Webアンケートによる 『子どもが求める親の障がいに関する説明』 を把握する調査 鈴鹿医療科学大学看護学部:土田幸子 三重大学医学部附属病院:鈴木大 日本福祉大学看護学部:長江美代子 滋賀県立大学人間看護学部:甘佐京子 名古屋第一赤十字病院:服部希恵 総合心療センターひなが:宮越裕治 【研究の背景と目的】 精神障がいの親と暮らす子どもは、親の障がいについて説明を受けていないことが多く、親の 身に何が起っているのか、どうすれば良いのかわからない困惑状況の中で誰にも相談できずに生活していることが多い。 このように日本では、子どもに親の障がいや子ども自身の生活について語られることは少ないが、海外ではこうした子ども を対象に親の障がいや自分自身について学ぶ心理教育プログラムが開発されており、日本でも同様のプログラムが望ま れる。 本研究は、日本版の心理教育プログラムの開発を目指し、“子”の立場の者が求める“親の病気や障がいに関する 説明”について、説明する時期や内容を把握し、検討することを目的とした。 【研究方法】 精神障がいの親と暮らした経験を持つ成人した“子”の立場の者を対象に、研究者らが運営する“子”を 支援する会(親&子どものサポートを考える会)のホームページで研究協力を求め、Webで解答する質問紙調査を実施 した。 得られた回答を度数分布による単純集計、自由記述への記載を KJ法 によって分析し、親の障がいや自身の生活 について説明する時期と内容を検討した。 【結果】 対象に該当しない者・最後まで解答していない者を省いた64名の回答を分析対象とした。 対象者の年齢 1 3 3 8 11 6 35 7 25 20~24歳 35~39歳 50~54歳 18 20 13 15 10 12 6 31 30 7 13 25~29歳 40~44歳 55~59歳 父 5 3 5 51 30~34歳 45~49歳 60歳以上 n=64 複数回答あり 障害を持つ親御さんの診断名 障害を持つ親御さん n=64 の属性 n=64 7 6 3 3 2 3 0 母 両親 説明の有無(説明された時期) と 説明して欲しかった時期の関係 障がいに関する説明の有無 障害を説明して欲しかった時期 n=64 21; 32.8% 26; 40.6% ☆ 知りたくないと答えたものの理由 ・前向きな言葉を本人から聞くことがなく、 言い訳の手段としか思えなかった。 もし知れるならヘルパーや看護師など、 他人の立場から聞かされる方が重くならな くて良い。 ・知ったところで誰も守ってくれない ・当事者や片方の親が、病気のことを理解し ていない 19; 29.7% 15; 23.4% 18; 28.1% 17; 26.6% 説明有 1; 1.6% 5; 7.8% n=64 6; 9.4% 説明有(成人後) 説明無し 小学校年代 中・高校生年代 専門学校・大学生の頃 社会人になってから 知りたいと思ったことはない 未記入 違和感を感じた年齢 と 障がいについて聞いた時期の関係 誕生~小学校低学年 聞いた時期 小学校高学年 人数 割合 聞いた時期 中学生年代 人数 割合 聞いた時期 人数 割合 聞いた時期 ~小学校年代 6 17.6 小学校年代 3 27.3 中高生年代 9 26.5 中高生年代 3 27.3 中高生年代 5 62.5 20代前半 7 20.6 20代前半 1 9.1 20代前半 2 20代後半~ 3 8.8 20代後半~ 3 27.3 20代後半~ 聞いていない 9 26.5 聞いていない 1 9.1 聞いていない 1 33.3 25 20代前半 1 33.3 0 0 20代後半~ 0 0 1 12.5 聞いていない 1 33.3 n=64 行 動 が 病 気 に よる とわかり納得した 18 16 14 12 どうい う病気 かわか っ た 8 8 7 性格に原因があるので はなく脳の異常とわ かった 5 6 4 3 2 2 0 0 「理不尽な行動は病気 から来るもので仕方が なかった」とあきらめる のに、役立った 50 40 30 20 49 32 23 27 3 37.5 聞いていない 3 37.5 22 親 を頼 れ ない と 自 立 心 が高まった 自分の人生をちゃんと生 きたいと思えるように なった 何が病気かわからない どこからが病気なのか? 本当の親の性質は何 か?わからない 「病気が言わせている」 の意味がわからない 振り 回さ れ てき た時 間 はなんだったんだろう。 何とも言えない気持ち 希望が持てずつらかった 支援者に繋がった 有効な対処法はなく、説明 されても何もわからない 「なぜ?」と聞いても解決せ ず、病名を聞いても回復の 希望は言われず、絶望感 があった 精神病など否定的な言葉を 聞かされるのがつらかった 親を必要としていた時には 誰も教えてくれなかった 子どもに弱音を吐けるように なったのかと安心した 40 31 14 今までの生活は なんだったんだろう 自分と親の暴力を分けて 考えられるようになった 大人にかけて欲しかった言葉 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 35 10 20代後半~ 親のためになりたいと思って いたので、もっと早く言ってく れたらと思っていた n=64 48 39 25 親のことを思いほっとした 病名がついていること が解決の糸口である気 がする 60 2 支援者につながり、孤独 や不安が軽減した 「親も大変だったんだ」 と理解するためには 良かった どんな説明が聞きたかったか 20代前半 横のライン:障がいの説明もしくは診断名を聞いた時期 自分と親を分けて考 えられるようになった 親の行動が腑に落ちた。 納得できた 10 人数 割合 説明されて良かったこと(自由記述) 障がいの説明を聞いて良かったこと 19 人数 割合 聞いた時期 高校生年代 *縦の枠:違和感を感じた年齢 20 19歳以上 高校生年代 n=64 36 25 14 30 7 1 0 ☆ その他(自由記述) 助けてくれる機関の情報や助けの求め方 自分や子どもへの影響、日常の基本的な情報 ☆ その他(自由記述) 存在を認める言葉、(私を)気にかける言葉、親からの気遣い 病気の説明と生き方のアドバイス、言葉はいらない 【考察】 親の障がいに関する説明は、子どもの認知発達を考慮して行われることが重要である。伝える内容については 単に疾患を説明するだけでなく、子どもを取り巻く環境にも目を向け、緊急時の対応、子どもを守ってくれる機関やSOSの 求め方など、困りごとに対する具体的な対処法や子どもにとって見通しが持てるような情報、伝え方が求められる。また、 親(症状)と自分を分けて考え、自分を価値ある存在と感じられるような日常的な関わりが必要であると考えられた。これら のポイントは、日常的に精神障がいの親と暮らす子どもとの関わりに重要であると考えられた。今後、海外のプログラム を参考に、心理教育プログラムの内容・実施方法を検討していくことが課題である。 【倫理的配慮】 本研究は、鈴鹿医療科学大学・臨床研究倫理審査委員会の承認を得て実施した。 アンケートは無 記名で、IPアドレスを特定できない設定で実施し、研究協力を依頼する文書の中に、研究目的・方法・対象が被り得る 利益と不利益・結果の取り扱いについて記載し、アンケートへの回答を持って同意を得たと判断した。 演題発表に関連し、開示すべきCOI関係にある企業などはありません。 本研究は、JSPS科研費90362342の助成を受けたものです。
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