メイン・レポート 特集/交通安全 ∼人と車と道のよりよい関係をめざして∼ 最近の交通事故の 特徴について 北海道開発局 開発土木研究所道路部 交通研究室長 大沼 秀次 (財)日本自動車研究所テストコース高速コーナーにて 1.はじめに 平成10年に北海道で発生した交通事故は28,153件、これにより533人 の方が亡くなられた。平成9年と比較して、事故件数は2,394件の増加 (対前年比1.09) 、死者数は80人の減少(対前年比0.87)である。 件数の大幅な増加と死者数の大幅な減少という一見矛盾した結果は、 幅広い切り口による分析を通じて解明していかなければならない。 過去には、平成3年に死者数が142人と大幅に減少(対前年比0.80) しているが、このときの事故件数は対前年比1.01と横這い状態だったこ とから、今回は平成3年といささか状況が異なると思われる。 本文では、今後の交通安全対策を検討する際の参考として、平成10年 の交通事故や過去5年間の国道交通事故の特徴を紹介するものである。 4 北の交差点 Vol.5 SPRING - SUMMER 1999 メイン・レポート 2.平成10年の交通事故の発生状況について 300 261 死者数 (49.0%) 前年比 250 冒頭に述べたように、事故件数が増加し死者数 が減少しているが、国道では大きな変化は見られ ず、増減したのは主に地方道(道道、市町村道) だった。 死者数に関して、国道も夏期(4月∼10月)に は減少の傾向が見られるものの、11月と3月の 初・終冬期に死亡事故が多発したことが全体の増 加につながった。また、8月には国道と地方道の 両方に死者数の増加が見られた(図-1、図-2) 。 地方道は、発生件数の増加と死者数の減少とい う相反した傾向を示しているが、1月、12月の積 雪期に発生件数の増加が著しい。死者数は3月と8 月を除いて減少の傾向が見られる。 死者数が大きく減少した事故は車両単独事故で、 129人と前年より49人減少(対前年比0.72)した。 車両単独事故は、正面衝突事故と並んで死亡事故 の上位を占めているが、どのような対策や環境に よって減少に結びついたかを検証する必要がある。 以上の傾向は平成9年との比較に限らず、平成6 年から9年の平均値との比較においても顕著である。 死 200 者 数 ・ 150 前 年 100 比 ︵ 50 人 ︶ 0 140 127 (26.3%) (23.8%) 6 3 2 (0.6%) -44 -35 道 道 市 町 村 道 (0.4%) -3 -4 -50 国 道 高 速 道 そ の 他 図-1 平成10年 交通事故発生状況 1 月 (人) 20 2 月 3 月 4 月 国道 5 月 6 月 7 月 8 月 9 10 11 12 月 月 月 月 国道以外 15 10 5 0 -5 -10 -15 -20 -25 図-2 平成10年 月別死者数の増減(対前年) 北海道 2.00 致死率 1.64 1.00 人口10万人当たり 死亡事故件数 0.92 1.51 0.57 道路延長1,000㎞当たり 死亡事故件数 0.88 自動車1万台当たり 事故件数 0.35 1.44 道路延長1,000㎞当たり 事故件数 自動車1万台当たり 死亡事故件数 図-3 事故指標の全国対比(国道) 対背面通行 4.7% その他 11.4% 3-1 歩行者事故(人対車両事故) 歩行者事故のほとんどが横断中の事故であり、 件数及び死者数の8割以上を占める。この中で横 断歩道以外を横断中の事故は、件数で38.8%であ るが、死者数で54.5%と致死率が高いことがわか る(図-4) 。 国 人口10万人当たり 事故件数 3.北海道の国道における交通事故の特徴 北海道の国道における交通事故は、道路の単位 延長当たりの事故率では全国平均を下回るが、全 事故に占める死亡事故の割合が高いのが特徴であ る(図-3) 。 特に、死亡事故の約半数が国道で発生しており、 このような重大事故に結びつきやすい事故として、 歩行者事故と非市街地のカーブ区間での事故につ いて述べる。分析には平成3年∼7年の5年間の交 通事故統合マッチングデータを使用した。 全 事故件数 2438 対背面通行 7.2% その他 11.0% 横断歩道 横断 45.1% 死者数 264 横断歩道 横断 27.3% その他の 横断 38.8% その他の横断 54.5% 図-4 歩行者の行動類型別発生状況(人対車両) 北の交差点 Vol.5 SPRING - SUMMER 1999 5 メイン・レポート 特集/交通安全 ∼人と車と道のよりよい関係をめざして∼ 歩行者事故は件数の8割以上が市街地で発生して いるが、死者数では非市街地において夏期で25%、 冬期で39%を占めている(図-5、図-6) 。 市街地では交差点付近、非市街地では単路部に おいて多発しており、夕方から夜間の時間帯に多 く発生し、致死率も高い。 以上から分かることは、横断する歩行者の出現 を運転者が予測し得ず、冬期の路面や暗さによる 発見の遅れ、走行速度などから、回避や停止動作 が間に合わない状況が想定される。 