新技術/グローバル 実物大のリアルさが見逃しを防ぐ 製品・設備の設計で進むVRの活用 *1 D D I は 、D i g i t a l D e s i g n I m p r o v e m e n t の 略。旭 エ レ クト ロ ニクス が 開 発 し た 「VirDSE」を基にしている。 *2 製品や生産設備の設計において、手戻りと 作業において、必要な場所に手が入るか、 ドラ 試作を減らすために仮想現実(VR)技術を適 イバーなどの工具が他の部品に干渉しないか 用するメーカーが増えている。特に近年、大型 といったことを、試作機ではなく、デジタルモッ 製品を実物大表示するシステムやヘッドマウン クアップ(DMU)で確認する (図1) 。 ト・ディスプレー(HMD)の活用が進んでいる。 同VRシステムは、カメラ機能とヘッドトラッ PCのディスプレーに比べて、はるかに高い臨 キング機能の付いたヘッドマウント装置、2つの 場感を得られるからだ。製品や生産設備の3D 大型スクリーン、サーバーから成る。図1(a)の モデルを配置した仮想空間で、あたかも実物 スクリーン(スクリーンA)はヘッドマウント装置 がそこにあるかのようにデザインレビュー (DR) を装着した点検者が見るためのもの。点検者 できる。 は、 製品のDMUを実物大表示したこのスクリー ンAの前で、DMUに対して模擬的な作業を実 PCでは得られない臨場感 現 在 、DDI システムは 横 浜市 施し、作業のしやすさなどを体感。立ったり、 にある研究開発拠点 (R&Dス クエア)と、海老名事業所(神 奈川県 海老名市)に導入され ている。HMDを使ったシステ ムは2012年に導入を始めた。 例えば富士ゼロックスは、複合機の開発に かがんだり、 少し左右に回り込んだりしながら、 おける品質点検作業を行うVRシステムとして 目の前に製品があるかのように点検のしやす 「仮想品質点検(DDI) 」と呼ぶ仕組みを導入 。 *1 さをチェックする。 *3 設計、生産準備、調達、生産、物流、品質管理、 一方、図1(b)のスクリーン(スクリーンB)に このスクリーンに 投 影 され た サービスなどの各担当者が一堂に会してDR は、 その点検者が見ている視野・視点のDMU *2 する際に活用している 。 が投影される。スクリーンAのDMUをヘッド DDIでは、 主に点検やメンテナンスの作業性 マウント装置のカメラで撮影し、 それをスクリー を評価する。点検や組み立て、メンテナンスの ンBに表示するようになっている*3。 DMU は 、肉眼では遠 近 が 歪 んだように見えるが、HMDの カメラを 通して 映し出すこと で ちょうどよく見 えるように なっている。 a (スクリーンA) (スクリーンB) b (ヘッドマウント装置) c カメラ 図1 富士ゼロックスの品質点検評価システム ヘッドマウント装置を装着した評価者が140インチの大型スクリーンに映ったDMUの映像を見ながら点検作業のしやすさなどを評価する。 (a) は複写機評価のデモンストレー ションの様子。点検対象部位に手が入るかどうかを、3Dのバーチャルハンドとの干渉で検証している。120インチのもう1つのスクリーンには、 ヘッドマウント装置を通して見た 点検者視点の映像が映し出される (b) 。DR参加者らは、 (a) の点検の様子と、 (b) の点検者の視野を確認しながら作業性などについて議論する。 (c) は、 点検者が装着するヘッ ドマウント装置。左右の2つのカメラでスクリーンA上のDMUを撮影し、 それをスクリーンBに映し出す。 30 December 2015 NIKKEI MONOZUKURI REPORT a b 他のDR参加者は、スクリーンAであたかも 点検者がそこで作業しているような様子を観 察する。同時に、スクリーンBでは点検者の視 線を共有できる。こうしたシステムを採用した のは、DR参加者全員が一堂に会して実物大の DMUを見ながら議論できるからだ。 特にDDIが威力を発揮するのが、仕様が大 きく変わった機種や新型機の評価*4。