責 任な移管を避けるため、移管の際には移管後の担当者との話し合い等を必須とし、 他の担当と連携を取る体制が必要です。 ⑵ ノウハウの習得とマニュアルの見直し 放置案件については、組織改正と同時期に滞納管理システムを新たに導入する ため、時効到来が近いものから優先して取り組むことが可能になります。優先順 位をつけた上で、納税義務の承継や二次納税義務の拡張等、研修で学んだ様々な ノウハウを実践し、滞納処分を進めていく必要があります。また、資産がなく徴 収不可能と判断した場合には、速やかに執行停止処分をすることも必要です。そ 2 市町村税徴収事務 のためには、財産調査や実地調査をどこまで行うか等、基準をより細かく定めな ければならないと思います。 ⑶ 捜索とタイヤロックの実施 マンネリ化した滞納整理事務を打開するためには、滞納額を目安に件数を絞っ た上で、捜索を実施していく必要があると思います。 捜索を行うためには時間や人員を割かねばならず、職員の精神的負担も課題と なります。しかし、滞納者の生活状況の把握は必須であり、生活困窮により本当 に支払い能力がないのか、資産はあるのに納税の意思がないのか、滞納者の実態 を見極めるためにも、捜索は有効であると考えられます。また、研修では他市町 村で効果を上げている方法として、タイヤロックが挙げられました。タイヤロッ クを実施する目安の滞納額等の基準を決めた上で、積極的に実施していくべきで あると考えます。 ⑷ 職員同士の競争 徴収率を上げるためには、職員のモチベーションを上げることが必須です。報 奨金は出せないにしても、徴収率が高い職員を表彰したり、担当者ごとの徴収率 を回覧したり、職員同士を競争させ、全体のモチベーションを高めていけるよう な方法を検討する必要があります。徴収率が低い職員は、個別に管理職等から指 導するなどの対策も必要です。 4 終わりに 講義の中で、私が最も印象に残った言葉は、三島充講師の「現年度分の収納率 は市民の質を表し、滞納繰越分の収納率は徴収職員の質を表す。」という言葉です。 広島市の滞納繰越分収納率は 30%に達していません。まだ職員が努力し、改善し ていく余地があるということだと思います。この研修では、普段接することがで きない他市町村の方と意見交換することで、見習うべき点を多く見つけることが でき、大変参考になりました。講義では、今後の業務で活かしていけるようなノ ウハウを多く学ぶことができました。研修でお世話になった他市町村の皆様及び 講師の皆様に心から感謝します。そして、組織改正で大変忙しい中、約2週間も 業務を離れてしまったことで、職場の皆様には大変ご迷惑をおかけしました。こ の研修で学んだことを今後の業務に活かし、職場に貢献していきたいと思います。 3 市町村税徴収事務
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