中国での危機管理 (2)非常時の心得

浜銀総合研究所 中国ビジネスサテライト「中国コラム」 2014 年 5 月号 http://www.yokohama-ri.co.jp
中国での危機管理
②非常時の心得
∼危機が目前に迫った場合∼
チャイナ・インフォメーション 21
筧武雄
1. 悪化する日中関係
今年まもなく 25 周年を迎える 1989 年 6 月天安門事件の際は、中国政府による民主化学生
デモ鎮圧に対して世界各国が経済制裁を加える中で、最初に制裁を解除してODAを再開した
のは日本政府だった。その後、90 年代から 21 世紀初頭にかけて未曾有の中国進出ブームが到
来することになったが、今回の尖閣問題は、中国側にしてみれば「領土問題」という国家主権
の面子に関わる問題と同時に「歴史認識問題」と捉えていること、また日本側としても SARS
騒動以来の毒餃子事件、反日デモなどの影響で「嫌中感」がすでに広く定着してしまっている
現状(下記調査資料報告)から、もはや双方の早急な関係改善は困難になりつつあると思われる。
4 月 17 日中国商務部が発表した統計データでは中国の今年 1∼3 月の海外直接投資受入実績
は前年同期比 1.5%の減少となり、日本からの直接投資受入が前年同期比 47.2%減、12 億
900 万ドル(1,209 億円)にまで落ち込んだこともひとつの大きな原因と見られている。
出典) 特定非営利活動法人言論 NPO(代表 工藤泰志)2013 年日中共同世論調査より
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2. 高まるチャイナ・リスク
ここ数か月だけを見ても、南シナ海におけるベトナムとの衝突、といった国際秩序に影響を
与える事件だけでなく、中国内でも天安門突入炎上事件、昆明・広州駅前無差別刃物殺傷事件、
四川省路線バス火災炎上事件、杭州住民デモ暴徒化警察衝突事件といった社会治安事件があち
こちで発生しており、日系企業工場スト監禁事件1、中国各地での戦争賠償訴訟2といった日系
企業にターゲットを絞った事件も発生している。
今年 3 月に開催された全国人民代表大会に参加した中国軍高官が新華社の取材に対して、
「(日本との)戦争を恐れない」と公言するなど、相変わらず中国軍部による対日強硬発言も
続いており、今回は前月に引き続き、危機が目前に迫り、非常事態が身近に予測される状況と
なった場合の、万一の具体策について整理しておく。
3. 緊急時の対応
① 単独行動は極力避け、日本本社、家族と定期連絡をとる(skype、携帯メール等)
② 中国内の情報は統制されるため、日本、香港、シンガポール等からも最新情報をとる3
③ 日本大使館、領事館、航空会社、日系ホテル等の外部情報に注意する
④ 信頼できる周辺中国人から身近な「噂」情報を集める
⑤ 運転手と空港までの安全移動経路について話しておく。ガソリンは満タンを維持する
⑥ 内外の関係者連絡名簿を作成し、非常時の緊急連絡、安全確認等の方法を決めておく
⑦ 現金・カード類、パスポート、オープン航空券、携帯電話(+電池充電器)、非常用飲料水、
食糧など非常持出物品を手元に準備しておく
⑧ 出張者、帯同家族は安全な間に先に一時帰国させ、危険が目前に近づけば本人も国際空港
近くの外資系ホテルに移動する。決して無理して滞在は続けない
⑨ 非常時対応について、万一日本と連絡がとれなくなった場合でも現地責任者の判断で実行
に移せるルールを予め社内マニュアル化しておく
これほどの緊急事態にまで至らなくとも、この機会に、今後の中国ビジネスの基本的な進め
方についても再検討(見直し)しておく必要があるだろう。
以上
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リーマンショック以来、労使紛争増加とともに日系企業でも経営トップに対する監禁暴行事件が発生している。工場内で
の安全スペース確保と安全脱出経路の確保も必要と思われる。
2 新華社は 4 月 24 日付、中国政府が 1972 年日中共同声明で放棄した戦争賠償の請求について「民間・個人の請求権は含
まない」と明言する論評記事を配信している
3 中国内情報だけでは現地が状況判断を見誤る危険も高いため、本社等国外から現地への情報送信も怠らない
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