DID 他市街地 非市街地 2,519(件) 55.9% 通年 27.0% 17.1% 1,456 夏期 56.2% 28.2% 15.6% 1,063 冬期 55.6% 25.3% 19.1% 図-5 夏冬別地域別事故件数(人対車両) DID 他市街地 非市街地 264(人) 40.5% 通年 29.2% 30.3% 169 夏期 42.6% 32.0% 25.4% 95 冬期 36.8% 24.2% 38.9% 図-6 夏冬別地域別死者数(人対車両) 合計 36,589(件) 3-2 カーブ区間での事故 市街地 24,583 交差点 交差点付近 トンネル 橋梁 カーブ その他の単路 63.0% 44.8% 6 北の交差点 Vol.5 SPRING - SUMMER 1999 非市街地 12,006 18.2% 3.3% 3.1% 3.1% 82.3% 32.3% 1.0% 18.3% 8.3% 20.7% 19.3% 0.2% カーブ区間では、正面衝突、路外逸脱、工作物 衝突など様々な事故が発生しており、非市街地で は事故件数の18%、死者数の31%がカーブ区間で 発生している(図-7、図-8) 。 特に、下りの左カーブにおいて正面衝突事故の 致死率が19.5%と高いほか、左カーブでの路外逸 脱や右カーブでの工作物衝突も致死率が17.7%及 び18.7%と高くなっている(図-9、図-10、図-11) 。 カーブ区間の事故は、主として速度超過から走 行車線を保持できなくなる点で共通しており、カ ーブの方向や対向車の有無、沿道状況により異な った形態をとる。 カーブを通過できる速度は、道路線形のほか路 面状態や車両性能などにより異なるため、運転者 が適切な速度選択を行えるようカーブ情報の提供 や路面管理などが重要である。 27.6% 2.4% 50.0% 2.1% 図-7 地域別道路形状別事故件数 合計 1,370(人) 交差点 交差点付近 トンネル 橋梁 カーブ その他の単路 44.9% 16.1% 38.3% 4.0% 市街地 496 36.1% 42.5% 12.3% 非市街地 874 94.0% 2.7% 1.6% 30.8% 8.8% 3.8% 2.4% 7.5% 51.5% 2.7% 図-8 地域別道路形状別死者数 メイン・レポート 4.注意力低下型事故 (%) 30.0 19.5% 17.6% 15.0 13.6% 13.5% 12.5% 9.4% 0.0 上り 下り 平坦 上り 左カーブ 12.5% 10.7% 10.7% 下り 平坦 上り 右カーブ 下り 平坦 直 線 図-9 道路線形別縦断勾配別致死率(正面衝突) (%) 30.0 この名称は特定の事故類型を示すものではない が、夏期の国道郊外部などにおいて多発する速度 超過型事故等を総称するものとして、今後使って いきたいと考える。注意力低下とは、道路の走行 性が比較的良いことから無意識のうちに速度超過 となり、十分な減速がされないまま交差点やカー ブに進入し、正面衝突や路外逸脱、出会い頭とい った事故に至ることや、対向車がいるにもかかわ らずはみ出しを行い衝突することなどを言う。 これらの事故は未だ定義が曖昧であるため、事 故件数として示すことはできないが、北海道にお いて特徴的な事故であるという認識は多くの方が 持たれていると思う。今後このような分類による 集計・分析を行い、対策の検討に結びつけていき たいと考える。運転者に対する減速の誘導や沿道 状況の情報提供の方策としては、標識類の視認性 向上や特殊舗装等による振動発生、ITSによる情 報提供等が有効と考えられる。 17.7% 5.一層の交通事故減少に向けて 15.0 10.8% 10.3% 0.0 左カーブ 右カーブ 直 線 図-10 道路線形別致死率(路外逸脱) (%) 30.0 21.6% 17.1% 18.7% 15.0 0.0 左カーブ 右カーブ 直 線 図-11 道路線形別致死率(工作物衝突) 近年、衝撃吸収ボディ、エアバッグ、サイドエ アバッグ、チャイルドシートなど車両の衝突安全 性が急速に高まってきている。また、予防安全に おいても、車間センサーやカーナビゲーション、 アクティブクルーズコントロールなど運転操作を 補助する様々な機能が装備されている。 道路における衝突安全対策としては、防護柵や 緩衝材が代表的であるが、今後はリカバリーゾー ンや可倒式照明柱、事故検知システムなど新たな 対策メニューも検討していく段階に来ている。ま た、予防安全においては、従来から標識類や道路 情報板、路側ラジオ等により道路情報の提供に努 めてきたが、今後は、リアルタイムであるととも にジャストポイントで情報提供を行い、運転者の 道路状況の把握を一層確実なものにしていかなけ ればならない。 開発土木研究所は、北海道特有の冬期の気象条 件や地理的条件を踏まえた交通安全対策や道路情 報の収集・提供技術の開発に取り組んでおり、こ れらを通じて北海道の交通安全に積極的に貢献し ていきたいと考えている。 北の交差点 Vol.5 SPRING - SUMMER 1999 7
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