千葉大学人間生活工学研究室修論概要(2002) 緊急時の警告音に関する人間工学的研究 キーワード:緊急時、警告音、誤操作 人間工学教育研究分野:豊田尚子 Fig.1平常・緊急タスクの流れ ■1. はじめに 自動車や航空機、原子力制御室には様々な警報装置が備えら 被験者はマウスでトラ れている。その中で警告音は、緊急の場合など即座に回避すべ ッキングタスクを行う。 き目的で用いられることが多い。これらの環境下でおこる緊急 約1分後、緊急タスク 事態は非常に緊迫しており、また最大限の安全が求められる。 を開始する合図の音で そこで警告音に求められる条件は、まず騒音や環境音によって ある認識音が提示され 警告音に気がつかないことがあってはならないこと、次に危険 る。 を回避する際、過剰な警告音によって不安や緊張をあおり、誤 操作を引き起こしてはならないことである。このような最大限 1.平常タスク画面 の安全が求められる緊迫した状況においては、警告音を認知し、 したらクリックをして 素早く正確な処理がなされなければならない。 そこで本研究では緊急時に適した、素早く正確な処理ができ AGR P Y JL T KUQ I GW A S る警告音について検討した。 ■2. 方法 2-1. 実験概要及びタスク内容 被験者はまず平常タスク(トラッキングタスクを行った。約 1分後、緊急タスクを開始する合図の音である認識音が提示さ れるので、認知後、クリックをして緊急タスクを行った。緊急 タスク中、警告音が提示された。警告音1条件につき平常・緊 急タスクを続けて3回行った。その後、提示された警告音につ いて被験者は主観評価を記入した。タスク中は、暗騒音として ホワイトノイズを提示した(Fig.1)。 2-2. 被験者 被験者は健康な大学生8名であった。 2-3. 実験環境及び警告音条件 実験環境:銅製の網とフレームで自作したシールドルーム内 (L:120cm,W:120cm,H:180cm)で行った(Fig.2)。電磁シールド 効果とともに緊張感を与える効果があったものと推測された。 暗騒音(ホワイトノイズ:70dB(A))、緊急タスクを開始する 合図の音である認識音(周波数:1500Hz,音圧:90dB(A),長 さ:0.1s)、警告音(以下の9条件)いずれも被験者から50cm 離れた場所から提示した。 警告音条件:周波数は1500Hzの1条件とし、繰り返し間隔 (0s(連続音),0.05s,0.125s)の3条件と、音圧レベル (60dB(A),90dB(A))の2条件とを組み合わせて6条件とした。 さらに周波数1500Hz,繰り返し間隔0s,音圧レベル30dB(A)の音 及び、男性音声と女性音声(「危険です。急いで処理をして下 さい。」)の計3条件を加えた。よって以上9条件で実験を行っ た(ホワイトノイズ70dB(A)の環境下では40dB(A)付近に可聴域 があることを確認したので、30dB(A)の音は可聴域以下の条件 として繰り返し間隔は0sの1条件のみを設定した)。 2-4. 測定項目 実験中、以下の項目を測定した。 ・タスク達成時間、エラー数 ・心拍変動性(被験者の精神的な緊張度をみるため) ・主観評価(頼もしい、迫力がある、落ち着いた、心地よい、 緊張感があるの5項目) 被験者は認識音を認知 1 2.緊急タスク画面1 緊急タスクを行う。画 面上に提示される3種 類のアルファベットを 記憶する。緊急タスク 中、警告音が提示され る。 画面上の16個のアルフ ァベットの中に画面1で ARS 記憶した3種類のアルフ ァベットが何種類含まれ ているか数える。それが 画面の数字と合っている か答える。また8秒間の カウントダウンによって 切迫感を与えた。これを 3.緊急タスク画面2 6回繰り返す。 1条件につきこの平常タスク・緊急タスクを3回繰り返して行う。 ■3. 結果・考察 タスクの達成時間、エラー数は個人差が大きかったため、デ ータの標準化を行った。標準化した値について警告音を要因と する一元配置の分散分析を行い、有意であった項目について多 重比較を行った。また60,90dB(A)について音の大きさと繰り 返し間隔を要因とする二元配置の分散分析を行った。主観評価 は警告音条件を要因とする一元配置の分散分析を行い、有意で あった項目について多重比較を行った。心拍変動性は心電波形 より得られたRRピーク間隔を算出し、それを基に心拍変動パワ ースペクトルを算出した。得られたパワースペクトルの低周波 数帯域(LF)と高周波数帯域(HF)の積分値を求め、心臓交感神経 系活動指標としてLF/HFという計算を行った。これによって得 られた値から、警告音を要因とした一元配置の分散分析を行っ た。 3-1. タスク達成時間 警告音について有意であった。30dB(A),繰り返し間隔0sの 音はタスク達成時間が最も長くなった。逆に90dB(A),0.05sの 音は達成時間が最も短かくなった(Fig.3)。これはあわただ しさや緊張感が強すぎると感じることが考えられる。音の大き さと繰り返し間隔の交互作用が有意であった。60dB(A)の条件 は繰り返し間隔によって有意な差は得られないが, 90dB(A)の 条件では繰り返し間隔0.05sと0.125sとの間に有意な差が見ら れた(Fig.4)。 Fig.2 実験風景 千葉大学人間生活工学研究室修論概要(2002) 3-3. 主観評価 5つの項目全て、警告音条件について有意であった。30dB( A) , 0s の音は顕著に、「心地よい」、「頼りない」と有意に感じた。逆に、 90dB( A) , 0s 、90dB( A) , 0. 05s の時は「耳ざわりな」、「緊張感がある」と 有意に感じた。(Fi g . 7∼9)。 Fig.3 タスク達成時間(警告音条件要因) Fig.7 頼もしいー頼りない Fig.4 タスク達成時間(音の大きさと繰り返し 間隔の交互作用) 3-2. エラー数 警告音について有意であった。90dB( A) , 0s 90dB( A) , 0. 05s の音が 最もエラー数が多かった。これは達成時間と同様に、あわただしさや 緊張感が強すぎると感じることが考えられる。逆に60dB( A) , 0. 125s と 90dB( A) , 0. 125s の時に最も、エラー数が少なかった。これは繰り返し 間隔が長くゆっくりしている為、落ち着いてタスクを行うことができた と考えられる(Fi g . 5)。音の大きさと繰り返し間隔の交互作用が有意 でなかった。繰り返し間隔0s と0. 125s 、0. 05s と0. 125s の条件は有意 な差が得られた。すなわち60dB( A)90dB( A) どちらの条件において Fig.8 心地よいー耳ざわりな も0. 125s の条件がエラー数が少なかった(Fi g . 6)。 Fig.9 緊張感のあるー緊張感のない 3-4. 心拍変変動性 Fig.3 エラー数(警告音条件要因) 有意な効果が得られなかった。 ■3. まとめ 今回の結果から、緊急事に適した、素早く正確な処理ができる警告 音として、30dB( A) のように可聴域以下の音は緊急事態であることを 感じ取れない、達成時間が長くかかる理由から適していない。また 90dB( A) のように音量レベルが大きく、0s 、0. 05s のように繰り返し間 隔の速い音については、あわただしく、耳ざわりになるためにエラー をおこしやすく適していない。逆に0. 125s の繰り返し間隔がゆっくり している音は60dB( A) 、90dB( A) ともにエラー数は少なく、60dB( A) に 関しては達成時間も遅くなく、耳ざわりでもなく緊急時の警告音とし て適していると考えられる。 Fig.3 エラー数(警告音条件要因)
© Copyright 2024 ExpyDoc