用紙トレ 図 2 NECソリューションイノベー タが開発した設備設計用のVRシス テム 生産設備の作業性を評価できる。HMD には「OculusRif t」を採 用した (a) 。 (b) は装 着した人が見ている画 面の 一 例。 手 のジェスチャーを 認 識 するデバイス 「LeapMotion」 を併用しており、視界に手 をかざすと手のモデルが 表 示されて、組 み立て作業をシミュレーションできる。 イの取り出し方が大きく変わるなど品質のポイ ントが全く違ってくるためである*5。 「VRによっ を把握できたため、今後は日本とタイの担当者 て距離感がつかめることで初めて気付くこと が同時に仮想空間に入って検証したり、 作業訓 も多い」 (同社商品開発本部グローバルスタン 練に利用したりするなど VRの活用の幅を広 ダード企画部中島康徳氏) という。 げる計画だ。NECプラットフォームズでは、か 今 後 は 、安 価なことで 知られ る H M D ねて国内工場の設計に3Dモデルを活用してい 「OculusRift」 (米Oculus VR社)を導入するな たが、VRシステムの活用は今回が初めて。 「国 どして、システムをより容易に使えるようにし、 内外に生産拠点が分散しているため、VRシス DRでの利用を拡大したいとしている*6。 テムでその距離を縮めて迅速なライン立ち上 海外工場を日本で体感 *4 例えば、同社が 商業印刷用の 大型機事業に参入した際など に大いに活躍したという。 *5 人間の 体と製品の 物理的な 接触は、DMUの映像に合わせ てスクリーンの 前に 簡 易的に バーなどを設置して検証する。 *6 げを目指したい」 (内藤氏) 。 現 行 の シス テム は 、大 掛 か 同社が活用するVR システムは 、NEC ソ りで 専 門 家 の 助 け が な い と 工場の設備設計でもVRシステムの活用が リューションイノベータ(本社東京)が開発した 進む。ネットワーク機器などを製造するNEC もので、製造設備などを3Dモデルで忠実に再 プラットフォームズ(本社東京)は、タイの新工 現した仮想空間において、HMDを装着した人 場設計に当たって、製造現場の作業性などを が実際の作業を疑似体験できる1)。同社が開 検証できるVRシステムを試験導入した(図2) 。 発した体感分析エンジンを組み込んであり、 使 い づ ら い た め 、より 簡 単 な O c u l u s R i f t の ようなシ ステムの 導 入 を 検 討 して い る。V i r D S E は 近 い うち に OculusRift に対応 する予定 という。 「省スペース化や生産性の向上には、日本のノ 作業環境の客観的な評価も可能だ。体感分析 ウハウが必要だが、コスト・期間の両面で日本 エンジンの導入により、人間中心設計(Human から技術者が頻繁に現地に行くわけにはいか Centered Design、HCD)の専門家のノウハウ ない。日本のノウハウを海外工場の設計に生 を取り入れて作業性を分析・評価できる*7。 かすにはVRシステムが有効だ」 (同社SC戦略 近年、 OculusRiftのような安価なHMDの登 や手 の動き、腰 の曲がり具合 室生産革新部主任内藤共泰氏) 。 場でVRシステムの導入ハードルが下がった。 くさなどを検証できる。 例えば、小柄な人が多い現地の作業者の目 今後ますます利用が広がりそうだ。 (吉田 勝) *7 人の動作 、例えば目線の高さ などから疲れやすさや使いに 線における作業環境をVRシステムで再現。日 本にいながらにして、現地の状況を評価でき たという。タイ工場の設計でシステムの有用性 参考文献 1) 「VR・ARで進化する開発・生産」 , 『日経ものづくり』 ,2015 年8月号,pp.61-66. December 2015 NIKKEI MONOZUKURI 31
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