脳・自律神経系活動の複数プレイヤー同時計測による 協調型ゲームの

年次活動報告書 2014
脳・自律神経系活動の複数プレイヤー同時計測による
協調型ゲームの「場」の解析
明治大学 理工学部
専任准教授
顔写真
本研究では、協調ゲームを行っているときの複数プレイ
ヤーの脳・自律神経活動を測定し、プレイヤー間で生理
活動データがどのように関連しているかを解析する手法
を開発する。特に機能的結合解析として、位相同期解析
(データ変動の周期が合っているか)を駆使し、協調プ
レイのどのような局面でどの指標が有効かを検証する。
図1
嶋田
総太郞
あまりなされていないのが現状である。
こうした中、2 人以上の脳活動を同時に計測(ハイパー
スキャニング)する研究が散見されるようになってきた
(Dumas et al., 2010 など)
。これらは脳波計(EEG)な
どを用いて、相互作用している 2 人の脳活動を同時に計
測し、被験者間のデータの結合関係を調べる試みを行っ
ている。本研究で取り上げる位相同期解析を用いて解析
をしている研究もあるが、相互作用のどのような局面で
どの指標が有意に観測されるのかについてはまだ十分な
データが揃っておらず、不明な点も多い。さらに自律神
経系の活動を含めた機能的結合関係を調べたハイパース
キャニング研究はほとんどなく、その研究意義は大きい。
1.協調ゲーム課題中の心拍変動の日米間文化差
日本人被験者10 名、アメリカ人被験者8 名が実験に参
加し、テトリスの協調プレイを行っているときの心拍デ
ータおよび映像データ、さらにそのときの感情状態を調
べるアンケート(PANAS)データを取得した。
心拍変動(HRV)は、瞬時心拍数の変動を計算したも
のであり、自律神経系の活動を反映する。自律神経系は
精神的な興奮やストレスと関わる交感神経系と精神的落
着きを反映する副交感神経系に分かれるが、HRV の周波
数領域データから算出されるLF/HF 成分は交感神経系、
HF 成分は副交感神経系を反映することが知られている。
このデータを日米比較したところ、日本人では一人プレ
イに比べて協調プレイのときに LF/HF 成分が有意に大
きくなるが、アメリカ人ではそのような違いが現れない
という結果が得られた(図2)
。
同様にアンケートデータでも、日本人は一人プレイの
ときに協調プレイよりもポジティブな感情を強く持つこ
とが示されたが、アメリカ人ではそのような傾向は見ら
れなかった。日本人は協調プレイ時に精神的興奮ないし
ストレスを感じるのに対し、アメリカ人はそれほどでも
ないという文化差の違いが現れた興味深い結果といえる。
なお、この結果は、国際論文誌 Social Behavior and
Personality 誌に採録が決定している(業績1)
。
協調ゲーム課題
ゲームプレイ中の脳・自律神経系活動を調べた研究は
これまでにもあったが、複数プレイヤーの脳・神経活動
を同時に計測した研究はまだほとんど存在しない。複数
人の脳神経活動を同時に計測する技術をハイパースキャ
ニングと呼ぶが、ハイパースキャニング研究自体が黎明
期にあり、ゲーム科学だけでなく脳科学研究としても本
研究のインパクトは大きい。1人でゲームプレイをして
いるときの脳神経活動計測についてはこれまでにも研究
が進められており、研究代表者らもいくつかの研究を行
ってきた。2人以上での協調ゲーム課題に関しては, 囚人
のジレンマ課題を模した社会ゲーム遂行時の脳活動計測
が行われており、他者の内部状態を推測するときに働く
「心の理論」機能に関わる領野が活動することが報告さ
れている。また協調/対戦型ゲームを複数プレイヤーが
遂行している場面を観察しているときの脳活動計測につ
いても研究が行われている。しかしながらこれらはあく
まで単独の被験者の脳活動であり、技術的な制約のため
にゲームプレイ中の複数人の脳神経活動計測については
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年次活動報告書 2014
作業をしている 2 人の結合状態を反映しており、協調作
業の乱れによって低下することが示唆された(業績2)
。
衝突!
図2 心拍変動の日米間文化差
2. 心拍変動の2 人間同期現象の解析
続く実験では、16 組(日本人男性 18 人、重複あり)
の被験者に参加してもらった。ここでは一人プレイ(1
分)
、休憩(1 分)
、二人協調プレイ(1 分)
、休憩(1 分)
を 1 セットとし、これを6 セット行ってもらった。1 人
プレイ時には、
2 人のプレイヤーは独立に、
しかし同時に、
プレイをしてもらった。アンケートデータより、1 人プレ
イよりも 2 人プレイのときのほうが、ネガティブな感情
が強くなることがわかった。さらにこのときの心拍変動
データ(LF/HF)を調べたところ、やはり2 人プレイの
時に強くなっていることがわかった。これは交感神経系
が2 人プレイ時で強く活動していることを示している。
一方で、2 者間の心拍変動の位相同期解析(PSI)を行
ったところ、HF、LF 成分ともに1 人プレイよりも2 人
プレイで結合が強くなっていることがわかった(P < 0.05、
図3)
。このことは2 人で協調プレイを行うことで、心拍
成分の同期現象が生じていることを示している。
図4 ブロックの衝突の様子
図5 ブロック衝突時の PSI の変化
本研究では脳・自律神経系の2者同時活動計測を行い、
それらの関係性を解析する手法を開発した。今回は主と
して自律神経系(心拍)の活動を指標として検討したが、
相互作用のより定量的な解析が行えることを示せた。協
調型ゲームの「場」の特徴を科学的に扱えるようになる
ことで、新たな協調型ゲームの開発へとつながるだけで
なく、オンラインネットゲームやオフィス環境等での協
調作業の分析など、幅広い社会科学、情報科学分野への
応用が期待できる。
研究業績
1. Noah JA, Ono Y, Shimada S, Tachibana A,
Bronner S. (accepted) Changes in sympathetic
tone during cooperative game play. Social Behavior
and Personality.
2. Shimada S, Sakano S, Ono Y. (2015) Inter-subject
phase synchronization of heart rate variability
during cooperative video game playing. The 2015
Meeting of the Social and Affective Neuroscience
Society. Boston.
図3 各条件における位相同期(PSI)の強さ
これをさらに詳しく解析するために、
2 人の操作するブ
ロック同士が衝突する場面(図4)の心拍変動データを
各被験者ペアから抽出した。これは協調プレイがうまく
行かなかった瞬間に相当する。このときのPSI を解析し
た結果、衝突後3-11 秒にかけて位相同期が大きく崩れる
ことが明らかになった(図5)
。このことからPSI は協調
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